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二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す   作者: SO/N
十三.五章 叶うなら

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百七十二話 ずっと

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「……2人とも、そろそろ寝てもいいぞ。あとは俺が見張っておくから。」

「え、いいんすか?」

「ああ。俺はもう何度も野宿したことがあるから慣れてるが、2人はそんな経験ないだろ? 体力を温存するためにも、早めに寝ててくれ。」

「だったら……甘えちゃおうかな。おやすみ、ウルくん。」

「なんかあったら起こしてくださいっすよー」


 夜も更け、俺は明日以降のことも考えて先にラナとニイダを寝かせる。そしてぼんやりと燃ゆる焚き火を眺めながら、仲良く一緒に(くる)まって寝ているハルナとミーファの元に座り、ステータスを確認した。




名前・ミーファ

種族・精霊族

年齢・14歳


能力ランク

体力・170

筋力…腕・155 体・130 足・160

魔力・304


魔法・20

付属…なし

称号…【魔法の才】

   【獣霊流継承者】(獣霊流を習得した者に贈られる)






名前・ハルナ

種族・獣人族

年齢・14歳


能力ランク

体力・247

筋力…腕・281 体・200 足・247

魔力・141


魔法・14

付属…なし

称号…【力の才】

   【獣霊流継承者】





「…………強くなったな、2人とも。」


 どうやら俺が彼女たちに出していた特訓メニューは未だに続けているようで、すでにその強さは同年代よりも遥かに強くなっていた。ここまで強いと、もう他の冒険者と合わせるのも一苦労しそうだな…………


「……むぅ…………これぇ……からい……」

「……変な寝言だな。」


 何か食べている夢でも見ているのか、ハルナは相変わらず(よだれ)を垂らしながら幸せそうに眠っていた。そんな彼女に苦笑(くしょう)しながら、対照的に一定のリズムで静かに寝ていたミーファの様子を見る。


「………………」

(……『いかないで』、か……)


 …………あの時の俺は……本当に、選択を間違えていなかったのだろうか。















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

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「……ひとまず、服はそれでいいな。質素かもしれんが、今は我慢してくれ。」

「「………………」」


 奴隷として扱われていた獣人族と精霊族の2人を保護した俺は、急拵(きゅうごしら)えの衣服を着せて再び適当な森へと入る。そして、ある程度の深さまで入った後……ボックスから紙と筆を取り出した。


「…………な、に……を………?」

「お前たちには自立できるように、体を鍛えてもらう。だが、俺も自分の修行をしなければいけない……だから、今から書く特訓のメニューを確認しながら各々でやってもらう。最初の内は厳しいかもしれないが、できる限りでいい。」


 そう言って俺はそのトレーニングの内容が簡単に書かれている紙を渡す。そのメニューはどれも師匠から受けた物の簡易版だが、それでも十分な効果はでるはずだ。


「今日はもう遅いから、上の1行だけ試してみてくれ。色々あって疲れてるかもしれないが、まずは……」

「…………あ、ぁ…の……」

「なんだ?」

「………………」

(……………?)


 あれこれ指示を出していると、不意に精霊族の方が小さく声を出す。それに俺は聞き返すが、何故か返事は返ってこず……ただただ身体を震わせるばかりだった。


「……どうした、言ってくれないと分からないぞ。」

「ぇ……や、よ……ない、です……」

「………えっ?」

「そ、の…………読め、ない……で、す……」

「読めない? ……字が汚かったか?」

「ち、ちが…………読み…()()、が……」

(…………………)



 …………そうだ。彼女たちは……ついさっきまで奴隷だったんだ。今までどういった環境に置かれていたか、見当もつかないが……きっと、文字を覚える暇も自由もなかったのだろう。


「ごめ…ん、なさ……い………!」

「な……なぐら、ない……で……」

「…………落ち着け、殴ったりなんかしない。」


 これまでの癖……いや、周囲の反応がそうだったのか、2人は痛みに耐えるために身体を縮こませる。そんな彼女たちの姿がとても虚しく……警戒を解かせるよう声をかけた。


「もう、お前たちは自由なんだ。今は分からなくても時間をかけて学んでいけば良い……じゃあ、今日は文字を覚えるか。」

「「…………はい。」」



 …………………むず痒い。
















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「…………それじゃ、飯にするか。お前たち、今までまともに食事は……とってなかっただろうな、なら……」


 日も暮れ、俺は食事の準備を始める。本当なら街の飯屋にでも連れて行ってやってもいいが……今までろくに食べたことがないのなら胃が弱っているはず。しばらくは刺激の弱い食事を取らせたほうがいいな。


「食材を準備するから、お前たちはそこら辺に落ちてる枝を拾ってきてくれ。」

「……はい………」

「…………………」

(……………?)


