四十三話 何となく
「転移魔法って便利だよね〜」
「そうだな……けど、知らない場所には行けないし、魔力の消費が多いから下手には使えないぞ。」
「でもウルスくんの魔力量なら問題ないよね?」
「……まあな。」
前と同じように森の中に着き、俺たちは街に向かって歩く。
転移魔法は距離が遠くなるほど消費が激しく、ここから師匠の場所に行くなら俺の魔力量でも5%程度は使うのであまり無駄遣いはできない。
(……今のうちにしておくか。)
俺は会話の中、ミルに神眼でステータスを偽証させておく。
「前にも言ったが……ミル、神眼で誤魔化してるだけで力は変わってないからな、気を付けろよ。」
「うん、分かった!」
ミルはステータスを変化させるほどの技術はない。神眼で誤魔化せるのはあくまで表面上だけなので、ヘマをすればすぐにバレてしまう。
それに対して俺はステータスを自在に操ることができ、それに神眼の力を使えば完全に誤魔化せる。
(ミルはともかく、俺は完璧に隠さないと……何故かあのニイダという奴に見抜かれかけたからな。)
森を抜け、街へと辿り着く……どうでもいいことだが、こんなに簡単に街を出入りできるのは人族の国だけらしい。師匠曰く、精霊族・獣人族の国はその種族の紹介のような物がないとすぐには入れないそうだ。
(……相変わらず人が多い。)
プリエは人族の国の中でも一際大きい街であり、人の行き来も俺が住んでいた村の比ではない。
「この中にも学院生はいるのかな?」
「ソルセルリー学院は人が多いからな……特に、派手な格好してる奴らはそうなんだろう。」
「……ウルスくんも派手な色にしたら? 白とかきっと似合うよ!」
「白は流石に………?」
不意に、どこからか木の軋む音が聞こえた。
(……何かが刺さった音、ということは………)
「どうしたの、ウルスくん?」
「……そういうこと、かっ。」
「……それって、クナイ? 何でここに刺さって……」
俺はすぐ近くの建物の壁に刺さっていた……というより、今まさに飛んできたクナイを抜く。
そして、建物裏の路地にあるであろう『奴』目掛けてクナイを投げ返した。
「な、投げ……!?」
「うぉっと!」
ミルが驚くや否や、そんな素っ頓狂な声が聞こえてきたと同時に奴……ニイダが飛び出してきた。
「ま、前より速く投げたっすね!? 危く当たるところだったっすよ!」
「仕掛けられたから返しただけだ……というか、お前には『素直に話しかける』の選択肢はないのか?」
「えぇーそれじゃ面白くないじゃないっすか。」
「………はぁ。」
こいつは一体何を考えているのやら…………
「ウルスくん、その人は?」
「ああ……こいつはニイダ、試験会場で出会った挨拶を知らない男だ。」
「なんすかその紹介……どうもニイダっす、あなたは………彼女さん?」
「そうだ……」
「違う。」
ミルの冗談を遮る……ややこしくなるから本当にやめて欲しい。
「こっちはミルだ、俺とは……家族? みたいなものだ。」
「えぇ……じゃあやっぱり彼女?」
「そうじゃない……まあ、色々あるんだよ。」
「へぇ……じゃ、そういうことにしておくっすよ。」
俺に答える気は無いと思ったのか、ニイダは話を終わらせ先に行こうと指を回した。
3人で学院へと歩きながら向かっていると、ニイダが問いかけてくる。
「学院って、具体的に何をするんすかね?」
「それは……魔法の知識や訓練、世界の事とかも学ぶらしいが……それはお前も知ってるだろ?」
「いやぁ、何となくここに来たんで。」
……何となくで入れるほど、ここの試験は甘くないはずだが…………
(……こいつのことを考えても仕方ないか。)
既に怪しさマックスなニイダですが、一体何者なんでしょうね。
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