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転生令嬢は、辺境の地で菓子を焼く~精霊の愛し子なのに、全然チートじゃなかった  作者: あさづき ゆう
◆閑話

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22/52

◆22 キースの事情3


「最近、辺境だけでなく、王都付近でも魔物が増えているんだよ」


 馬車に揺られながら、エルバ司教は話し始めた。王宮に向かうにあたり、キースは精霊騎士の正装を着ていた。


 正装は教会で行う儀式や祝祭の時に着用するもので、ごてごてとした飾りが多い。序列を表すブローチまで付けている。今回は母であるフローレンスだけでなく国王とも面会するため、正装になった。国王はキースにとっては伯父に当たるが、今まで一度も会ったことはない。


「王都でですか?」


 魔物は精霊の穢れが動物に取り込まれた姿とも言われ、精霊騎士が討伐・浄化を行う。もちろん精霊騎士以外でも討伐できるが、ヘタな処理をすると新たな魔物を生み出してしまう。


 そのため、穢れの発生しやすい地域には教会の他に聖騎士団を置き、魔物や穢れを見かけたら通報することが義務付けられている。完ぺきとは言い難いが、それでもある程度穢れも魔物も抑えきれる仕組みだ。


 人が多く住まう場所は穢れやすく、魔物化も早い。そのため、王都などは十日に一度の頻度で見回りを行っている。その王都で魔物が目撃されているということは、不可解だ。


「どうも内側から汚れているらしい」


 内側。

 どうとも取れる言葉であるが、真っ先に思ったのが王家。

 

 母フローレンス、溺愛して何でも許してしまう国王。

 彼らだけで穢れをまき散らしそうだ。


「別に穢れていてもいいんだ。ちゃんと精霊の雫への儀式を正しく行っていれば」

「儀式ですか?」


「精霊の雫」については一般的なことしか知らない。ごく少数しか関わることを許されず、秘匿されている。それは教会内でも同じこと。エルバ司教は何でもないことのように説明する。


「精霊の雫はこの世界を人間が住めるようにするために存在する。与えたのは、世界を造った精霊王。維持管理は人間が担う」


 それは幼いころから、親しまれているおとぎ話。

 精霊王と人間の恋の物語から始まる世界創生の話だ。


「精霊王が作った精霊の雫は人への愛情から作られている。二十個あった精霊の雫、今現存するのは六個だ」

「教会で管理しているのは二個でしたね」

「そうだ。各国の王族が保持しているものは四個」


 この世界にはいくつも国があるが、大きな国は精霊の雫を持つ四国だ。

 精霊の雫のある場所は人にとって、住みやすい環境になっている。そのため人も集まる。自然と国の規模も大きくなる。


 だから、王族は精霊の雫の力を失わないように祈りを捧げる儀式を行う必要があるのだが、聖職者たちの目から見ればすでに形骸化した儀式になっている。精霊の雫は権力の象徴となりつつあった。


「そもそも、すべて教会で管理すればよかったでしょうに」


 管理を王族に任せなければ、儀式が正しく行われているか、という確認などなくなる。


「順番が逆なのだよ。精霊王の愛した人間が王だった。愛の印として精霊の雫を与えたのだ。そして、子供たちへと受け継がれていった」


 ある者は大きくなった国を分割して新しい国を作り、ある者は精霊の雫を持って教会に入った。

 そうやって二十個ある精霊の雫は各地へと散らばっていく。精霊の雫は広がりと共に、様々な情報が零れ落ちていく。そして零れ落ちてしまったゆえに、消滅してしまったものも多い。

 長い年月をかけて保持しているからといえども、きちんとした儀式を行わなければ、精霊の雫は失われてしまう。


「精霊の雫の管理についてはわかりました。儀式も、徐々に形骸化していったのも理解しました。それで、エルバ司教の懸念はなんですか?」


 単刀直入に聞いた。

 わざわざこの話を聞かせるということは、キースは精霊騎士としてではなく王族に連なる人間として必要なのだろう。


「呑み込みが早くて助かるよ。恐らくだが、精霊の雫は穢れを貯めている」

「……先に言っておきますが、僕は王女を母に持ちますが王族としての知識も、公爵家の人間としての知識も持ち合わせておりません。儀式をやれと言われてもできませんよ」

「わかっている。君にしてもらいたいのは精霊の雫を壊すことだ」


 精霊の雫を壊す。


 あり得ない言葉に唖然とした。


「は?」

「穢れた精霊の雫は闇の精霊を生み出す。私が浄化できない場合、破壊するしかない。破壊は王族の系譜でなければできないのだ」


 エルバ司教の口ぶりはすでに闇の精霊は生みだされていると告げていた。キースは探るようにエルバ司教を見つめる。彼はいつもと変わらない穏やかさで、穏やかではない指示を出す。


