ブレーメンの体育祭
久々更新。
時期は9月某日の午後1時。
場所は中学校の教室。
昼休みに何となく集まった4人が、楽しそうに会話をしています。
「え、みんな、体育祭、参加しないの?」
ぽかんと口を開けているのは驢馬の少女でした。
「え、当たり前でしょ。
体育祭なんて、やりたい奴がやればいいんだよ?」
猫の少女が不思議そうに声をかけます。
多分そういうものではないと思うのですが。
「学校で合法的に”ゲーム”ができる日だぞォ?
”悪友”とモン○ンしてるわ」
犬の少年も不思議そうに声をかけます。
多分そういうものでもないと思うのですが。
「僕はもちろん参加するつもりですが。
体育はいかんせん苦手ですので……1種目だけ、なるべく楽で足を引っ張らない物に出ようと思ってます」
鶏の少年も、驢馬の少女をフォローしながらも、あまり興味が無いような話しぶりです。
「そ、そうなんだ……せっかくのイベントなのに……」
中学最後の体育祭。
特に4匹の中学校での体育祭は、クラス別で得点を競い合うちょっとしたバトルイベントでもあるのです。
奇しくも4匹は全員が別々のクラス。
鶏の少年が1組。
猫の少女が2組。
犬の少年が3組。
驢馬の少女が4組と。
バトルするにはもってこいの割り振りだったのです。
「体育祭なんて張り切ってもねぇ。
疲労と筋肉痛以外得るものがないし」
「そ、そんなことないよ!
友情とか、努力とか、勝利とか!!」
「”モ○ハン”でも得られるなァ、それ」
「ぐぬぬぬ!」
猫の少女と犬の少年が、ちゃかしました。
「じゃ、じゃあ、こうしようよ!
私たちの仲間内で、何か賭けない?」
「えー……怠いなぁ……。
具体的には~?」
「そうだね~。
……あ、優勝したチームの人のいうことを、他の3人がなんでも聞く、とかどう?」
「ん?」
「ん?」
「ん?」
「ん?」
全員が驢馬の少女を見ました。
「今何でもするって言ったよね?」
声を上げたのは、勿論猫の少女です。
「え、まあ、その人が出来ることなら、何でも、だよ。
100万円ちょうだい、とかは無しでね」
鶏の少年が、視線を中空に動かした後、首を激しく振っています。
何か変なことでも考えているのでしょうか。
「ほ、ほおおおぉぉお、面白ぇなァ”驢馬塚”ァ……。
良いぜェ、”後悔”すんなよォ!?」 ビキビキィ!?
犬の少年が、鼻息荒く驢馬の少女に確認を取ります。
「え?
う、うん、頑張ろうね!」
「なるほど、自信満々、というわけですか……」
「……北ちゃん、何か秘策があるんだろうね……。
私はそのまんま、乗っかっちゃおうかな」
「「「よーし、その話、乗った!」」」
なんだかイマイチ噛み合わない会話でしたが。
その場にいる全員が、体育祭に向けて闘志を燃やしたのでした。
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男2匹がいなくなった後、猫の少女は驢馬の少女に尋ねます。
、
「……ところで北ちゃん、秘策って何?」
「え?秘策?
ないよ?」
「……………………………………………………え?」
「正々堂々と戦って、負けたら、仕方ないよね」
「……あの、驢馬塚さん。
ちなみに貴女にとって、『出来ることは何でもする』って、どの程度のことなの?」
「え?
えーと、そりゃあ。
『ケーキを作ってきてくれ』とか。
ば、場合によっては、で、ででで、『デートしてくれ』、とか」
「……」
「……あれ?
西ちゃん?」
「おバカーーーーーー!!」
猫の少女が驢馬の少女に勢いよくチョップします。
「セッ※スだよセッ※ス!
あいつら完全にエロい目で見てたぞこの馬鹿チン!!」
「へ、へ、へ?
そ、そんな、ままままさか。
……あ、膝枕くらいなら何とか……」
「はァ!?
中学生かッ!!」
「ちゅ、中学生だよぉぉ」
猫の少女が、セッ※スセッ※スと連呼しております。
……たぶん男連中に、そんなこと言い出す度胸なんてないと思いますが。
「『出来ること何でもする』っていうのは、男にとっては『イコールセッ※ス』なの!」
「あ、西ちゃん……分かったから、その話は、こ、これくらいで……」
「いいや黙らないよ!
