百八十二話 支えられるように
「…………合体魔法? そんなの俺たちに必要か?」
「必要っすよ、せっかく組むことになったのにできることが少ないともったいないっすって。」
授業の無い休日、俺とガッラさんは訓練所でタッグ戦に向け、色々と模索していた。
「っていうか、聞きそびれたが……なんで俺と組もうとしたんだ? 言っちゃあれだが、そんなに仲良く無いだろ? 調査隊で初めて顔合わせたぐらいだし……」
「これから仲良くなればいいんすよ、それに……あなたの武器を扱う力は、俺が学ぶべき物っす。」
「学ぶ?」
もちろん、俺がガッラさんにタッグ戦を頼み込んだのは実力や実績を加味してのことだが……それ以上に、彼の二刀流という戦い方とその魔法の使い方が目に入ったからだ。
「ガッラさんの二刀流って、それ自体じゃほとんど魔法が使えないじゃ無いっすか。両手が塞がってるっすし。」
「まあ……そうだな。別に簡単なのなら気にせず使えるが、最上級以上は二刀流と並行しては使えないな。」
「でも、ガッラさんはあの武器に魔法を纏わせる方法でそれを強みにした……単純ですが、それがガッラさんにとって一番の選択っすよ。」
「これか? ……『武装・毒牙』」
ガッラさんはそう言って、調査隊の時にやっていた剣に属性を纏わせる魔法を発動する。すると、彼の剣は瞬く間に紫色の禍々しい魔力に包まれていき、触れただけでも痺れそうな毒の剣となった。
「確かに、これは俺がより二刀流を活かせるために開発したオリジナル魔法だ……でも、お前は魔法も普通に使うだろ? だったら別に俺から学ぶことはなさそうだが。」
「いやいや、むしろ俺だからこそ必要な物っす。そのためにもまずは合体魔法でも……」
「…………いや、やっぱりそれは無しだ。」
「えぇー? 何でっすか?」
俺は頑なに合体魔法の開発を拒否するガッラさんに、めんどくさい雰囲気を出して首を縦に降らせようとするが……それでも彼は了承しなかった。
「いいか? 今回はタッグ戦だけじゃない、個人戦もある。個人戦でできることはタッグ戦でもできるが、その逆はない……分かるか?」
「……つまり、合体魔法を作ってもシングルじゃ使えないから意味ないってことっすか?」
「そういうことだ。大体、お前みたいな人間は誰かと『合わせる』より『活かす』ほうが性に合うはず。それなら個々の力を高めていくほうが結果的に良いと思わないか?」
「……うーん…………」
『……そういえば、ウルスさん。作戦は本当にアレでいいんすか?』
『ああ……俺たちはまだお互いのことを深く知らない。下手に練るより自由なほうがいいだろ。それに………お前の戦い方的にも、こっちの方がいいだろ?』
『…………くくっ、なるほど……よく見てますね。』
……確か、ウルスさんと組んだ時にもそんなことを言われたな。あの時はまだお互いのことを深く知らないからこその策だったが…………案外、その『自由』が真理だったりするかもしれない。
「……じゃあ、その方向性で行くっすかね。だとしても最低限の連携の練習は必要っすし、まずはお互いの力を知るということで……勝負っす!」
「えっ、いきなりか? 別に構わないが……やるからには本気でいくぞ。」
俺の提案で、実力を測るためにそれぞれ剣を構えていく。
(気楽に……といっても、相手は上位3席。生半可な動きじゃ通用しないだろう。)
……しかし、俺だって成長は重ねている。二刀流相手なら…………あの攻撃方法を試すのにちょうどいい!
「そっちからどうぞっす。」
「ああ、じゃあそうさせてもらう!」
先手を譲り、早速ガッラさんは飛び出してくる。それに対し俺は後ろに足を動かしながら間合いの調整を測っていく。そして、彼の剣が届く距離になった瞬間……合わせるように短剣を振り切った。
「はぁっ!!」
「弾いて終わりだ、おらっ!!」
「おっと……でも、ここからっすよ!!」
大きく弾かれたと同時に俺はその勢いに逆らわず、俺は後退する。しかし、あくまで後ろへと働いている力は殺さず、上手く切り替えてそのまま加速と重ねて距離を一気に詰め、今度はこちらから剣撃を仕掛けた。
「それもだっ! ……なっ、またか!?」
「ほらほら、もっと速くなるっすよ!」
「くっ……!?」
放った剣は弾かれ、後退してからまた加速して攻撃を仕掛ける……そういった繰り返しでどんどん俺は動きを速めていく。このままいけば隙を突いて大ダメージを与えられるだろうが…………
「……『拡散爆』!」
「うわっ!?」
現状を打破するため、ガッラさんは自分の周囲から爆発を起こし、俺の攻撃を強制的に止めてきた。そしてそれは見事に成功し、元々剣に弾かれる勢いを利用していたこの動きは完全に殺され、立ち往生する他なかった。
「……利口な手段っすね。」
「お前の体力も考慮して止めてやったんだ、感謝してほしいくらいだな。」
「くくっ、余計なお世話っすよ。」
ふざけた文言に、俺は卑しく笑いながらも思考していく。
(……やはりと言うべきか、俺の動きには『無駄』が多い。下がる時間も前進する時間も……全て攻撃に費やすべきだ。)
