三十一話 凍れ
ローナは魔法の後ろを追うように迫ってきている。そして前にできたのは水溜り……
「……凍れ。」
俺は水溜りをそのまま凍らせ、氷の地面を作り出した。
しかしローナはそれに気づかず、凍った水溜りを踏んでしまう。
「えっ、滑っ……うわっ!!?」
(……かかった。)
凍った水溜りを踏んだローナは上手く体勢を保てず、滑って転けてしまう。
それを見届けた俺は飛んできている氷弾を跳び上がって避け、魔法を放つ。
「『フレイム』」
「ぐっ!!魔力防壁が……!」
転んだままのローナは炎を避けることができず、ダメージをもろに喰らっていた。
すかさずローナは立ち上がるが、今の一撃が致命的だったのか既に魔力防壁はボロボロだった。
(……上級魔法だったな、確か。少し威力が高すぎたか。)
……いまいち加減が難しいな。幸い誰も疑問は感じていなさそうだが、今の一撃は上級魔法にしては威力が高すぎた……もっと上手く調整しないと。
ローナは俺から軽く距離を取り、体勢を立て直して何故か自信満々に言い始めた。
「ふっ、まだまだっ!! こうなったら、私特製の魔法を使ってあげる!」
「………そんなものがあるのか。」
「いくよ……はぁぁぁっ!!!」
そう言ってローナは体に力を込め始める。その姿は隙だらけでいつでも攻撃はできそうだったが………せっかくだ、待ってやろう。
「……纏え、『フレイムアーマー』!!」
「…………炎……」
詠唱を唱えると同時に、ローナの両腕には炎が鎧のように纏われた。
(………見たことのない魔法だ。)
どうやら本当にオリジナル魔法のようで、周りの受験者たちも声を上げて驚いていた。
「面白いな……何流なんだ?」
「流派は特に作ってないよ、私しか使ってないし…………それじゃあ改めて……行くよっ!」
ローナは低姿勢で力を溜めながら接近し、拳を突き出してくる。
「はぁっ!!」
「っ………」
(……思ったより速いな。)
炎が拳のスピードを増させているのか、攻撃にはステータス以上の威力と速さが乗っていた。
「喰らえっ!!」
「ぐっ………」
一度はローナの拳を避けたが、続けて振られた拳を避けることができず、俺は魔力防壁を削られてしまう。
一応受け身を取ったのでダメージあまりは無いが、それでもそれなりの威力はあったので、軽く後退させられてしまう。
「……まるで、武闘家だな。」
「まだまだいくよっ!!」
ローナは俺に攻撃を当てられたからなのか、嬉々として殴りにかかってくる。
…………恐らく今回の試験は、勝てば合格・負ければ不合格……というわけではない。
その場の工夫や戦い方・思考の柔軟さ・魔法の使い方など、それらの判断を評価基準として見ているはず。そうでなければ、相手によって合否が決まってしまう理不尽な試験となってしまう。流石にそこまで厳しくはないはずだ。
だから、最悪負けてもいいが………さっきも言った通り、わざわざここで負けてやる理由はない。
ローナの実力は正直大したことはない。勝っても何か疑われることなんて特に無いだろう。
「……『アクアランス』」
「そんなもの……効かないよ!」
俺は大きく距離を取り、ローナ目掛けて中級魔法の水の槍を数本飛ばす。
だがローナは、それらを次々に炎の拳で壊していき、周りに大粒の水飛沫を撒き散らしていった。
(……………ここだ。)
「『ライト』」
「………えっ?」
俺は手から初級魔法を放つ。この魔法は攻撃性も拘束性もない、ただ眩しい光を放つだけの物だ。
当然、誰でも使える初級魔法なので性質も知られており、ローナは直視しないように光を避けた。
(……まあ、そうだろうな。)
それを予想していた俺は、再び凍らせる。
「凍れ。」
「えっ、また………うっ!?」
俺が凍れと言った瞬間、飛び立っていた水飛沫が一斉に凍り出し……同時に俺は目を閉じた。
そして、その凍った水飛沫の一部は光に当てられ……あちこちに反射させていくのを感じた。
「目、目が………!」
(……上手くいったな。)
目を開けると、必死に目を擦っているローナの姿が見えてきた。
そんな無防備なローナに対して、俺は距離を取ってからとどめを刺しにいった。
「終わりだ………『フレイム』」
「……っ、ぐはぁっ……!!?」
俺はフレイムを当て、ローナの魔力防壁を破壊した。
「……そこまでっ! この試合の勝者はウルス!!」
ある意味、環境のゴリ押しですね。
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