百七十五話 ゴッド・インカーネーション
「なんだ……あの姿は。」
「グランの化身流……じゃあなさそうだな。だがあの気配はまるで……」
「……龍、そのものだな。」
眼下で驚愕している彼らは、まじまじと今の俺の姿を観察する。
『また、我に深く干渉したことによって、その体に刻まれた……あるいは目覚めただろう。その力も人を超えたもの……扱いには注意することだ。』
あの時、俺たちは特別な力……『龍の魔力』を受け取った。これは、人間や他の生物が持つ従来の魔力とは似て非なる存在であり、魔力の質や潜在している力は底知れないものといえる。
そして今、俺が発動した龍翔神舞という魔法は、元々持っていた俺の魔力と龍の魔力を掛け合わせ、体にオーラとして纏わせる魔法である。
「…………『真・龍神流』……これが、俺が目指した魔法です。」
「…………………。」
「…………いきます。」
軋むような胸の痛みを無視しながら、炎のように揺らめく紫の混じった黒いオーラを纏った腕を、俺は軽く振り払う。するとそこから黒い衝撃が3人目がけて飛んでいき、当然彼らは迎え打とうとするが…………
「任せてください、『サイクロンストーム』……なっ!?」
ガラルスが放った破壊級の威力重視の風魔法はこちらに対抗するように向かってくるが、黒い衝撃波はまるで何も無かったかのようにそれを破壊し、止まることなく走っていく。
「『エクストラ・レイ』っ、駄目だ避けろ!!」
「無駄ですよ。」
続いて放たれた光線も貫通し、慌てて回避行動を取る彼らだったが、俺は衝撃波を操作してそれを防ぐ。そして、逃げるのは不可能だと悟ったのか、グランはその場で立ち止まって魔法を発動した。
「断て、『陰陽成る光影』………ぐはぁっ!!??」
「グランっ!!」
(…………ギリギリ生き残ってるな。)
化身流が上乗せされた神威級魔法ですら大した効果はなく、そのままグランは衝撃にやられ訓練所の壁へと激突する。だが魔法が緩和剤となったのか、どうにか一撃でやられずに済んでいた……流石に舐めすぎたか。
「いけっ、アヴニール!!」
「…………効きませんよ。」
ぼんやりとその状況を眺めていると、今度は背後から巨大な緑光の斬撃が飛んでくるが……それも俺は手で掴んで破壊した。
「んなっ………馬鹿な、どれほどなんだ……!?」
「さぁ……比べる物がないので、分かりません。」
「へっ、神器も神威も子供扱いってか……ほら起きろグラン!!」
「わかっ、てる……おらっ!」
壁を破壊して埋まっていた体を取り出したグランは、俺を見て口元をぎこちなく緩ませる。その表情に……何も感じることはなかった。
「…………どうかしましたか。」
「いや……いつから、こんなに差が開いたんだろうなって。昔は俺の方が強かったのに、今じゃこんな有様……このままじゃ師匠失格だな。」
「…………師匠は、ずっと師匠ですよ。」
いきなりな発言に首を傾げながら、俺はただの本音を告げる。
「俺はあなたに教わったから、ここまでこれた……力が逆転しても、立場は変わりませんよ。」
「…………『立場』、か。」
「ええ、だから……全力をぶつけさせてもらいます。」
手を掲げ……オーラをそこに集中させ始める。すると、オーラはとんどんと収束していき、やがて手のひらから混沌とした巨大な黒き球が現れた。
「この魔法は絶対に、あなた方にはどうすることもできない。なので、逃げるか立ち向かうかは……任せます。」
「……あれは…………流石にやべぇな、下手すりゃ死んじまうぞ。」
「どうしますか……グランさん。」
「…………決まってるだろ。」
そう言って師匠は今一度、地面を踏み締め……弟子の目を見て言い放った。
「来い、ウルス。俺たちの全力で……お前を受け止めてやる!!」
(……あの武器の気配は…………)
グランは黒球を前に、何故か異様な気配を漂わせ続けている短剣を空へ掲げ、途端に赤く光らせ始めた。魔法武器……というにはあまりにも、まさか…………
「クラプスキュール、放てっ!!!」
「ん、何やってんだグラ……うぉっ!?」
「これは……強化魔法、ですが触れてもないのに……」
「前に言っただろ? 『習得している物がある』って、これのことだ。進化させるのに2ヶ月かかったが、おかけで俺も神器使いだ。」
「「…………え?」」
突然のカミングアウトに、2人は驚きを隠せず口をだらしなく開けていた。また、それは俺も似たようなもので……たった2ヶ月で神器を進化させていた事実に、心中驚愕をする他なかった。
「……その武器の名前はなんですか?」
「これは倫靭剣 クラプスキュール、俺がこっそり練習していた神器だ。そして完全体となった神器魔法『シャロン』は、任意の存在のステータスを無条件に上げる強化魔法だ。」
「に、2ヶ月って……儂の場合は何年もかかったんですよ!? いくら何でも早すぎでは!?」
「はぁ……私たちの努力を返してほしいもんだ。」
おそらく神器を進化させるのに色々なことがあったのであろう2人は、彼の御業に混乱していた。実際、俺も龍器ではあるが10年はかかった……流石、師匠と言わざるを得ないな。
「……でも、それくらいじゃこれは止められませんよ。」
「だろうな、しかしこれはあくまで下準備……2人とも、あの『技』をやるぞ!!」
「あの技……アレをやるのか? けどアレは5人じゃないと最大威力は出ないぞ?」
「ですが、確かに儂たちが今出せる最高の攻撃はアレしかないですね……やりましょう!!!」
(……何をする気だ?)
何の技か分からないが……俺はそれが気になったため、完成するまで待つことにした。別に彼らを待つ必要はないが……せっかくだ、その最高の攻撃と見ておかなければ。
「行きますよテルさん……はぁぁっ!!」
「おうっ、『エクストラ・レイ』!!」
(神器魔法を……ぶつけた?)
すると、何やらガラルスはアヴニールの魔法をやたらめったらに発動し、何故かそれらをテルの方へと飛ばしていく。また、その斬撃に彼女はクネパスの魔法をぶつけさせ、1つの小さく不思議な色をしたブロックへと変形させた。
「全力には程遠いが……グラン!!」
「ああ、準備はできてる……はぅ!!!」
(…………え?)
作り出されたブロックはそのままグランの方へと向かっていき…………それを、彼は口の中へと入れた。
「魔法を……食べた?」
「これが、俺たちの究極魔法だ……うぉぉっ!!!!!」
「っ………!?」
グランは咆哮を轟かせ、元々発動していた化身流の黄色い光を大きく震わせた。その結果、光は徐々に先ほど咀嚼したブロックと混ぜ合わせるかのように変色し……やがて光は体から離れ、人のような何かを形成する。
「化身……なのか?」
「『ゴッド・インカーネーション』……さぁ、お前の魔法を見せてみろ!!!!」
………………面白い。
「……わかりました。でも、その程度じゃ通用しませんよ。」
事実を述べながら……俺は腕を振り下ろした。
「…………吹かせ、『玲瓏龍華』」
黒は、光を飲み込んでいった。
魔法の次元を超えた戦いです。
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