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二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す   作者: SO/N
十三章 龍と仮面

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百六十九話 ココカラだ!

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「…………ところでな、ウルス……お前の神器を見せてくれないか?」

「神器? ……分かりました。」


 あらかた作戦も決め終わり、今度こそ院長室を出ようとしたところ……またもや学院長にその足を止められ、俺の神器である『アビス』を見せろと言われる。それに対し俺は疑問符を浮かべながらも球体のまま彼へ手渡した。

 学院長はアビスをペタペタと触りながら、何やら難しそうな顔をしていた。


「……やっぱり、()()()のか……」

「あの時? 何の話ですか?」

「……あぁ、確か聞かされてないんだな。ウルス、この武器はな……正確には神器()()()()()()。」

「…………えっ?」


 いきなりの事実に、俺は声を上げざるを得なかった。


「いや、でも……グランさん、師匠が『これは神器だ』と……」

「それは、わざわざ説明する必要がないと思っていたからだろう。実際、お前の武器は神器とほとんど変わらないからな……ある『一点』を除いて。」

「一点?」


 そう言って、学院長は俺にアビスを見るよう動かし、まるで剣を持つような構えをする。おそらく変化させるつもりなのだろうが…………


「…………? 何をしてるんですか?」

「……儂は今、お前さんみたいにこれを剣に変えようとしてるんだが……見ての通り無理だ。」

「無理? 無理って……神器の能力は誰でも使えるのでは?」


 俺の質問に、学院長は首を横に振った。


「……そもそも、神器というのは世界のあちこちに存在している、常軌(じょうき)(いっ)した武器のことだ。これを手にした者はその恩恵を得られる…………()()()、だ。」

「……けど、俺の神器は…………」

「そう、お前の神器は20年前……儂たちが倒した相手、()()()()()()()()物だ。」

「…………え、お……『落とした』?」


 次々に話される真実に、俺はおうむ返しをすることしかできなかった。


「ああ、儂たちが倒した直後、ドラゴンは(もが)きながらその場にこの球体……『アビス』とやらを落として消えていった。もちろんその後、儂たちは直感でそれが武器だと信じ、どうにかして扱おうとしたが…………誰も使えなかった。」

「……つまり…………俺の神器は龍から生まれ、他の誰も扱えない特殊な物と……」

「そうなる。なぜお前だけが扱えるのかは分からないが……使える以上、グランさんはそれをお前に託したんだろう。見たところ、お前が一番上手く使えそうな能力だしな。」

「そう……ですか。」


 褒め言葉なのだろうか、学院長は俺を見て軽く笑うが……俺は何とも言えない返事をしてしまう。

 すると、そんな様子の俺に気づいたのか、彼はこちらを(いぶか)しんだ。


「? どうした、何か思うことでもありそうだな。」

「…….俺はまだ、こいつを……アビスを完全に扱えていません。」

「そうなのか? ……まあ、『称号』にもないし、そいつが()()()ではないのは一目瞭然だが。」

「……………?」


 称号……完全体……??


「……どういうことですか?」

「ん? 知らなかったか? お前さんの武器は知らんが、少なくとも神器というものは()()する。儂の称号に変なのがあるだろ? それが神器を己の物とし、完全体神器を手にした者に贈られるんだ。」

「……この、【未来の使い手】というやつですか。」


 ……今まで、これが何を意味するのか全く分からなかったが……そういうことだったのか。


「完全体となった神器は、より一層強く、異常な力を発揮する。それも神器と同じ気配を出している以上、進化する可能性も十分あるだろう。」

(進化………)



『…………()、が………こんな……だったか……』


 

 ……確か、鬼神化を発動させた時、アビスの色が変化していたはず。あの時の記憶は曖昧(あいまい)(さだ)かではないが、あれが進化の前触れなのだろうか。


「…………学院長は、いつ神器を進化させたのですか?」

「いつ……か。昔のことだからな、具体的なことは覚えてないが…………1つだけ、確かなことがある。」


 学院長はアビスを机の上に置き、今度は自身の神器……アヴニールを取り出し、言った。



「神器が進化するまで……儂は迷っていた。自分にできることは何か、何を成したいのか…………そして、その結論が出た。」

「………………」




「誰か守るわけでも、誰かを倒すわけでもない。儂は……人を導き、照らすこと。それが……儂の使命だと心に決めた瞬間、神器は応えてくれた。」

















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
















 ………………俺は。





(⬛︎⬛︎)(⬛︎)(⬛︎)(⬛︎⬛︎)



「…………えっ……飛んで……!!?」

『……………ホウ………』



 瞬間、俺の体は動き出し……ラナを抱えて空を飛んだ。その速さは普段よりも数段…………いや……これは………?


