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ブレーメンの屠殺場  作者: NiO
その他:ブレーメンの閑話シリーズ
45/53

ブレーメンの大晦日

 2015年12月31日 時刻は22時5分前。

 今日は大みそかです。


「よォ悪ィ悪ィ、待ったか、驢馬塚ァ?」!?


「あ、小犬丸くん!

 待ってない待ってない今来たとこ!!」


 来たばかりの犬の少年は、かなり待っていたはずの驢馬の少女に声を掛けます。

 こんな夜遅くに中学生が待ち合わせ。

 全く、けしからん話です。


「んン?

 東“センセイ”と“クソ猫”は?」


「あー……二人とも、どうしても家から出られないみたいで」


「そっか……まァ、シャアナシだな」


 犬の少年は少し残念そうに犬歯を剥き出しにして嗤います。

 驢馬の少女は、後ろめたさを隠す様な笑いをしました。


 そう、驢馬の少女は嘘を吐いていました。

 犬の少年には、みんなで大晦日に遊ぶよう話をしていましたが。

 実は、その話を他の2匹には話していなかったのです。


「じゃア、今回は2人だけで行くとするかァ」


「う、うん、そうだね!」


 後で2人には謝ろうと驢馬の少女は決心して、犬の少年の横を歩き始めました。



 #####################################


 同じく2015年12月31日 時刻は22時5分前。

 場所は有名なお寺へと向かう道の半ば。


「遅いよーガリベン君!」


「遅い?

 約束の時間5分前ですから、完璧なタイミングですが」


 さっき来たばかりの猫の少女は、時間通りに来た鶏の少年に声を掛けます。


「はあ……ダメ。

 ガリベン君、全然ダメ。

 ダメダメダメ人間」


「そ、そんなにも!?」


 溜息を吐いて首を横に振ると、猫の少女は続けます。


「ここは悪くなくても謝って、男の甲斐性を見せなきゃいけない場面なの」


「悪い事もしてないのに謝るんですか……訳が分からない……」


 茫然としている鶏の少年。

 そして彼の持つコンビニの袋に、猫の少女が気付きます。


「ガリベン君、それは?」


「ああ、これですか。

 僕の考えでは10時過ぎにココを通ると読んでいるんですが。

 大幅にずれた時のための、食糧です」


 コンビニ袋の中には大量の……アンパンと牛乳がありました。


「ガリベン君……何これ……」


 猫の少女が目を点にして聞きます。


「ふふふ。

 張り込みと言えば、アンパンと牛乳でしょう!」


 鶏の少年が、自信満々に眼鏡を光らせ、ドヤ顔をしました。


 猫の少女は一度溜息を吐くと。


「全く、ガリベン君。

 君の頭は……。



 ……まさしく天才のそれだね!」


「ふふふ、そうでしょう、そうでしょう!」


 すっかり機嫌を直した猫の少女は、遠慮なしに袋に手を入れると。

 さっそくアンパンにパクつきながら牛乳を頬張ります。


「これこそ張り込みの浪漫……ガリベン君は分かってるー♪」


 コクコクと牛乳を飲む猫の少女を横目に、鶏の少年は笑いながら言いました。


「やっぱり、猫屋敷さんは牛乳が好きなんですね」


「にゃッ!?」


 なんだか馬鹿にされたような気がして、思わず鶏の少年を見ますが。

 彼はいつもの表情で笑っているだけでした。


「あ、ほら。

 口の周りが髭になってますよ」


「ああ、拭かなくて良い、自分で拭くから!」


 わたわたしながら猫の少女は食糧を食べ切ります。


「さて、僕の予想では、そろそろ……あ、来ましたね」



 目の前から歩いてくるのは、犬の少年と驢馬の少女。


 犬の少年は、「おっ」と言うように手を挙げて。

 驢馬の少女は「えっ」と言うようにぎょっとしました。



「おォ、なんだ、都合が悪くなったって聞いたけどよォ」


「ああ、都合が付きましたので(・・・・・・・・・・)


 犬の少年の言葉に、鶏の少年が笑顔で言葉を返します。


「え、え、西(あき)ちゃん、な、なんでここに……?」


 猫の少女に、驢馬の少女が愚問を投げかけます。


 知れたこと。


 愛のイベントには呪詛を。

 朋友の恋路には汚灰を。


 それこそが(・・・・・)リア充撲滅教の心意気(・・・・・・・・・・)なのですから!


 だから、猫の少女は気持ちの悪い笑顔(・・・・・・・・)で言いました。


知らなかったの(・・・・・・・)

 猫屋敷からは(・・・・・・)逃げられない(・・・・・・)……!!」



 ###################################


 答え合わせをすれば簡単な事でした。

 驢馬の少女は外出の理由に猫の少女と年を越すと両親に話をしたのです。


 中学生だから、女の子だからと何だかんだ怒られましたが。

 友達の少ない少女を心配していた両親は、仕方なく大晦日の夜遊びを許可したのでした。


 そして、少女の両親は猫の少女に電話をして。

 今に至ります。


「なんで私たちがココを通るって分かったの……」


「ガリベン君の推理だよ。

 『二人は除夜の鐘をつきに行くに違いない。待ち合わせ場所は○○、待ち合わせ時刻は10時、だったら10時過ぎに此処を通るはず』ってね」


 完全に読み切られていた様です。


「ねえ、どんな気持ち?

