五十四話 殺してやる
名前・フィーリィア
種族・人族
年齢・16歳
能力ランク
体力・56
筋力…腕・54 体・70 足・69
魔力・81
魔法・14
付属…なし
称号…【暴走する魔力】(不安定な精神状態にある際、魔力を暴走させてしまう)
「『暴走する魔力』……か。」
俺はフィーリィアが気を失ったあと、取り敢えず体力を回復させて観客席で寝かせていた。
暴走する魔力……これを持つ者は魔法を十分に扱うことが困難になり、初級魔法や簡単な物でも上手く発動することができなくなる。ましてや、下手をすれば体内にある魔力を暴走させて周囲を破壊……あるいは、自身を破壊させてしまう恐ろしい称号だ。
(……こんな称号を持っているのに、何故この学院に……?)
『暴走する魔力』を待っている時点で、ここのような魔法を扱う施設に入ろうとすることはまず無い…………はずだ。
この称号は先天的な物と後天的な物の2つある。仮にもし先天的な物で、今この瞬間に発現したのならまだ分かるが……さっきの感じを見るとそれは無いだろう。
それに、後天的な物の症状は軽めであり、フィーリィアのような大暴走に至ることはまず無い。
『………ごめん……なさい……』
…あの言葉……おそらく後天性なのだろう。
「……うぅ…………」
倒れて約1時間後、フィーリィアがそんな声を上げる。見てみると彼女は頭を抑えながら、ゆっくりと体を起こしていた。
「……気分はどうだ? 何があったか覚えているか?」
「………うん…覚えてる………」
変わらず無表情なフィーリィアだったが、声は微かに震えていた。そして彼女は椅子に座りながら膝を抱え、そこに顔を埋めた。
「……………怪我、ない?」
「大丈夫だ……そっちこそ、身体に異変はないか?」
「………うん。」
「……それはよかった。」
…………取り敢えず大事に至らなくて良かった。あのまま放って置けばとんでもないことになっていただろう。
「……やっぱり、こうなった……」
そんな掠れ声が耳に届く。
『……さま…ごめんなさい……』
(………………。)
「……だから、ひとりを選んだのか。」
「………知ってる……の?」
「ああ……『暴走する魔力』。これを持ってる人間は魔法を十分に使えなくなる…………嫌な称号だよな。」
「…………
……生まれた時から、持ってた。」
フィーリィアはポツポツと話し始めた。
まるで、何かを悔いるように。
「私は、昔からまともに魔法を使えなかった……そのせいで、沢山の人を傷つけてしまった。」
「……………」
「……だから、暴走しないために……人との関わりを捨てた。」
独りでいる…………それは、とても寂しいものだ。しかも『前世』での俺とは訳が違い、独りにならざるを得なかった彼女の心のことを考えると……胸が痛くなる。
傷つけようとしたわけでも、傷つけられたわけでも無く、傷つけてしまった…………その意味を知ってしまったら、もう何も頼ることはできなくなってしまう。
「…………孤独は、好きか?」
「…………」
俺の質問に、フィーリィアは何も答えなかった……それはそうだろうが。
(…………)
「……まあいい。だいぶ休んだし、そろそろ『再開』するか。」
「…………え?」
俺は立ち上がり、フィーリィアに手を貸そうとする。そんな俺をフィーリィアは驚きの目で見ていた。
「……どうした。」
「な……なんで…………?」
「なんでも何も……3日後には本番だ。それまでに完成させないといけないからな、さっきのアレで構想も練られた……」
「そ、そうじゃない……!」
フィーリィアはあり得ないと言わんばかりに、ほんの少しだけ声を荒げた。
「あなたは魔力暴走のことを知ってる…………なのに、何でこんな危険な私を……?」
「……何が言いたいんだ。」
「な、何って……もし私がまた暴走したら今度こそあなたが……」
「フィーリィア。」
俺はしゃがみ、目線を合わせる。
さっきまで空っぽだったフィーリィアの目には、困惑……そして、恐怖の色が染み付いていた。
そんな目の色を見つめながら、俺は告げる。
「……お前は誰も傷つけたく無い……傷つけるのが怖いから、誰とも関係を作ろうとしなかった。」
「………だって……そうしないと……」
「そう、魔力暴走を起こしてしまう主な原因は、喜び・動揺・悲しみ……そういった感情の起伏だ。そして、それらは主に人との関わりで生まれてくる物だ。」
誰かと過ごす……それは、必ずしも良い事だけじゃない。騙されたり陥れられたり…………傷つけてしまったりと、悪いことは必ず起こる。
(……でも、だからといってそれは……罪ではない。)
「……お前は、どうしたいんだ?」
「どう………?」
「このまま独りで過ごすか、誰かと関係を持って過ごすか……良いとか駄目とかじゃなくて、そうありたいのかどうか、だ。」
「………そ、そん……なの………」
俺の言葉に、今もフィーリィアは混乱している。
俺はフィーリィアのことを何も知らない。今日初めて話したぐらいの浅すぎる関係であり、信頼や好意なんて物は更々存在しない。
だから、俺は聞く。
何も………知らないのだから。
「………分からない……自分が…………私がどうしたいかなんて…………」
「…………」
「今まで…そんなこと、考えたこと…ない、から………」
「………そうか、なら………」
俺は再び立ち上がり、手を差し伸べる。
「俺も、殺してやる。」
「えっ…………」
「俺も、お前のことは少しだけ怖く感じる。いつ暴走するのか…その結果、周りの人や……『お前自身』が傷ついてしまっていくのを考えると、怖くなる。」
………これは半分は本当で、もう半分は嘘だ。
俺は、フィーリィアの魔力暴走のことを恐れてはいない。対処法は理解しているし、結果暴走しても俺が怪我なんてすることはない。
ただ……魔力暴走を持ったせいで塞ぎ込んでいく人間を見るのが…………俺は怖い。
「だから、俺も感情を殺してやる。そして、お前と魔法を完成させてこの課題を成功する。」
「……でも…………」
(俺は………変わった。)
もうあの頃の弱い自分も、弱さに気づけない自分もいない。
そう………変わったんだ、俺は。
「今は分からなくていい。けど、いつかお前がそれを選択できるようになるまで……俺が付き合う。だから…………ほら。」
俺はさっきのようにフィーリィアの手を掴み、今度は立ち上がらせる。
「行くぞ……フィーリィア。」
「う………うん………」
フィーリィアは戸惑うように返事をする。そして先に行く俺の後ろをついてきた。
(選ばせるんだ…………俺が。)
お人好しなのか余計なお世話なのか、それとも…何でしょうね。
評価や感想、ブックマーク、誤字訂正などよろしくお願いします。
また、Twitterはこちら https://twitter.com/@SO_Nsyousetuka




