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二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す   作者: SO/N
八章 夏季休暇

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九十二話 死ぬ気

 



 俺はただ、気に食わなかった。


 特別不自由でも自由でもないこの環境が退屈で、その退屈を憂さ晴らすかのように弱者を虐めてきた。まあ別にそれも特段面白いわけでもなかったが……暇潰しにはちょうど良かった。


 そんな俺を見て何人かの小心者がくっついてきたり、恐れたりと気分が少し良くなってきた頃…………奴が目に入ってきた。




『…………そう、らしいな。』





 一見、ただ軽く睨むだけの……実際のところ奴も俺もその時はそう感じていたが…………今思えば、あの『目』が俺は気に食わなかったのだろう。


 見下すわけでもなく、恐るでもなく……だだ、()()()()だけの淡白な色。全部を理解したかのような……知ったかぶりの、薄っぺらい色。



 そんな奴が、俺は気に食わなかった。だから、どうでもいい言葉をあれこれ並べて喧嘩を売ってやった。そしてそれが効いたのかどうか知らないが、まんまと奴はそれを買ってくれやがった。




『……こういうことだ。』



 …………いや、買ったんじゃない。売ってきやがったんだ。





『さぁ……かかって来い。』





 力も速さも、ちょっと高いだけの普通の男。なのに俺は、そんなちっぽけな男に完膚なきまで叩きのめされた。

 智略とも技術とも言い難く底知れない強さに俺は、ついに奥の手を使わされ…………それでもなお、全くと言っていいほど敵わなかった。





 それは、俺にとって屈辱で…………初めての、悔しさだった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー















 夏期休暇、最終日。俺は時間が来るまで部屋で本を眺めながら過ごしていた。



「………そろそろか。」


 やがて約束の時間が迫り、俺は被った埃を払いながらボックスへと入れ、部屋を出た。



「……あっ、ウル……スくん。」

「…………ライナ、か。」


 寮を出て目的の場所へと向かう途中、ラナが向こう側からやって来た。彼女は俺を見ると近寄って来て話しかけてくる。


「どうしたの、こんな時間に。もう夕方だよ?」

「ああ……今から、ちょっと訓練所に行こうと思ってるんだ。」

「訓練所……もしかして、カリストのところに?」

「…………知ってるのか?」


 俺がそう聞き返すと、ラナは首を縦に振る。


「うん、最近カリストがずっと特訓してるって……もしかしたらと思って。」

「……ライナの言う通りだ。カリストは俺と勝負するために、今日まで鍛えてきた。」

「勝負……私も、見に行ったら駄目かな?」

「…………俺は別に構わないが……カリストがなんて言うかだな。」


 断る理由は色々()()()が、俺は口にすることなく了承し、カリストのところへと向かった。


「……ウルスくんとカリストって、仲良くなったの?」

「いいや……むしろ最悪だろうな。あいつは今にも俺をぶっ倒そうと息巻いてるくらいには、多分嫌われてるよ。」

「ふふっ、本当かなぁ?」


 後ろからとことこと足音が鳴り響く。その音は昔よりも硬く、大きな物となっていたが…………音の聞こえる間隔、鳴るリズムは何も変わっていなかった。





「……あ? 何で次席がいんだよ、デート帰りか?」

「たまたまそこで会っただけだ、別に問題ないだろ?」

「…………ちっ。」


 訓練所に入ると、そこには汗をあちこちにかかせたカリストが立っていた。

 

 以前までは立派な服も、今ではすっかりとくたびれ汚れており……また、この前とは桁違いの覇気を辺りに漂わせていた。


「……約束通り、俺は今からお前に勝負を挑む。一応聞いておくが……ぶっ倒される覚悟はあるのか?」

「………お前こそ、3度目の敗北を味わう準備はできてるのか?」

「あるわけねぇだろ、もう俺は腹一杯だ。」


 くだらない話をしながら、俺とカリストは互いに剣を構え見据える。







名前・タール=カリスト

種族・人族

年齢・15歳


能力ランク

体力・115

筋力…腕・124 体・111 足・132

魔力・98


魔法・12

付属…なし

称号…【力の才】

   【魔法の才】




(……とてつもない上がり幅だ、まるで別人………)


 たった3、4週間……しかも1人でこれほどの上昇率、そしておまけには2つの称号の開花。もしカリストに『記憶維持者』の称号があったらどうなっていたか…………



「……死ぬ気で俺は自分を虐めた、お前みたいな生意気な奴を超えるために……ひたすら。」

「死ぬ気……か。」

「ああ、だから…………お前にも死ぬ気で戦ってもらう。そして今度はウルス、てめぇが地面を転がる番だ。」


 その言葉には執念でも執着でもなく、ただ『そうしてやる』といった脅威だけが渦巻いていただけだった。そんな言葉に、俺は俺なりの『脅威』をぶつけた。






「なら、俺に見せてみろ。その死ぬ気で培った力を証明する…………意地を。」




 クズ同士の戦いが始まります。


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