二十四話 蒼い霧
掲げられたアステールは、水色の輝きを放ちながら謎の蒼い霧を辺りに撒き散らせた。
(………何だ、あれは。)
確かアステールは俺と同じ、『神器』と呼ばれる特殊な武器だったはず。
神器とは、世界中の何処かに散らばっている特別な魔法武器で、まさに名の通り人智を越えた切れ味・威力と、魔法の根源を覆えすほどの力を持っている物……だと、師匠が言っていた。
師匠は世界中を歩き回っていくつかの神器を拾い集めていて、俺の武器もその1つだそうだ。
その神器の魔法だ……普通の魔法武器のように、単に自分の力を上げたりなどの平凡な能力ではないはず。
『風の槍』
「…………いけ。」
(さて、どうなる………)
俺は試しに中級魔法の風で出来た槍を作り出し、それを蒼い霧の中にいるミル目掛けて飛ばした。
「無駄だよ。」
(無駄………?)
その言葉の意味を考えるが先に、俺の魔法は…………無駄になっていた。
「……っ? これは……!」
風の槍が霧に触れる。すると、槍は霧に包み込まれて跡形も無く消されていた。
「…………その霧は、魔法を消すのか?」
「さぁ、何でしょう?」
俺の質問を、ミルはしたり顔で誤魔化す。
(神器の魔法………そして、霧は風の槍を消した……だとすれば……)
「『魔法を消す霧』……か?」
俺はミルに聞こえない程度に小さく呟いた。
……詳しくは分からないが、どうやらあの霧は魔法を無効化するといった……はっきり言って無茶苦茶なもの何だろう。
普通に考えたら、そんな馬鹿みたいな魔法なんて存在するわけない……と、言いたいところだが……アステールは神器。たまたま『風魔法だけを消す』や『弱い魔法を無効化する』みたいな能力に引っかかったわけではないはず。
(……俺の考えがあっているのなら、あの霧が発生している時は魔法の使用は無意味……)
「……教えてくれないのか?」
「勝負中だし、たとえウルスくんでも教えてあげられないよ。じっくり考えてね?」
俺の何も分かっていない演技を見てミルは優越感を感じたのか、顔に油断の色を見せてきた。
…….まだ、隙も多いな。
「……『フレイム』」
「それも効かないよっ!」
(………知ってる。)
俺は再び魔法を放つが、ミルの言う通り炎も霧に触れた瞬間に消えてしまう……
…………が、それは想定通り。
本当の狙いは……
「っ、近づいて……!?」
「見えてなかったようだな。」
「隠れて……うっ!」
炎の後ろに隠れながら接近していた俺は、それが消えた瞬間にミルを間合いに入れて、蹴りを喰らわせた。
その蹴りの威力は抑えていたため、軽くよろめく程度だったが……驚きと焦りに駆られたのか、ミルは慌てて手を突き出した。
「フ…『フレイム』!!」
(自分の魔法は使えるのか……)
霧の中にいるにも関わらず、ミルの魔法はそのまま俺へと届いた。発動者の魔法は関係ないと言うことか……?
「っ……!」
俺は炎を避け、剣を振るう。それに対して、ミルもレイピアで受け止めながら攻撃してくる。
「はぁ! やぁ! ……うりゃ!!」
(……焦ってるな。)
ブレブレなミルの剣技を、俺は軽く受け流していた………
「…………!」
「あっ………!」
……が、次の瞬間…………俺の剣にひびが入り、壊れてしまった。
(……流石に神器相手じゃ、普通の剣は耐えられなかったか。)
俺は一度距離を取り、霧から抜け出す。それを煽るように霧の中のミルが喋り出す。
「壊れちゃったね……こっからどうする?」
「そうだな……じゃあ、そろそろ終わらせよう。夜も更けて来たしな。」
「へへん、私だって鍛えたからそう簡単…に………
…………….えっ?」
俺は、前にいるミルを蹴り飛ばして、霧から抜け出させた。
「ぐぅっ……!!?」
「まだいくぞ。」
吹き飛んだミルは俺の言葉を聞き、すかさず立ち上がるが………もう遅い。
「き、消えっ……!?」
吹き飛んだミルの背後に再び回り込み、俺はもう一度蹴り飛ばそうとする。
「……後ろっ!!」
(…………今度は受けたか。)
しかし、ミルは寸前で俺に気づき拳を喰らったものの、受け身で威力を抑えた。
…………なら、次はこれだ。
「……っ、また後ろだねっ!」
三度後ろに回り込んでいた俺に今度こそ反応したミルは、レイピアを突き出してきた。
だが、俺はそれを軽く避け、ミルの肩に手を付けた。
「………はっ!」
「うっ!!?」
俺は発勁でミルを吹き飛ばす。これなら受け身で構えても威力は落とされない。
「ぐっ……!」
地面に叩きつけられたミルがそう零す。見たところ魔力防壁もそろそろ限界のようだ。
「………まだぁ…!」
発勁の攻撃は体にも効いているはず。しかも、結構強めに打ったつもりだったが……それでも立ち上がるとは。
(……霧が…濃くなった……?)
ミルが操作をしたようで、青い霧が俺を深く包んで視界を遮らせて来た。
そして………
「いけ、『フレイム』!!」
死角から、炎が不意打ちのように飛んできた。中々良い手だが………
(…………甘い。)
次元は彼も違ったようです。
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