カレーメンの屠殺場
カレーメンの屠殺場について。
作者のNIOさんには、『豚公爵と猛毒姫』という連載作品があり、こちらが『ブレーメンの屠殺場』よりも人気があったのです。
以前からNIOさんは、適当に書いて人気のでた『豚公爵と猛毒姫』を『カレー味のウンコ』、一生懸命書いたのに人気のでなかった『ブレーメンの屠殺場』を『ウンコ味のカレー』と言って嘲笑っていたのですが。
この度、無事、『ブレーメンの屠殺場』が『豚公爵と猛毒姫』をポイントで追い抜きましたので。
『ブレーメンの屠殺場』が『カレー味のカレー』になったことを記念して、タイトルを一時的に『カレーメンの屠殺場』に変更しておりました。
(因みに『豚公爵と猛毒姫』は『ウンコ味のウンコ』となりましたので、一時的に『豚公爵と巻糞姫』に変更しておりました)
と言うわけで、ブレーメンのカレー回でございます!
場所は、公立鷹臨高校の教室。
時間は、放課後。
部屋の中で、4匹の少年少女が、話し合いをしていました。
「フゥ……これ以上の話し合いは、平行線……時間の無駄でしょう」
鶏の少年が、そう、ぽつりと呟きました。
「交渉は決裂。
……もう、戦うしかない、ってわけだ」
猫の少女も、追随します。
「なんの因果か、なァ……。
まァ、負けるつもりはないけどよォ?」!?
犬の少年が、自然に威嚇しています。
「じゃあ、また、明日。
今度は、家庭科室で」
驢馬の少女が、そう、開戦の合図を出しました。
仲の良い4匹が戦うなんて。
ああ、なんでこんなことに、なってしまったのでしょうか……!
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10月に入り、鷹臨高校は文化祭の季節になりました。
何の出し物をするか、で話し合いが行われる中。
事の発端は、2組……即ち、猫の少女がいる教室で起こりました。
「断然、カレーでしょう!
コスパも悪くないし、老若男女みんな好きだから売り上げも見込める!
何よりも、最初に作っておけば、後はご飯にかけるだけと言うお手軽さ!
自分のルーチンを数時間こなせば、後はぜーんぶ、自由時間だ!」
「「「「「う、うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」
少女の、鶴の一声ならぬ、猫の一声で、2組の出し物はカレーの出店に決定したのですが。
あまりにもあまりなその台詞は、他の組にも広まってしまい。
1年の1組から4組まで、全て出し物がカレーになってしまったのです。
そんなわけで、それぞれの組の文化祭実行委員……つまり、1組の鶏の少年と、2組の猫の少女と、3組の犬の少年と、4組の驢馬の少女による話し合いが開かれたのですが。
当然言い合いは平行線をたどるのみ、でした。
「……私たちの言い合いは、もう限界を迎えています。
これ以上は、私たちではなく、外から来る、お客様の目線に立つ必要があるでしょう」
「……なになに?
つまり、どのクラスが一番、美味しいカレーを作れるか、って、こと?」
「へえ……面白ェじゃねェか……やっぱり、そうこねェとよォ」
「どのクラス、て言うか。
誰が一番美味しいカレーを作れるか……て、ことだね?」
こうして、4匹による、カレー対決が、始まったのでした。
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場所は、公立鷹臨高校の家庭科室。
時間は、放課後。
「19時まで家庭科室を借りる許可は得ています」
鶏の少年の前には、各種野菜の他に、よくわからない量のスパイスが所狭しと準備されていました。
「さすがはガリベン君。
用意が良いねぇ」
猫の少女は、市販のカレールーと……いくつかの材料を隠して机の上に広げていました。
「時間は1時間半……ってとこかあ?」
犬の少年は、同じく良く分からない自作と思われる数種類の黒い液体をそれぞれ瓶詰めして持ってきています。
「オッケー。
ルールだけど。
ご飯は皆同じ物を使用。
1人持ち点は10点。
作った人以外の3人がカレーを食べて、点数の合計が一番高かった人が勝ち、で良いかな?」
驢馬の少女が提案しますが。
「あ、ちょっと待って。
『審査は、正直に』っていうのと、『出されたカレーは必ず1口は食べる』も付け加えようよ」
猫の少女がルールに補足をします。
なるほど、自分の点数を付けないので良いのであれば、他の3人の点数を0点にするかもしれません。
……そんなことをしそうなのは、猫の少女しかいないのですが。
そして、『審査は、正直に』というのであれば、一口も食べずに『正直に審査したよ、食べてないから味も分からない、0点だよね』ということもありえるといえば、ありえます。
……だから、そんなことをしそうなのは、猫の少女しかいないんですってば。
自分の逃げ道を自分で塞いだ猫の少女に、『お、今回は正々堂々と勝負するのかな?』と考えている者はこの部屋にはいませんでした。
3匹の気持ちを代弁すると。
『どうせまた、良からぬことを企んでいるんだろう』
……でした。
こうして、カレーメンの対決は、始まったのです。
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1時間半が経過し、各々のカレーが出来上がりました。
「……あ、そういえば、順番、決めてませんでしたね……」
「じゃあ、私一番が良いな!
