二十五話 受け継いで
「……終わりだ。」
「っ、ぐはぁっ……!?」
俺は飛んできたフレイムを軽く避け、霧の中にいるミルを見つけ、蹴り飛ばした。
そして、それが決め手となり……ミルの魔力防壁は壊れてしまった。
「魔力防壁は壊れたが……まだやるか?」
「………降参だよ。流石だね、ウルスくんは。」
そう言ってミルは霧を消して……息を吐いた。
そんなミルに俺は近づき、手を差し伸べる。その手をミルは掴んで立ち上がり、埃を払った。
「強くなったな、ミル。」
「いやぁ……でも、ウルスくんの方がよっぽど強いね。追い付けるかなぁ………」
「追いつけるさ、気長に修行………って。」
俺が話していたのにもかかわらず、ミルはまた俺に抱きついてきた。
「おい…………」
「えへへ〜ごめんごめん、つい…………」
そう言いながらも、ミルは抱きつくのもやめない。
「……ミル、そろそ……ろ……?」
あまりにも長い抱きつきに、俺は呆れてミルの腕を剥がそうとした……が。
「……………」
(……………ミル……?)
その体は………震えていた。
「ねぇ……ウルスくん。」
「…………何だ。」
「…………もう、居なくならないよね……?」
(……………)
「…………ああ。」
「約束だよ?」
「分かってる……ミルは心配性だな。」
「だって…寂しいのは嫌だから。」
「………そう、だな。」
……お互いに、『ひとり』を経験しているからこそ…………そのミルの言葉は重く、響き渡った。
だからこそ……俺は……
…………守らなければいけない。
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「………どうだった、ミルとの勝負は。」
「強くなってましたよ……流石です。」
次の日、朝早くに起きた俺は師匠と昨日のことについて話していた。
「まあな……しかし、ミルも頑張っていたよ。お前に追いつこうと必死にな。」
「そうなんですか?」
「大変だったんだぞ? お前が居なくなってすぐの頃は毎日のように俺に『ウルスくんはいつ帰ってくるんですか』って。落ち着いたと思ったら、今度は事あるごとにお前さんの部屋には…………あ。」
師匠はまずいと言わんばかりに口を閉じた。
……まさか、あの匂いは……
「…勝手に部屋に入っていたんですか?」
「い、いや。部屋の前をウロウロしていただけ……だ。」
師匠は目を逸らす。
(……見られて困る物は無いが…………)
………以前、ミルに盗み聞きしたことを咎められたことがあったような…………まあ、いいか。
師匠は誤魔化すように咳払いをする。
「そ……そんなことより、旅に出てどうだった?」
「どう、とは?」
「なんか色んなこと知れたんじゃないか?」
「色んなこと…………」
確かに色んなことがあった。
……色んなことといえば、最後の武器も壊れたしまったし………….その内また貰いに行くのも悪く無いな。
「……そうですね、いろんなことを知ることができました。」
「ほう? その話はまあ追々聞きたいが……とりあえず、これからはどうするんだ?」
「これから? ……ひとまず、何も決めて無いです。ステータスも上がって神界魔法を覚えた今、これ以上旅をする理由もないですし……ここで修行を続けますよ。」
「……夢がないなぁ、もっと子どもらしいのはないのか?」
「ゆ、夢って……見た目はともかく精神面では俺は大人に近いですし……」
夢も何も……俺は守るために強くなる以外は………
(………いや。)
「…………ありました、一つだけ。」
「……それはなんだ?」
「……父さんが残した龍神流の魔法を極める……………そして、それに俺自身の力を合わせて、最強の魔法を作り出す……それが、俺のやりたいことだと思います。」
「………そうか、なるほどな。いい夢だ。」
師匠は俺の夢を褒めてくれた。
(………父さんが何故龍神流魔法を作ったのかは分からないが………俺に教えてくれたのは、きっと俺に何かを期待をしてくれていた……はずだ。)
だから、俺は……受け継いでいく使命がある。
父さんの遺してくれた…………たった1つの物なのだから。
運命は、時に原点でさえ捻じ曲げてしまいます。
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