四十九話 ウルくん
「……それで、何で2人を土で囲んでいたんすか? ライトを使うなら普通に使えばよかったのに。」
「相手が2人だったからな、時間稼ぎ目的で使うなら閉じ込めた空間で光らせたほうがより2人の目にダメージが入るし、効率的だ。」
「確かに、複数の敵だったらライトを至近距離で当てるのは難しいっすもんねー……まあ、そもそもライトを目眩しに使う人初めて見たっすよ。普通ライトってただの灯りにしか使わないっすし。」
試合が終わった後、俺たちは観客席に座って他の人たちの試合を見ながら色々語り合っていた。
「使える物を使っただけだ。ライトなら中級魔法の中でも
魔力消費は限りなく低い……攻撃性も無くて次に繋げやすいんだ。」
「ほぇ〜考えてるんすね……それじゃあさっきの…………」
「ねぇ、ちょっといいかな?」
不意に、あの声が横から聞こえた。
(………………)
俺の動揺を必死に隠しながら、その方向を向くと…………小さな頃とは違い、キリッとした表情のラナが立っていた。
彼女の服はどちらも山吹色の七分丈と膝まで伸びたスカートといった、昔は微塵も感じなかった深みのある色合いと格好だった。
「えっと、ニイダくんと………ウ、ウルスくんだよね?」
「はい、俺がニイダでこっちがウルスさんっす。」
「……………ああ。」
俺の名前を呼ぶ時、一瞬だけ寂しげな表情を浮かべていたが……直ぐに元の顔に戻った。
ラナは俺の隣に少し間を開けて座り、残りの試合を眺め始めた。
「それで、何か用があるんすか?」
「さっきの試合でちょっと聞きたいことがあって…………特にウルスくんの戦い方に。」
「……俺の戦い方?」
「うん……まずあの土の中で何か光っていたけど、あれってウルスくんが魔法を使ったの?」
「ああ、予め2人の立っていたところにライトの魔法を仕掛けていたんだ。」
「……それっていつ仕掛けたの? そんなタイミング無かったと思うけど…………」
……ラナとはあまり話すつもりはなかったが……答えないのも変な話なので、とりあえず今は普通に話を進める。
「……あれは、カーズとの攻防の時に設置していたんだ。」
「攻防って……2人がぶつかる前の?」
「そうだ、その時俺が『指』を差していたのは見えていただろ?」
「指……うん、差してたけど…………」
「その時だ、俺が仕掛けたのは。」
俺があの時指を差したのは単なる油断のようなものではなく、視線を誘導してライトを設置するためだった。
本当はもっと別のタイミングで使おうとでも思っていたが、結果的にニイダの計画に使うことになった。
「へぇ、確かに指を立てた方向につい目は行っちゃうっすからね……面白い行動っす。」
「……じゃあ、何であの2人を相手にしていた時にウルスくんはアイスショットを使ったの? ムルスくんには盾があったし、防がれるのは分かってたと思うけど……」
「あれは防がれたんじゃない、防がせたんだ。」
「「……?」」
俺の言葉に、2人とも首を傾げる。
「俺があの時したかったことは、外から見て分かっていたよな?」
「うん、なんでああやって取りに行ったのは分からないけど……」
「……あの2人は学院前から知り合いだったのか、互いを信頼している雰囲気があった。だから俺はカーズの『顔』目掛けて魔法を放った、その結果カーズがダメージを受けるのを防ぐために、ソーラは前に出て盾を使って受け止めた。」
「……あっ、そういうことっすか!」
「えっ、分かったのニイダくん?」
俺が説明し切る前にニイダは俺の意図に気づいたのか、拳をポンと手のひらに乗せた。
「ウルスさんはカーズさんの『顔』に魔法を飛ばしたんすよ。カーズさんとソーラさんの身長差はそこまで大きいものじゃないし、ソーラさんは体格もいいから前に出て防いだら……」
「……ムルスくんとアイクくんの顔が盾に隠れて前が見えなくなる……?」
「……そういうことだ。」
俺はあの時、投げた剣を回収したかった。しかし、剣は2人の真後ろに転がっていたので普通に回収するのは不可能だった。かといって場所を移動させると仕掛けたライトの魔法陣の位置がずれたり、俺が剣を回収しようとするのがばれる可能性があった。
