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転生令嬢は、辺境の地で菓子を焼く~精霊の愛し子なのに、全然チートじゃなかった  作者: あさづき ゆう
第三章 同居人

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◆16 穢れの理由


 目を開けたら、整った顔立ちの男性がいた。


 癖のある茶金の髪は日の光を浴びてキラキラしている。少し伏せられた瞳の色は金色、縁取るまつ毛は長い。

 宗教画もしくは神話画になってしまいそうな、美しさ。

 

 もし、ブリジットに絵を描く才能があれば、きっと彼をモデルに描いただろう。


「眼福。はあ、いい夢だわ」


 ブリジットは間近にある男性の美貌をじっくりと堪能し、そのまま夢に浸ろうと体を丸くした。布団が温かくて、とても気持ちいい。

 

「体調はどう?」

「……」

「昨夜は随分と無理をさせたみたいだ。疲れているだろうから、もう少し休もう」

「本物?」


 ブリジットはぼんやりした頭で、乙女ゲームのようなセリフを吐くキースを見つめた。柔らかな笑みがさらに深くなる。


「はは、まだ寝ぼけている? 昨夜のことは覚えているかな?」

「昨夜……」


 そうだ、昨夜のキースが魘されていて。

 封印が緩んでいて苦しんでいる、という話になって。


 ようやくぱっちりと目が覚めたブリジットは飛び上がるようにして上体を起こした。


「封印! 結局、どうなったの!?」


 確認するために、キースの布団を剥いだ。鍛えられた筋肉質な上体がそこにある。異性の肌などほとんど見たことがないブリジットは顔を真っ赤にした。


「きゃあああ、何で寝間着を着ていないの!」

「下は履いているよ」

「そういうことじゃない!」

 

 ブリジットは吠えた。そして、揶揄われていると気が付いて、がっくりと項垂れる。気持ちを落ち着かせるように大きく呼吸を繰り返した。

 キースはくすくす笑いながら、起き上がった。


「前よりも随分と楽になった。ありがとう」

「どういたしまして」

「封印した後、ブリジットは気を失ってしまったんだ。本当なら部屋に戻してあげたかったけど、僕も力尽きてしまって。ベッドに連れてくるだけで精一杯だった。風邪を引いていなければいいんだが」


 その説明で、あの後二人して倒れてしまったのだと理解した。ブリジットは魔力切れ、キースは封印の反動で。

 それならば、この状況も仕方がない。できればこれからは寝間着を着てもらおう。

 

「昼間は気が付かなかったとプラムが言っていたけど」

「僕が寝てしまうと、抑えられなくなるんだ。穢れの封印の器になるのは特殊な能力がいるから、それが足りないせいだろう」


 キースはそう説明しながら、自分の左胸を触る。そこには拳大の黒い染みがある。ぎゅっと闇を凝縮したようになっていて、それを中心にして、複雑な文字を使った魔法陣が刻まれていた。キースの美しい体には不似合いの、禍々しさ。


 ブリジットは思わずそれを見て、眉を寄せた。とてもではないが、体に何も影響がないとは思えない。


「それ……成功しているの? 禍々しすぎて全然よくなった感じがないけど」

「見た目が悪いからそう思うだけだよ。この魔法陣のおかげだね」


 キースは随分と楽になったと笑っていたけれども、体の中の痛みは継続していると気が付いてしまった。とはいえ、彼にそう言ったところで、微笑みながら大丈夫だと言うのだろう。


 大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせると、ブリジットはベッドから降りた。


「朝食、用意してくるね」

「もう少しゆっくりしていけばいいのに」


 そう言って、意味ありげに微笑む。こういう男女のやり取りに慣れていないブリジットは顔を真っ赤にした。


「わたし、これでも箱入り娘なの! そういう変なことを冗談でも言わないで」


 ぷりぷり怒りながら、ブリジットはキースの部屋を出て行った。



 自分の部屋に戻り、身支度をしてから階下に降りた。

 リビングにはプラムとベルが仲良く一緒にいる。ベルはけだるそうだが、昨日まで眠っていたとは思えないほどしっかりしている。


「おはよう。ベルは目が覚めたのね、よかった」

「ええ、助けてくれてありがとう。おかげで消えずにいられたわ」


 ベルはすました顔でお礼を言ってくる。だけども、しっぽは嬉しそうに揺れている。声にして言ってしまえば、きっと怒るだろうから、ツンデレめ、と内心呟く。


「もう少し寝ていればよかったのに。キースに抱きこまれて気持ちよさそうだったよ」


 プラムはそんなことを言う。

 

