五十三話 暴走
「…それじゃ、色々決めていこう。」
「……………」
フィーリィアは小さく頷く。
俺たちは取り敢えず訓練所へと向かい、どのような合体魔法を作り出すのか話し合っていた。
俺たちが今いる訓練所は校舎からかなり離れている場所であり、他に誰も使ってはいなかった。わざわざそこを選んだのは別に大した理由もなく、ただアイデアを盗まれたくなったからだ。
……ちなみにフィーリィアは今のところ何の言葉をかけてはこなかった。
(……単に、喋りたくないんだろうが。)
「確か得意な魔法を合わせるって言ってたが……それは得意属性ってことでいいな?」
「………」
「そうか…俺は風魔法が得意だが、フィーリィアは?」
「……氷…」
(氷魔法か……少し珍しいな。)
理由はよく分からないが、氷魔法は他の魔法と比べて若干難しいそうだ。他にも毒、電気、音魔法などを得意とする者はあまり多くないらしい。
俺自身はあまり難しく感じたことはないが……そういうものなんだろう。
「風と氷か……」
「…………」
俺たちは揃って頭を捻る。
……相性は悪くないはず……というか、風属性は元々汎用性も高く、どんな属性とでも基本組み合わせるのは簡単だ。
(……だが、これは見せ物の魔法を作る課題ではない。実用性を伴った物でないと…………)
「……フィーリィア、やってみたいことがある。俺と少し距離を取ってくれ。」
「……………」
フィーリィアは返事の代わりに俺から距離を取った。また、それと同時に『何故?』と言わんばかりにこちらを見つめて来た。
「……今から、俺たちはお互いの得意属性の魔法をぶつけ合う。」
「…………?」
「まあ、そう簡単に思いつかないものだし、取り敢えずぶつけて発想を生み出す……そんなところだ。フィーリィア、上級魔法は使えるな?」
「……………う、ん………」
俺がそう聞いた瞬間、何故かフィーリィアはビクッと体を震わせた。
(…………?)
初めて見せた動きに一瞬謎が浮かんだが、俺は気にせず続けた。
「じゃあ、合図をしたら同時に撃つんだ。準備はいいか?」
「……………」
「……フィーリィア?聞こえてるか?」
「……!」
ぼんやりしているフィーリィアに確かめるように声をかけると、再び体を震わせた。
「…………うん。」
フィーリィアは顔を下げ、俯きながらそう小さく呟いた。
「……いくぞ。3、2、1…………0!」
カウントと共にお互い手を構え、合図で一斉に魔法を解放した。
「『刃の息吹』」「……『アイススフィア』」
俺は風の渦、フィーリィアは氷塊を作り出し、それらを俺たちの中心ぐらいの距離でぶつけ合った。
(……単純だが、分かりやすい。)
風の渦は氷塊を砕いていき、また逆に氷塊は風の勢いを殺そうと立ち塞がる。
その中で砕けた氷塊のかけらは、行き場の失った風に運ばれてこの舞台を荒らす。
(……なるほど、『これ』なら……?)
俺は早速アイデアが思いついたので、フィーリィアにそれを伝えようと顔を見た。
その顔には…………
「………何を、怯え…………」
「………あぁ……!」
「……フィーリィア、どうしっ……!?」
予想もしていない表情に気を取られ、俺はフィーリィアの変化に気づくのが少し遅れてしまった。
その結果、途端にフィーリィアは呻き声を上げ始めた。
「ぁあっ……いやっ……!!」
「フィーリィア……!?」
(な…なんだこの魔力量は……!?)
呻き声を上げるフィーリィアから、突如魔力が溢れ始めていた。
その魔力には属性が勝手につけられているのか、冷気のようなものへと変換されていた。
(これは……まさか……!)
「フィーリィア、魔法を止めるんだ!このままじゃ暴走する!」
「いやぁ……やめて…こないで………!!!」
(聞こえていない……不味いな……!)
フィーリィアはどんどん苦しみ始め、それと同時に冷気が更に溢れ出す。
(どう止める……? 俺が魔法を解除してどうにかしようにも、あっちが魔法を止めてくれるわけじゃない……)
暴走のせいか、今飛んできている氷塊は時間が経つごとに大きさと威力を高め、俺の魔法を完全に打ち消そうとしてきていた。
(俺がそれを避けるのは容易いが……避けたところで………)
……これは、躊躇している場合じゃないな。
「あぁっ……やめて……!!」
完全に声が届いていないようで、フィーリィアはただ苦しんでいた。
その様子を見て、俺は魔法を解除する。そして抑えていたステータスを解放し、飛んでくるアイススフィアを受け止めた。
(……幸いというべきか、フィーリィアは混乱して俺のことを認識できていない。今なら……!)
「フィーリィア……!」
「いやっ、触らないで……!!」
俺は受け止めた氷塊を潰し、一瞬で距離を詰めて暴れる手を掴む。
そして、俺は魔法を唱えた。
「『ドレイン』」
「うぅっ……あぁ…………!」
フィーリィアが抵抗するように腕を振り回すが、俺は離さない。
ドレインは超級魔法であり、相手に直接触れた状態で魔力を吸い取ることができる少し特殊な魔法だ。
「もう少しだ…落ち着け……」
「くぅっ………」
フィーリィアの魔力がどんどん俺へと流れ、溢れ出ていた冷気は次第に収まっていく。
(……これでいいか。)
しばらくして冷気も完全に収まり、取り敢えず俺は手を離そうとした時、力が抜けたのかフィーリィアはその場に倒れ込もうとする。
俺はフィーリィアを受け止め、ゆっくりと仰向けに寝かせた。
「大丈夫か?」
「………ごめん……なさい……」
フィーリィアの目は変わらず虚だったが、さっきまでとは違い何処か遠いところを見ているような……そんな目をしていた。
「もう……やめ……てぇ………」
そして……フィーリィアは気を失った。
誰に謝っているんでしょうね。
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