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二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す   作者: SO/N
七章 蒼色と金色 (仮面編)

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七十三話 無駄に




『夜……ですか? 何故そんな……?』

『いいから来てくれ、お前に聞きたいことがあるんだ。』

『……今じゃ駄目なんですか?』

『ああ……今じゃ駄目だ、()()()()な。』




「………………」


 昨日、学院長と話をした時よりも更に深い夜……俺は1人、訓練場に向かっていた。



(一体、何を考えているのか…………)





「……来たか、待ちくたびれたぞ。」


 訓練場に入ると、ミカヅキが既に舞台の真ん中に佇んでいた。

 辺りは月明かりに照らされ、その姿も遠くからでは影の形しか見ることはできなかったが……何やら普通ではない雰囲気を漂わせていた。


「……それで、何の用ですか?」

「ああ……まあ、そうだな。今日の試合、君はどう思った?」

(……誤魔化したな。)


 全くこの人の意図が分からないが…ここは乗るしかないか。


「どう、とは? 感想とかですか?」

「……そんなところだ。」

「そうですね……ミカヅキさんの剣技が想像以上だったので、接近戦は強気に出れなかったのが反省点ですかね。ジェットも結局逃げにしか使えなかったし、もっと攻めていけば良かったと思います。」


 適当にそれっぽいことを言いながら舞台へと上がり、彼女の意図を考える。


(……これは探りなのか時間稼ぎなのか……いや、ただの学生に何の時間を稼ぐのか微塵も見当が付かない。だとすれば探りなのは分かるが…………)


 ……何の探りか。俺に探られて不味い物は数えられないほどあるが、あるとすれば…………


「後は……最後に滑ったやつですね。あれは恥ずかしかったですよ、何せ観客もいたものですし見せ様もいいと……」

「随分割り切っているんだな、とても歳下とは思えないよ。」



 …………来たか?



「……何が言いたいんですか。」

「そのままだ。人っていう生き物は他人(ひと)が見てる以上に不器用なんだ、それが自分自身であっても。」

「……説教か何かですか?」


 ふざけた文言に、ミカヅキは微塵も反応を示さなかった。


「……ウルス、『お前』は()()すぎる。今日の勝負で君が攻撃を受けた時、予定調和のような……動揺が見られなかった。まるで負けることが分かっていたかのように。」

「…勝てるとは思ってませんでしたから。何せミカヅキさんは上位(スプリア)……」






「違う、『勝ってはいけない』……だろ?」

「……………根拠は?」


 ……今のうちに言い訳でも考えよう。


「戦ってる最中に()何度も違和感を感じた。勘に近いものだが、結果的に私は自分の力で勝った気がしなかったんだ。最善手より最適解……勝ちより有利…………」

「そんな曖昧な話は聞いてませんよ。確信もないのに何を理由に俺に有りもしない実力を疑って…………」

「確信なら、ある。」



 ミカヅキは俺へと近づき、顔を覗き込んできた。






 見えてきたその顔は、昼と同じ疑問、疑惑…………そして、()()の色を含んでいた。




「……夏の大会の予選、次席との試合に見た……最後の場面でのお前の顔。私にはあの時だけ、お前が本気で驚いた顔に思えた。」

「っ…………!」

「いや、驚いたというより……虚を疲れたというべきか。あの時の顔と比べたらどうも今日の戦いでのお前は腑に落ちなかったんだ。」




『……私の勝ちだね。』




『立てる?』









『ふふっ、それは……………』












「…………凄いですね、ミカヅキさんは。」


 顔を取り繕いながら俺は後退し、流れを誘導する。



(……おそらく彼女は、『俺が手を抜いていたのでは』……そう言いたいのだろう。そして、それはもう彼女の中で確定しており、覆せる物ではない。)


 なら、最低限…………納得しやすい理由をつける必要がある。そこで俺が出してもいい『物』は………



「確かにミカヅキさんの言う通り、俺は『ある武器』を使えばあなたに勝つことができます。ですがその武器は強力で、普段から使用していると目立ってしまう……色々あって目立ちたくないんですよ。」

「……ある武器? ならその黒い剣はお前の本武器ではないのか?」

「そうですね、片手剣は()()()()()使()()()()()シュヴァルツ(これ)は本武器ではありません。」

『ボックス』


 俺はボックスを発動し、シュヴァルツを中へと収納する。



『……だから仮の武器を使うってこと?』

『そうだ、これからは学院に通うことになるはずだ。そこで神器なんて振り回していたらかなり目立つ。一先今はアステールはボックスにしまっていてくれ。』

『わ、分かった。』



(……人に言っておいて、こうなるとはな…………)


