九十三話 汗
「……ライナ、合図をくれ。」
「えっ……う、うん。分かった。」
ラナは俺に頼まれ、彼我の中央へと立つ。そして手を軽く前へ突き出し、口を開く。
「……今から、2人の勝負を始めます。2人とも、準備はいい?」
「「…………ああ。」」
「それでは………3、2、1…………
…………始めっ!!!」
「『超越・力』!!」
(……いきなりか。)
始まりと同時にカリストはステータスを高め、俺へと飛び込んでくる。その速さに体はもう反応できないと確信し、俺は目を光らせる。
「おらぁっ!!」
「…………っ!!」
間合いに入ったカリストは中段の回し蹴りを高速で飛ばしてくるが、俺はそれを読み飛び上がって回避する。だがそれは想定内だったのか、カリストは手を突き出して魔法を放とうとしてきた。
(速い……!)
「『フレイム』!!」
「ぐっ………」
ゼロ距離からの火炎に俺は反応しきれず、魔力防壁を掠らせてしまうが……慌てず距離を取って見計らう。
「……これは、流石に素のままじゃ厄介だな。」
「厄介? 相変わらず強がるんだな、お前は。無理なもんは無理って言えよ。」
カリストの挑発を無視しながら、俺はどうするか思考する。
(……今の俺のステータスは60〜80の間、対してカリストは200前後まで高まっているはず。それでも以前までなら対処できたが…………今の奴にはまだ難しいだろう。)
ステータスはもちろん、動きのキレが前とは大違いだ。そして魔法の発動も自然にできている…………これは、無理矢理にでも合わせるしか無い。
「『身体強化』『魔法強化』……『オールアップ』」
「み、3つの強化魔法……?」
「けっ……小細工を。」
俺は2つの中級魔法と1つの上級魔法を一気に発動させ、強制的にステータスを上昇させる。
名前・ウルス
種族・人族
年齢・15歳
能力ランク
体力・96
筋力…腕・101 体・95 足・116
魔力・86
魔法・12
付属…『身体強化』(体力・筋力を上昇させる)
『魔法強化』(魔法の威力を上昇させる)
『オールアップ』(全ての能力を上昇させる)
称号…なし
「そんなに発動させていいのか? すぐに魔力が空になっちまうぞ?」
「それはお互い様だろ、心配無用だ。」
「ほう……そうか、よっ!!」
そう言ってカリストは再び接近し剣を振おうとしてくる。それに対し今度はギリギリ体が反応できる速さにまだ高まっていたため、俺はバックしながらある物を生成する。
「『クナイ』」
「…………っ!?」
1本のクナイを作り出し、カリストの足元へと投げつける。
クナイは威力自体はほとんどないような物なので、避ける必要のない攻撃だったが……急なことに驚いたのか、カリストは足を上げて避けてしまった。
「『ジェット』」
「ちっ……また飛びやがった。」
足を上げたことによって生じた隙を狙い、俺はジェットで空へと飛び上がる。そして一拍置いてから飛び蹴りをするように急降下していく。
「はぁっ!!」
「遅ぇなぁっ!!」
しかし読まれていたのか、カリストは俺の蹴りを飛び上がって避け、逆に今度はそちらが上を取って剣を振り下ろそうとしてきた。
(逃げるのは無理か……!!)
「おらぁぁっ!!!」
「ぐぉっ……!」
その速さにまた体が追い付かず、剣をで無理矢理受け止めることしかできなかった。
この、以前とは似て非なる状況。あの時はカリストの全力を入れるタイミングで生まれた力の解放から、何とかずらすことができたが…………今回はそれすら狙わせない力で、体がどんどん押し潰されていく。
「前みたいなヘマはしねぇ……抜けれるもんなら抜けてみろよっ!!!」
「がぁっ……!!!」
握る剣の軋む音、そして垂れる汗が俺を徐々に追い込んでいく。
やがて俺はとうとう両膝を地面につけてしまい、上下からの圧力によって魔力防壁が少しずつ傷ついていく。
(このままではまずい……かといってこれじゃ無詠唱すらままならない、何か無いのか…………?)
「ウルスくん…………!」
遠くから、そんな心配するような声が届き……俺は目を向けた。
その彼女の手に『汗』握るような様子に…………俺は、何故かあの会話が頭をよぎった。
『ウルスくんは夏と冬、どっちが好きだったっけ?』
『………そうだな、確か冬だったか。寒さなら服を着ればそれでいいが、暑さだと調節が面倒だからな。』
『そうだね、それに夏だと汗が気になって色々と大変だし。』
「…………くくっ。」
「あ? 何笑ってんだ……?」
「いや……別、に………!」
………運が良いのか悪いのか…………ただ1つ、言えるのは…………!!
「俺も、まだまだ…………だなっ!!!!」
「……っ!?」
俺は頭だけを動かし、カリストの顔へと近づけた。そしてそこで思いっきり頭を振って…………汗を飛ばした。
「なっ、目が……!!??」
「隙ありっ!!」
「うっ!??」
上手く汗が届いたようで、カリストは目を瞑ってしまっていた。その隙に俺は大剣と地面の間から抜け出し、彼の足元を刈って転ばした。
そしてジェットを解除し、代わりに炎を足に纏わせた。
『フレイムアーマー』
「おらぁっ!!!」
「ぐがぁっ……!!?」
炎蹴はカリストを大きく吹き飛ばし、魔力防壁に大きなダメージを与えていった。
「クソっ……何だ、何しやがった!」
「何をしたか? ……ただ汗を飛ばしただけだ。」
「……………はぁ……!?」
あまりにも馬鹿げた返事だったからか、体制を立て直していたカリストはついに黙ってしまった。
(……かと言う俺も、これは苦肉の策だった。季節に救われたな…………)
今日は夏期休暇の最終日、そして夕方といっても気温はかなり高く、温度調整をしている俺でも手を抜いている状態で動いて汗をかくのは必須だった。
その汗を飛ばし、目眩しをする…………どこからどう見てもふざけた方法だが、それが勝負というものだろう。
「…………本当に……お前は、頭が可笑しいな。」
「……それはどうも。」
「褒めてねぇよ、馬鹿が…………」
そんな小言を呟くカリストだったが…………その顔は、気持ち悪いほどにニヤけ面だった。
「そうでなくちゃ面白くねぇ……俺が潰すと決めた相手があれくらいで終わったら、何も気持ちよくねぇからな。」
「……お喋りだな、早く来たらどうだ?」
「慌てんなよ、せっかち野郎…………言われなくてもやってやるよ!!!」
(…………解除した?)
カリストは何故か超越・力を解除し、こちら目掛けて走り出してきた。しかもそのスピードも明らかに手を抜いた速さであり、俺は困惑しながらも迎え撃つ準備をする。
(何をするつもりだ……一応カリストに合わせてこっちも解除するか…………)
「……って顔だなっ!? 残念だが嵌っちまったよお前は!!!」
「っ………後ろ……?」
俺が強化魔法を解除する思考まで読まれたようで、カリストはケラケラと笑いながら俺に背中を向け……軽く飛び上がった。
「覚悟しろ………『ブレイクボンバー』!!!」
「なっ、爆破ま……げほっ!!?」
その瞬間、カリストはまさかの最上級の爆破魔法を明後日の方向へ放ち…………その猛烈な勢いで俺に捨て身のタックルをぶつけてきた。
それは流石に予想できず既に強化魔法を解除してしまった俺は反応しきれず、そのまま体をぶつけられ大きく吹き飛んでしまう。
「俺はまだやれんぞ、ウルスっ!!!!!」
果たしてどちらが勝つのでしょう。
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