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二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す   作者: SO/N
七章 蒼色と金色 (仮面編)

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七十八話 ブッ飛べ

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「……ウルくん、大丈夫? さっきから失敗ばかりだけど………」

「そう、だね……難しい、から、ね……お父さんの、魔法は。」


 村の近くの森の中、私はウルくんの魔法の練習を見ていた。

 

 今ウルくんが練習している魔法は、どうやらウルくんのお父さんが作った特別な魔法らしく、毎日ずっと練習しているけど一向に完成する様子は無かった。


「はぁ、はぁ、はぁ………」

「ウ、ウルくん……もう今日は終わろうよ、おじさんもやり過ぎはダメだって……」


 何度やっても成功しないもどかしさ…そして、正直同じ風景の繰り返しから来るつまらなさも相まって、私はそう声をかける。

 でも、ウルくんは未だ止める様子は無かった。


「……いや、まだ夕方なんだ……まだまだ、やれる……!」

「ど、どうしてそこまで頑張るの? そんなに苦しそうなのに……」


 ……確かに、ウルくんは前から魔法に憧れ、ずっと使ってみたいと言っていた。でも、もうすでに初級のいくつかの魔法は扱えるはずなのに、どうしておじさんの魔法にそこまで……?


「……苦しいのは、当たり前なんだ。お父さんの魔法は難しいし、1日や2日ぐらいじゃ絶対できない……毎日必死にやらないと、できないんだ。」

「そ、それはそうだけど…………でも、それで体を壊したら……!」


 ……分からない。何でウルくんはここまで…………










「……諦めたくないんだ、僕は。」


 ウルくんはそう言って、再び手を突き出す。


「多分今やめても、毎日続ければいつかお父さんの魔法は覚えられると思う…………でも、限界で逃げたら、いつまでも同じままなんだ。」

「同じ……?」

「……実は僕、夢があるんだ。色んな魔法を使えるようになって強くなって、この広い世界を旅してみたいんだ。」

「……旅、に?」


 ……初めて聞いた。ウルくんにそんな夢があったなんて…………


「うん、そのためにも僕はお父さんの魔法を覚えたいんだ。それ以外にも剣とかもっと難しい魔法とか……とにかく、僕は少しでも早く強くなりたい。だから……やめたくないんだ。」

「ウ、ウルくん…………」

「……ラナは、夢とかないの?」


(…………夢……そんなの、考えたことないなぁ……)



 ……私には、特に夢なんてない。だって今の暮らしは楽しいし、私はお父さんお母さん……ウルくんと一緒に毎日過ごせるだけで満足だから、夢なんて…………



「……わかんない。魔法だって、ちょっと使えたらそれでいいし、強くなりたいとも思わないから……私はウルくんみたいに頑張れないし………」







「……ラナって、意外とへなへなしてるね。」

「へ、へなへな……?」

「うん、よく泣いちゃうし……いつか僕が旅に出たら、また泣いちゃったりするの?」

「そ……そんなことないもん! ウルくんが旅に行っても泣いたりなんか絶対しない!!」

「えぇー本当かなぁ?」


 ウルくんは面白がっているのか、ニヤニヤとしながら顔を寄せてくる。


 そんなウルくんの表情に私は納得できず、つい自信満々に言ってしまう。



「だ、だったら……私の夢は『泣き虫を治す』!!! どんなことがあっても絶対泣かないんだ!!」





  


「……やっぱり自分でも思ってたんだ。」

「む、むぅ………と、とにかく! 治すったら治す、ウルくんも協力してよねっ!」

「協力……? 何をするの?」

「え、えぇっと……ほっぺたをつねる、とか?」

「……ははっ、そんなのでいいの?」

「そ、そんなのって、私にとっては一番のしれん? なんだから!!」
























ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




























(……………………夢。)





 小さくて、幼くて、情けなくて、弱い………………そんな、夢。




「わ、たぁ……し、は………」




 体の悲鳴を無視しながら、手のひらを地面に付ける。



「あきら、め………ない…!!」

「……おいおい、逞しすぎんだろ。」


 力を振り絞り……私は立ち上がる。そして魔法を放つ準備をする。


(……視界は良くない………体も不安定………それでも!!)


 ここで終わってしまったら、学院のみんながこの人にやられてしまう。せめて、残っている教師の誰かが応援に来るまでは……耐えるんだ!!