 俺はボックスの中にある自分の……『神器』を取り出した。


「……これが、俺の本当の武器『アビス』です。」

「…………? それが……武器、()()()?」


 俺の神器を見た瞬間、ミカヅキは全く意味が分からんと言わんばかりに首を傾げた……まあ、そう疑いたがる気持ちは分かるがな。


「武器ですよ、それもかなり上等な代物です。」

「は、はぁ……確かにいい素材で作られてると思うが…………()()()()にしか見えないぞ?」

「まあ、()ですからね。」


 ミカヅキの言う通り、俺の神器は片手剣でも短剣でも斧でもない……前世でいうバスケットボールぐらいの大きさをした、金属の球だ。

 ミカヅキは未だ疑っているのか、動揺しながら話し出す。


「まさか……それを投げて戦うのか?」

「………まあ、()()()()()()()()ですね。それで、どうします?」


 俺はアビスを指で回しながら、ミカヅキに問う。


「わざわざこんな所に呼んだんです、俺の()()を知りたいんでしょう?」


(……おそらくこれが神器だとは思っていないはず。これ以上疑われないためにも、ここは……彼女の欲を満たし、深読みさせない。)


 『違う武器を使っていた、だから俺は負けていた』……よくよく考えたらおかしな話だが、少なくとも今のミカヅキに気づく余地もないだろう。


「……ああ、その通りだ。ここに呼んだのは、本気のお前とやり合いたかったからだ。この時間なら誰も来ないだろうし、お前も十分暴れられるだろう?」


 ミカヅキはそう言って剣を抜き、俺を見据える。


「お前の本気、見せてもらおう。」

「いいですよ……ルールは昼と同じ、今度はミカヅキさんの合図でどうぞ。」

「分かった。」


 俺はミカヅキに対して体を横に向け、その後ろにアビスを回して見えないように隠す。

 それを見たミカヅキはまたもや怪訝そうにしていたが、すぐに構えを取った。


「……行くぞ、3、2……」





(……この人は、確かに強い。だが、昼に見せた力……あれが本気なのだろうか。)



 彼女に手を抜く理由なんてない、もちろん本気でやっていたはず……なのに、何故かこんな疑問が浮かんでくる。


 何なんだ、この違和感は………


 

(……まあ、いい。)



「1…………開始っ!!」



 始まった瞬間、ミカヅキは剣を持って急接近してくる。昼の俺の真似だろうか。



「……言い忘れてましたが、俺の武器は魔法武器です。」

「魔法………?」


 アビスを()()させ、ミカヅキが間合いに入ってくるまで待機する。


「まあ……魔法と言っても、ビームが出たり能力を上げたりする物じゃありません。」

「……小言が多いな。そんなにお話するのが好きだったのか、お前は?」

「『嫌い』ですよ、だから…………」


 ()()()に入ったミカヅキに、俺は振るう。


「さっさと終わらせます。」






「………は、えっ……?」


 ミカヅキが俺の神器を見た瞬間、彼女の表情は大きく崩れた。そしてあまりの驚きだったのか、そのまま俺の攻撃を喰らい……吹き飛んだ。


「がぁっ!? ……な、何が起こっ……?」

「見たまんまですよ、俺の武器の攻撃を受けた……それだけです。」

「お、お前の武器は黒い球じゃ……?」

「そうですよ、でもこの武器……アビスの『魔法』で形を変えられるんですよ、こんな風に。」


 俺は再び魔法を発動し、アビスを()()から()()へと変化させた。

 そして大剣を両手に持ち替え、下段に構える。


「……自由に形を変え、(あら)ゆる武器へと成ることができる武器……というところか?」

「正解です……まあ、何でもってわけではありませんが。」


 いくら色んな武器になるとはいえ、長さや大きさには限度がある……そこまで教えてやるつもりはないが。


「来ないんですか?」

「……言われなくても!!」


 そう言ってミカヅキは再び攻め上がり、俺に剣を振おうとしてくる。

 それに対して俺は、大剣を下から斬り上げてミカヅキの剣を弾こうとしたが……それを読んでいたのかギリギリで軌道をずらされ、そのまま狙ってくる。


「甘い!」

「甘いのはそっちですよ。」

「何を……っ!!?」


 だが、俺は即座に大剣状のアビスの剣身を更に太くし、無理矢理ミカヅキの剣と鍔迫り合いへと持ち込んだ。


「ど、どうなって……しかし、下からでは力は……!」

「なら、()()()だけです。」

「っ、また……!?」


 何かをされる前に、俺は今度はサーベルへと変化させて片手に持ち替えた。

 そして掴む部分を(つか)から半円の(つば)へと逆手で持ち替え、一気に内側へと回転させた。


「うぅ!?」


 その結果、彼女の剣はサーベルの剣身を勢いよく滑りながら地面へと大きく突き刺さった。


「ど、どうな……っ!!??」

「ぶっ……飛べっ!!」

「がぁっ!!?」


 隙だらけなミカヅキに、俺は大槌で上空へと大きく吹き飛ばした。


『ジェット』

「ぐっ……『水紋』!!」


 俺も習って空へと飛び上がり、上を取った瞬間にミカヅキが魔法を放ってきた。


(……昼の戦いから、水紋なら何とかなると考えたのだろう。咄嗟にしては良い判断だが…………)


