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二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す   作者: SO/N
十五章 息吹く気持ち 『face』(冬の大会編)

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百九十七話 他人




「ウルスさん、あなたは不思議で謎だらけな人です。」

「……急にどうした、話術か?」

「いえ、そういうのでは……ただ、これまでのあなたの活躍っぷりを見てそう思っただけです。」



本戦の2回戦目、俺が舞台に上がるや否や、対戦相手であるアンクル=ロードがそんな話を投げかけてきた。


「活躍? ……何が言いたいんだ?」

「……入学当時は、さほど目立った様子はなく……空を飛べるという話は耳にしていましたが、強敵という印象はほとんどありませんでした。ですが……あのタール=カリストに勝ち、上級生上位(スプリア)でもあるルリア=ミカヅキさんにも善戦していた。」

(……そんなこともあったな。)

「そして、武闘祭では私たちを倒し、優勝…………噂によると、あの2年首席のクルイさんと互角の実力を持つと聞きました。それは本当ですか?」

「…………まあ、互角と言っても時間切れだったけどな。」


 …………もう、気にしないようにはしていたが……やはり、強さを見せれば見せるほどかなり注目度が高くなっていく。その結果、ロードのように勘ぐりを入れてくる人物は出てくるのは避けられないことだろう……良い気分では無いが。


「あなたの周りの人間もそうです。あなたと過ごす時間の多い人は特に目覚ましい成長を遂げている……現に、1回戦ではムルスさんに負けかけましたよ。」

「……ソーラは強いからな。それに、半年もここに居れば誰だって成長する……俺がどうとかは関係ない。」

「ですが、あなたはよく色んな人に指導をしているところを見かけます。次席のライナさんや首席のタール=カリストまで…………一体、何者なんですか?」


 ロードの疑問は至極単純で……しかし、その言葉の裏には何か別の意味合いを含むような感じも垣間見えた。


(……俺への興味…………だけじゃないだろうな。だとすれば、強さへの執着……ルリアと同じ感じか。)


 顔見知りの中で、まだ俺のことを何も知らないのはロードとキール……そしてフラン=ハートだ。もはや秘密とは言えないほどに知れ渡っている気もするが……未だ誰にもツッコまれていないということは、何とか俺のことは広まっていないと考えられる。


「何者か? ……仮に、俺が凄い奴だったとして、お前に何の関係があるんだ?」

「……マルク=アーストがあなたたちに敗れてから…………何か、学院の()()が変わったような気がします。そして、その渦中にいるのはいつもあなたです……だから、その意味を知りたいだけですね。『関係』と言われたら……何もありませんが。」

「………………」




『な、なら……私も一緒に、連れて行ってくれない?』




『………………それか……もう1つだけ、道がある。』






 …………頭痛がする。



「……お前が何を想像するのも勝手だが、生憎(あいにく)俺には()()()()。理由を求めるだけ無駄だ。」

「…………ならば、私が勝手に見極めます。あなたの強さと……その意味を。」

「…………好きにしろ。」


 雑念を振り払いながら、俺は剣を軽く構える。その動きに呼応するようにロードも薙刀を深く構えるが…………



『それでは、2回戦第1試合ウルス対アンクル=ロード……用意、始めっ!!!』



『ジェット』

「すぐ終わらせる。」

「……っ、来ますかっ、『マッドドール』!」


 開始早々、俺がジェットで突っ込むのに対し、ロードは泥の人形を2体作り出し、こちらめがけて突撃させてきた。


(……マッドドールの人形は単純な動きしかできない。空に浮かんでしまえばほぼ無力に等しいが……どのみち邪魔だ。)

「……潰れろっ。」

「…………!?」


 俺は泥人形たちの突撃を難なく避けながら、スピードを落とすことなくジェットの噴射でどちらも破壊する。そして、間髪なくロードとの間合いを詰め、彼の頭上から踵落としを繰り出した。


「くっ……最適化された動き、私にはとても真似できません!」

「お前は避けるのが得意らしいな……少し見せてもらおう!」


 ジェットを解除し、ひとまず俺はC・ブレードで適当に剣を振るっていく。すると、ロードは回避に徹底し始めたのか、攻撃を仕掛ける素振りもなく淡々と斬撃を避けていく。


(……滑らかに、かつ最小限の動きをすることで、自分の体力を温存しながら相手の状態を観察する……俺と少し似ているが()()な。)


 俺も、基本的に回避する時はあまり不必要な動きをしないようにしてるが……あくまで俺にとってソレは『選択肢』でしかない。だがロードにとって()()()()()は『不可欠』……前提なのだろう。


「…………攻撃を受けないのは最もだが……どうやって勝つつもりだ?」

「……戦いは、攻撃と防御の2つで動いています。その攻撃を無効化すれば……勝ち筋は自ずと見えてくるものです。」

「…………堅苦しいな、だから()()()()。」

「…………えっ、なっ!??」


 そう告げた直後、俺は地面の砂を掴んでからロードの目にかけてやる。すると当然、そんな砂遊びの被害に遭うと思っていなかったロードは慌てて目を瞑ってしまい、その結果……俺の手に薙刀が渡った。


「な、そんな……奪われた!?」

「よくある事だ…………ほら、返してやる!」

「あ、ありが……ぐはぁっ!!?」


 素直な彼に何とも言えない気持ちになりながら、俺は一切の容赦(ようしゃ)もなく投げ渡すふりをしてから1回転し、胴体へ投げ槍のように飛ばした。

 