「あのね、わたしは年頃の娘なの! 男性と一緒にいられるわけないでしょう! 起こしてほしかったわ」

「そういうもの?」


 どうやらプラムには人間の男女関係は難しかったらしい。目を丸くしてぱちぱちしている。ここはしっかり言い聞かせないと、とブリジットは強く頷いた。


「ええ」

「うーん、じゃあ次は気を付ける。でも今回は無理やり魔力を変換して外に出したから、ブリジットの体が冷えるとまずかったんだ」

「……体が冷えると何がまずいの?」

「魔力、使い過ぎると体が冷えてしまうんだ。人間は体が冷えると大変でしょう?」

「使い過ぎたって……もしかして、命に危険があったの!?」

「そこまでは使っていないよ。でも危うく眠りから覚めないところだった」


 眠りから覚めない、つまり死んでしまうということじゃないのか。

 ブリジットは顔をひきつらせた。


「大体、無茶なのよ。穢れを丸ごと再び封印するなんて」


 二人の会話を聞いていたベルが呆れたように言う。プラムは肩を竦めた。


「ここは僕のテリトリーだよ。あんな不快な物、置いておきたくない」

「それでブリジットが寝てしまったら、本末転倒じゃない」

「んー、実は感情が暴走していて、そこまで考えていなかった」


 排除したい気持ちの方が勝って、ブリジットの限界ギリギリまで魔力を使ってしまったらしい。


「そこまでしたのに、封印なのよね? 浄化はできないの?」

「無理ね」


 ベルがあっさりと言った。プラムも肩を竦めている。


「あそこまで強い穢れは長い年月をかけて浄化するしかないんだ。滅多に見られないよ、あんな穢れ」

「え? もしかして、これからもずっとキースが抱え続けるの?」


 穢れのことについてはごく一般的なことしか知らない。


「代わりに引き受けてくれる器があれば、解放されるけども。封印の器になれる人は滅多にいないのよ」


 教会のことをよく知っているベルがため息をついた。


「困ったわ。わたしもキースの封印を維持するだけで精一杯だもの」

「精霊にも影響が出るの?」

「そうね。わたしの力で呪いの核を包んでいるから、どうしても影響されるわ」


 精霊騎士と精霊との絆はとても強い。特にベルはキースの苦しみを少しでも和らげたくて、最大限の力を使っている。本人が言うように、これ以上は何もできないだろう。

 深刻な空気になったところで、キースが降りて来た。途中まで話が聞こえていたのだろう、彼は苦笑している。


「キース」


 先ほどは気が付かなかったが、かなり顔色が悪い。不健康な青白さに、ブリジットは驚いた。ベルも気が付いたようで、キースの側にやってくる。


「顔色が悪いわ」

「封印が馴染んでいないだけだから、そのうち良くなるよ」


 気楽な様子でいるが、それでも横になっていた方がいいのではないかと思うほどだ。


「とりあえず、朝食を用意するわね。その後、ちゃんと事情を説明して」

「何か手伝う?」

「顔色が悪い人が何を言っているの。そこに座って大人しくしていて」

 

 ブリジットはエプロンを付け、キッチンに入った。

 手早くパン粥を作る。今日のパン粥は甘くない。野菜のブイヨンを使い、塩で味を調える。

 簡単に出来上がったパン粥をキースの前に置いた。


「熱いうちにどうぞ」

「これは美味しそうだ」


 キースは嬉しそうに笑うと、スプーンを手に取った。

 そして、食べながら事情を説明してくれる。


「一度目の時、浄化に失敗して、清浄な場所と思っていたら、精霊の森に入ってしまった。今回は、ベルがブリジットに魔力を分けてもらったから、無意識に頼ったんだと思う」

「……そんな曖昧に思っただけでここに?」

「ベルも傷ついていたから、生存本能的なものかもしれないね」


 確かに、ブリジットがいなければベルは長い眠りに陥ってしまっただろう。


「でもどうして穢れの封印を引き受けたの? 器じゃないとベルは言っていたけど」

「封印の器に適した人がちょうど教会にいなくてね。一時的に封印の役目を引き受けたんだ。それに、王族に目を付けられてしまって、どちらにしろ身を隠す必要があったから」


 王族という言葉にも唖然としたが、ついでで封印の役目を果たすとか、ブリジットには理解不能な感覚だった。


「え、どちらも大変じゃないの?」

「大変というか、もう諦めている。言いがかりを付けてきた王族は僕の親族なんだ。腐っているとは思っていたけど、腐りきっていたよ」


 困ったものだよね、とふんわりとほほ笑まれた。なんてこともないという顔をされて、複雑な気持ちだ。そして、一度だけ顔を合わせたことがある王弟を思い出す。彼はそんなにひどい人のようには思えなかった。


 キースの言う王族と王弟が一致するのかはわからないが、貴族の養女という身分しか持たないブリジットにはどうにもできないこと。


 キースの痛みが少しでも和らいだことで良しとしよう、と自分を納得させた。

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