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二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す   作者: SO/N
八章 夏季休暇

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八十一話 何のため





「『ソルセルリー学院、襲撃』………か。」


 謎の仮面たちの襲撃の、次の日。俺はミルとニイダと一緒にある場所へと向かっていた。

 その道中、廊下にそんな文言と同時に大きな貼り紙があったので3人で眺めていた。


「ありゃ、『ウルスさんが撃退!』って見出しはないんすか?」

「あるわけないだろ、変装もしたし誰にも見られてないんだから。」

「でも、変装っていってもあんまり雰囲気は変わってなかったよ? もしかしたらライナにバレてるかも……って、あれ?」


 話をしていると、不意にミルが遠くのある方を指さした。そこに居たのは、ちょうど学院長室から出てきた金髪の少女…………ラナだった。


「あっ……おはよう、みんな。」


(………………)

「おはよう、ライナ! 体はもう大丈夫?」

「うん。ラリーゼ先生の魔法で治してもらったし、問題ないよ。みんなはどうしてここに?」

「俺たちは学院長に呼ばれて来たんすよ……その感じだと、ライナさんも?」

「今さっき終わったところだよ、昨日の仮面の人たちのこととか聞かれたけど……もしかしてみんなも戦ったの?」

「え、えっと、それは…………」


 ミルはすぐに言い訳が思いつかなかったのか、ラナの質問に少したじろいでしまう。

 すると、ニイダが相変わらずのヘラヘラ態度で代わりに答えた。


「そっすね、まあ戦ったというより逃げ回ってたって感じっすけど。ローナさんが眠らされたときはさすがに焦ったっすけど、ウルスさんの指示で何とか時間を稼いで勝手に帰ってくれた…………っすよね、ウルスさん?」

「…………ああ、相手がよく分からなかったからな。様子を見るためにも戦うのを避けた……俺たちの力じゃ勝つことは難しかったし、運が良かったってところだ。」

「……凄いね、ウルスくんは。私なんて愚直に戦っちゃったよ。」


 ラナは情けなさそうに笑う。


「勝てないって分かってたのに、1人で戦って……死んだら元も子もないのにね…………」




『いいから早く逃げろ! 俺は強い……それは知ってるだろ!!』

『っ!! ……わ、分かった!』





「…………ライナは、十分強い。」

「……えっ?」

「どうやっても勝てない……一度そう思ってしまったら、普通は諦めてしまうものだ。むしろ、立ち向かうって判断をできるライナは……俺たちよりずっと強い。」

「……そうかな。」

「ああ、だからそんなに卑下するな……何なら、『私は戦ってやった!』って自慢するくらいが丁度いいんだ。」

「そ、それは……逆に恥ずかしいよ。」



 ……褒めていいことでは()()。あの赤仮面のステータスは破壊級魔法使いからしておそらく2、300程度……あの濁った魔力環境、神眼、そしてその前触れを見せなかったのも相まって正確な実力が分からなかったとしても…………



『…………たいぃっ……!!!!!!!』




 戦った跡、ボロボロな体…………それでもなお、彼女は諦めようとしていなかった。



 自分の身を焦がしても、痛みで苦しみながらも抵抗した。





(そんなことをする人間を、心から肯定するほど…………俺は、()()()()()……”()()”。)



「胸を張っておけ、次席なんだから。」

「……ありがとう、ウルスくん。」


 俺の真意を知ることもなく、ラナは俺の励ましを笑みで返す。


「…………()