「……騙し合い、言葉巧みに誘導するも勝負の要素だ。避けても通れない()()なんて……いくらでもある。」

『アサルトミスト』

「き、霧……くっ、魔力感知が……」


 ロードが立ち上がる前に、俺は舞台全体を白く深い霧へと包ませ姿を眩ませる。また、この霧は魔力の遮断効果があるため、俺含め互いに魔力感知での位置把握ができないといった状況へと陥っていた。


(……だが、結局ロードから動くことはない…………ならば。)


 俺は足音を殺してロードのすぐそばまで近寄り……()()()()()()()()()()


『フェイクユニット』

「……そこです!!」

「…………当たりだ。」


 しかし、ロードは濃霧の中で俺の気配を感じ取ったのか薙刀で俺を斬り伏せたが…………





「……『偽物』だがな。」

「なっ……()()()…………ぐはぁっ!?」


 俺()そう言い残して消えた瞬間に、背後へと回り込んでいた『本物』の俺はガラ空きな背中を蹴り飛ばした。また、霧を解除しながらもう一度フェイクユニットで自身の分身を生み出す。

 そんな異様な光景を目の当たりにしたロードは、体勢を立て直しながらこっちの行動に疑問を溢す。


「そ、それもオリジナル魔法ですか……!?」

「いいや、アサルトミストは封迷流(ふうめいりゅう)、フェイクユニットは進明流(しんめいりゅう)っていう流派の魔法だ……どっちも名前くらいは聞いたことがあるだろ?」

「ふ、封迷流に進明流……!? 確か、それぞれ精霊族と獣人族に伝わる魔法……ですが、学院では習わない魔法のはずでは……?」

「習わないからどうした、お前は習ったことしかやらないのか?」

「くっ…………!」


 俺の挑発に、ロードは苦虫を噛み潰したような表情をする。


 人族では、主に和神流と洋神流が主な魔法として扱われており、それは精霊族も獣人族も同じ認識として捉えられている。その理由としては、基礎的なものが多かったり、階級分けされているために学びやすいといった点がある。


 それに加え……さっきの2つほど有名では無いが、精霊族には封迷流、獣人族には進明流といった流派の魔法が主流として使われている。どちらも癖が強く要所要所でしか使えない魔法だが、上手く使えば柔軟性の高い勝負が仕掛けられる特徴がある…………ちなみに、ミルに使ったバインドチェーンは封迷流でもある。



「避ける技術だけでいえば、お前は頭ひとつ抜けているかもしれない……しかし、そんなものに(こだわ)ったところで勝ちには程遠い。」

「な、何を……根拠に…………」

()()()()()()()()もあるってことだ……こうやってなっ!!」

「ぐぅぁっ!!?」


 俺は分身と一緒にロードとの間合いを詰めてから、一度その分身の後ろに隠れる。そして、そこから剣を振るい…………つまり、分身ごとロードをぶった斬り、意表を突く形でダメージを与えた。


「な、何故分身を……ぐっ!!」

「……『流れ』が変わったんじゃない、お前が()()()()()()()()()()。周囲が成長していく中……お前は何も変えようとせず、今のやり方を貫こうとしている。」

「……………っ!」

「別に、どっちが正しいかなんて言いようは無いが……少なくとも、現状に疑問があるならまず自分を疑え。()()に答えを求めたところで、返ってくるのは…………」





『………ウルス、頑張れよ。』









「…………中身の無い、上澄(うわず)みだけだ。」

「………!!」


 ボロボロなロードは足掻くように再び回避行動を取り始め、まるで演武(えんぶ)かの如く軽やかにいなしてくるが…………リズムを崩せばすぐに破綻(はたん)する。


「ほらっ。」

「う、上着っ!? くぁっ……!??」


 俺は攻撃の合間に自身の上着を脱ぎ、ロードの薙刀に引っ掛かるように放り投げる。すると、ロードはいつも回避の際に薙刀のバランス感覚も利用していたようで、見事に重心がずれてその場で(つまず)いしまう。

 そのチャンスを俺は逃すことなく、絡まったコートを取り戻すと同時に引っ張って彼の背後に回り込み…………回転の力を込めた裏拳を食らわせ、魔力防壁を破壊した。



『……そこまで! この試合の勝者はウルス!!』












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

















(……な、何も……できなかった……)



 ……一撃も、与えることができなかった。これを完敗と言えず何なのだろうか。


「……じゃあな。」

「ま……待ってください、ウルスさん!!」

「…………まだ、何か言いたいことでもあるか?」


 試合が終わった途端に帰ろうとしたウルスさんに、私は反射的に彼を引き止めてしまう。


 その表情は…………上っ面だけの、無感情だった。



「……あ、あなたから見て……私は、一体何が足りないと思いましたか。」

「…………足りない?」

「はい、私とあなたの距離は……この勝負を得て、果てしなく遠いものだと思い知らされました。だから、どうすればあなたのような強さが…………」









「…………『何故』、お前は強くなりたいんだ。」

「………………えっ?」



 ……『何故』、とは…………



「何のため、誰のため……その理由を突き詰めていけば、自ずと分かるはずだ。」

「ど、どういう」

(たにん)に、答えを求めるな。」

(…………っ……?)


 聞き返す前に、ウルスさんから出た辛辣な言葉と共に…………どうしようもない()()が、私の心に響いてきた。




(な……何が…………彼は、何を背負ってるんだ……?)




 その意味を知る(すべ)は………他人(わたし)には、無かった。





 関係ない人間に、話すことはないようです。


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