(……何か、()()。この感覚………)

「ウ、ウルくん……目が、()()()よ……?」

「…………なに?」


 抱えているラナがどこか恥ずかしそうにしながら、俺の目について言及した。


「…………『黄色』……何か、魔法が勝手に発動したのか……?」

「そ、それより……来るよっ!」


 困惑も束の間、空に浮かんだ俺たち目掛けて龍が超スピードで突っ込んできてい……て………?


(…………………()()?)

「わ、私も…………きゃっ!!?」


 先ほどまで相当な速さに見えていた龍の動きは、何故か今はかなり遅く……俺は軽々と避けれてしまった。また、続いてやつは俺たちを撃ち落とすため迫って来るが、それも簡単に回避していく。


「手を抜いた……いや、そんなわけは………」

「ウ、ウルく………うわぁっ!!?」

「……しっかりつかまってろ。」


 超高速のやりとりにラナが悲鳴を上げるが、今は止められないため、片腕で力強く抱き寄せながら動いていく。


『……ウゴキが、変わった……ココカラだ!』

「………………悪いが、()()()()。」


 不気味に喜びを見せる龍だったが……俺はそれに応えることは無かった。


「っ、転移…………って、あれ……ウルくんの武器が………」

(…………まさか………)


 剣へと変えていたアビスを握りしめると、その瞬間…………謎の白い輝きに包み込まれ、実体を隠していく。そして、その光が明けた頃には……新たな姿へと進化していた。


「…………『テラス』、これが……進化か。」

「えっ、進化……? って、また来るよ!」


 遠くへと転移した俺たちを追いかけ、龍はその巨体をぶつけようと近づいてくる。それに対し、俺は進化した神器……テラスを手のひらに乗せ、形を変えていく。


「ウルくん、避けないと……!」

「大丈夫だ……もう、これで()()()。」

「え……決着……?」




 …………進化した理由は……今は、いい。ただ…………俺は……………




「『………………見失うなよ。』」




「……………ああ。」

『………ッ、()()は………!!?』



 変化したテラスを握りしめ、指を引き金にかける。その狙いは……やつの頭だ。



「…………死んでくれ、龍。」


 指を引き、風船が割れたような音が鳴り響く。その結果…………



「ガッ………グギャァァォオオオァァッ!!!!!」



 俺の放った数発の凶弾は……いともたやすく、龍の脳天を貫通した。














ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー














「っ…………って、あれ……?」


 ドラゴンと激突しそうになった直前……ウルくんの放った謎の玉? が相手の魔力防壁と頭を貫き、吹き飛ばした。


「…………死んだか。」

「し、死んだ……!? 今、ウルくんは何を……」

「…………『これ』で、あいつの頭を撃ち抜いた。それだけだ。」

「う、撃った………?」


 ゆっくりと地面へと落ちていく中、私はウルくんにさっきまで光っていた彼の神器を見せてもらう。それは…………見 た こ と の な い 形 を し た 、道具だった。


「…………拳銃(けんじゅう)だ。ただ敵を殺すためだけに造られた……殺人道具だ。」

「………………聞いたこと、ない……」

「だろうな…………ぐっ……!」

「ウ、ウルくん……!!」


 墜落したドラゴンの横に降り立った私たちだったが、それと同時にウルくんは苦しむようにその場で(うずくま)ってしまう。そして、戦っていたダメージがあったのか、口から血を流し始めていた。


「『ヒーリング』……これしかできなくて、ごめん……!」

「…………いや…………くぅ………うぅ…………」

「っ、ウルくんどこがいた…………い………」


 今まで聞いたことのないうめき声に、たまらず私は彼の顔を覗き込むが…………その顔にはただ、涙でいっぱいだった。





『よし、じゃあ早速やるぞウルス!!』

『ウルくん、頑張って!』



『うん……頑張るよ!!』





 その顔を見た瞬間、私の口からも嗚咽(おえつ)が自然と溢れて、こぼれてしまう。


「なんで…………どう…して………おれは………なにか、まちがって………」

「……ウルくんは……なにも………うぅ……!」

「とうさん………なんでだ、なんでなんだよっ…………!!」


 地面を打つ拳はとても重々しく、地盤を軽く揺らしてしまうほどだったが…………握り込む力なんて、もう……無かった。


「…………ごめん………ラナ……ぜんぶ、ぜんぶ………」

「ウルくんは……悪くない…わるくなぃ………!! きっと、おじさんに……何かあったん、だっ………」

「……………ごめん……ご…めん………!」


 感情を抑えられず…………彼は泣くことしかできなかった。今までの全てが揺らされ…………あの頃の、絶望の日々が蘇るように、何もかもが怖くなってしまう。



 もう、方法は無いのだと。失って、それでも僅かな希望として、支えとして生きてきた過去は…………跡形もなく打ち消されたのだから。



(……………………なにも………できなかった……)



 私も、彼の横で泣くことしかできなかった。考えることが……………考えたくなか……………



















『……………礼を言う、認められし者たち。』

 







 ここからです。



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