五十七話 ペア
「…………ぅ……」
朝日が部屋に差し込み、私はそんな光を浴びながら起き上がる。
(……そうか、今日が本番の………)
……今日はいよいよ合体魔法を披露する日。一応魔法は完成したが……
「…………私に、できるの……?」
……正直、少し楽しかった。
彼……ウルスは、私に付いている魔力暴走がどういう物なのかを知りながらも、私を鼓舞し、一緒に課題に取り組んでくれた。
その時間は短く、大した交流も無かったけれど……私にとって、初めての経験だった。
(………でも、今日で終わり。)
だけど、私にそんな時間は許されない。
私に楽しい………嬉しい…………そんな感情、持ってはいけない。
「………行こう。」
怖いも…………悲しいも……………
(………駄目なんだ。)
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「どうすか、そっちの様子は?」
「……まあ、いい感じだ。」
「そうなんですか……意外ですね、てっきり完成できていないかと。」
課題を披露する当日。俺とニイダとカーズは訓練場の観客席で話しながら、課題披露の順番を待っていた。
現在、ミルはラナのところに行って話し合っており、ソーラとローナは既に披露し終わっており、合格していた。2人の魔法は見た感じ万能型の魔法であり、2人で発動するというデメリットを除けばそこそこ使えそうな魔法だった。
「意外?」
「はい。初日の時に少し教室の2人の様子をみんなで見てたのですが、かなり危そうだったので……」
「確かにそうっすよね。別に悪い人では無さそうっすけど、何か人と関わりたくないって雰囲気がぷんぷんしてたっすね。どうやって仲良くなったんすか?」
「……別に、普通にやってただけだ。」
「えぇ?ほんとっすか?」
ニイダがうざったく顔を覗いてくる。
そんなニイダの顔を引き離しながら、話を逸らすために会話を振る。
「……そんなことより、そっちの調子はどうなんだ?」
「俺たちっすか? そりゃあもう万全っすよ、ねぇカーズさん?」
「そうですね、3日で作った攻撃魔法としてはかなり完成度は高いです。しかも、1人でも扱えるように調整できたので、間違いなく良い点は貰えると思います。」
「へぇ…どんな魔法なんだ?」
「それは……」
カーズがその魔法のことを話そうとした時、ニイダはシィと指を立てた。
「それは見せるまでのお楽しみっすよ。それに仕組みを言っちゃったら、ウルスさんなら覚えちゃうっすからね。」
「えぇ!? あんな複雑な魔法を覚えられるのですか?」
「何言ってるんだ……そんなすぐに覚えられるわけないだろ。」
「へぇ……覚えられはするんすね?」
「………まあ、時間を掛ければ誰でもできるとは思うが。」
……危ない。ニイダの奴、こんなところでも探ってくるとは…………
(……そろそろ行くか。)
「……じゃあ、フィーリィアと話してくる。2人とも頑張れよ。」
「はい、そっちも頑張ってください!」
「行ってらっしゃいっすー」
時間も迫ってきたので、俺は2人と別れてフィーリィアのところへと向かう。
フィーリィアは相変わらず1人奥の方でポツンと座っており、みんなが魔法を披露しているのをぼんやりと眺めていた。
「……どうだ、調子は。いけそうか?」
「……………」
俺は少し間隔を空けて座りそう聞くが、フィーリィアは俺を一瞥するだけで何も反応しなかった。
「……何度も言ってるが、無理はしなくて良い。お前が限界と感じたら直ぐに魔法を解除してくれ。」
「…………」
「この課題はそこまで重要じゃない。おそらくラリーゼ先生が俺たちの力を測るために実施したものだろう……だから、あんまり気を張らなくて良いからな。」
「…………」
俺はフィーリィアに言葉をかけるが、一向に反応はなかった。
……昨日までは何かしら頷いたり返事をしてくれていたが…………少し様子がおかしい。
「次、ミル・ライナペア。降りて来い!」
「「はい!」」
舞台で課題を採点しているラリーゼが2人を呼ぶと、元気のいい返事が返ってきた。
その2人を見てみると、どうやら課題前の不安そうなミルの表情は無くなっており、ラナもどこかいつもより雰囲気がやさしくなっていた。
(……上手くいってるようだな。)
フィーリィアのことで頭が一杯だったので、あまり気にかけられなくて心配だったが…………杞憂だったな。
「……………」
「…………ねぇ。」
「……?」
舞台で魔法を披露している2人をぼんやりと眺めていると、不意にフィーリィアが声を掛けてきた。
「なんだ?」
「…………っ……」
「……?どうした?」
「…わ……わっ、た………」
震える声が、フィーリィアの口から溢れる。
その意味が分からず、俺はただ待っていた。
「……………」
「…………わ……たし、はっ……」
俯くフィーリィアを見つめていると、視界の横で何か光が見えたが、無視して待ち続けた。
だが、待って出たのは…………
「……私、たちの、魔法は……何魔法…?」
「……ああ………そうだな。攻撃や補助ってわけでもないし、おそらく……」
(………………違う。)
彼女は……フィーリィアは、そんなことを聞こうとしたわけじゃない。
分かっている。
ただ俺が聞いてやればいいだけだ。ミルのことを慰めたように、優しく話を聞いてやれば良いだけの……そんな簡単なことをやれば、『今』はいいだろう。
(そう……『今』だけは。)
だが……彼女は違う。
『………ごめん……なさい……』
『私は、昔からまともに魔法を使えなかった…そのせいで、沢山の人を傷つけてしまった。』
『……だから、暴走しないために……人との関わりを捨てた。』
ミルとは状況は違う。理由も訳も知らないが、フィーリィアには罪の意識…のような物がある。
そんな物を持っている相手に優しさを向けても、それはただの甘い糸であり、直ぐに切れてしまう。
(……殺してやるんだ、俺が…………)
「次、ウルス・フィーリィアペア!」
「……行こう、フィーリィア。」
「……………」
名前を呼ばれ、俺は先を歩く。
その後ろを、フィーリィアは迷うようにしながらついて来る。
(……………)
俺は舞台へ向かう中、ほんの一瞬だけ気づかれないように、フィーリィアの様子を見た。
「……っ……ぅ……」
その手は…………震えていた。
どれだけ良い意味で使っていても、『殺す』という言葉は綺麗には聞こえませんね。
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