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ブレーメンの屠殺場  作者: NiO
第21ー28日目 女子トイレ:トイレの花子さん
19/53

7不思議 その4 トイレの花子さん

 時刻は1時ちょうど、制限時間は残り4分を切ったところ。

 場所は中学校の3年3組横の女子トイレ、その、3番目(・・・)


「要は、声を上げなければ良いから」


 猫の少女が皆に忠告します。


 花子さんは目も鼻もないし、手も足もありません。


 だけど、耳があります(・・・・・・)


「絶対に、声を出しちゃダメだよ」


 トイレの中に4匹がすし詰め状態になりながら、改めてそう確認するのを最後に、会話が止みました。

 しばらくの間、無言がトイレの中を支配します。

 キーンという静寂の音がうるさいくらいです。


 ……そうこうしていると扉越しに、遠くの方から体を引きずるような音が聞こえてきました。

 音はゆっくりとトイレを目指しているようで、だんだんと近づいてきています。



 ……ズリ……ズリ……ズリ……



 巨大が芋虫がはい回るような気味の悪い音は、トイレの入り口まで来ました。

 一番扉側にいる鶏の少年は、目をつぶって無心で時が過ぎるのを待っています。



 ……こん、こん、こん。



 1番目のトイレのドアがノックされます。



 反応が無いことを確認したかのように、這いずる音は隣のドアへ移動しています。



 ……ズリ……ズリ……ズリ……



 ……こん、こん、こん。




 隣の……2番目の扉がノックされます。


 犬の少年は、飲み込むつばや、落ちる冷や汗、心臓の鼓動まで花子さんに聞こえたりしないか戦々恐々としていました。


 ふと、隣を見ると。


 明らかに冷や汗をかいて真っ青な表情をしている驢馬の少女がいました。


(……しまった(・・・・)……コイツ(・・・)!)


 霊感のない自分たちですらこれ程の恐怖。

 霊感のある驢馬の少女はどれほど恐ろしいことでしょう。


 犬の少年は、全く自然に、怖がっている驢馬の少女の口元に、自分の腕を差し出して、口パクで言いました。


噛め(・・)


 驢馬の少女は『ほえ?』というような顔をしましたが、考える力が無くなっているのか、素直に犬の少年の右腕にぱくりと噛みつきます。


 2番目のトイレにも人がいないことを確認した花子さんは。



 体を引きずりながら。



 ……3番目のトイレへ向かいます。





 ……ズリ……ズリ……ズリ……






 ……こん(・・)こん(・・)こん(・・)






 ……こん(・・)こん(・・)こん(・・)








 ……ドン(・・)ドン(・・)ドン(・・)







 ドンドンドンドンドン(・・・・・・・・・・)ダンダンダンダンダン(・・・・・・・・・・)!!





 ……。






 ……ズリ……ズリ……ズリ……






 花子さんは3番目のトイレの扉を執拗に叩いた後、隣のトイレへ向かいました。


 驢馬の少女が、犬の少年の腕をぎゅーっと噛み続けています。

 犬の少年も、平然とした顔でそれを眺めていました。


 花子さんは続けて、4番目、5番目の扉を1回ずつノックすると。






 ……ズリ……ズリ……ズリ……






 その地面をはい回る音は、トイレの外へと消えて行きました。






 霊力が消えて、驢馬の少女がホッと安心した










 その瞬間。









 ガタガタタガガタタアァ!! バタバタバタバタ!!








 先ほどのノソノソ這い回る動きとはまるで違います!


 信じられない速度で花子さんは戻ってくると。





 ……ダン(・・)!!ダン(・・)!!ダン(・・)!! ダン(・・)!!ダン(・・)!!ダン(・・)!!







 3番目のトイレのドアを激しく叩きました。


 そして。

 驢馬の少女が息を飲んで視線を上げると。


 ……そこにはトイレのドアをよじのぼって、見下ろしている花子さんがいました。


 彼女は笑いながらこちらを見つめています……いえ、正しくは、そんな気がしただけです。


 だって彼女には(・・・・・・・)目が付いて(・・・・・)いないんですから(・・・・・・・・)


 両目のあった場所はどこまでも深く真っ黒に窪んでいます。

 そぎ落とされた鼻からは、時折シュンシュンとおかしな呼吸音が聞こえました。

 ぽかりと耳まで裂けた口の中には、真っ黒に焦げた舌が見えます。


 そして(・・・)ああ(・・)そして(・・・)

 ペンチで引き延ばされ(・・・・・・・・・・)たかのような(・・・・・・)大きな大きな両耳(・・・・・・・・)!!



【……みーっつけ……た……】



 ニタニタと笑う口からは、テラテラと唾液が零れ落ちています。



 ……嘘だ、私は声を上げていない。

 見つかっているはずがない!


 驢馬の少女は頭ではそう思っていても、心の底から冷えるようなその声に、まさに心底震えあがっていたのです。

 ガクガクと顎が震えますが、噛みついている腕の肉が歯の噛み合う音を辛うじて邪魔してくれました。

 ふと、口の中に血の味を感じます。

 目を横に向けると。

 何でもないような顔で犬の少年がこちらを向いて2、3度頷きました。

 ……いくら犬の少年だって、これだけ激しく噛まれたら痛いはずなのに。

 声1つ上げずに驢馬の少女に付き合ってくれているのです。

 

  涙も鼻水も涎も垂れ流しにして、驢馬の少女は花子さんを睨み返します。

 あんたなんか怖くない、怖くないんだから……!!



 花子さんはトイレの中を暫く見渡した後。



 つまらなさそうな顔をして、ドタリと地面に転げ落ちると。




 ……ズリ……ズリ……ズリ……



 とトイレの外に出て行きました。



 彼女がいなくなってからも、誰も声を上げようとしませんでした。


 しばらくして。


♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪


『全校生徒のみなさん。

 夜中の1時です。

 校舎の中に残っている人たちは。

 急いで美術室へ集合してください。

 繰り返します……』


♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪


 ああ、これほどこの放送が待ち遠しかったことがあるでしょうか!!


 4匹はそれぞれ自分の携帯電話を確認して。

 そして、安堵の溜め息をつきました。


『1時04分32秒 “第28日目”

 4問目 クリア』

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