「……仕方ない……そこまでくたばりたくないなら、『コレ』で終わらせてやる。」

(………大きい……炎………)


 赤仮面はそう言いながら、今まで見たことのないほどに大きく、そして熱く燃え盛る炎の塊を作り出した。


「知ってるか? これは破壊級の魔法だ。位で言うなら上、最上、超、超越……そのまた上の、お前みたいな子供が生身で受けたらまず死ぬくらいの代物だ。」

「……そん、なの……効か、ない………!」

「……この死にたがりが。そんなに命が惜しくないんだったら…………望み通り消し炭にしてやるよ!」



 熱さに目を煽られながらも…膝は付かせない。





『……諦めたくないんだ、僕は。』





 ふらふらで、今にも崩れそうな体を……心で支える。







『ウルくん、頑張って!』






 潰れそうな精神を…………思い出で立ち上がらせる。





「還ろ、『紅蓮(ぐれん)(ほのお)』」




 炎が、私を(ちり)にしようと向かってくる。




「あきら、め……ない!!!」




(私は、夢を……ウルくんの、夢を………!!)





「ぜっ、たいぃっ……!!!!!!!」














































「ブッ飛べ。」




 
















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

















 腕を振り払い、俺は紅蓮の焔を消し去る。


「……はぁ!? 今何が……!?」

(……仮面が赤い? さっきの奴らとは違うのか……?)



 …………いや、そんなことはどうでもいい。



「うぅ………あぁ………」

「……ラナ…………!?」


 満身創痍で今にも倒れそうなラナを、入り口にいた俺はすかさず抱えに高速で側に近寄る。

 

「大丈夫か、ラナ……!」

「……うぅ………」


 ラナの体を腕に抱え声をかけるが……彼女は辛そうに呻き声を上げるばかりで、言葉は返ってこない。

 ラナの体は何かに焼かれたのかかなりボロボロで、肌も焼き爛れてとても痛ましい姿と変わり果てていた。


「…………誰だ、お前。俺の破壊級魔法をどうやって……」








(うるせ)ぇよ。」

 


「っ……消えっ、なっ?」



 転移でラナを入り口付近に寝かせておき、また転移で元の位置に戻る。


「……お前がリーダーか?」

「リーダー? ……なんだ、あいつらが(のが)したのか。まあ見たところ普通じゃなさそうだが、俺の破壊級魔法を吹き飛ばしたのは少しお……」

「お前の御託(ごたく)なんか聞いてないんだよ。答えろ、お前がリーダーなのか?」


 (はらわた)が煮え繰り返り、今にもその薄っぺらい仮面をぶっ潰したい気分だが…………それを何とか噛み殺しながら、情報を引き出そうと質問を繰り返す。



「……なんだ? お仲間がやられてキレてるのか?」

「ああそうだよ、今すぐにでもお前を地獄に叩き落としたいぐらいには沸いてるよ……いいから答えろ。お前がリーダーなのか!?」

「おぉおぉ、そりゃ怖いこった。」


 …………答える気は、ないか。













「……お前が神眼使いか。」

「…………ほう。知ってるのか、神界魔法を……まあ、これは俺のじゃないけどな。」

(……なら、こいつはリーダーじゃないか。)


 神眼で覗くが、さっきのように反応は無かった。それに対しての俺の呟きに何故か赤仮面(クソ野郎)が勝手に答えてくれた。


(…………もう、いいだろ。)





「…………で、何だ? そろそろやり合うか?」

「……言われるまでもない。」


 俺は空へと浮かび上がり、奴を見下ろす。


「おっ、飛べるのか………なら俺も。」


 すると、真似をするように奴も飛び上がり……同じ高さまで並んできた。

 赤仮面は変わらずへらへらとした様子で俺に話しかけてくる。


「なんか勘違いしてるようだが……破壊級を攻略できるからって調子に乗ってたら痛い目見るぞ? 俺に勝つつもりなら、せめて神威級魔法……つまり、英雄でも連れてこないと…………」

「…………()()()()なんだな。」

「…………今、なんつった?」


 俺の煽りに、赤仮面は初めて声色を変えた。


「……どいつもこいつも死にたがりってか…………なら、さっきの馬鹿もろともぶっ殺してやるよ!」


 そう言って、赤仮面は紅蓮の焔をいくつも作り出し始めた。その数………いや、数なんて()()()()()()か。


(……俺の姿は見る必要もない、ってか。)