別に、良いでしょ?」
「ンじゃあ、俺はトリで行くわ」
「えと、うーん……じゃあ、私、3番でも良い?」
こうして、順番が決定したのでした。
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猫の少女の場合
「はい、それじゃあ、今から準備するね」
猫の少女がなべの蓋を開けると。
「む、むぐう!?」
「な、なんだ、この匂いは!?」
「か、辛い!?」
思わず目を瞬かせる程のカプサイシンの香りが、部屋に充満しました。
「フフフ……超高級レトルトカレーに、ブ○ア氏の午前シリーズを中心とする有名デスソースを大量に放り込んだ、自信作だよ。
味は間違いなく美味しいし……これを食べた以降は、味覚が破壊されてまともな審査が出来ないって、寸法なのさ!」
あまりにも酷いカレーを作ったようです。
先ほどのルールでは、『審査は、正直に』、そして『出されたカレーは必ず1口は食べる』。
これならば、本当に美味しかったら猫の少女にいい点数を付けざるを得ないし、一口は必ず食べなくてはいけません。
「「「……ゴミクズクソアマめええええええ!!」」」
「( ゜∀゜)ナーハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \
敗者の悲鳴が、心地良いねえ!」
猫の少女は汚い勝利に酔いしれていますが。
……流石に、これは反則ですね。
特別処置を取りましょうか。
作者権限。
※ 猫の少女が作ったカレーは、本人が全て美味しく頂きました。
「ギニャーーーーーーーー!?!?」
猫の少女が、突然大声を上げてのた打ち回っています。
それもそのはずです……猫の少女は。
突然、自分の作った真っ赤なデスカレーをゴクゴクと美味しそうに飲み干したのですから!!
「あ~……、ルールでは『出されたカレーは必ず1口は食べる』でしたが。
そもそも、カレーは私たちの所まで出されていないので、食べる必要はありませんね。
0点です」
「それにしても、突然自分のカレーを一気飲みとか……頭オカシイなァ……0点だ」
「多分、良く知っているところからバツが降ったんだと思うけど……0点」
「びょばああばばあばば」
何が起きたか解らずに、猫の少女が断末魔の言葉を繰り返しています。
……今回は、戦いに介入してしまいました。
流石にこれで終わりだと面白くありませんからね。
さて、それでは、次に、行ってみましょう。
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鶏の少年の場合。
「どうぞ、召し上がれ」
鶏の少年が出したカレーは、一見、どこにでもあるようなカレーでした。
「ふむ……匂いは、普通の市販のカレーだなァ」
「でも、これを、スパイスだけで作っているんだよね……」
犬の少年と驢馬の少女の言葉に、鶏の少年が言葉を付け加えます。
「最高のカレーを考えました。
誰からも愛されるカレーを、スパイスから作り上げようと、苦労して見つけたレシピです」
「「ゴクリ」」
二匹は生唾を飲み込むと、あわてていることを悟られないようにゆっくりと、カレーを口元に運ぶのでした。
「……む!
この甘みは……!
食べやすく刻んだひよこ豆か……!」
「スパイスだけじゃない……!
20種類の野菜と果実を使用していて、小さなお子様にも喜んでいただけるやさしい味わいのカレーになっている!
掛け値なく、美味しい、美味しいけど……!」
「「これ、カ○ーの王子様じゃない!」」
二匹の突っ込みに、鶏の少年は自信たっぷりに答えます。
「最高級のカレーである、『カレーの王○様』を再現しました。
さあ、降参しても、良いんですよ?」
勝ち誇る鶏の少年に、2匹は。
「……東『センセイ』……今度、コ○イチか、ゴーゴ○カレー、行こうな……」
「ていうか、もう、普通の定食屋のカレーでも良いから、どこかカレー食べさせに行こう……」
非常に暖かくも冷ややかな言葉を返すのでした。
「ふむう?」
鶏の少年は、盛大に首を捻ります。
「あ”じがじな”い”」
猫の少女が、つぶやきました。
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驢馬の少女の場合。
「召し上がれ」
出されたカレーは、同じく、良く食べる普通のカレーのようでした。
「……まあ、食べてみましょうか」
「まあ、でも、作るの少し見てたけどよォ。
驢馬塚、市販のルーしか使ってなかったからなァ……」
そんなことを言いながら食べた2匹ですが。
「……ん、こ、これは……市販のルーなのに……味が、深い!?」
「……市販のルー、少なくとも3種類以上、ブレンドして使ってるなァ。
細かな配合まではわからねェが……ほぼ、ベストに近ェ……」
鶏の少年と、犬の少年が、うなりながらカレーを頬張っています。
「そ、そう?