男が好きなのは『ドラッグ』と『セッ※ス』と『ロッケンロール』なの!」
「楽しそうな話だなぁ。
先生にも聞かせてくれよ、猫屋敷」
「え」
振り向くと、2組の担任教師がニコニコと笑っていました。
「それじゃあ続きは放課後、職員室でな」
「あっハイ」
担任の有無を言わさぬ物言いに。
猫の少女は、口からエクトプラズムを吐きながら答えるのでした。
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そんなわけで10月10日、体育祭の日がやってきました。
驢馬の少女は、この日のために死ぬほど走りこんで来たようです。
そして、個人が出られる限界までエントリーしたのでした。
何しろ驢馬の少女は、もともと女子の中では運動神経も体力もある方です。
流石に女子陸上部には勝てませんが、今のところ1位から3位を安定してとることができていました。
「おゥ、”驢馬塚”ァ、調子はどうだァ?」
声をかけてきたのは犬の少年です。
驢馬の少女は、結果の書かれた紙を見せびらかします。
「ん、今のところは悪くないよ。
こんな感じ」
100m:1位 200m:3位 400m:2位 400mH:3位 ……
胸を張る驢馬の少女に、犬の少年は笑って言いました。
「ククク……そォかそォか。
そいつは”良かった”なァ」
犬歯をむき出しにした笑顔に、驢馬の少女は不安を覚えます。
「……小犬丸君は、どんな感じなの?」
「あァ、俺はまァ、”いつも通り”だよ」
少年もまた、結果の書かれた紙を少女に見せました。
100m:1位 200m:1位 400m:1位 400mH:1位 ……
「は、はああああ!?」
ありえない数字が並んでいました。
恐ろしいことに、犬の少年は。
陸上部を含めた体育会系の連中よりも速かったのです!!
「ククク。
体育祭は”驢馬塚”と一騎打ちと踏んだんだがよォ。
……これは、俺の”勝ち”かなァ?」
「さあて、それはどうですかねぇ?」
2匹の会話の邪魔をするかのように背後に現れたのは……鶏の少年でした。
「お、おお東”センセイ”か。
いや、馬鹿にするわけじゃ無ェがよォ。
流石に体育祭で東”センセイ”と”クソ猫”では体力的に勝負にもならねェぞォ?」
「なるほど、確かに体力では勝負にならないかもしれません。
ところで……体育祭のプログラムは、確認しましたか?」
「「……え?」」
鶏の少年が、全然関係ないようなことを、質問してきました。
「み、見たけど。
あ、なんか今年は、新しい競技が多かったね。
玉入れとか、大玉転がし、とか」
「ええ、『運動が苦手な人でも楽しめるように』と教師陣を説得して、ねじ込みました。
さらには、『運動が苦手な人でも楽しめるように』と、点数も徒競走の10倍にしてあります」
「は、はあああああ!?」
「そ、それでも、それらの競技で勝てると決まったわけでは……」
「そう言えば、大事なことを言っていませんでしたね……」
鶏の少年が、今までの記録の書かれた紙を手渡します。
玉入れ:1位 大玉転がし:1位 棒倒し:1位……
「「は、はあああああ!?」」
驚きの声を上げる2匹に、鶏の少年は不敵に笑って、続けます。
「僕は、体育は苦手ですが。
……物理演算は得意なんですよ?」
思わぬ刺客に目を見張る2匹。
流石は鶏の少年、と言ったところでしょうか。
まさかルールそのものを捻じ曲げてくるなんて……しかし、それでもまだ、負けたわけではありません!
「け、結局私たちがいくら頑張ったって、物をいうのは総合ポイントだよ!
大体、現在の1位は2組で、私たちは500点離されて横一線じゃない!!」
「ち、まだ互角ってわけか」
「僕にだって、まだまだ秘策はありますからね」
全員が、バチバチと火花を散らした後。
改めて、点数の書かれたボードを確認します。
『1位 2組』
「「「……えっ」」」
「なーっはっはっはっは!」
背後から気味の悪い高笑いが響いてきました。
振り向くとそこには。
体操服にブルマ、学ランを着た猫の少女が立っていました。
頭には『神風』の鉢巻。
かなりマニアックです。
……ではなくて。
「あれ、西ちゃんは応援団?
その衣装、とっても似合ってるよ~可愛い~!」
「う、お、おう。
ま、まぁまぁ、だなァ」
「あれ?
猫屋敷さんは競技には出場しないんですか?」
「( ゜∀゜)ナーハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \
しないしない!
