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転生令嬢は、辺境の地で菓子を焼く~精霊の愛し子なのに、全然チートじゃなかった  作者: あさづき ゆう
第四章 辺境にある聖騎士団

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◆31 精霊の森に帰宅

「プラム~! 会いたかったよ!」


 辺境伯にある聖騎士団から精霊の森にようやく帰宅した。久しぶりに会うプラムをぎゅっと握りしめる。嬉しさのあまり、力が入り過ぎた。プラムは大いに暴れて抜け出そうとする。


「く、苦しい! 力が強い!」

「ごめん! 嬉しくてつい」


 慌ててプラムを放すと、プラムはふらふらと飛びながら距離を取る。その行動にやや寂しさを感じながらも、それでもそこにプラムがいることが嬉しい。

 

「ちょっと出かけてくると言うのに、なかなか帰ってこなくて」


 プラムは腕を組み、怒った様子。かわいいなぁ、と心で思いながら素直に謝った。

 

「ごめんね、早く帰ってくるつもりはあったの。でも、色々あって」

「知っている。大規模な精霊魔法使ったでしょう?」


 プラムに言い当てられて、瞬いた。


「ベルに聞いたの?」

「あのね、あれほどの強い精霊魔法を使えばこちらにも伝わってくるよ。あの土地は、ここと繋がっているんだから」


 繋がっていると言われて、ブリジットは首を傾げた。わかっていなそうな彼女にプラムが説明する。


「精霊の森の一部はあの土地と接しているの。だから、すごく伝わってきたよ」

「なるほど」

「それで、一か月で魔法使えるようになったの?」


 本来の目的の結果を促されて、ブリジットは項垂れた。


「結論としては無理だって。何かの制約がかかっていて、歌でしか解除できないみたい」

「ふうん。それであの大規模な魔法はどうやって?」

「……なんとなく?」


 切羽詰まって大変な魔法を使ってしまったが、色々と検証した結果、気持ちの高ぶりによる発動で、再現性なしとされた。

 後からキースと共にやってきたエルバ司教に判断されたのだから、間違いない。


「エルバ司教にも原因がわからないと言われてしまったわ」

「エルバ司教? 中央教会の?」

「プラム、知っているの?」


 プラムがエルバ司教と聞いて恐ろしい顔になった。


「あいつ、嫌い! すごく面倒臭い奴なんだ!」

「ええ?」

「いちいち指示が細かいし、優しい顔をしてダメ出ししてくる。精霊の中でも仕事を一緒にしたくないナンバーワンだよ!」

 

 エルバ司教は数日間、色々な話をしたがそれほど嫌な人ではなかった。どちらかというと、とても気遣ってくれて優しい親戚のおじさんといったところ。

 突然、大規模な精霊魔法を使ってしまったブリジットの体調を気遣い、キースとの生活を心配し。とてもいいおじさんだった。


 だから、プラムの毛嫌いしている様子にびっくりする。だが、キースは違ったようだ。同意するように頷いている。


「キースもそう思う? わたしはとても優しいおじさまだと思ったんだけど」

「それはブリジットが愛し子だからだよ。エルバ司教と言えば、聖騎士たちが急いで立ち去ってしまいたくなるほど人使いの荒い要注意人物だ。もちろん契約している精霊たちも避けたがっている」

「そうなの?」

「ああ。とても実力のある人ではあるが、一緒に仕事をしたくない」

「キースのことをとても心配していたわ」


 エルバ司教は封じることしかできなかったことを、とても悔しそうにしていた。浄化できればいいのだが、文献を探しても方法がわからないらしい。その方法が見つからない限り、キースはこのままの状態。


「……エルバ司教はキースの封印をどうにかできないの?」

「今のところ何も手立てはないらしい。だから、ほんのわずかでも浄化できる精霊の森にいた方がいいだろうと言っていた」


 しばらくはこのままだと知って、嬉しくなる。今さら、キースのいない生活なんて考えられない。

 ふと浮かんだ笑みに、キースが目を細めた。


「ブリジットが喜んでくれて嬉しい」

「はっ!」


 キースの次の動きを察知して、ブリジットは彼から距離を取ろうとした。勝手に触れることはないが、とにかくキースの甘い言葉は心臓に悪い。ドキドキが激しすぎて、どくどくしてきて息が苦しくなってくる。だから、できる限り浴びないように気を付けているのだが。


「避けようとしているところが見え見えで、それがまたブリジットの気持ちを表していると思うと可愛い」

「……!!」


 恋愛初心者じゃないのか。ナチュラルに可愛いと言われて、ブリジットの頭が沸騰した。今まで可愛いと言ってくれるのはリュエット伯爵家の家族だけ。テイラーもよく可愛いと褒めてくれたけれどもあれは完全に妹だ。だから素直に受け取れたけれども。

 

 キースの柔らかな笑みと共に可愛いと言われると、素直に受け取るには恥ずかしすぎて。


「あれ、ブリジットとキースは恋人になったの?」


 二人の様子を眺めていたプラムが無遠慮に聞いてきた。ベルがつまらなそうにしっぽを振る。


「そうなのよ。どちらも恋愛初心者だから、初々しいというのか、距離感が間違っているというのか。セスに恋愛の教えを乞うたのが間違いね」

「気持ちを素直に言葉にしているだけだ。もっと沢山言葉を知っていればよかったと思っている」


 どんな言葉を吐くつもりなのか、ブリジットは体を震わせた。今でも十分に攻撃力がすごいのに。


「い、今のままで十分です!」


 全力でこれ以上は無理と訴えた。


「えー、ずっとこんな感じ?」


 二人のやり取りを見ていたプラムがベルに聞く。

 

「そうよ。キースはやたらと言葉が甘いし、ブリジットは逃げるし。見ている分には面白いけど、そろそろ慣れてほしいわね」

「いいね、毎日愛しているっていうのは乙女の夢だって聞いたよ」


 ブリジットは顔を真っ赤にした。


「乙女の夢!? もう、どうして愛しているとか、平気で言えちゃうのよ」

「何でブリジットは言えないの? 自分の気持ちじゃない、言わないとわからないよ?」


 プラムにもっともなことを言われて、ブリジットは逃亡することにした。


「畑の手入れしてくる!」


 すごい勢いで去っていくブリジットに、プラムが首を傾げた。


「変なの。恥ずかしいことじゃないのにね」

「……プラムは少し情緒を学んだ方がいいわね」


 ベルが呆れたように呟いた。

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