三十話 これでいい
「…………そういえば、ウルスとミルってどういう関係なの?」
「どういう………」
会場に着き、開始の時間を待っている途中にローナはそんなことを聞いてきた。
「……何でそんなことを?」
「いやぁ、仲良さそうだなって思って………もしかして、彼女さんとか?」
「違う、ただの知り合いだ。」
「何だぁ………」
「……失礼な反応だな。」
「ご、ごめんごめん。ついうっかり……」
……ミルとの関係か。あまり考えた事はなかったが……
「…………まあ、そうだな。色々言い方はあるが……『家族』、だな。」
「家族? それって…………」
「それでは、そろそろ試験を開始します!」
そうこうしているうちに、第2会場で始まりの合図が鳴った。
その合図とともにその場にいた全員が、会場の中心にある舞台の上にいる試験官へと目を向けた。
「まず最初に、ソルセルリー学院入学試験について説明します。今学院では2日間に別れて試験を行い、その結果を参考に合否を決定します。また、ソルセルリー学院では受験者の実践的な実力を知るため、試験内容については事前に詳しく伝えることはありませんでした。」
(……事前に内容を知らせない事で、その人の本当の実力を見極める……ということか。)
事前に知っていれば、それに向けて対策はできてしまう。その対策を如何に練ることも重要な物の1つではあるが……今回はあくまでその場の力を測りたいのだろう。
「皆さんが聞いていたのはおそらく、初日の試験は武器を使えないということだけだと思います…………では、早速本日の試験内容を発表します。」
試験官の言葉に、全員が耳を傾ける。
「本日の試験…………それは、『この場にある受験生同士が戦う』です!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「そこまで!!」
試験が始まり、続々と試合が進んでいく。
「いきなり人との勝負か………緊張するなぁ……」
「……そうだな。」
ローナの言葉に相槌を打ちながら、他の人たちの試合を観戦する。
今日の試験の内容……それは、『無造作に選ばれた受験者たちが一対一で勝負をする』といったものだった。
ルールは単純、相手の魔力防壁を壊した方が勝ち……そして事前に言っていた通り、武器の使用は禁止といったものだ。
「……ウルスは自信はあるの?」
「………まあ、それなりに鍛えてはいるし……負けるつもりはない。」
………一応、この試験では勝つつもりでいる。いくら実力を見せないと言っても、万が一負けて落ちてしまえば意味がないからな。
「次の試合は……ウルスとローナ! 舞台へと上がってきてください!」
「わ、私たち!?」
「……行くぞ。」
俺たちは同時に呼ばれ、舞台へと上がっていく。
「……まさかこんな偶然があるなんてね。」
「ああ、だが手は抜かないぞ。」
「もちろん!」
そう言ってローナは構え、それに倣うように俺も戦う準備をする。
(……再会して間もなく戦うことになるとは。これも何かの縁だろうか。)
「2人とも、位置に着きましたね。それではルールの確認を……勝敗はどちらかの魔力防壁が壊れるか、気絶するか、あるいは舞台から落ちた場合に決定とします。」
舞台の広さは直径20メートルほどの広さはある。そう簡単に舞台落ちはないだろうし、この広さは利用できそうだ。
(……さぁ、始まりだ。まずは…………)
「……それでは、始めっ!」
「………!」
開始の合図ともに、俺はローナのステータスを覗いた。
名前・ローナ
種族・人族
年齢・15歳
能力ランク
体力・49
筋力…腕・29 体・31 足・44
魔力・44
魔法・8
付属…なし
称号…なし
(……まあ、特別特訓していない普通の子供レベルぐらいか。)
「いくよ、ウルス!!」
俺が確認している間に、ローナは俺との距離を詰めてきていた。
そして、ローナは走りながら魔法を唱える。
「『アイスショット』!」
詠唱と同時に、洋神流の数弾の氷の弾が飛んでくる。
(中級のアイスショットか…………なら、これだ。)
「『炎の弾』」
俺は対するように和神流の中級魔法の炎の弾を、氷の弾にぶつける。
しかし洋神流魔法の特徴として、一度の発動に多くの数を飛ばすことができるというものがある。
そして、俺が使った和神流魔法は基本的に単発……威力はこちらの方があるものの、この状況では俺の判断は間違いだと見るのが普通だろう。
「1弾だけじゃ防げないよ!」
「知ってる。」
ローナの挑発にのうのうと返事をする。
その間に炎の弾は氷の弾を溶かしていくが、数発消したのちに消えていってしまう。そして溶けていった水は地面へと垂れ、小さな『水溜り』を作った。
「………………」
(………これでいい。)
何か企んでますね。
評価や感想、ブックマーク、誤字訂正などよろしくお願いします。
また、Twitterはこちら https://twitter.com/@SO_Nsyousetuka