 二人っきりで過ごせると思った夜を邪魔されて。

 ねえ(・・)今どんな気持ち(・・・・・・・)!?」


西(あき)ちゃん……お願いだから死んで」


「過激だ!!」



 驢馬の少女は溜息を吐きましたが、仕方が無いと諦めます。

 そもそも、自分が吐いた嘘のせいで招いた事です。



「それじゃあ、皆で除夜の鐘でもつきに行きますか」


 さっそく鶏の少年が仕切って、場が進んでいきます。


「ねえねえガリベン君、時間あるし、年越しそば、皆で食べようよ!」


「良いですけど……除夜の鐘って、早めに並ばないと、つけないんじゃないですか?」


「あ、あそこのお寺はそんなに人気無いから、11時30分でも十分間に合うと思うよ」


「決まりだな……っつっても、蕎麦屋なんて閉まってるしな。

 コンビニでも行くかァ?」


 結局いつもの4人でいつも通り騒がしく、近くのコンビニに向かうのでした。


 ####################################


 フードコートのついているコンビニを見つけた4人は、さっそく中に入ってカップラーメンを選びます。


 鶏の少年は無難に緑のた○きを。

 犬の少年は緑のたぬ○2つにお握りを付けて。

 驢馬の少女は、ど○兵衛のそばを買っていました。


 そして。


「じゃーん!


 どん○衛のうどん!」


 空気を読まない猫の少女が、うどんを買ってきました。

 自分から年越しそばを食べようと話をしていた癖に!


 3人は一瞬いろいろ突っ込もうとした後。

 諦めました。


(なみ)さん……カップラーメン2個にお握りですか。

 ……あんまり時間が掛かる様でしたら、置いて行きますからね」


「悪ィ、腹減っちまったからなァ。

 大丈夫、3倍の早さでかっ込むからよォ」


(そむく)ちゃん、『10分どん兵○』って知ってる?

 ○ん兵衛うどんを10分間放置すると、とっても美味しくなるって言う都市伝説があるんだよ」


「……あんまり時間が掛かる様だったら、猫舌だろうが口の中に放り込むからね」


「きょ、今日の(そむく)ちゃん、目が据わってる!?」


 皆はワイワイと話をしていましたが。



 ―――――――――――次の瞬間――――――――――――。



 何故か4匹は、コンビニの前に佇んでいました。


 寺へ参拝に向かう人たちは、一人もいなくなっています。

 まるで(・・・)本当の世界では(・・・・・・・)無いような(・・・・・)……。


「「「「……」」」」



 全員が、食べる気満々の食事を邪魔されて、イラッとしていました。



「また、ですか」


「絶対ェ“転ば”す……」ビキビキ!?


「私のうどん、どうなるんだろ……」


「あ、皆、携帯鳴ってるよ」


 4人は携帯を確認します。

 内容は、いつものように簡潔でした。


『禁断の場所に罰を5つ乗せた時。

 そこで最後に響く音を4匹で鳴らせ』


「「「「……はァ?」」」」


「なぞなぞ……じゃなくて、暗号……ですか?」


「『禁断の場所?』『罰を5つ?』」


「じぇんじぇん分かんない」


 皆が頭を捻る中、驢馬の少女が、ぽつりと言葉をこぼします。


「……ううん、1個だけわかったよ。

 最後の行、『そこで最後に響く音を4匹で鳴らせ』だけど。

 多分、間違いなく……」



 ……―――ゴーン―――……



 遠くから、大晦日の風物詩が聞こえてきました。



「……これ(・・)

 4人で、除夜の鐘を鳴らせ(・・・・・・・・)……ってことだと思う。

 それが、いつなのか、何回目なのかは、知らないけど」


「成程。

 詳細はまだ分かりませんが……とりあえず、お寺に向かいましょうか」


「おっけ、私、この辺詳しいから近道案内するね」


「じゃあ俺は鐘の音の回数を数えるわ」


 猫の少女の先導で、4匹は走り出しました。



 ……―――ゴーン―――……


 ……―――ゴーン―――……


 ……―――ゴーン―――……


「な、なんだか、鐘のペースが、早くない?」


「携帯時計のスピードも、2倍速くらいになっていますね」


「よし、この上だよ!」


「任せろォ」


 お寺へと続く階段を前にして。

 犬の少年は鶏の少年と猫の少女を小脇に抱えると、猛ダッシュで登り始めました。


「驢馬塚ァ、悪ィが一緒にダッシュな!」


「わ、分かった!」


「お、下ろしてください!」


「おお、らっくちーん♪」


 ……―――ゴーン―――……


 ……―――ゴーン―――……


 ……―――ゴーン―――……


 犬の少年に抱えられながら、鶏の少年はぶつぶつと独り言を言っています。


「『禁断の場所に罰を5つ乗せた時』ですか。

 この『罰を5つ』は多分『×5』……5を掛けると言う事でしょう。

 『乗せた』と言うのも『乗算(かけざん)』と掛けていると思われます」


 ……―――ゴーン―――……

 ……―――ゴーン―――……

 ……―――ゴーン―――……


「な、なんか鐘のペース、早くなってない?」


「クソがァ!」ビキビキ!?


