狂気
時刻は昼の1時前。
場所はおしゃれなカフェ。
そう、鶏の少年がチョイスした店は、遊園地内の綺麗なカフェでした。
鶏の少年と……驢馬の少女は、2人ともランチメニューを食べています。
ふと、遠くの方で騒がしい声が聞こえます。
目をやると、猫の少女と犬の少年がギャーギャーやっています。
どうやら犬の少年の頼んだ肉を猫の少女が盗み食いしたようです。
肉を食べられた犬の少年も、本気で怒っているわけではないようで。
はた目から見ても、とても楽しそうでした。
「楽しそうですね、あの2人」
驢馬の少女に向かって、鶏の少年が声を掛けました。
「え、あ、ご、ごめんね」
なんだか失礼なことをした気がして、驢馬の少女は謝ります。
「良いですよ。
午前中、ずっと一緒にいたら、嫌でも解りましたから」
鶏の少年は、ふぅ、と溜息を付いて。
そして、驢馬の少女を見つめました。
「驢馬塚さん……僕には……。
可能性は、1%も無いでしょうか?」
突然の、質問。
何が?とは聞き返せる空気ではありません。
驢馬の少女は、答える事ができませんでした。
だって、1%どころか。
……30%くらいは、あったのですから。
驢馬の少女にとっては、鶏の少年も十分に魅力的な人間でした。
純粋で、素朴で、頼りになって、尊敬できる異性。
実際、少年と2匹でこうして食べるご飯も、とても楽しいものです。
今回の一連の行動は「ストーカーか!」と突っ込まれそうですが、多分それも分かった上でやっている、鶏の少年なりのアプローチなのでしょう。
……いえ、あの『ブレーメンの屠殺場』を駆け抜けて行った仲間ならば、こういった頭脳を使う方法はむしろ正攻法、といえるのかもしれません。
それなりに気になる異性が、押せ押せでアプローチしてくれている。
困惑はしても、嫌な気は全然せず、むしろ今の状況を楽しんでいる、というのが驢馬の少女の本音でした。
驢馬の少女が口ごもった様子を見て。
鶏の少年は、ニコリと笑顔を浮かべました。
勝機があると踏んだのでしょう。
「……なるほど、有難うございます。
その反応で、十分です」
驢馬の少女は『しまった』と思いました。
舌戦が始まっているのに気づかないとは、なんたる間抜けだ、と心の中で舌打ちします。
「言っておくけど、優位に立っているなんて、思わない方が良いよ。
……私と猫屋敷さんは、1撃で盤上のゲームをひっくり返す力があるから」
驢馬の少女は、なるべく平然とした顔で、鶏の少年に話しかけました。
完全にブラフでしたが。
鶏の少年が一瞬たじろいだことを確認すると
ダメ押しのプレッシャーをかけます。
「最後まで、私たちを、完封できると、本気で思っているの?」
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食事を食べ終えた4人は、コーヒーカップへ向かいます。
「それでは、あみだくじと行きますか」
「あ、待って!」
前回の組み分け戦で、鶏の少年はあみだくじに関して、かなり研究していることが分かります。
記載する順番を入れ替えたって、多分、2の矢3の矢を打ってくるでしょう。
あみだくじでは勝機を見いだせなかった驢馬の少女は、再度提案します。
「えーっと、次もまた、別のもので決めない?」
「はぁ……。
また、言いがかりですか?
……良いですよ、次は何にします?」
「え、えっと……そうだね……。
あ、普通の、くじ、とか……!」
「くじ、ですね。
分かりました」
少年は再度リュックサックを探ると。
……そこには、既にくじが、用意されていました。
「「「……は!?」」」
ここにきて、驢馬の少女は確信しました。
3匹が期末テストの勉強で必死になっていた3週間。
鶏の少年も、どうやら、死ぬ気で準備して、研究していたのでしょう。
試験とは、全然関係無い事を。
期末テストでは、普通に学年1位を取っていた癖に!
「さあ、どうしました、皆さん!
くじを、引こうじゃありませんか!!」
鶏の少年は、完全に悪役の……まるで、ニッケルさんの様な……笑顔と台詞で驢馬の少女へくじを差し出します。
「ああ、それと。
これはただの独り言ですが。
残念ながら、午後もずっと、僕のターンです」
驢馬の少女も暗い笑顔を浮かべながら、思いました。
ああ、なんて、楽しいんだろう!
そして。
差し出されたくじを1本引きながら、気持ちで負けないように、なるべく強い言葉で返しました。
「じゃあ私も、独り言とか言おうかな。
……上等。
必ず、焼き鳥にしてあげる!」
なんだかだんだんあまくなってきたぞ




