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ブレーメンの屠殺場  作者: NiO
第21ー28日目 女子トイレ:トイレの花子さん
17/53

友達

またブックマークありがとうございます。

「貴女は、嘘を吐かない、正直で真っ直ぐな女の子になってね。

 そしたらきっと、天国でまた会えるから……」


 父と母は幼い少女にそれだけ言い残して去って行きました。

 ……後に両親は樹海で首を吊っているところを見つけられるのですが、それは置いておいて。



 幼い少女……猫屋敷(ねこやしき) 西(あき)はその言葉を信じて、真っ直ぐに育ちました。

 嘘を吐かない少女は、小学校では毒舌キャラとして親しまれていました。


 中学校に入って少女はインターネットと出会います。

 初めて知る罵詈雑言の数々と、捻くれた思考と、相手を煙に巻く論破方法。

 通常であればそれらは実際に使われることなく知識として脳の奥底に溜まっていくはずのものでした。

 しかし少女はそれらを隠すことはできません。

 なんでも本当のことを言う少女は、たちまち周りから孤立して友達がいなくなりました。


 いじめにあって、引きこもりになって、それでも自分の何が悪いのか分かりません。


 たまたまオカルト板で実況するために忍び込んだ中学校の体育館。

 そして異常事態に巻き込まれることで、自分の何が悪いのか、彼女は間接的に知ることになります。


 (皆、勘違いしてるよ!

 『正直村』が!

 『善人の村』とは!

 限らない(・・・・)!!)

 

 ハンマーで殴られたような衝撃でした。

 私は……正直者の私は、善人じゃなかった(・・・・・・・・)……。


 やっと気づいた自分の悪いところ。

 でも少女は自分の性格を修正できません。

 どうにでもなれというヤケの気持ちに、現状の精神的・肉体的負担も加わって。


 結果。

 1人で暴走して、大事故を起こして。

 そして今、仲間たちから捨てられようとしていたのでした。


 既に驢馬の少女は猫の少女に見切りをつけていました。

 犬の少年もほとんど同意見でしょう。

 7不思議の詳細が知れなくなるのは残念ですが、今は仲間割れを起こす様な不穏分子を抱え込むことの方がリスクが高いと思われます。


 猫の少女は地面に突っ伏して、泣いています。


 驢馬の少女と犬の少年は、ちらりと鶏の少年を見やりました。

 実質、この4匹のチームを率いているリーダーである少年は、何故だか驚きを隠せない様にぽかんと口をあけています。


「し……知らなかった……天才である、この僕が……」


 何かに衝撃を受けたのか鶏の少年は言葉を続けます。


「……僕が、天才と言う言葉を使うことで、周りから不興を買っていただなんて!!」


 全員が、ズコーッと地面を滑りました。


「た……小鳥遊“センセイ”……。

 あンた、謙譲表現とか、知らないの?」


「もちろん、知っていますよ。

 僕は、超・天才ですが、さすがにそう言うと不興を買うと思って、だから天才という謙譲語を……」


「“天才”は謙譲語じゃねェ!!」


 思わず鶏の少年を殴ろうとして、犬の少年は思いとどまります。


「……っと。

 いや、俺もおンなじだな。

 自分では制御しているつもりだったが、相当強く殴っていたらしい」


 これには猫の少女がずっこけます。


「の、野良犬……あ、あ、あんた、今までのあたしへのボディーブロー、まさか、タダの突っ込みのつもりだったの……?」


 だけど、言われてみて思い出します。

 犬の少年の膂力は先ほどの人体模型で確認済み。

 あれが全力であれば、確かに力加減をしているのでしょう……全然加減が足りていませんが。


「あなたが、正直に僕の欠点を教えてくれたおかげで、それを治すことができます。

 ありがとうございました!」


 鶏の少年は深く頭を下げました。


「……っち。

 そういう意味じゃ俺もか。

 ……ありがとよ」


 犬の少年も続けて発言します。


「……あ、あ、あ、あたしは、皆の和を乱す、じゃ、邪魔者で……」


 猫の少女はグスグスと半べそを掻いて声を上げます。


「それは違います。

 ……いえ、多少はそうですが」


 鶏の少年は置いてけぼりを食っている驢馬の少女を一度見やると、再度猫の少女に向き直ります。


「貴女は、ただ、正直なだけです。

 そして、その加減が出来ない。

 僕が謙譲表現の強弱を加減できないように。

 小犬丸さんが力加減ができないように。

 驢馬塚さんが、声量を加減できないように」


 驢馬の少女は恥ずかしくなりました。

 自分たちはそれぞれ、コミュニケーションに何かしら不具合を抱えていて。

 しかもそれに自分自身で気づいていなかったのです。

 猫の少女を糾弾する資格なんて、自分には無かったことに驢馬の少女は気づいたのでした。


「分かったなら、治せばいい。

 嘘を付けとは言いません。


 強い言葉はオブラートに包んで。

 酷い言葉は心に留めて。


 ねえ、そうやってこれから一緒に、遊んでいきませんか?

 僕と……僕たちと、友達になりませんか(・・・・・・・・・)?」


 まるでプロポーズの様な台詞を鶏の少年は大真面目で語りかけると、猫の少女に手を差し伸べます。


 驢馬の少女が小さな声でキャーキャー叫んで。

 犬の少年がヒューッと口笛を吹いて。

 猫の少女は暗闇でも分かるくらいに、顔を真っ赤にして。

 そして。


「こんな、あたしで、良ければ」


 猫の少女は、鶏の少年の手を、掴んだのです。

 

 こうして4匹は、やっとやっと。

 “友達”に、なったのでした。


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