三十六話 手を
「次は……ニイダ! 舞台に上がってこい!」
「はいっす!」
学院長が試験官と後退し始めてから少し経った時、ニイダの名前が呼ばれた。
(…………学院長、か。)
さっきまでの教師は余裕こそ見せてはいたが、それなりに戦いとしては見れたものだった。
しかし、学院長との戦いはとても勝負とは言えず……本当にただの試験にしか見えなかった。
「じゃあ、始めよう……準備はいいか?」
「はい、よろしくお願いしまっす!」
「そうか、なら……かかってこい!」
「それじゃ、遠慮なく!」
学院長の言葉を聞き、ニイダは短剣を持って突進していく。
ちなみにニイダが持っている短剣は『燕』という名前らしく、短剣の中でもかなり軽めの剣……と、勝手に独りで語っていた。
対する学院長が構えたのは両手剣…………恐らく両手剣なのだろうが、何故か学院長は片手で使用している。
色は若草色の鮮やかな色合いで彩られた物で、見た目や剣から感じる魔力からしてもどんな物か全く分からない。
(……俺たちの神器に似ている……?)
……これは勘に近いものだが…………両手剣に秘められている魔力の質は俺やミルの神器と遜色なく、もしかしたらあの人が持っている武器も神器の一種なのかもしれない。
「はぁっ!」
「速いが……軽いな、まだまだいけるだろ?」
ニイダは剣で学院長を攻撃するが、全て両手剣で防がれていた。そして、その言葉でニイダは一度大きく下がる。
「……じゃあ、これならどうっすか!」
ニイダはそう言って剣を光らせ、再び学院長へ向かっていく。そして、その向かっていく速さは先ほどよりも少し上がっていた。
「……魔法武器か。」
この世界の武器は、大きく分けて2つの種類がある。
1つは『普通武器』と呼ばれる物で、もう1つは『魔法武器』。
普通武器はその名の通り普通の武器で、それ以上でもそれ以下でもない物…………対して魔法武器は、武器自体に魔法がかかっている特殊な武器であり、魔力を流し込むことによってその武器の魔法を扱うことができる物だ。
武器の魔法は比較的特殊な物が多く、使い方によっては戦いの選択肢も増えるので使用者はそれなりにいる……と師匠が言っていた。ちなみに俺とミルの神器も魔法武器の一種らしい。
(ステータスは…………)
名前・ニイダ
種族・人族
年齢・15歳
能力ランク
体力・60
筋力…腕・51 体・68 足・88
魔力・67
魔法・9
付属…『敏捷力上昇』(魔法武器・燕によって付加された魔法。敏捷力が上昇する)
称号…【忍・表流継承者】(忍・表流を習得した者に贈られる)
……どうやら、燕の魔法は素早さを上昇させるものらしい。その証拠に、付属の欄には敏捷力が上がったと記載されている。
「はっ……らっ!!」
「……ほう。」
ニイダの速さに、学院長が感嘆の声を呟く。
ニイダは斬りかかっては後退し回り込んで再び斬りかかる…………これを、ひたすら繰り返していた。
しかし、ただ繰り返しているわけでない。ニイダは斬りかかって再び攻めるたびにスピードを上げており、その速さに限りはなかった。おそらく、剣に弾かれた勢いを上手く変換させ、再び攻める際の力としているのだろう。
「まだまだぁっ!!」
ヒットアンドアウェイを続けるニイダのスピードと威力はどんどん上がっていき、ついには明らかにステータス以上の力を見せるほどに速く……鋭くなっていた。
そんな彼を見て学院長は…………嬉しそうに笑った。
「………面白い。」
「……!」
学院長はその場から動き、ニイダの攻撃を避けて距離を取った。その学院長の行動に、周りの受験者たちが驚きの声を上げている。
それもそのはず……学院長はこのニイダの試験で初めて足を動かした|からだ。
「……確か、ニイダだったな?」
「はぁ…はぁ…………そうっす、けど。」
「中々面白い動きをするな……誰に習った?」
「……父と兄っす……急にどうしたんすか? 休憩がてらお話でも?」
「いや、ただの興味本位だ……さぁ、今度は俺から行こうか!」
「……!?」
そう言い放った途端、学院長は一瞬でニイダとの距離を詰めて剣を振るう。
その速さにニイダは驚き固まってしまっていたが、ギリギリのところで短剣を合わせられていた。
「はっ!」
「うっ、強っ……!」
しかし、学院長の剣の威力は凄まじく、ニイダは片手だけで受け止めたこともあって威力に耐えきれず、大きく吹き飛ばされた。
「っ、危ない……!」
「ほう……上手い対処だ。どんどんいくぞ!」
吹き飛ばされたニイダは上手く体を捻り、受け身を取りながら体勢を立て直した。その様子を見て、学院長は笑いながらどんどん攻めていく。
「ぐっ、がっ……!」
ニイダは学院長の動きの速さや剣技の威力に圧倒され、何もできずに攻められ続けていた。
(……圧倒的、差。普通の人なら諦めてもおかしかないこの状況………)
「……………まだ………!!」
しかし………ニイダの目は諦めてなかった。
(………さぁ、その空いている手をどうする?)
普通じゃないようです。
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