「……!

 い、急ごう!!」


「『禁断の場所』に5を掛けた『時』。


 5の倍数……除夜の鐘の105回目?

 1年……365日目?


 5で割ると、21と73。

 ……『禁断の場所』とは、どちらも関係なさそうですし」



 ……―――ゴーン―――ゴーン―――ゴーン―――……


 4匹は、ようやく階段を登り切りました。


 目の前には、お寺の鐘が。



 ……誰もいないのに凄いスピードで(・・・・・・・)鳴らされています(・・・・・・・・)


 驚愕する3匹。

 その横で。


ああ(・・)分かった(・・・・)!」


 鶏の少年が、喜びの声を上げました。



「『禁断の場所』を表す数字は、『403(・・・)』 !!


 即ち、『403 forbidden』!!」 


 403 forbidden。

 インターネットで見られるHTTPステータスコードの1つで。


 意味は『(閲覧)禁止』。


「『禁断の場所に罰を5つ乗せた時』が表す数字は、つまり403に5をかけた、『2015(・・・・)』!」



「もう、絶対分からんね、そんなの」


 猫の少女が、呆れ顔で溜息を吐きます。


「『2015年、最後に響く除夜の鐘を4人で鳴らせ』ってこと?」


「つまり……『108回目』だな!

 今、『80回目』だ、急いで鐘に向かうぞ!」


「ええ、後ひと踏ん張りです!」

 ……―――ゴーン―――ゴーン―――ゴーン―――……


 勝手に鐘を突き続ける丸太棒。


「今、『100回目』だ、タイミングをみて行くぞォ」


「わかった!」


「わかりました!」


「……あれ?」


 驢馬の少女は、違和感を感じた様です。


『禁断の場所に罰を5つ乗せた時。

 そこで最後に響く音を4匹で鳴らせ』


 最初の1行が『403』に『5』を掛けた『時』、即ち『2015』年を表しているのは理解出来ましたが。

 最後の1行に、違和感を感じたのです。


『そこで最後に響く音』。


『そこ』というのは、『2015』年、という事でしょう。


『そこで最後に響く音』と言うのは。


「あ、あ、あああ!

 みんな、違うよ(・・・)!!


 答えは(・・・)、『108(・・・)回目(・・)じゃない(・・・・)


 『108回目』の鐘の音は……2016(・・・・)年だ(・・)!!」


 そうです(・・・・)


 108回目。

 つまり、除夜の鐘の最後の1回は。

 新年の0時に(・・・・・・)打ち鳴らされる鐘(・・・・・・・・)なのです(・・・・)



 つまり、2015年、最後に打ち鳴らされる鐘の音は……。


「「「「『107(・・・)回目(・・)!!』」」」」


 ……―――ゴーン―――ゴーン―――ゴーン―――……


 突然の答えの変化。

 しかし4匹は、慌てながらも107回目のタイミングを見逃す事無く。



「「「「これで……、『107(・・・)回目(・・)!!』」」」」


 ……―――ゴーン―――……



 2015(・・・・)年最後の鐘の音が(・・・・・・・・)4匹の手によって(・・・・・・・・)響き渡ります(・・・・・・)


 余韻嫋嫋(よいんじょうじょう)と響き渡る音に、3匹がほっと安心したのもつかの間。


「お前ら、気ィ抜くな!」


 犬の少年が、声を上げました。


「彼奴のことだ、108回目を2015年のウチに打ってくるぞ!!」


 おや、完全にばれていました。


 犬の少年は、鐘を突く丸太を掴んで次に音が鳴るのを無理矢理押さえています。

 時刻は23時59分30秒。


 このままでは、2015年に108回の鐘の音が鳴る事になり。

 つまり、『答えを間違った事』になりますが……。


 他の3匹もすぐさま気を取り直して、動き出した丸太を押さえつけました。

 丸太はジリジリと鐘へと近づいていきますが……。


 ########################################


 ……―――ゴーン―――……


「「「「……」」」」


 4人は、フードコートにいる事に気が付きました。

 遠くから聞こえるのは、除夜の鐘―――その(・・)108回目(・・・・)



 コンビニの店内放送から、『ハッピーニューイヤー!』と叫ぶ芸人さんの声が空々しく響いています。



「まさか、大晦日まで、こんなことになるなんて……」


「まあ、クリア出来たから良かったものの……」


「俺ァ、とてもそんな優しい気持ちになれ無ェぞ……!?」 ビキビキィ!?


「わ……私のどん兵○が……『100分ど○兵衛』にぃぃぃ!!」


 4匹は、すっかり伸びた(・・・・・・・)年越しそば(・・・・・)を目の前に(・・・・・)、がっくりと俯くのでした。


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