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二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す   作者: SO/N
七章 蒼色と金色 (仮面編)

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七十一話 摩る




 ルリア=ミカヅキに勝負を約束した日の夜。俺はローナと別れてから1人で訓練場に来ていた。


(…………これでいいか。)


 俺は神眼を発動し、この場所から放たれる魔力の反応を消し去った。


「『フレイムアーマー』」


 そう唱えると、あっさりと腕に炎が纏われていった。やはりイメージもしやすく仕組みが簡単な魔法なら、真似るのも手間がかからないな。


 続いて足にも炎を纏わせ、軽く体を動かしてみる。


「…………これは、中々いいな。」


 思ったよりも魔力消費は少ない、なのに動きのパフォーマンスはそこそこ高まっている……見た目の割に随分使い勝手が良いな。


『ジェット』

「……問題ないな。」


 続いてジェットも同時に発動させ、再び調子を確かめてみる。


(…………まあ、流石にここまではしないつもりだが。その内やってみるのもありだな。)


 ジェットをやるのでさえ目立つというのに、フレイムアーマーまで同時発動してしまえば今以上に目を付けられてしまう。今回は俺の好奇心で勝負はするが……いい加減大人しくして……………





「…………?」



 不意に、近くから魔力反応……人の気配を感じた。それも、とてつもない魔力量と質を持った者……


(……こんな力を持つ者は、ここに1人しかいないな。)






「…………()()にいたか、ウルス。」

「……学院長、こんばんは。」


 入り口からそんな低い声と共に、学院長……もとい、英雄の1人でもあるガラルス=ハートがやって来た。

 

 彼は試験の時とは変わらず、若草色の長いマントに深緑のズボンと茶色の服を着て、薄い緑の色素が混ざった黒髪をした男だった。


「こんな時間に特訓か、熱心なものだ。」

「……まあ、明日は授業もないので。」


 適当に返事をしながら、魔法を解除して地面に降り立つ。


「ははっ、普通は休むだろうに……この学院の授業じゃしごき足りないか?」

「いや……別にそういうわけではないです。ただやれることをやっている、それだけです。」

「……なるほど。」


 俺の言葉に、学院長は頷く。



(…………やはり、英雄か。)


 彼から放たれる魔力……それは、他の追随を許さない絶対的な物であり、師匠……グラン=ローレスとはまた違った力強さを感じさせていた。


「…………それで、何故学院長はここに? まさか『散歩』だなんて()()()()()よね。」

「おおっ……随分と喧嘩腰だな。もしかして邪魔をしてしまったか?」

「邪魔も何も……あなたは()()()()()()()()()()()()?」


 学院長は最初に『ここにいたか』と言っていた。普通、偶然に会ったのならそんな言い方になるわけがない。


「何を考えているのかは知りませんが……俺はただの学院生ですので、その学院長と話せるようなことはありませんよ。」


(……彼は英雄。敵意を向けてくるようなことはないと思うし、向けられるようなこともしてないが…………万が一のことがあれば、ここには……………)













「…………がっはっは!!!」

「…………?」


 俺の考えとは裏腹に、学院長は豪快に笑い始めた。

 そして、俺の目を真っ直ぐに見ながら話し始めた。


「流石、グランさんの弟子……いや、世界最強の人間なだけある。用心深さも人並み以上だな!」

「…………俺が何者か知っているんですか。」

「ああ……といっても、知ったのは今日だがな。」


 …………今日?


「初めてお前と戦った時のことを覚えてるか?」

「……はい、俺が負けた試験のやつですよね。」


 確か、あれは俺が一撃だけダメージを与えてそのまま舞台落ちした試合だったか。


「その時のお前の構えが印象的でな……グランさんの構えと全く同じだった。」



『…………ほう……』

『……どうしました?』

『いや……構えが()()()()()に似てるなって。』




「試験の時は似てるだけだと流していたが、最近お前さんの噂が学院内で流れてきたんだ。『魔法で空を飛ぶやつがいる』と。」

「……そこまで噂になってましたか。」


 ……やはり、ラナの時にジェットを使ったのはやりすぎたか。


「まあな、魔法使いにとって空を飛ぶことは一種のゴールみたいな物だしな……だが、儂が気になったのは空を飛べることそれ自体ではない。」

「……では、どうして?」

「そうだな……まあ、試験の時に感じた違和感というか何というか…………要は『痛み』だな。」

「痛み?」


 全く想定していなワードに、俺は首を傾げる。


「試験の時、お前さんは勢いのまま壁にぶつかっていったただろ?」

「そうですね……あの時は正直勝つつもりなんて無かったので、あれが1番いい終わり方だと思ったんです。」

「確かに、英雄の儂に自爆覚悟で攻撃し制御しきれず負け…………側から、いや儂から見ても何の不思議もない負け方だった。勝つ気は元から感じられなかったが、それも英雄に対する諦めかとあの時は思ってたが……よくよく考えるとおかしいところが1つあった。」