 俺の指示に獣人族はふらふらと向かっていくが、何故か精霊族の方は黙ったままその場で固まってしまう。そんな様子が気になった俺は調理しながら彼女に話しかける。


「どうした、疲れたか?」

「…………どう、して……」

「…………なんだ。」

「どうして…………わたし、たちを……助けて、くれたの……ですか?」


 未だに辿々(たどたど)しい口調だったが、少なくとも今日の中では一番はっきりとした声で彼女は、俺に疑問をぶつけてきた。


「てき、だった……のに、なんで………どうして……」

「……俺の思う敵っていうのは、本気で殺しにくるような奴らのことだ。そんな奴らに利用されて無理やり向かってくるような人間は、同情する相手に他ならない。」

「……どう、じょう…………」


 その言葉に何かを思うところがあったのか、彼女は顔を暗くして俯いてしまう。


「…………………」

「…………………」

「…………………」

「………っ……」


 会話もなく、無言の時間が流れるが……彼女はその場から逃げようとはしなかった。そんな気力もないのか……それとも…………




「…………確かに、俺が助けた理由はそれだけだ。だが……一度拾ったからには、最後まで面倒を見る。お前たちが強く生きていけるようになるまで……絶対に、見捨てたりしない。」

「……………!」

「だから……不安そうな顔をするな。あいつも心配するぞ。」


 そう言って顔を上げると、いきなり見られて驚いたのか目をギョッとさせていた獣人族の彼女が枝を抱えて立っていた。しかしそれも一瞬だけで、すぐに俺の元に来て腕の中にあった物を見せてきた。


「…………これで、いい……です…か?」

「ああ、そこに固めておいてくれ……よし、もうすぐだ。」


 ボックスから追加の火種を出してから火をつけ、鍋の中の食材をかき混ぜていく。今日は2人の分だけなので味も薄めだが……それは仕方ないだろう。


「「………………」」

「……座ってもいいぞ、そこじゃ寒いだろ?」

「「……はい…………」」


 いつも2人で生きてきたからか、同じタイミングで返事をしながら火を囲んで暖まるように俺の対面に座る。

 それからしばらくして料理が完成し、2人の分を器に注いで渡していく。


「熱いから気をつけろよ。」

「……食べて、いいん……ですか。」

「当たり前だ、遠慮なんてする必要ない……好きな分だけ食べるんだ。」

「「……………!!」」


 そんな俺の言葉が皮切りになったのか、既にずっと空腹だったであろう彼女たちはダムが決壊したかのように、器に入ったシチューをがむしゃらに流し込む。

 その食べ方に品も正しさの欠片も無かったが……そんな(くだ)らないことを告げる気分にはならなかった。



「……ゆっくりでいいからな。」



 やるせなさだけが、背中を撫でた。
















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(…………あの時は、嬉しかったな。)


 近くに居るであろう彼の……ウルス様の気配を感じながら、そんな日のことを思い出していた。


(あれから、3人で旅をして……色々教えてもらって…………辛いこともあったけど、本当に楽しかった。)


 助けてもらってからも、悩んだり苦労することは星の数ほどあった。過去の…………奴隷としての日々も、私たちが()()()()生きるためには、どうしても足枷(あしかせ)にしかならなかった。




 今も、それが全て()えた…………いや、そんな日は一生来ないのだろう。過去の記憶は……もう、変えられないのだから。




(……それでも…………ウルス様が、ハルナが居れば……笑って生きていける。それだけで……十分。)


 今は、ウルス様と別れてしまったけど……会おうと思えばいつでも会える。(かな)うなら、もっと一緒に旅をしたいけど……あまり無茶を言ったらダメだ。




「……………ずっと…………」







 こんな日々が、続けばいいな。





 続きません。


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