お代わりも、あるよ?」
「「お代わり!」」
そう言う趣向じゃないのですが、鶏と犬の少年は、声を上げたのでした。
「……や”っ”ばり”、あ”じがじな”い”」
猫の少女が、つぶやきました。
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犬の少年の場合。
「ほらよ」
犬の少年が出したカレーは。
明らかに他の者たちが出したものと、一線を画していました。
「……」
「……」
「……」
「多分、旨いぞォ。
食ってみろや」
犬の少年の言葉に、恐る恐る、3匹はカレーを口にします。
「う、う、う……。
美味すぎる……!!」
鶏の少年が、仰天しながら叫びました。
「小犬丸君に……負けた……」
驢馬の少女が、普通にショックを受けていました。
「あ”じがじな”い”」
猫の少女が、つぶやきました。
「俺ァ昔から、バイト三昧だったからよォ。
カレー屋のカレーとかも、あちこち作ったりしてるんだわ」
犬の少年が言葉を続けますが、誰も聞いていません。
「これは……ヨーグルト?
そして、これは、コーヒー……チョコレートも、入っている?
なんだこれは、データに無いぞ……!?」
鶏の少年は、カレーの評価に余念がありません。
「小犬丸君に……負けた……」
驢馬の少女は、未だにショックを受けていました。
「あ”じがじな”い”」
猫の少女は、味がしていませんでした。。
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「優勝はぶっちぎりで南さん、次点で驢馬塚さん、ですかね」
点数を確認することもなく、鶏の少年が呟きました。
「おお、それだけどよォ。
俺、敗けで良いわ」
「「「は?」」」
犬の少年の敗北宣言に、全員が声をあげます。
「実は、隠し味に自作のXO醤やらツケダレやら使ったんだけどよお。
どっちも5年以上かけて調整してるやつだからなァ。
多分、食品衛生的にアウトだから、文化祭には出せないんだわ」
「南さん……貴方、料理人ですか?」
自作の5年物のタレを作るとか、一般高校生のすることではありません。
「いえ、多分、そんなの使わなくても小犬丸君のカレーが一番美味しい、と思う……」
何故か驢馬の少女が肩を落として呟きました。
「お、おう。
良いのかよォ、俺の勝ちで」
犬の少年が、声をあげました。
「当然でしょう」
鶏の少年が声をあげました。
「負けた……」
驢馬の少女が声をあげました。
「あ”じがじな”い”」
猫の少女が、声をあげました。
……まあ、どうでもいいですけどね
斯くして、カレーメンの屠殺場における勝利者が、決まったのでした……!
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エピローグ
時刻は19時30分。
場所はココイ⚪。
カレー⚪王子様しか知らなかった鶏の少年が、店のカレーをひと口食べて、唸っています。
「これが、ココ⚪チのカレー……。
……ん、意外と大したことないような……」
「コ⚪イチの凄さは味じゃなくて、どこの店舗でも同じ味になるようにスパイスを安定して供給できるところにあるわけで……」
「ふむ、成程。
確かにこのスパイスを安定供給するのには恐ろしい努力が……」
猫の少女のどうでも良いトリビアに、鶏の少年はいちいち楽しそうに合いの手を打っていました。
一方、その隣では。
「店の定食系は何でも作れるけどよォ。
肉じゃがとか、家庭料理系は苦手なんだわァ」
「うん、家庭料理系だね、努力します!」
「おう……なにを?」
カレーを諦めた驢馬の少女は。
取り合えず家庭料理に特化する方向で決定したみたいです。
「ねえねえ、そういえば、さ」
猫の少女は、全員の口の中にカレーが入っているのを見計らって、笑顔で、言葉を発しました。
それは、純粋な疑問のような。
それは、唐突な悪意のような。
それは、単なる天啓のような、質問。
すなわち。
「ねえねえ。
カレー味のウンコと、ウンコ味のカレー、どっちが好き?」




