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ブレーメンの屠殺場  作者: NiO
第28ー35日目 美術室:人食いモナリザ
22/53

7不思議その5 人食いモナリザ

 時刻は2時ちょうど、残り時間は5分を切ったところ。

 場所は中学校の美術室。


 美術室に入った貴婦人(・・・)は、我が物顔で部屋の中を闊歩します。

 金属の額縁が地面とこすれるたび、キィキィと耳障りな音を立て。

 ガタガタと机とぶつかるたび、4匹が苦労して集めた机の上の絵の具が地面へ落ちて。

 そして、その質量で、潰されていきます。



 金か銀の画材探しをしていた4匹は、全員が大急ぎで隠れました。



 ……今まで様々な7不思議と戦って……『人体模型』なんかは殴り飛ばしたほどである犬の少年も、例に漏れず画材探しを中断して隠れています。


 そのままだとジリ貧なのは、明確なはずなのに。

 何故でしょうか。

 状況を見るために、ひとまず退避したのでしょうか。


 いいえ(・・・)違います(・・・・)


(こ、こいつはヤバい……今までのとは、比にならねェ……!!)


 全員が(・・・)ビビッていたからです(・・・・・・・・・・)



 考えてみれば簡単なのですが、今までの7不思議たちは……、例えば『人体模型』や『花子さん』は。

 襲うとは言っても『連れ去る系』……つまり、『仲良くしましょう(ただし別の世界で)系』と置き換えることができます。

 まだ、ある意味(・・・・)、友好的なのです。


 しかし(・・・)、『人食いモナリザ(・・・・・・・)は違います(・・・・・)

 文字通り、食べるためだけに(・・・・・・・・)人間を襲うのです!


 隠れていても、どうしようもない。

 でも、信じられない殺気を前に、とても戦う気にはなれない。

 4匹全員が……、犬の少年ですら、打開案が見つけられない状態です。

 そんな4匹をあざ笑うように。

 その女性(・・・・)は美術室をキィキィと散歩するのでした。


(僕の、せいだ……!)


 1匹が、激しく後悔しています。

 もちろん、鶏の少年です。


(どうすればいいんだ、どうすれば……)


 もはや無駄だと分かっていても、鶏の少年は激しく頭を回転させます。




 ……そして。




(あ、あ、あああああ!!)




 その天才は、打開策を見つけたのです。

 



(あ、あるじゃないか、”金”の付く色なんて、『金』と『銀』以外にいくらでも!


 『空色(シアン)』0.635 + 『赤紫(マゼンダ)』0.524 + 『黄色』0.461 + 『黒』0.002 ⇒ 『鉛色(なまりいろ)』!

 『空色(シアン)』0.707 + 『赤紫(マゼンダ)』0.584 + 『黄色』0.590 + 『黒』0.079 ⇒ 『鈍色(にびいろ)』だって!!)



 鶏の少年は普通に生活するうえでは聞くことのない色を例に挙げて喜びます。

 しかし、この案にたどり着いたのも遅かったようです。


 なぜなら、5色の絵の具は(・・・・・・・)キャンバスの前に(・・・・・・・・)置いてきてしまった(・・・・・・・・・)んですもの(・・・・・)


 キャンバスの前へ出ていけば、確実に彼女(・・)に見つかります。

 襲われながら、色を正確に混ぜ合わせられるわけがありません!


 いえ、そもそも、彼女(・・)は机の上の画材をあたりに撒き散らしています。

 キャンバス前の机に、先程の5色があるとも限らないのです。


(もう……案がない……)



 鶏の少年は、諦めました。

 猫の少女は、心の中で鶏の少年を責めながら、そんな自分も心の中で責めていました。

 犬の少年は、貴婦人(・・・)に飛びかかろうとしますが、恐ろしい殺気に足が竦んでできない様子です。

 驢馬の少女は……、もはや言わずもがな。

 小便は済ませて、神様にお祈りをして、部屋の隅でガタガタ震えて命乞いする心の準備をしていました。




 万事、休すです。




()


(……いや……まだあった)


(『空色(シアン)』0.614 + 『赤紫(マゼンダ)』0.746 + 『黄色』0.772 + 『黒』0.317 ⇒……)


(……他の案もないし、時間も、ない)


(ならば)




 鶏の少年は覚悟を決めます。



 家庭科室で手に入れた包丁(ぶき)を取り出すと……



 一瞬、躊躇った後で。



 ……自分の右手人差し指に深々と、それ(・・)を差し込みました。

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