八十話『追憶・ライナ』 夢
その日は少し曇り模様で、所々地面に影が差していた。
「ふん〜ふふん〜ウルくんに何買おっかなぁ〜」
「楽しそうね、ライナ。ウルスくんのお土産?」
「うん! 行く前に何が欲しいかって聞いてきたの!」
家族3人での旅行中、私はお母さんと一緒に街を歩き回っていた。
その街は私が住んでいる村よりも何倍も大きく、お店や見たことのない建物などがいっぱいあって、見てるだけでとても楽しかった。
「ウルスくんは何が欲しいって?」
「えっと……たしか『おじさんが付けてる首のキラキラしたやつ』って!」
「おじさんの?……ああ、ウルスくんのお父さんが付けてるペンダントね。なら、一緒に探しましょ。」
「うん!」
お母さんと一緒に装飾品店へと入り、私はウルくんに似合いそうな首飾りを探し回った。
「うーん……これは大きすぎるし、これは……似合わない…………」
「……随分と真剣ね。」
「だって、ウルくんのお土産だもん。変なのあげて嫌われたくないし……」
「本当、ライナはウルスくんが大好きねぇ……将来は結婚でもするのかしら?」
「けっこん? 結婚ってなに?」
「ん? 結婚っていうのはね……好きな人とずっと一緒にいること、私とお父さんみたいにね。」
「へー……じゃあ、私もウルくんと結婚する!!」
「あら、気が早いこと…………あっ、ライナ。これなんてどう?」
私が色々と探していると、お母さんが飾ってある中のある1つのネックレスを指差した。
そのネックレスには真ん中に大きな緑色の宝石が付いており、とてもキラキラと輝いていた。銀色の鎖もとても鮮やかで、ウルくんのお父さんの以上に綺麗だった。
(……確かにこれならウルくんにも似合う、けど…………)
「……ちょっと大きいような…………」
「いいのよ、ちょっと大きいぐらいで。ライナはウルスくんにずっと付けて欲しい物を探しているんでしょ? だったら、ウルスくんが大きくなっても付けられるぐらいの物じゃないと。」
「ず、ずっと………うん、じゃあこれにする!」
お母さんの言葉もあって、私はこの緑色のネックレスをお土産にすることにした。
(ウルくん、喜んでくれるかな…………)
「……あ、2人ともこんなところに!!」
「…………お父さん!」
無事ネックレスを買い終わり、お店を出たところ……遠くからお父さんがこちらに走って向かって来ていた。
私はお父さんにネックレスのことを自慢しようとその袋を見せびらかす。
「見て、お父さん! これをウルくんのお土産に……!!」
「すまん、ライナ! 今はそれどころじゃないんだ!!!」
「…………?」
お父さんは再開して早々、そんなことを言いながら必死に息を整えていた。
そんなただならぬ様子にお母さんが声をかける。
「ど、どうしたのあなた? 何か事件でも起こっ……」
「はぁ、はぁ………2人とも……落ち着いて、聞いてくれ。」
「「………えっ?」」
お父さんは何を…………
「俺、たちの……………村、が…………襲われた。」
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「…………………」
その日の夜、私は1人宿屋のベッドに蹲っていた。
お父さん曰く…………私たちの村は何者かの襲撃によって、跡形も無く消え去ってしまったそうだ。そして、その村に住んでいた人たちも全員………姿を眩ませていた。
また、調査によると『おそらく大規模な盗賊たちに全員殺されたか、連れ去られた可能性が高い』……………そう、言っていた。
「…………ライナ、大丈夫?」
「…………だい、じょう……ぶ。」
部屋の前から聞こえるお母さんの心配の声に、空回りしながらもそう返事をする。
(…………なん、で)
「なん、で……」
土砂降りの雨が、部屋を揺らす。
『いってらっしゃい、ラナ!』
「…………いや。」
嫌だ。
こんなの、あんまりだ。
なんで、なんでなんで。なんで………………
「ウルくぅ………みんなぁ………いヤぁァぁっ!!!!!」
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その日は、月がくっきりと出ていた。
「……………着いた。」
学院に通うことになる、その前日。私は1人村へと訪れていた。
(……………………何も、ない。)
かつてあった小さな家たちは全て綺麗に消え去っており、この村跡には『謎の墓石』……ただ、それだけが置いてあった。
辺りも昔は森林で囲まれていたはずだったが、ここら一面はそれらもほぼ全部切り取られてただの草原と化していた。
「…………………」
あの夜、私は一晩中泣きじゃくった。
もう、何も返ってこない……その事実はただ、私の心を蝕み、地へと堕としていった。
そして、何の因果か…………次の日、ふと自身のステータスを確認したところ……『隠れた才能』なんて称号が私に付けられていた。
(……何で、私なんかに付いちゃったんだろうね。)
そんなことを心の中で愚痴りながら、私はその謎の墓石の前へと立った。
その墓石には何も書かれておらず、ただ弔うだけためのように地面へと突き刺さっていた。
「ここまで来たよ、ウルくん。」
広がる草原が風に揺られ戦ぐ中、私は小さな声でその弔いの墓石に語りかけた。
「………私ね、強くなったんだ。ウルくんが強くなろうと必死に頑張ってた姿を思い出して……あの日から、努力したんだ。」
『……実は僕、夢があるんだ。色んな魔法を使えるようになって強くなって、この広い世界を旅してみたいんだ。』
「強くなるために、いっぱい頑張ったんだ……………そしたら、気付いたらあの有名なソルセルリー学院の次席まで行けたんだよ。もしかしたら、私の方が才能があったのかもね。」
私は自慢するように語りかける。
もちろん、返事はない。
「…………ウルくんの夢、私じゃまだ叶えられないけど………いつか、もっと強くなったら……代わりに私が叶えるよ。」
風で木々が揺れる中、私はペンダントを取り出す。
そのペンダントは買ったときよりは少し汚れて、とても新品同然とは言えなかったが……その輝きは依然として変わらなかった。
「………………ウルくん。」
もう、彼はいない。
そんなことは理解かっていながらも、私は身勝手な約束をする。
「……もし、私が…………いつか、挫けそうに……負けそうになったときは………その時は、守ってくれる?」
届くことのない、この約束。
それでも、私はただ…………………
「じゃあね…………約束だよっ!」
勝手なことを言って、私はペンダントとポケットにしまう。
(見ててね、ウルくん。私は強くなって……ウルくんの夢を…………!!)
溢れそうな涙を何とか堪え、私は歩き出す。風はもう止んでいた。
(夢を叶えるため、私は……学院で1番を………!!)
だから、守ってね…………………ウルくん。
「……………約、束。」
ほんの少しだけ、夢は重なったようです。




