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転生令嬢は、辺境の地で菓子を焼く~精霊の愛し子なのに、全然チートじゃなかった  作者: あさづき ゆう
第六章 王家と精霊の雫

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45/52

◆45 悩んでいる暇はない

「今、なんて……」


 ブリジットは信じられない思いで、リンフォードを見つめた。キースも同じで目を見開いて、彼を凝視している。


「君たちに精霊の雫の破壊をお願いするんだ。私もちゃんと背負うべきだろう?」

「ちょっと待ってください! 話が飛躍しすぎです。陛下を? え? 殺す?」


 本気で言っているのか! と今さらながら狼狽える。

 この国は貴族制度を取っている。

 つまり、平民が王族貴族を殺せば、確実に処刑。貴族が王族を殺しても処刑。王族が王族を殺しても処刑だ。多分。


 それなのに、目の前に座る王太子は国王を殺す発言をしている。それは王位簒奪にならないだろうか。国内は何とかなっても、国外が何ともならない。下手をすれば大儀名分を掲げられて、侵略される、かも? あれ、それは前の世界の話で、この世界はどうだろうか。

 

 政治的な知識が乏しく、ブリジットは前世の世界観と微妙なラノベ知識と、それから今の世界をごちゃまぜにして、どんどんと悪い方向に想像していく。


 ブリジットが一人青くなっている中、エルバ司教は頷いた。

 

「妥当ですね」

「ええっ! 嘘でしょう!?」

「すでに闇の精霊が生まれてしまいましたから。心配いりませんよ。大義名分ならば、王太子殿下の方にあります」

「そうなの?」


 不安に思ってキースを見れば、彼も厳しい表情で頷く。


「確か、精霊の雫を失った場合、王族が責任を取ることになる」

「そうそう。他国が討ちに来るのか、自力で屠るのかの違いなだけだよ。すでに闇の精霊に乗っ取られているから、国王は死亡していると判断される。だけど体は動いているからね。確実に殺す必要がある」


 そう言って、リンフォードは部屋の外にいた従者を呼び、何かを運ばせた。テーブルの上に置かれた大きな箱に、ブリジットは嫌な予感しかしない。


「これを使ってくれ。王族の血が入っている人間しか使えないものだ」


 リンフォードはそう説明しながら、箱の封印を魔法で解く。

 箱のふたを開けると、細かな彫刻が彫られた剣とロッドが入っていた。剣鞘にはくるくると炎のようなものが巻き付ているような飾りがあるが、細身のため、この世界の剣よりも日本刀に近い雰囲気がある。ロッドは一メートルほどの長さで、トップには大きな紫水晶が繊細な細工で煌びやかに飾られている。


 どちらも実用的じゃない。それなのに、特別な力を秘めたものだと、頭のどこかで理解した。


「剣はキースに、ロッドはブリジットに」


 気楽に取り出すと、リンフォードはそれぞれ手渡す。ロッドは見た目よりも非常に軽く、ブリジットの鍛えていない腕でも簡単に振り回せそうである。柄の部分にはカラフルな宝石が埋め込まれているにもかかわらず、とても握りやすい。丸い、地球儀のような装飾をされた紫水晶は神秘的だ。


 前世の世界でお仕置きしまくっていた戦士の持っているものに近い。バトンのようにくるくると回転させながら、足を大胆に天に向けて上げて、技を決めるのか、と思わず想像した。


「これ、どうやって使うんです?」

「魔法を使う時の補助のようなものだよ」

「ご存知のとおり、わたし、魔法が使えないんですが」

「そうだったね。……気合で何とか使ってみてくれ。もしかしたらいい感じに使えるかもしれない」

 

 気合で何とかなるものなのか、そんな気持ちを口にする前に。


 どこんという大きな音がした。同時に、大きく建物が揺れる。立っていられないほどの大きな揺れに、キースが庇うようにすぐさまブリジットの肩を引き寄せる。


「ベル、結界を!」

「わかったわ」


 ベルがくるりと宙で一回転すると、部屋の中に綺麗な結界が張られた。天井が崩れ、瓦礫がばらばらと落ちてくる。慌てて体を縮こませたが、瓦礫は透明な結界に阻まれて砕け散った。ベルの結界はとても強く、どんな瓦礫も砕けてしまう。

 それでも自分に向かって落ちてくる瓦礫を見るのは恐ろしい。目をぎゅっとつぶっていた。


 揺れが収まった頃、ブリジットは恐る恐る顔を上げた。


「ええっ……」


 天井がなかった。ラベンダー色に変わりつつある空が見える。ここに来た時は昼過ぎ。随分と時間が経っているようだ。美しい空だけが見えたらよかったが、そこには黒い何かが沢山ある。穢れが徐々に固まり、魔物を作り出す。怒声と悲鳴と、そして聖騎士と聖職者たちの指示をする声が聞こえていた。


 茫然としてその様子を眺めていれば、ふと目に入るものがある。


「あれは……カーギル子爵令嬢?」


 先ほどと同じドレス。貴族令嬢なのだから、量産品のドレスは着ないはず。そして、その彼女が誰かに付き従っている。


「母上」


 キースの小さな声が耳に入った。ブリジットは少し上を向いて、彼の顔を覗き込む。


「見間違いじゃない?」

「いや、自信はないがあの雰囲気は母上だと思う。それにしても……随分と姿が変わっている」


 遠目ではあったが、明らかに人とは違う何かが背中に生えている。肌の色もきっとリリアンのように黒く染まっているのだろう。薄暗いため、そこまでの違いはよくわからない。


「随分と手荒い方法を取ると思えば、叔母上か。キースがいることを教えられて、やってきたんだろうな」

「なんて迷惑な。あとで王城の方へ請求させてもらいます」


 リンフォードはため息交じりに立ち上がり、エルバ司教は冷静に修繕費を口にした。

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