「効きませんよ。」

「……た、『盾』……まで……!?」


 アビスを盾へと変化させ、3枚の皿を全て受け止め切る。

 そして、空中で無防備なミカヅキ目掛けて、俺はジェットで急降下していく。


「はぁぁっ!!!」

「ぐっ、ぐはぁっ……!!」


 スピードの乗った飛び蹴りを喰らわせ、ミカヅキを地面へと叩きつける。その威力はかなりの物で、地面へと激突した衝撃でこの訓練場を大きく揺らし……震撼(しんかん)させた。


(…………こんなものか。)


 舞っていく砂埃の中、俺はミカヅキに乗せていた足を退けて話しかける。


「……どうやら、ギリギリのところで魔力防壁は壊れていないようですね……さすが上級生。」

「ぐっ、うぅ……嘘、つけ。思ってもない、ことを……」


 余裕な俺の姿を見て苛立ったのか……それとも衝撃が体まで走ってきたのか、苦しそうにミカヅキはその黒い眼で睨みつけながら言い返してくる。

 そんな彼女に俺はアビスを片手剣に変化させ、剣先を額に向けた。


「これで満足しましたか、俺の力は?」

「ま、まだ……終わってない……!」

「これ以上、あなたにできることはありませんよ。この武器がある限り、ミカヅキさんが俺に勝つことは不可能です……降参してください。」


 彼女の探偵ごっこやらには十分付き合った。おそらく彼女はもっとやれるとでも思っていたのだろうが…………勝とうと思えば、例えアビスを使わなくともこれくらいはできる。


「こう、さん……? ……そんなもの、するわけ、ないだ……ろう……!」

「……諦めないのは良いことですが、これはただの()()です。別に負けても俺はあなたにジェットは教えますし、無理をすれば明日に響く…………」

「…………そうやって、()()()()()?」



 ……………………。



「……逃げる? 何から逃げるんですか?」

「『本当は勝てる、でも目立ちたくないからあえて負けてやる』……充分逃げてるだろう。」

「…………意味が分かりません。勝てる勝負で負けたからって、逃げたことになるの………」

「逃げてるんだ、それは。『勝ち』から得られる名誉、実績…………そして、()()から。」

「……………」





『……あまり悔しくなさそうだな?』

『……まあ、勝てるとは思ってなかったので。』

『そうか…勝つ気が無かったんじゃなくて、か?』




『……守りたいからだ。』

『守、る……?』

『自分が守ると決めたものを絶対に守り抜く…………そのために、俺は強くなりたいんだ。』




『……ああ、分かったよ。もし当たったらボコボコにしてやる。』

『……約束、だよ。』










『いやぁ綺麗な人でしたっすね、しかも雰囲気より話しやすかったっすし……まあちょっとアレっすけど。』

『………アレ?』

『えっと、なんて言うか………期待外れ…みたいなのを、あの人から感じたっすね。なんとなくっすけど。』






「1年の次席の……ライナだったか。この実力の高さ、本来なら彼女に勝つこともできたはず……なのに、お前は勝とうとせず、程々に善戦して逃げた。『目立ちたくない』からな。」


 ミカヅキは(おど)ように笑い、挑発してくる。



(…………何が………!)



 その()()に整った顔を睨みつけ、俺はアビスを握る力を強める。


「……なら、そんな逃げまくっている人間にあっさり負けているあなたには、どこにも逃げ道なんてないですよね。」

「……逃げるつもりもないからな。」

「ただ勝ちたいってことですか? お気楽でいいですね。」


 言いたくもない言葉が、口からどんどん溢れてくる。


「あなたはまだ強くない。だから、強くなった『先』のことを考えられない、考えているつもりでもそれは分からない故での発想……わがままみたいなものです。」

「……わがままだと?」

「ああ、俺の強さを棚に上げて言いたい放題してくれましたが…………あなたはどうなんです?」


 剣先で倒れたままのミカヅキの魔力防壁を突く。


「『先の景色を見たい』……その気持ちは否定しません。誰だって強くはなりたい、そのために人と戦い、奪い……力を付ける。俺()、それを間違いだとは言いません。けど……()()()()()()()()()()?」

「っ…………!」

「強くなって、見えてくる物もある。でも、見えた景色が必ずしも良い物だなんて誰も証明できない……保証、できない。」



 …………むしろ、盲目にしかならない。




「その程度の強さで、全て解ったような口を……しないでください。俺如きの言葉で揺れるような…………甘ったれた心で。」

「………………甘っ、たれた………?」



 俺の罵声に、ミカヅキは目を揺らす。


「努力は反比例する、気付かなくなる……自分が頑張ってると思い込んで、周りを置き去りに……!」

「……私は…………!」

「……!?」


 俺の手が揺れた瞬間……ミカヅキはその隙を縫って転がって距離を取り、立ち上がろうとしていた。





「私は……見る。例え…………弱くても……力が足りなくても…………!!!」

「……あくまで、諦めないと。」

「諦め、ない……私は……………


















 …………諦めないっ!!!!!」




 口が悪い男です……まあ、人のことを言える立場でもありませんが。


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