「……今気づいたっすけど、ライナさんが出て結構経ったっから学院長も暇してるんじゃ……」

「あっ……じゃあ早く行ってあげないと、ほら。」


 ラナがその場を避け、どうぞと言わんばかりに扉を見せてくる。その扉は他の部屋の物よりも一際大きく、まさに学院長室といった感じだった。


「なら、そろそろ行くか。」

「じゃあまた後でね、ライナ!」

「話、長くないと良いんすけどねぇ……」

「行ってらっしゃい、みんな。」


 ラナに見送られ、俺たちは中へと入っていく。





「安心しろニイダ、無駄な話をするつもりはない。」


 入って早々、自身のデスクに座っていた学院長……ガラルス=ハートはそう言って俺たちを目の前のソファに座るよう、手を向けてきた。


「げっ、聞こえてたっすか……やっぱ英雄となれば耳も地獄耳………ということはっ!?」

「俺を見るな……ステータスと五感は直接は関係ない。結果的に鍛えられることはあっても、まず意識的に特訓しないと強くならない。」


 実際俺の聴力は人より少し高いぐらいであり、さすがに何百・何千メートル先までの音を拾うほどの耳は俺()()ない…………代わりに、『目』の能力は死ぬほど鍛えたがな。


「その様子じゃ、彼にもすっかりバレたようだな。」

「『にも』って……じゃあやっぱり、ウルスくんが前に言った通り学院長も……」

「ああ、今この場にいる2人はもう俺の力のことを知ってる……改め言いますが、下手に話したりはしないでくださいよ。」

「分かってる……貼り紙は見ただろう、ちゃんとお前のことは伝えてないぞ。」

「俺も一応黙っとくっすけど……ウルスさんって何だかんだ()()()()()()っすからねぇ、いつか勝手にバレそうっすけど。」


 ソファに座りながら、ニイダがやれやれと手を振る。


 ……確かに、ルリアのような人間がまたいつ俺に接触してくるかも分からない。あの時は神器を見せびらかして納得させたが…………学院内でさえこれだ、いつかニイダのような奴が………



「……まあ、今は俺の話じゃない……あの仮面どもだ。」

「それもそっすね……で、学院長。何か知っていることはあるっすか?」

「いや…………情けない話、何もないんだ。」


 学院長は頭をつつきながら、その場から立ち上がる。


「儂はお前たちが教えてくれるまでこの事態に、全く気づかなかった…………まずは、謝らせてくれ。子どものお前たちを危険な目に合わせて…………すまなかった。」

(……………)


 学院長はそう言いながら、頭を下げてきた。そんな学院長を見て、ミルとニイダは慌てて声をかける。


「そ、そんな……謝ることはないですよ!」

「そっすよ! ウルスさんですらすぐには分からなかったんすから、学院長の責任じゃないっすよ……っていうか、どう考えても悪いのは相手なんすから文句なんか無いっすよ。ね、ウルスさん?」

「ああ。英雄で気づけない敵……それは本来、()()()()()()()()です。あなたの責任じゃありません。」


 そう、今回のことは学院長のせいではない。相手が神眼のような神界魔法レベルの魔法を使ってきている時点で、まず気づかないといけないのは俺なんだ。


(…………ラナのことで悩みす……いや、それは言い訳だ。()()()()()を彼女に押し付けるな。)


「…………それで、ミル。昨日も聞いたが、倒れた仮面たちは同時に消えたんだな?」

「う、うん。全員眠ってたり気絶して、絶対魔法なんか使う機会なんて無かったのに……どうしてなのかな?」

「誰かが転移させた……だが、転移で誰かを移動させるには、その相手に触れていないとできないはず。触れていない、しかも何十人ものの数を一気に転移させる魔法なんて、少なくとも儂は知らない……一体どうやって……?」


 学院長の言う通り、そんな便利な魔法は存在しない……が、確かに奴らは消えていった。

 一応、精霊族の流派の魔法に自身の分身を作り出す魔法は確かにあるが……あの魔法はダメージを受けるとすぐに消えてしまう。


(ガイヤの烈風やスウァフルラーメの呪剣を受けて、あの程度の奴らの分身がすぐに消えないはずがない……だったらやはり転移だろうが…………)


「……なら、作ったんじゃないっすか?」


 俺たちがうんうん考えていると、ニイダがそう指を立てて言い出した。


「作った……それってつまり、オリジナル魔法ってこと?」

「そっす。触れずに大人数を一気に転移させるオリジナル魔法を、仮面のお仲間さんが作った……って、口で言うのは簡単っすけど、そんなことできるっすかねぇ?」

「うむ……そんな魔法を奴らが作り出せたのなら、現れたり消えたりすることも説明がつくが…………仮に作れたとしても、誰がそんな魔法を扱えるんだ? ウルスですらその兆候を感じさせない場所から転移をさせるなんて、魔力消費がとんでもないぞ?」