私が出場しても、どうせビリだしね!!」
猫屋敷は相変わらず爆笑しながら答えます。
それにしても不可解です。
応援団をしているだけの猫の少女のクラスが、何故1位なんでしょうか?
もちろん、2組に強いメンバーが固まっているとかならわかるのですが、当然そんなことはありません。
「まあいいや、みんなは精々頑張ってね。
でもね。
点数を取るだけが、勝利への道じゃあないんだよ?」
「「「……?」」」
と、そこで。
10000m走開始のピストルがなりました。
「あ、いけない、応援しないと!
じゃあ、また後でね!」
そんなことを言って猫の少女はお立ち台にあがり、応援を始めます。
流石に長距離は無理だろうとのことで、犬の少年や驢馬の少女は出場していなかったのですが。
おかげで、恐ろしい物を見る羽目になったのです!
「頑張れ頑張れ2組!
内股内股2組!
汗かき汗かき2組!
舌だし舌だし2組!」
……猫の少女は、よく分からない応援をしていたのです!!
「え、あ、あれ?
2組以外の人達、途端に足が鈍ってる」
「……っち、クソ。
そういう”コト”かい」!?
「猫屋敷さんは……自分たち以外の走者をディスってるんですね……」
「そういうコト!
主語は2組だから、別に他の誰かに対して言っているわけではない。
ただ、気にしている本人が勝手に勘違いするだけだよ。
……こういう、ギリギリ誹謗中傷にならない言葉を投げつけるとね。
……みんな面白いくらいに、足が遅くなるんだよお?」
猫の少女が笑います。
なるほど、点を取るだけが勝利への道じゃあないのですね。
相手を蹴落とす勝利への道もある、ということなのでしょう。
しかし、だからと言って。
「ゴミクズクソアマですね」
「ゴミクズクソアマだなァ」
「忘れていたけど西ちゃんてゴミクズクソアマだったね」
「ひ、ひどい!」
勝利に魂を売り渡した少女へかける3匹の言葉は、冷ややかでした。
「……あっそ、そういうこと言うんだ。
ふーん。
じゃあ、もーいーや。
皆には止めておいてあげてたけど。
……解禁、するからね……」
猫の少女の笑顔に、3匹の顔が、引きつりました。
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猫の少女の応援が、激しさを増しました。
玉入れをする鶏の少年には『へな腰』。
走る犬の少年には『四足歩行』。
同じく走る驢馬の少女には『巨乳』と。
それぞれギリギリ誹謗中傷にならない応援をし始めたのです。
特に驢馬の少女は、目に見えて順位が落ちていきました。
「ひ、酷いよ西ちゃん~!
あんな言い方されると、全力で走れないよ!!」
「え、褒めてるんだよ?」
「うう……もう、お嫁に行けない……」
「いや、行けるでしょ。
そんな立派なものが2つぶら下がってるんだから」
「ぐううううう!!」
「い、いふぁいいふぁい!!」
猫の少女のほっぺたを思い切りつまんでぐにぐにする驢馬の少女。
その攻撃から逃れた猫の少女は、勝ち誇って言いました。
「分かった?
勝負ってのは、頭が良い奴や体力のある奴が勝つんじゃない!
相手を上手に罵倒できた奴が勝つんだよ!!」
「あ、西ちゃん……分かったから、その話は、こ、これくらいで……」
「いいや黙らないよ!
私はこれからも、人を罵倒し、足を引っ張る。
そして、楽して、一番おいしいところを奪っていくの!
