38話 大事な「いつも通り」
守手の味方。
つまり、スィーヤの言葉が意味することは。
「ルヴァの……」
スィーヤは、ルヴァの味方だってことで……。
それは、「貴方の味方だ」って言われるよりも頼もしい言葉に聞こえた。
「――うん……! 頼りにしてる……!」
「はい。これでも年長者ですから、どんどん頼りにして下さい!」
どんと薄そうな胸板を叩いてむせるスィーヤ……。
私が吹き出すと、スィーヤも笑った。
「それじゃあ、この手のかかる弟子たちを医療室にでも運んで……」
「――お待ちを」
杖を取り出して、ふたりに浮遊術をかけようとしたスィーヤの手を、がしっと掴む学生服。それにプラスして、地の底から響くような低い声。
「あれ、ルヴァイド、起きたのかい? ……寝起きにしては、物騒なお顔だけど」
「……なぜ、ミラが泣いているのですか」
「え?」
ルヴァが起きていた。
なぜか、目を大きく見開いて……ぶっちゃけていえば、瞳孔全開の状態でものすごい目付きで、起きていたのだ。
それで、いきなり泣いている扱いされた私に、スィーヤが驚いたような視線を向けてきたので、慌てて首を横に振った。
「いや、泣いてないよ!?」
「ウソだ。目が潤んでいる。泣きそうだ。……つまり、何者かが君を泣かせようとしたということだ。……スィーヤ師匠、一体なにがあったのですか……!」
「あ~、ね~? ルヴァイドって、こういうところあるよね~。まぁ、昔だったら、私の事を即敵認定してきただろうから、冷静に状況を聞いてくるところに成長が現れていて、師匠としては感無量なんだけど……」
ルヴァは起き上がって、ずいずいとスィーヤに詰め寄る。
その間、スィーヤの手が止まるので、私はティアを抱き起こした。
「鏡の君が、君たちを眠らせたことに自責の念を感じていたから、話をしただけだ」
「え? なぜ、そんな気持ちを……」
「鏡の君は、私たち人間に近い倫理観を持っておられる。それは、ルヴァイド、君も分かっているだろう?」
ルヴァは、こくりと頷いた。
「ミラ、僕は君が悪意などないことを分かっている。涙を流すほど案ずることは、なにもない」
「いや、だから、泣いてないってば!」
「そうか? だったら、ほら、笑ってくれ」
近づいてきたルヴァは、ティアを膝枕していた私のすぐそばに膝をつくと、顔に手を伸ばしてきた。
頬の辺りにルヴァの手が触れて、目が合うと微笑まれる。
「え、え?」
「笑って、ミラ」
「えぇと……にぃ~……?」
「ふ」
笑えと言われて笑えるほど器用じゃない私は、なんとか左右の口角をつり上げたけれど、ルヴァには失笑された。
ついでに、スィーヤもルヴァの背後でプルプルしている!
「へ、変な顔で悪かったですね!」
「変じゃない。可愛いぞ、ミラ」
「え? ……ルヴァ、目、疲れてるの? 眼精疲労?」
ぶはっと、スィーヤが吹き出して大爆笑。
きらきらした笑顔が一転、師匠に冷たい視線を送るルヴァ。
それから……。
「あれ? ティア、もしかして起きてる?」
「――寝ています」
「起きてるじゃん! 顔を両手でおおって、笑うの我慢してるのが明らかじゃん! もう、みんな揃って!」
「怒らないで下さい、ミラ様! 私はただ、ルヴァイド様の空回りが愉快で……あ」
「……ティア、お前は本当にいい性格をしているな。さっさとミラの膝の上からどけ」
私の膝を取り合って言い合いを始めたふたり。
さっきの泣き顔よりはずっといいけどさ。
「頭をどけろ、ティア」
「お言葉ですがルヴァイド様。ミラ様の膝の上は、ルヴァイド様のものではありません」
「……ぐっ」
内容が幼稚。
そして、ルヴァ。口げんか弱っ!
しょうがないなぁ。
「ルヴァも膝枕してほしいの? それなら、後でするよ?」
「それは……!」
「遠慮なさるそうです、ミラ様」
「まだなにも言っていない!」
「いやぁ~さすがは鏡の君。慕われていますね~」
いつものふたりにもどったことに安心しつつ、茶々入れてくるスィーヤに助けてくれと目で合図を送る。
そろそろ膝からどいてほしいなぁと思った昼休みだった。




