50話 迷惑多発警報
ジルベルトの必死さ。
彼女、彼女と連呼し、ティアにこだわる理由。
つまりは、この王子様――ティアのことが、好きなのだ。
(ああ、だからルヴァにうざ絡みするんだ)
ティアが仲良くする男子は、ルヴァだけだ。
きっと王子は、自分が相手にされなかったことがないから、自分をチヤホヤしないティアが信じられなくて……それで、変な術をかけられているとか思ったんだろう。
(でも、世の中には好みがあるから)
ティアにとって、この王子は単純に好みじゃなかった――そして、地雷踏み抜きまくった挙げ句、嫌い枠に定まった可能性もある。
自業自得なのに、彼女と仲のいいルヴァにイチャモン付けて絡むなんて、最低だ。
きっと、ルヴァも腹が立っていたに違いない。
「失礼します」
話を切り上げて、歩き出す気配。
王子は止めなかった。
だけど、最後に一声かけてきた。
「ルーカッセン、自分が正しいと思っているのか?」
怒りと呆れ、そして哀れみが混じった声に、ルヴァは返事をしなかった。
言えるものなら、私が言ってやりたい。
その言葉、そのままそっくりお前に返すと。
+++ +++ +++
「まさか、ヒロインが堕ちるなんてね」
ティアは困っていた。
寮の自室に行く手前で、ある人物に捕まってしまったのだ。
セレス・フォン・メイベルン。
以前、声をかけてきた……どうにも不思議なことをいう公爵令嬢だ。
彼女のことは、実は苦手だ。
なぜか、よく目が合う。なぜかと思ったら、セレスは自分やルヴァイドを観察しているのだ。特にルヴァイドを影から観察しているときは、薄ら笑いを浮かべている。
憧れでもあるのだろうかと思ったが、近づくわけでも無い。
そして、不測の事態が起きた実技試験のあの日、セレスはよりにもよってルヴァイドを陥れるような発言をした。
その時、ティアは見たのだ。
ジルベルトがセレスの話に乗り、ルヴァイドを怪しむような視線を向けると嬉しそうな顔をしていた。
訳が分からないが……要注意人物だと思って、ティアは警戒する。
セレスは、そんな様子に気付かないのか、ゆっくりと思わせぶりに口を開いた。
「あなたが堕ちたから、神は私にこの世界を救ってくれなんて言ったのね。……残念だわ、聖なる乙女」
少しも残念に聞こえない、むしろ楽しげな口調で意味の分からないことをいうセレス。
ティアは、これ以上彼女のために時間を使えなかった。
「申し訳ありません、急ぐので失礼します」
「いまはチヤホヤされてても、堕ちた貴方は化けの皮を剥がれるわ。でも、安心しなさい。私が全てを救ってあげるから――ヒロインの仕事は、私がこなしてあげる。くふっ」
弾むような笑い声、けれどどこか耳障りだ。
自分を、値踏みするように絡みつく視線が不快で、横を通り抜ける。
「敵対するならご自由に。その方が、ざまぁのカタルシスも大きいから――精々、断罪の瞬間までがんばってね」
意味が分からない、それでも薄気味悪さを感じて振り返るも、あの、笑い声の主は忽然と消えていた。
まるで、初めから誰もいなかったかのように。