「たとえ私が失敗して何か起こったとしても、助ける必要はない。精霊の雫の破壊だけを考えろ」

「しかし」

「これは大司教さまも承知している」


 エルバ司教は口元に笑みを刷いた。


「なあに、王族がちゃんと儀式をしていれば何の問題もない」

「今、きちんとした儀式が行われていないという話でしたよね?」

「そうだね」


 今更どうして母はキースを呼び出したのか。もし、精霊の雫が穢れていた場合。破壊できる系譜のキースを呼び出す理由がわからない。


 説明のつかない嫌な予感がひしひしと押し寄せた。


「難しく考えることはない。穢れていたら壊す。穢れていなかったら、煙に巻いて撤退。それだけだ」

「はあ」


 そんな簡単なことではないような、というのは言葉にしなかった。

 城に入ると、警備の騎士に国王との面会だと書類を出す。案内を断り、指定された応接室へ向かうふりをして途中でわき道にそれる。


「こちらだ」


 エルバ司教は慣れた様子で細い道を進み、精霊の雫が収められている地下の聖堂に向かう。

 精霊の雫は精霊の力の塊。それなのに、聖堂に近づくにつれて徐々に禍々しさが濃くなっていく。


「これは、本格的に不味いかもしれないな」


 エルバ司教も進むごとに、厳しい表情になっていった。

 嫌な予感は外れることなく。

 地下の聖堂にある精霊の雫は真っ黒に変色していた。


 儀式を行っていないだけでは済まされないほどの穢れ。


 キースは目を凝らした。精霊の雫の内側に、黒い何かが蠢いている。時折、人の顔のように見えるのは気のせいだろうか。


 エルバ司教も精霊の雫を厳しい表情で見つめている。一歩、近づいたところで扉が開く音がした。二人はハッとしてそちらに顔を向ける。そこには国王が立っていた。


「応接室に案内したつもりだったが、こんなところに潜り込んでいたとは。しかもエルバ司教が従者とは」

「……陛下、これはどういうことですかな」


 国王はエルバ司教の厳しい眼差しをものともせずに、笑った。


「見ての通りだ」

「儀式をしていないと?」

「儀式はしておるよ。ただし、精霊を生み出すための儀式だが」


 精霊を生み出すための儀式と聞いて、エルバ司教は顔をしかめた。


「正気ですかな?」

「もちろん」


 国王は真っ黒になった精霊の雫に近づくと、手を伸ばした。愛おしそうに何度も何度も表面を撫でる。その様子が気持ちが悪くて、吐き気がこみ上げてきた。今すぐにでもこの場から離れたいという感情がこみ上げてくる。だが確認しなくてはいけないこともある。


「そうそう。フローレンスに相談されてね、キースを王族の一人として認めようと考えている」

「は?」


 突然の話題。

 キースは探るような目を国王に向けた。今まで一度も会ったことのない伯父である国王。認識すらしていなかったはずなのに、どうしてそういう話になるのか。


 キースの意識は国王に向けられ、不思議なほど囚われる。ふらりと体が揺れたところで、エルバ司教が名前を呼んだ。


「キース! 取り込まれるな」


 エルバ司教は持っていた司教杖で床を叩く。甲高い音と共に、床に大きな円状の魔法陣が浮かび上がった。静かな声が部屋の中に響いた。


「闇の精霊を生み出させるわけにはいかない」


 エルバ司教の合図と共に、キースは剣を抜いた。エルバ司教の祝福の文言に合わせて、キースも重ねて呪文を唱える。

 まずは精霊の雫を取り巻く穢れを浄化し、その後、破壊。

 いつもと同じ呪文を唱えているはずなのに、体の中から焼かれそうなほどの熱がこみ上げてきた。それに合わせて、剣が力を帯びて、仄かに輝く。


 精霊の雫に反応しているのだろう、刃に紋様が浮かび上がる。

 これで貫けば破壊できる。不思議とそう感じた。

 

「ここまで育てたのだ、破壊などさせるか!」

 

 国王はかっと目を見開き、魔法を放った。王族の持つ魔法はとても威力が強い。精霊の雫を中心に、暴風が生まれる。


 エルバ司教は何があっても破壊しろと言っていた。国王はエルバ司教を止めようと、精霊の雫からほんの少し離れた。その隙を狙い、キースが剣を構える。勢いをつけて駆けだそうとしたときに。

 精霊の雫とキースの間に、ふわりと白いドレスが翻った。


 割って入った存在に、キースの動きが止まる。


「なんて無粋なの。そんな危険な剣は捨てなさい」

「母上」

「ふふ、わたくしのかわいい子。王族として認められるのよ、嬉しいでしょう?」


 毒を吐き出す赤い唇。

 キースの心の底に沈めた筈の願望を容赦なく揺さぶってくる。同時に幼い頃の自分が、母から与えられる愛のように見える何かを欲しいと手を伸ばす。


 思考があちらこちらに散ってしまうが、それでも今やるべき事だけを見据える。


「母上、そこをどいてください」

「壊されてしまっては困るのよ。わたくしの息子として認められたいでしょう? あの司教を殺しなさい」


 フローレンスは形の良い唇を歪めて拒否の言葉を紡いだ。キースは硬く目をつぶると、覚悟を決める。


「では、勝手にさせてもらいます」


 再び剣を構え、フローレンスをできるだけ遠くに突き飛ばした。そして、勢いをつけて精霊の雫へと刃を突き付けた。


「キース!」


 ベルが大声を出した。キースの剣が精霊の雫に届く前に、黒い穢れが吹き上がる。穢れの勢いが強すぎて、どれほど力を込めても刃が届かない。キースは歯を食いしばり、力を振り絞る。


「破壊は無理だ! 穢れだけでも封印する!」


 エルバ司教は現状を見て、破壊を断念した。ベルは守りの力でキースを包む。エルバ司教は力の限り、封印の魔法陣を展開した。エルバ司教は脂汗を流しながら、呪文を唱え続ける。


「おやめなさい!」


 フローレンスがエルバ司教を止めようと動いた。


「キース、飛ぶわよ!」

 

 ベルはキースと共に安全な場所へと飛ぶ。

 その先は精霊の森の中だった。

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