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27話 そして彼は途方に暮れる【ルヴァ】

 鏡に呼びかけても、うんともすんとも言わないミラ。

 これは……完全に寝ている。


「なんなんだ、突然。……というか、僕の頭は撫でなくていいのか……」

「撫でてほしかったんですか……?」

「は? 別に。……ただ、ミラが撫でたいなら付き合ってやろうと思っただけだ。……なんだ、その顔。勝ち誇った顔はやめろ、ティア」

「ふふ、申し訳ありませんルヴァイド様。……ですが、なでなでにこだわっている場合ではありませんよ」


 ティアが突然真面目な顔になった。


「……ミラ様、もしかしてあらぬ誤解をなされたのでは?」

「誤解? なにを?」

「……私とルヴァイド様の関係を、です」


 僕とティアの関係だと?

 誤解もなにも、ミラはよく知っているだろう。

 師を同じくする、大切な友人だ。

 それ以外に、なにがある?


「……非常に言いにくいのですが……おやすみになる前のミラ様のお言葉……どうみても、その……私たちの関係を勘違いしていないと出てこないものに思えるんです」

「……勘違い?」

「――恋仲です」


 そう言ったティアは、真剣だった。

 僕は、思わず米神を押さえる。


「……ティア、寝言は寝ているときに言うものだぞ」

「私も同意見です」


 目を開けたまま寝ているという、奇跡的可能性にかけたが……どうやらティアの意識はハッキリしているようだ。

 だとすれば、なお悪い。


「――ちょっと待て。なにをどうしたら、僕とお前がそんな仲だと勘違いする」

「う~ん、ミラ様は好奇心旺盛な方ですから、学園の中でお付き合いされている方々のお話を見聞きして、恋のお話に興味が芽生えたのでは?」

「純粋な好奇心で、下らない誤解をうまれてたまるか」


 他人ならば好き勝手にしろと思うが、ミラだけはダメだ。

 彼女に誤解されるのは嫌だ。

 それは、ティアも同感のようで深く頷く。


「私も、おかしな誤解で気を回されて、ミラ様と過ごす時間が減るのは嫌です。……ルヴァイド様は、いつもご一緒だからいいけれど、私はなかなか会えないんですから」

「よし。ならばティア、ミラを起こそう。そして誤解を解く」

「はい! あ、でも……無理矢理起こしてミラ様に嫌われたら、私は悲しいので……。ルヴァイド様、おひとりでどうぞ」


 ティアは、さりげなく僕から距離をとる。

 間違ってもミラの視界に入らないようにという魂胆が透けて見えるぞ、卑怯者め。


「僕だって嫌だ」

「ですが、守手でしょう」

「守手の仕事は嫌われることじゃない。ティア、起こせ。お前はさっき、ミラに甘えて散々いい思いをしただろう」


 僕たちが押し付け合いをしていると――そこに慣れ親しんだ気配を感じた。


「やぁ~、いたいた、可愛い弟子たちよ~!」

「スィーヤ様!」

「師匠……」

「ちょうど学園に用事があってね。せっかくだから、様子を見に来たんだ。……なにかあったのかい?」


 僕たちが言い争っているように見えたのだろう、少しだけ心配そうに眉尻を下げるスィーヤ師匠になんでもないと言いかけて、止まる。


 チラリと見れば、ティアもこちらを見ていた。

 となれば、後は意思の疎通だけ。


 僕たちは揃って頷く。


「スィーヤ様!」

「スィーヤ師匠」

「ん? ど、どうした?」

「「ミラ(様)を、起こしてください!」」


 逃がすまいと師の腕を掴む僕とティア。

 事情が分からない師匠は目を丸くした。 

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