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二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す   作者: SO/N
六章 仮様 (夏の大会編)

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六十三話 ランダム

 



「……そういうことでしたか。だから入ってきた時に教室が騒がしかったと。」

「カリストかぁ…面倒な奴だぞ、あいつは。」


 授業も終わり時間が経った夜頃、俺はニイダとカーズとソーラの4人で食堂で食べていた。そして、休憩時間の出来事を知らないカーズとソーラにニイダが勝手に話をすると、2人がそう言ってきた。


「面倒?」

「ああ……俺たちは一応貴族だし、その繋がりで昔からカリストのことは知ってるが……どんな場でも態度はでかいし、やたらと人に突っかかったりしてくるんだ。」

「でも、カリストさんの家系はそこそこの身分です。なので下手に口出しもできないもので……おまけに、実力は確かです。だから、誰も刃向かったりはできないんです。」

「……そういうことだったのか。」


 ……どうやら、あの感じからしてカリストは自分の力を疑わない正直な奴…………だが、それが悪い方向に育っていったってところだろうか。


「そんなカリストさんに目を付けられるなんて……ウルスさん、大丈夫ですか?」

「それこそ、この大会で偶然当たって負けたりしたらしばらくは付き纏わられるぞ……もしそうなったら相談してくれ、力になるぞ!」

「それはありがたいが……そう偶然はないだろう。そこまで心配してくれなくてもいい。」


 ……最悪、『どうとでもなる』しな………まあ、流石にそこまでのことにはならないと思うが。


「まあまあ、そんな話は置いといて……問題は大会っすよ!」

(……お前が始めたんだろ。)


 心の中でそうツッコんでおく。本当にこいつは自由だな……



「大会なぁ……俺は魔法苦手だし、不利かもなー」

「そんなことはないと思いますよ。大会は魔法だけ…なんて決まりはないですし。」

「そっすね、いざっとなったらソーラさんは全部接近戦でやっちゃえばいいんじゃないっすか?」

「それも手だが……そんなもので勝てるか?」

「……相手にもよるんじゃないか?」


 この学院の生徒は数も多い。全員が全員習っている魔法をできるわけでもないだろうし、戦い方も相手によって変えなければならない。


(……一応、行っておくか。)












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー












「………あ。」


 みんなで飯を食べた後、俺はある準備の為に一度自分の部屋へと向かっていた。

 その道の途中……不意に、そんな声が聞こえた。その聞こえてきた方向を見てみると…フィーリィアがトコトコとこちらに向かってきていた。


「フィーリィアか……今から食べに行くのか?」

「うん…ウルスはもう食べたの?」

「ああ、部屋に戻るところだ。それじゃ……」


 今は特に用事も無いのでそのまま去ろうとしたが……何故かフィーリィアにコートの袖を引っ張られた。振り返ると、そこには口をほんの少し曲げた彼女の顔が映っていた。


「…………どうした?」

「……ウルスは、腹が立たないの?」

「……何の話だ?」

「……あのク……カリストのこと。」


 ……思ったよりフィーリィアは口が悪いようだ。

 まあ、あの時も結構な雰囲気を醸し出していたし……それほどにカリストの態度は嫌なものだったんだな。


「確かに、良い気分ではなかったが……そこまで気にするほどでもないな。あれくらいで怒っても仕方がない。」

「……そう。」

「……フィーリィアは怒ってるのか?」


 俺がそう聞くと、フィーリィアは珍しく首を何回も縦に振った。


「……そこまで怒ってるのか?」

「…だって、ウルスを…馬鹿にした、から……」


 フィーリィアは不服と言わんばかりに、袖を掴む指に力を入れる。



(……ミルとフィーリィア……この2人は、案外似てるのかもしれないな。)



 自分のためではなく、誰かのために本気で腹を立てる……それをできる人間は、思ったよりいないものだ。




「…………」



 我ながら気持ち悪いが……そう思ってくれることを少し嬉しく感じてしまう…………












 ………だが、それに甘えてしまっては駄目だ。




「……俺のことは気にしなくていい。そんなことにいちいち腹を立てても仕方ないしな。」

「……それはそうだけど……あっ、なら。」


 フィーリィアは急に何かを思いついたかと思ったら……俺の袖から指を離し、不意に顔を近づけてきた。



「ど…どうした急に?」

「…もし、大会でカリストと当たったら……ボコボコにして。それなら、私も気が晴れる。」

「き、気が晴れる……」



 近づけられた顔は相変わらず無表情だったが……その目の奥には、あの時以上の『何か』が(うごめ)いていた。



(……1ヶ月前とは大違いだ。)





 ……案外、これが本来の彼女なのかもしれない。


 それが、『魔力暴走』という障害に囲まれて見えていなかっただけ……もしくはその障害が少し消えた反動なのか、彼女には人並み以上の意志の力を感じる。




 ……しかし、まだ解決はしていない。



「……ああ、分かったよ。もし当たったらボコボコにしてやる。」

「……約束、だよ。」


 俺がそう言うと、フィーリィアは満足したように顔を離し、手を小さく振りながら食堂へと向かって行った。



(…まだ、障害は完全に消え去っていない。)



 まだ、()()()()()だけ。根本的な解決にはなっていない。



 少なくとも、そこまでは…………




(……俺が導かなければ。)


