だから俺は敢えて素手で一度突撃し、その意図がない事を2人に意識させた。そして視界から俺を消させた瞬間に2人を跳んで跨ぎ……剣を拾った。
「2人は俺があの場で背後に行く考えはなかった……だが、それでも2人の横を通って移動すれば盾の隙間から視認される。」
「だから頭上を通った……と。上からだったら2人も予想してないと思うっすしね。」
「……そもそも上を通るなんて発想は中々出ないと思うけど……」
ラナは俺の行動の理由に呆気を取られたのか、乾いた笑いをしていた。
(……確かに、ただの子どもができるような行動じゃないかもしれないな……これからは裏を取るような動きは控えるか。)
大会の試合のような観客席が遠い場所ならともかく、授業で近くに人がいたりする場合にこんな動きを頻繁に見せてたら、いずれボロが出るかもしれない。これからはせめて分かりやすいものに限定しておいたほうがいいか。
「……聞きたいことはこれで終わりか?」
「…………うん、それだけ。」
俺の質問に、ラナは歯切れまで悪く答える。
……そもそも…………
「……『ライナ』、お前は何でこんな事を聞いてきたんだ? そこまで俺たちの試合が目に入ったのか?」
「それは…………」
ラナがこの学院に来た理由は深くは知らない。あの夜に聞こえたのはソルセルリー学院に入ることが目的だったことだけ………
(……いや…………)
「……ただの興味本位だよ。」
「……………そうか。」
まるでそれ以上はないと伝えんばかりに、ラナはそう言い切った。
「……あ、次私だ。それじゃあね2人とも。」
「……ああ、頑張れ。」
「頑張ってくださいっす、ライナさん!」
「ありがとう。」
俺たちの応援を聞いてラナは舞台へと向かって行った。それを見届けたニイダが感服したように話す。
「いやぁ綺麗な人でしたっすね、しかも雰囲気より話しやすかったっすし……まあちょっと『アレ』でしたっすけど。」
「………『アレ』?」
「えっと、なんて言うか………
………『期待外れ』……みたいなのを、あの人から感じたっすね。なんでそんなことを感じたのかはまったく意味が分かんないっすけど。」
『ウルくん、頑張って!』
『うん、頑張るよ!!』
「……気のせいだろ。」
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「……以上で今日の授業を終わる、各自解散してくれ。」
全員の試合が終わったあと、ラリーゼ先生が少し話して今日は解散となった。
「ああー悔しい! 強すぎるよ次席の人!!」
「確かに強かったね……もう1人の桃色髪の人も剣技が凄かったし、完敗だね。」
運がいいのか悪いのか、ミルとローナの相手はラナのチームで、2人ともラナともう1人の奴に負けてしまっていた。
ローナは負けた悔しさが未だ残っているのか、束ねた髪をブンブンと振り回していた。
「ああっ! 私は他のところで特訓するよ、またねみんな!!」
「じゃ、俺も自主練と行きますか……2人ともまた明日っす。」
「うん、またね2人とも!」
激しく体を揺らすローナの後ろをついて行くようにニイダはここを離れていった。
そして、ミルは何故か嬉々として俺に聞いてきた。
「ねぇねぇウルスくん! せっかく今は自由時間だし、この学院を回ってみない? 他にも面白いものがあるかもしれないし!」
「……そうだな、回ってみるか。」
「やったぁ!」
俺がそう言うと、ミルは子供らしく喜ぶ。
……ちょうどいい。この学院は広いし、雰囲気を知るためにも一度回っておこう。
「そうと決まったらごーごー!!」
「ひ、引っ張るなって……」
(……テンションが高いな。)
きっと、外の世界を自由に回れて興奮しているのだろう。
(………ここは付き合うか。)
期待とやらは大抵応じてくれないものですね。
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