ウルスさん曰く、俺の動きは『ヒットアンドアウェイ』と言うらしい。安全性と合理性を求めた、中々に正しい作戦だが…………どうやらそれは平和ボケに入るらしい。
『おおっ、よく分かったな。まあそういうことだ、だから逃げることも不可能……お前たちは結局死ぬしかねぇってことだ。』
『ふっ、大人だって学ぶんだ…………そして、子供はいつもそれを知らずに夢をみる。今も……自分が上だと信じ切ってな。』
『理由を考える前に、体でも動かしたらどうだ? お前が今ここで倒さなければこの場の全員……いや、世界中の人々が死ぬかもしれない。いつまでも泣き叫ぶ子どものままじゃいられないぞ?』
奴らなら…………神を相手にするなら、こんなあくびの出るような動きじゃ駄目だ。もっと、あの人を支えられるような……………
「……さぁ、試させてもらいますよ!!!」
「…………またそれか? 次は速くなる前に……なんだ?」
再び距離を詰め、自分の間合いに入った直後……ほんの一瞬、俺は片足だけでその場に止まった。そして、その際に生まれた反動を体の回転の力へと変換し、軸を持って斬りかかった。
しかし当然、ガッラさんは剣でそれを受け止め抑え込もうとしたが……もはや、俺は自ら衝撃を後ろへと動かし逆回転した。
「なっ、なんっ!?」
「これが……新たな俺の戦い方っす!!」
「くぉ、なにっ、どうな……!??」
剣を当て、触れた瞬間に生じる反動を素直に受け止め、体を回して加速を乗せた一撃を当てる。それが通じなかったらまた同じようなことを行い、更なる一撃を…………やがて、どんどんと速く、そして重くなっていく剣は俺のステータスを遥かに超えた代物へと変化していく。
「そろそろ……決めてっすねっ!!!」
「がふっ!!?」
超高速回転から繰り出された水平斬りは、ガッラさんの防御の間を縫って容赦なく当たり……舞台の壁まで吹き飛ばした。
「おおっ……我ながらすごい威力っすね。これなら神も…………」
「…………『武放・沼酔』!!」
「……えっ、ぐわぁっ!??」
そんな感嘆も束の間、すぐさま何か毒の塊……いや、斬撃がこちらへと飛ばされ、すっかり油断していた俺はそれにやられ魔力防壁を傷つけられてしまう。また、してやったりとガッラさんは巻き上がった砂埃から飛び出してこちらを嘲る。
「……それは、毒牙の遠距離版ってとこっすかね。流石に効いたっすよ。」
「俺だって、調査隊で散々学ばされた……できることは多くて損はないだろ?」
「その通りっすね……なら、これならどうっすか!?」
『苦無ノ舊雨』
俺は倒れながらも無詠唱でお得意のヤツを放つ。昔は発動に時間もかかっていたが、今では瞬時に放てるほど成長した……まあ、最近はこの魔法もあんまり通用しないが。
「『武装・毒牙』、これくらいじゃ、俺は倒せないぞ!!」
「重々把握してるっす……よっと。」
雨に打たせている間、俺はのうのうと立ち上がって終わりの準備を進めていく。
「さて、そろそろ幕引きといきましょう。大会に向けての特訓もしたいっすしね。」
「はぁ、はぁ…何言ってる、まだ俺は………!?」
『囲牢ノ靁』
クナイの雨が降り終わり、ガッラさんが何かを言うが先に……既に、彼の足元には巨大な魔法陣が現れていた。そして、瞬く間に雷の檻が彼を閉じ込めていく。
「今回は俺の方が上手だったっすね……はぁっ!!」
「く……がはぁっ……!!」
電流が各方向から流され、ガッラさんの魔力防壁を削っていき……あっという間に破壊した。
『忍流・表? それってなんでしょうか?』
『俺の家計が代々継いでる自己流派魔法っす。少々癖があってまだ俺も完璧に扱えるわけじゃないっすが、これを上手く改造すれば面白い魔法ができると思うんすよ。』
『へぇ、でも一体どういう魔法にするのですか? 僕自身、今まで魔法を作ろうと思ったことがないので、いまいちピンとこないというか……』
『俺にいい案があるんすよ。ほら、初めて俺たちが戦った時の…………』
(……閉じ込められるっていうのは、想像以上に便利っすね。まあ、転移されたら元も子もないが。)
この魔法は以前、俺たちがカーズさん・ソーラさんと戦った時にウルスさんが行った、グラウンドウォールで相手を閉じ込める作戦を元に作成したオリジナル魔法だ。作った当時は発動にかかる時間が馬鹿にならなかったため使ってこなかったが……今となってはそれも気にならない。
「つ……強くなったな、ニイダ。武闘祭の時も思ったが、お前の戦い方は癖が強くて掴みどころがない……やっぱりタッグ戦とかは向いてないんじゃないか?」
「ちょっとちょっと、人聞きが悪いっすね。俺は誰にでも合わせられる万能型っすよ? ……それよりガッラさん、いいこと思いついたっす!」
「いいこと?」
『龍を倒す……じゃあな、戻ってくるなよ。』
………………。
何か、企んでいるようです。
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