(……あの時、奴らの魔法か仕掛けか知らないが、俺の魔力感知の範囲は学院の敷地内程度だった。少なくともその位置より遠くから2、30人を一気に転移させる……往復分を考えても、4、500はかかる………)


 以前見た時の学院長の魔力の数字は400ほど、師匠は800程度……英雄といってもこれほどの差はあったりする。


 そして…………



「『俺』みたいな()()()()()()な『存在』もいます。なので……あの仮面たちにもそんな存在がいても不思議ではないと思います。おそらくですが、相手の誰かは神界魔法……最低でも神眼が使えるようですし。」

「…….英雄の儂たちを差し置いて、こうも神界魔法をバンバン使われるとは……少し悔しいな。」

「……その神界魔法? ってそんなに凄いんすか? 俺、よく知らないんすけど。」


 神界魔法の存在自体、伝説上、御伽噺おとぎばなし、架空の存在……そして、そもそも神界魔法の詳細が載っている書籍も無いに等しいので、ニイダのように知らない場合は珍しくない。俺も師匠の家にある本を読んで初めて知ったぐらいだ。


「えっと、心眼の上位互換の『神眼』と、ステータスをめちゃくちゃ上げちゃう『鬼神化』……ウルスくんが使えるのはこの2つだったよね?」

「上位互換? ステータスがめちゃくちゃ上がる? あんまり強さが分かんないっすね……」

「……例えば、神眼を使えば今までお前がどんな人生を歩んできたか全部分かる。鬼神化を使えば国1つ潰すのに1分もかからない……まあ、そんな感じだ。」

「…………えぇ!? やばくないっすかそれ、それこそ鬼神化なんて持ってる人がいたら……!?」

「ああ……『アレ』も持ってたら正に地獄だ。」

「「……『アレ』?」」


 学院長の言葉に、俺とミルは声を揃えて疑問を示す。そんな様子の俺たちを見て、学院長は後ろの窓に映る学院の建物を指さした。


「この学院の敷地内には、その神界魔法のことが書いてある本があるんだ。何年も前に一度見ただけだから何処にあるかは知らないし、もしかしたら捨てられたかもしれないが……その本には神眼と鬼神化以外の魔法が1つ書いてあったんだ。」

「……その魔法の名前は?」

「確か、名前は…………















 ………心操(こころと)り、だったか?」



 心、操り…………



「その効果は?」

「……詳しいことは書いてなかったし、子どもの頃の話だから曖昧かも知れんが……………『対象の人物を操る』だったはずだ。」

「あ、操る……!?」

「そ、それって……もう何でもありじゃないっすか神界魔法!?」

「それが神界魔法だ……初めて見た時は冗談だって笑い飛ばしたが、こうやって神界魔法が使える人間が現れた以上……笑えないもんだな。」



 人を操る…………もし、そんな魔法が使えるやつがいたら、この世界なんてすぐに…………



『……この学院の人間じゃないな?』

『もちろん、今日は視察がでらここを見に来ただけだ。』





「…………奴らは、今回は視察だと言ってました。」

「視察……?」

「……それって、もしかして……!!」


 俺の言いたいことが伝わったのか、ミルはバッと机を叩いた。


「どうした……ミル、だったな。何か気がついたのか?」

「え、あ、はい! さっき学院長が心操りのことが書いてある本がこの学院の何処かにあるって、それで仮面の人たちが『視察』って言ったってことは…………」

「……()()()()()()()?」

「…………あくまで可能性って話ですが。」


 仮にそうだとしても……なら、どうやってここにその本があることを知ったのか、なんで()()だったのか、何のためにそれを持ち去ろうとするのか…………





(……何のために、人を操るのか。)






 彼は都合がいいですね。


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