「逃げるか? まあここまで来たら逃さねぇけどな!!」

「……………」


 赤仮面がそう叫ぶ中、俺は手を手刀の形に変え焔の奥にいる奴へと狙いをつける。


「喰らえ、紅蓮のほ………………!!」



















「無駄だ。」


『スウァフルラーメの呪剣』



「………あ、なん……だ、これ…………?」


 赤仮面がそうポツリと呟く。

 そんな奴の腹には紫色の剣の形をした闇が魔力防壁を貫通して突き刺さっており…………(りき)が緩んだのか炎の塊たちは勝手に消え去っていった。


「な……何故…………俺が、これに………?」

「分かんないか、なぁ?」


 串刺しの赤仮面は何が起こったか分かっていなかったようなので、俺は自分の腕をチョンチョンと指をさしてやった。


「これだよ、これ。痛いだろ?」

「は……どうなって……がはぁっ……!!」


 俺は剣を斜めに傾けて滑らせ、赤仮面をこちらに引き寄せてからその表情のかけらもない仮面を鷲掴みする。


「硬いな、おまけに顔に張り付いてるみたいだ……接着剤でも付けてるのか?」

「がぁぁっ……はな、せっ…………化け、物っ!!」

「離す……? そんなことするわけないだろ、馬鹿なのか?」


 怒りのままに、俺は宙ぶらりんなこいつの仮面を掴んでいる手に力を入れる。

 付けてある仮面は見た目からはあり得ないほどの強度だったが……俺の力の前じゃちょっと硬い石程度だったので、すぐにヒビが入っていった。


「言え、目的を。何でこの学院を襲撃した? 何の視察だ? 何で学生たちを襲った? 何の理由で人を傷つけた?」

「……く、くくっ……言えるわけ、ないだろ……?」

「…………良く笑えるな、こんな痛みで。」


 ある種の感嘆もありながら、俺は剣の方を軽く動かしてやる。しかし赤仮面はあくまで余裕を持ちながら言葉を綴り出して喋ってくる。


「ああ……笑えるさ。お前ら学生、みたいに……甘えた勝負や、特訓ばっかり………してる、わけじゃ……ないからな。」

「甘えた………?」





『私は、昔からまともに魔法を使えなかった……そのせいで、沢山の人を傷つけてしまった。』



『私は、人を傷つける…私が、傷つけたくなくても…そうなる……から、私は…わたし、はっ……!』








「そうさ……結局、強くなるだの……言って、死ぬ覚悟もない……ガキどもの……!」

「………………






















 …………………………ァァ?」




 突き刺した魔力の剣を横に振り、溝を作ってやりながら地面へと叩き落とした。



「あガァぁァッ!!!!?」

「……………煩ぇっつってんだろ。」

「げぉぉっ……!?」


 

 赤仮面の叫びが響く中、俺は急降下して体を踏みつけてやる。するとまたもや叫び声が上がるが、無視して呪剣で首元を撫でてやった。


「破壊級を使えるお前ならそれくらい、どうせ治せるんだろ? 」

「………………」

「…………何でもいいが、とにかくお前たちは全員投降してもらう。話はそこでじっくり聞かせろ、いいな?」


 …………流石に気を失ったか……?







「……………………時間切れだ。」



 途端、赤仮面はそんな言葉を呟き出した。


「思わぬ『副産物』だが……これも、一種の、()()………か。」

「……何の話だ。」

「さぁな……()()()()()()。」

「何っ……転移……!!?」



 瞬間、赤仮面は姿を消してしまった。


(あの体で俺に気づかれず、どうやって…………!?)



「……なっ、まさか…………?」


 嫌な予感が体に走り、俺は辺りの魔力反応を感知する。


 すると、さっきまで感じた謎の空間の違和感は無くなっていたが…………それと同時に、さっき眠らせた仮面たちの反応も何故か消え去っていた。


(他に仲間がいたのか……いや、そんなことができる奴がいたのなら、どうして反応のかけらも……)




「………う、うぅ………」

「………!」


 呻き声が、俺の耳に届く。

 その声の主はもちろんラナであり……彼女は出口で倒れ込みながらも、うなされるように体を小さく動かしていた。


「…………『超回復』」


 とりあえず俺は最低限の処置として、側に寄って手を合わせ、回復魔法を彼女にかけた。

 その魔法がかかった瞬間、ラナの体は光始め火傷を修復し始める。


(……やられたばかりだ、急いで回復したら体力的にもきついだろう……)


 基本的に傷を治す場合の回復魔法は相手の体力も少し消費する。なので、あまり強力な回復魔法を使ってしまえばかえって逆効果になってしまう。


(……何故、ここまで…………)


 見たところ、あちこちに戦った形跡がある。彼女なりに抵抗したのだろうが……ラナの力じゃあの赤仮面には何もできないはず…………


「……う、うぁ………?」

(……大分回復できたな。)


 しばらくしてラナの火傷跡などもほぼ回復し、意識が少しはっきりとしてきたようだった。

 ラナはぼんやりとした眼で俺の手をじっと見つめ、やがてこちらへと視線を向けてきた。



「だ……誰………?」

「……安心しろ、敵じゃない。」

(……気づいていないな。)


 ……まさか、ここで俺のコートを裏返す変装が役に立つとは思わなかったが…………おかけでバレずに済む。

 

 大体回復した様子を見て、俺は回復魔法を解除する。あまり長居すると他の誰かが来てしまうか…………

















「…………ウル……くん?」





 怒ったら怖いですね。


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