( ゜∀゜)ナーハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \」
「楽しそうな話だなぁ。
先生にも聞かせてくれよ、猫屋敷」
「え」
振り向くと、そこにはもちろん。
……2組の担任教師がニコニコと笑っていました。
「それじゃあ、猫屋敷。
体育祭が終わるまで、校庭を大回りでランニングな」
「あっハイ」
担任の有無を言わさぬ物言いに。
猫の少女は、口からエクトプラズムを吐きながら答えるのでした。
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猫の少女の応援がなくなると、他のクラスも本来の力を発揮しだしました。
……いえ、むしろ発奮して、今まで以上の力を出し始めたのです。
他を大きくリードしていた2組は、じわりじわりとその差を縮められ。
そして、とうとう最後の競技、借り物競争の前には、全クラスが横一線の状態になったのでした。
都合が良いですね。
さて、借り物競争の走者ですが。
4組の場合
「……ねえ、最後の借り物競争のアンカーだけど。
驢馬塚さん、お願いできないかな?」
「……え、私?」
3組の場合
「場合によっては走力が関係ないことも多い競技だけど。
今までの頑張りを見て、最後は小犬丸に任せたくなったんだ」
「え……良いのかよォ……」
1組の場合
「小鳥遊がアンカーで、それで負けたら、もう、仕方ないって諦めがつくさ」
「あ、ありがとうございます!」
2組の場合
「あ、猫屋敷。
そう言えばお前、1競技も参加してないだろう。
最後の借り物競争、アンカーな」
「ぶべー、ぶべー、ぶべー(呼吸)」
というわけで、最後のアンカーが、われらブレーメンの4匹に決まったのでした。
都合が良いですね。
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というわけで色々あって、とうとう最終アンカーの順番が回ってきました。
現時点では2組が大きくリードしていて、続いて1組、4組、大きく離れて3組という順番です。
つまり、アンカーが借り物競争の紙を見るタイミングで、丁度全員が横一列になるようなタイミングです。
都合よすぎですね。
今までの傾向だと、同じ周回の4人には同じ内容の『借り物』が書かれていました。
今回も恐らく全員借りるものは一緒になるでしょう。
「……勝ちます」
「言ってろ……」 ビキビキィ!?
「こっちだって、負けないからね!」
「ぶべー、ぶべー、ぶべー(呼吸)」
全員、やる気満々です。
とうとう、最終アンカーのそれぞれにバトンが渡りました。
あんなに開いていた差も、あっという間に詰められて、借り物競争の紙を見るタイミングでは、丁度横一列になっていました。
全員が、一斉に紙を裏返します。
『 貴方の好きな相手 』
「」
「」
「……!
西ちゃん!!」
「……!
よし来た!!」
男性陣が思考停止した瞬間に。
女性陣は手をつないで走り出します。
「あ、あ、ああああ!
南さん!!」
「ぐ、そう来たかよォ!!」
そうです。
『 貴方の好きな相手 』というのは。
別に、同性の友人だって構わないのです!!
頭の中がピンク色になっていた男性陣は、完全に思考の柔軟性を無くしていたのでした。
慌てて追いかけるも後の祭り。
目の前には、笑顔でゴールする女性陣の姿が見えました。
「2組と4組が同時ゴールです、おめでとうございます~!
最後の借り物は『 貴方の好きな相手 』ですが」
「はい!
北ちゃんは、私の大好きな一番の親友ですから!!
ねー!!」
「も、勿論です!!」
先ほどの罵詈雑言など忘れたかのような猫の少女に引きつった笑いが出るものの、驢馬の少女も思った通りの言葉を発するのでした。
あちらこちらから。
「素晴らしい友情だ……」
「学生はこうあるべき……」
「良い体育祭だった……」
などと声が漏れてきます。
「そして残念ながら1組と3組もびりっけつで同時ゴールです、お疲れ様でした~!
最後の借り物は『 貴方の好きな相手 』ですが」
「はい!
南さんは、僕の大好きな一番の親友ですから!!
ですよね!!」
「あ、ああ、そうだなァ!!」
あちらこちらから。
「これは通じ合っている目だわ……」
「鬼畜俺様攻めとノンケへたれ眼鏡受けか……アリだな……」
「あの体勢は、完全に挿入っているでしょ……」
などと声が漏れてきます。
男女平等なんて、ないんですね。
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さて。
後ほど行われた罰ゲームの話ですが。
「……僕たち、いったい何してるんでしょうねぇ……」
「それは言わねェお約束だろォが、東”センセイ”……」
ぐったりしている2人に、フラッシュが瞬きます。
「いいよーいいよー!
ほらもっと、2人ともくっついて!!」
トップの命令を何でも聞く、という最初の提案通り。
何故か猫の少女と驢馬の少女による、鶏犬少年団の撮影会が開かれていました。
……もちろん、服は着て、ですが。
「もっと見つめあって!
そうそう、そしてその笑顔!!
あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~」
完全にノリノリな猫の少女と。
「……やばい……目覚めそう……てか目覚めた……」
やたら鼻血が出ていないか確認する驢馬の少女がいました。
「なんだか僕たち、勝負事でことごとく負けていません?」
「だからァ……それは言わねェお約束だろォが、東”センセイ”……」
2人はため息をつくと、指定された雌豹のポーズを取るのでした。
因みに2人のブロマイド写真が学校内の一部好事家達に高値で取引され。
猫の少女が犬の少年に吊し上げを食らうのは、また、別の、お話し。
続編書いてますよ~
ハーメルンの音楽祭
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