(おかしいところ……痛み………)




『お前さん、大丈夫か?』

『……はい、大丈夫です。』



 …………そういうことか。


「『あんな勢いで壁にぶつかったのに、平然としてた』……そんな感じですか?」

「ご名答……普通の人間ならあの状況は痛がるもんだ。しかしあの時のお前は明らかに冷静すぎた……まるで、()()()()()()()()()()。」




 …………………。





「その違和感と空を飛ぶ魔法……極め付けに、構え方。もしやと思って今日、グランさんに話をしにいったら……見事当たったってわけだ。」


 学院長はしてやったりと言わんばかりに、俺に向かって軽く指を刺した。それに対して俺は降参と言わんばかりに息を吐き、口を開く。


「……なら、隠す必要もないですね。ちなみに師匠……グランさんはなんて言ってましたか?」

「『おっ、気づいたか! どうだ、俺の弟子たちは強かろう!!』……って。」

(……少しくらいは隠し通してほしかったが………)


 ……まあ、あの人はそういうタイプか。


「……それで、何か用があるんですよね? わざわざこんな時間に来るなんて、聞きたいことでも?」

「ああ、そうだった。すっかり本題を忘れてたな…………もう遅いし、取り敢えず1つだけ。」



 学院長は俺に一歩近づき…………聞いてきた。




「神界魔法……今まで誰も習得することができなかった、伝説の魔法…………どうやって覚えたんだ?」

「………………」




 …………どうやって………か。



「…………あなたは、神界魔法を覚えたいのですか?」

「ああ、覚えたいな。仮にも儂は英雄、この歳になっても新しい力を得たいんだ。」

「……ちなみに、神界魔法のことはどこまで知ってますか。」

「魔法のこと? ……いや、ほとんど知らないな。そもそも今日まで存在自体疑わしいと思っていたし、とんでもない力を持っていることしか分からん。」


 ……この感じ、本当に知らないようだ。


「それで、どうなんだ? 人によってできないとかならばあれだが…………」

「……いえ、おそらく英雄クラスのステータスがあれば覚えることは可能だと思います。」

「ほう、ならその方法を…………」

(………………)










「…………学院長、あなたにとって大切な人は居ますか?」

「……? 急に何を……?」

「答えてください……居るのか、居ないのか。」




 俺は、後ろに一歩下がった。



「…………それは、もちろん。儂にも家族がいるし、学院生のことも大切だ……………だが、それと神界魔法に何の関係が?」

「…………なら、()()です。」

「………どういうことだ?」


 

 全く解らないと、学院長は困り顔をする。そんな学院長に俺は諭すように告げた。



「神界魔法は、特別な魔法です。普通の魔法のようにただ特訓しても習得することは一生不可能です。正直なところ、俺が神界魔法を覚えられたのはたまたま……というより、『賭け』でした。」

「賭け? ……一体何をしたんだ?」

「……それは…………」










『……これは、俺が強くなっ、て……守るため……だ、だから………』


『で…でも、そんなの……嫌です………そんな、傷つくのは………!!』


『心配、は……必要ないっ、少し耐えて、回復すれば……何の問題も……』


『だめ……だめっ!! いやだぁ、こんなことしてまで、強くなんて………守って欲しくなんかないっ!!!』









「…………言えません。言えたとしても、あなたにそれはできません。」

「……それは、覚悟の問題なのか?」

「いや…………そんな立派な物じゃ、ない……です。」


 取り繕いながら、俺は出口へと向かった。


「……とにかく、あなたには神界魔法は使えません。諦めてください。」

「……まあ、よく解らんが…………世界最強のお前がそういうならやめておこう。どうやら危険そうだしな。」



 思ったよりもあっさりとした様子で、学院長はそう言った。元からそこまで期待はしてなかったのだろうか。



「……今日は、もう寝ます。」

「そうか、ならまた今度話でも聞かせてもらおう。」

「はい…………では。」


 俺は振り返って軽く頭を下げ、訓練場を抜けて自身の部屋へと向かった。




「…………………」



 体をさする。






(……………間違い……そう、間違いなんだ……あの方法は。)






 何事も慣れてしまえば、分からなくなるものです。


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