五十話 分からない
「いっぱい訓練所があるね……食堂とか寮とかも!」
「研究所みたいな場所や広場、図書館もあるな……これは退屈しなさそうだ。」
ミルと2人で学院を回っていく。
……回っていて気付いたが、どこかここの景色には既視感を覚える。この街に来たことは何度かあるが、この中まで来たことがあっただろうか……?
(………ん……?)
そんな事を考えている時、不意に近くの訓練所から魔力を感じた。
……どうやら、誰かがそこで特訓をしているようだ。ここは寮や校舎からも結構な距離もあり、俺たちのクラスが早くに終わったからなのか、ここは人がかなり少ないが……珍しいものだ。
「……あ、あそこで誰か訓練してる。」
「……少し『覗く』か。」
「えっ……う、うん。」
俺がそういうことを言うのが予想外だったのか、ミルは驚きながらも付いてくる。
「……はぁっ!!」
中から、そんな女の凛々しい掛け声が聞こえてくる。
覗くとそこには、頭に鉢巻を巻き長い漆黒の髪を後ろに束ねた女がいた。
(……見たところ上級生か、魔力量も動きもそこそこ。それなりの強さは持っているようだな。)
「……ウルスくん、もしかして…………見惚れてる?」
「いや、見惚れてたわけじゃない…ただ…………」
「……ただ?」
……何故俺は覗いた?
別に特段凄い魔力を感じたわけでもないし、俺に覗き見の趣味は無い。
(何か気になったのか……?)
「……ウルスくん、やっぱりああいう大人な女性が………」
「違うぞ……まあいい、行こう。」
「怪しいなぁ……」
ミルに変な誤解を残したまま、俺たちはその場を去った。
「………………」
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「じゃあウルスくん、また明日!」
「ああ、また明日。」
あの後学院を一通り周り、日も暮れてきたので俺たちは解散した。そしてこの学院生活では寮に寝泊まりをするので、俺は自身の部屋へと向かった。
「……ここか。」
扉を開け、中に入ってから鍵を閉める。
部屋には机やクローゼット、ベッドが置いてあり、他にもシャワールームやベランダなどもあった。
(……見た感じ物が多い分、師匠の家の自室の方が広く感じるが……そこまで変わった勝手もない。不便さは無さそうだ。)
そんなことを独りで考えながら、俺はベッドに座る。そのベッドは弾力も強く、体がどんどん沈んでいった。
「……これから、どうする……」
ミルは順調に学院に馴染めるだろう。2人と仲良くできているだろうし、楽しい学院生活を送ってくれるはず。
ローナと再開した時は少し焦ったが、どうやら既に疑いは消えているようで普通し接してきている。ボロが出ないよう気をつけないと。
ニイダのことは……よく分からないが、確実に俺の何かを怪しんでいる。目的も理由も検討が付かないが、これからも警戒はしておく必要があるな。
そして…………
「……………ラナ。」
分からない。
学院に入って何をしたいのか、何になりたいのか。
『ここまで来たよ、ウルくん。』
あの夜に聞いた言葉が頭を回る。
………『ここ』ってどこだ。
………何で俺にそんなことを言うんだ。
(……まるで、俺の為みたいに…………)
『大切な幼馴染』…………
「……くそっ………」
俺は……最低な奴なんだろう。
それでも…………俺は言えない。
信じてくれない…………そうに違いないの、だから。
これで四章は終了です。一体ウルスは何を考えているのでしょう。
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