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー













 フィーリィアと別れ、俺は部屋に戻ってからある場所へと向かっていた。


 その目的の場所の扉を開くと……もう夜も遅いからなのか、いつもは騒音ばかりの現場も静かで、中には炭で汚れたバンダナを巻き、訓練用の剣を作っている男1人しかいなかった。

 その男は俺を姿を見て手を止め、何だなんだと言わんばかりに眉を(ひそ)めていた。


「ガータ、今時間はあるか?」

「……ウルスか、何だこんな夜中に。まさか、今から『打て』なんて言わないよな? ……というか学院の門限はどうした、もうとっくに過ぎてるだろ?」

「抜け出してきただけだ……どうせなら、今頼んでおこうと思ってな。」

「抜け出した……まあ、お前ならバレないんだろうが……思ったより悪ガキだったんだな。」

「……放っておけ。」


 ……旅のせいか、あまり時間を気にして動くのが苦手になってしまってる。

 旅の時は夜中だろうが活動していた……というか、ほとんど寝ていなかったな。()は襲われるような心配もないし………そのうち治しておこう。


「…………で、頼みたいことってなんだ?」

「ああ、それなんだが…………いや、その前に1つ聞いていいか?」

「ん? なんだ?」


 ガータはそう聞き返しながら、今まで止めていた作業を開始する。


 そんなガータに対して俺は、その今打っている()()()()()を取り上げた。


「うおっ!? 何すんだ急に…ってか熱くないのか……?」

「再開した時から気になってたんだが……どうしてお前は()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 俺は打っている途中の剣を手で(もてあそ)ぶ。ちなみにその剣は打たれている途中なので真っ赤に熱されていたので本来なら大火傷だが、そこは魔力防壁が守ってくれていた。もちろん、熱さまではカバーしてくれないので熱いことには変わりないが。




 学院の入学試験の際、俺とミルはこの店で仮の武器を作ってもらった。

 そして俺たちが武器を貰って店を出ようとしたところ、ガータは『()()、頑張れよ』と、言っていた。

 また……今も学院の門限の話など、明らかに俺が学院に通っていることを知っているような口ぶりだった。


「俺は一言も『学院』って言葉はお前に言ったことなかったが……何か隠してるな?」

「………お、おう…そんな詰められると逆に言いづらくなるな……」


 俺がわざと高圧的に責めると、ガータは少し申し訳なさそうに話し始めた。


「…………実は俺、去年ぐらいから鍛治の腕を認められて、学院に武器を提供するようになったんだよ。」

「提供……?」

「ああ、そのお前が持ってる奴もそうだ……ってか、冷めるから早く返してくれ。」


 そう言われ、俺はガータに剣を返す。そしてガータは再びを剣を打ちながら話を続ける。


「……それで、作った武器を定期的に渡しに行ったりしててな。偶々(たまたま)お前たちが来た日に武器を届けようと学院に向かって、ついでに試験場を除いたら……お前たちが居たってわけだ。」

「……そういうことか。どうりでそれと似た様な武器が置いたあったんだな、てっきり何か企んでいるのかと。」

「おいおい、俺を何だと思ってるんだ!?」


 俺の冗談に、ガータは意を唱えてくる。

 ……まあガータだし、そんな変なことは考えたりしないか。



「あっ、そう言えば…………お前、大会はどうするつもりなんだ?」

「……それも知ってるんだな。」

「まあな。で、どうするんだ? まさか本気を出して無双でもするのか?」

「そんなことはしない、良いところで負けるつもりだ。」

「へぇ……それはそれで、他の奴らに失礼な感じだな。」

「……仕方ないだろ。俺たちは別に成績もいらないし、そもそも俺はミルの社会見学について来ただけだ。」

「社会見学……ああ、だからお前たちは学院に通ってるのか。確かに、よく考えたらお前ほど強い奴が今更学院に通うだなんておかしな話だったな。」


 ……それはもっと早く疑問に持つべきと思うんだが。


「ああ、あとこれ……学院側には内緒だぞ。」

「……何だこれは?」


 内緒と言い、ガータは何やら何枚ものの紙を束ねた資料みたいな物を渡してきた。

 その紙束を軽く通して見てみると……そこには、『対戦表』と文字が書かれていた。


「それは予選の総当たり戦の対戦相手が書かれてる用紙だ。最初ら辺にお前の名前もあったぞ。」

「……そんなもの、俺に渡していいのか? まだ発表されてないはずだが……というか、何で持ってるんだ?」

「まあ、お前()いるしな。試合は見に行かないが、貰える物は貰ったってわけだ……それに、どうせ対戦相手が誰だろうとお前の結果は変わらないだろうし、見るぐらいなら構わんだろ。」

「……それはそうなんだが…………」


 ……まあいいか。折角だし自分の対戦相手ぐらいは……







『1年の部・第2グループ』


『1・ライナ』

『2・タール・カリスト』

『3・ウルス』

『4・カーズ=アイク』

『5・ニイダ』







「…………」

「…ん、どうした?」

「…………いや、何でもない。」




 ………一応、ランダムのはずなんだが……こうも固まってしまう物なんだな。






 安っぽいですが、これも運命かもしれません。


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