二十六話 学院
「はぁぁ!」
「もっと相手の行動を読め。先が見えれば自分の選択肢も増えていくぞ。」
「うん……はぁっ!」
ここに戻ってきて数週間経ったある日、俺はいつものようにミルと組み手を行っていた。
時期は冬の中頃。息は白く現れ、森に咲いている青い花も今は花を散らして、春の訪れを待っていた。
「できるだけ無駄な動きはするな、拳や蹴りで攻撃するのは魔法よりも随分簡単だが、その分狂いがあれば威力は無くなって次の攻撃にも繋がらないからな。」
「む、難しい……でも頑張るよ!」
「……その意気だ。」
この世界には魔法というものがある。魔法は距離があっても相手に攻撃ができるし、威力も自由自在だ。
しかしその利便性からか、今回の旅で見てきた奴らは武器を持たない時の近接戦が少し稚拙だった。
そして、俺は肉弾戦に強かった獣人族の動きや、俺の前世での記憶にある武術を混ぜてそれを今、ミルに教えているところだった。
(……まだ動きが硬いな…………お互いに。)
この世界は前世とは違って、何十メートルも飛び上がったり音速で走ったりもステータス次第でできてしまう。俺は基本的に前世での武術をベースにして動いているが……それも考えものだ。
加えて、俺の覚えている武術もあくまで素人目からの情報でしかない。
(約10年経った今………鍛える物は、ステータスだけじゃない。)
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「……それで、昨日言ってた話とは何ですか?」
組み手が終わり、俺たちは家に戻って師匠にそう聞いた。
それは昨日の夜、寝ようと部屋に戻ろうとしたところ……師匠に『明日、話がある』と言われたからだった。
「ああ…………時にお前たち、魔導学院に行ってみないか?」
「ま、魔導学院……? それって何ですか?」
「魔導学院って言うのは、将来国の兵士や魔道士になるためや、自分の力を高めたい人たちが通う学校みたいなものだ。」
「……どうしてまた急に?」
俺がそう聞くと、師匠はミルの方を見て言った。
「ウルスはともかく、ミルは街とか住んでいた孤児院から出たことがないだろ?」
「……確かに、昔も村の外に出たことはなかったです。」
「ならば、一度ここを出て広い世界を見てみたら……と思ってな。それに、ミルは同年代じゃかなりの強者だが…………上には上がいるものだ。魔導学院に通えばそんな奴らもきっといるだろう。そういう奴らと会ってみたいと思わないか?」
「………うーん……」
師匠の言葉に、ミルは頭を悩ませていた。
師匠の言う通り、ミルはここに来てからも街などには行ったことはない。今はそれでいいが、将来はいつかここを出ることもあるはずだ。その時に全く社会経験が無ければ困ることもあるだろう。
………だが。
「……それって、俺もですか?」
「ああ、もちろん。」
「………こんなことを言うのも何ですが、今更俺が通っても学べることはないんじゃ………」
俺は旅に出て、ある程度この人族の国のことも知っている。それに学院に通ったところで俺が新しく学べることはなく、ミルはともかく俺が通う理由が見つからない。
しかし……師匠は『違う』と言わんばかりに手を振っていた。
「そんなことはない。強いからこそ、弱かった時には見えてこなかった物もある。お前さんにだって通う価値は十二分にあるはずだ。それに……」
「それに?」
「……お前さんが行かないならミルも行かない…………だろ?」
「もちろんです!」
…………そんな胸を張って言うことなのだろうか……
(……しかし…………)
……学院に通うということは、師匠が居ない場で過ごさなければいけない事になる。もし俺がミルから目を離して何かあってしまえば………
「………ミルは、通ってみたいか?」
「うん、いつまでもここに閉じこもってたらダメだと思うし…ウルスくんは嫌なの?」
「………嫌じゃないが……」
「じゃあ行こうよ!私、昔から街に行ってみたかったし、ウルスくんが居てくれたらきっと楽しくなると思うんだ!!」
ミルは子供のように、目をキラキラと輝かせながら言った。
『どうだミル、もっと魔法やりたくないか?』
『…うん、もっと教えて!』
(………俺に、止める権利はないか。)
「……わかりました、俺も行きます。」
「よし、じゃあ少し魔道学院について軽く説明していくぞ。」
そう言って、師匠はその学院について説明を始めた。
この章は学院に行くまでの準備的な話です。
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