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20話 鏡の精の仮説と、過ぎる時


 魔力暴走の後、スィーヤに教えを受けると決めたルヴァはすっきりした表情になった。


 ティアの特別な力も分かり、公爵がしゃしゃり出てきたり色々あったけれど――その公爵には接近禁止令が下され、アイツの思いつきで振り回されることがなくなったせいだろうか。


 それでも、やっぱり寂しさはあるだろう。

 せめて、少しでも私が気を紛らわせてあげられたらと思っていたら、スィーヤは精霊の状態を知りたいからと公爵邸に授業しに来てくれることになった。

 ティアとルヴァはもちろん、セバスチャンさんたちが私の本体になりつつある大鏡を運んでくれるので、私も一緒に授業を聞けた。

 

 おかげで、自分の状態を知ることも出来た。

 曰く、ルヴァの声で目が覚めたあの時が、すなわち私が生まれた日らしい。

 つまり、私赤ちゃん。


 虚弱なのはそのせい。

 人間界に適応出来てない状態だから。


 精霊の子どもっていうのは、本当は精霊の親が自分の領域で「揺り籠」っていう親精霊の力で満たされている結界みたいなものの中で、大事に大事に育てるのが筋らしい。

 だけど、私の親精霊は色々あってそれが叶わず、揺り籠がわりの媒介として大鏡を用意し、そこに私をいれた。

 

 育児放棄かと思ったけど、なんか話しているスィーヤがすっごく渋い顔をしていたから、私が聞いてはいけない事情がありそうで、深く追求できなかった。


 そして、スィーヤが意味深に言っていた守手っていうのは、文字通り守る人。


 魔力の高い人間の中から選ばれた、揺り籠や精霊の護衛役みたいな存在。

 本当は、ルヴァのお母さんがそれに相当する人で、王家の信頼も厚い、めっちゃすごい人だったみたい。


 なんか、精霊と守手は深い信頼関係で結ばれている……とスィーヤが言ってた。

 私はルヴァのお母さんを助けることは出来なかったけど……知らないうちにルヴァと波長が合って、無意識に守手契約みたいなものを結んでいたらしい。


 だから、ルヴァは私を完全な精霊にするために、魔術について学び魔力を高め、せっせと私に栄養素として魔力を流さなきゃいけなくなってしまった。


 ルヴァがレベルアップすれば、私の行動範囲も広がる。

 つまり、ルヴァに完全寄生状態だ。


 ――そんな現状を把握した私はひとしきり落ち込んだ。

 だって、ルヴァを守ると息巻いていた自分が、逆にルヴァの人生を縛ってしまったみたいで……。


 それなのに、ルヴァは気にしていないって言う。

 以前よりも明るい表情で「僕が守るから大丈夫」って言う。


 その度に、胸が痛くなる。


 私は、ルヴァのお母さんを守れなかった。

 ルヴァのことも、本当の意味で守れない。


 その理由が「私、赤ちゃんだから無力です、おぎゃあ」、だなんて……!


(情けない! バブバブ言ってる場合じゃない! ……はやく一人前にならないと……)

 

 懸念事項は他にもあった。


 ズバリ『もしかしたら、私って黒幕とは違うのではないか?』という深刻な問題だ。

 なぜ、そんな前提が覆るような発想に至ったかといえば……だって、私は一切悪事を働いていないのだ。

 それなのに、ティアの故郷は奇妙な病で滅んでしまったという。


 しかも! 

 スィーヤからこの件は、裏があると聞いていた。


 表向きは奇病だけど、実は突然吹き出した大量の瘴気によって、村の人たちは次々倒れたというのが真実らしい。

 それまで平和に暮らしていたのに、何の前触れもなく地面から毒ガスが吹き出した状態だ、無防備だった人たちはすぐに死んでしまったという。


 真面目な顔のスィーヤから「ここだけの話」とティアの村の真相を聞かされたとき、私は思ったのだ。


 実はゲームの鏡の精って、ラスボス蠱毒を勝ち抜いたガチ中のガチだったんじゃないのって。


 ――想像だけど……邪霊の頂点を目指す悪い精霊はいっぱいいて、内輪で食い合い潰し合いをして、力をつけていたんじゃないか。

 それに、ティアの村もルヴァのお母さんも、ラスボス蠱毒に巻き込まれただけ。

 鏡の精は、目を覚ましてラスボス蠱毒に参戦するはずが、中身が私だった今回、不参加となった。

 だから、他の悪い精霊を食い散らかして吸収してしまう、悪の担い手がいなくなってしまった。おかげで延命した私以外の悪い精霊が、最後の一体になるまで蠱毒してるんじゃないだろうか。


 つまり、悪い鏡の精はいないかもしれないが、今後同じくらいヤバい悪い精霊が出てくる可能性が高いということだ。


(へ、下手をすれば私も狙われるし、そうなったら、ルヴァも……)


 自分の立てた予測があながち外れているとも思えない。

 だから、私は自分を鍛えることにした。


 以前、眠っていたルヴァを運ぶことはできたのだ。

 あの要領で力を使えば、なんとかかんとか……新たなるパワー的なものに目覚めたりしないだろうか……。


 そう思っていたんだけど、スィーヤから止められた。

 安定していないのに無理すると、消えてしまうって。


 ――私の修行を知ったルヴァからも、めちゃくちゃ怒られた。

 特に、消えちゃう可能性があるって知ったら、涙目で怒られた。


 ……だから、私はもうしないと約束した。せざるを得なかった。

 だって、泣くんだもん……!


 まぁ、スィーヤの授業の時は私も参加していいって許可を取り付けて、色々させてもらったから、結果的には修行にはなって力の使い方は覚えた。


 そんなこんなで過ごしているうちに、ルヴァと出会ってから四年が経過し、彼は十五歳になっていた。

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