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二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す   作者: SO/N
十三章 龍と仮面

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百六十八話 『守る』

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「…………今、なんて……?」


 私の言葉が信じられなかったのか、ミーファさんはその宝石のように綺麗な翡翠色(ひすいいろ)の瞳を大きく見開かせていた。また、それはハルナさんも同じようで、私の正気を疑うかのように顔を引き()らせていた。



 そんな彼女たちに……私はもう一度、自分の意志を伝えた。



「私を、ウルくんのところに転移させて……ミーファさんならできるよね。」

「……な、何を……しに行くつもりですか。まさか……あの人を、ウルス()を助けに…………?」

「違うよ、私は…………()()()()()んだ。」

「……………無理です……!」


 彼女はそう言って私の肩を掴んで揺らす。その揺れは……心にまで届いてきた。


「ウルス様は『戻ってくるな』と、ライナさんも聞きましたよね……その()()が、解っているんですか……?」

「わかってる、でも……行かないといけないんだ。」

「なら、なおさらダメです!! 仮面たちとの戦いを見て感じたはずです……それがドラゴン相手なら、もはや私たちに何もできることなんてないって、解らないんですか!!!?」


 今までに見せたことのない、鬼気(きき)迫る表情が……私の体を強張(こわば)らせる。そして、追い討ちをかけるようにハルナさんも焦った様子をみせていた。


「ミーファの言う通りだよ……ドラゴンは英雄5人でやっと倒せた相手なんだ、私たちができることなんて何もない。」

「そうです、なのになぜ今更あなたは……ここはウルス様の指示に従わないといけないんです!!」

「お、落ち着け! 今はそんなこと………」

「…………大丈夫です、クルイさん。」


 言葉が強くなっていく私たちを静止させるため、クルイさんが間に入って来ようとしたが……それを私は止めた。


「……2人にとっては、ウルくんは何でもできる人……そう思っているんでしょ? どんな時も諦めず、どんな相手にも勝てる世界最強の人だって……………」

「事実です、あの人にできないことはない……そして今、ウルス様の指示が的確で正しい。例え倒せないとしても、私たちが英雄を呼び出す時間は十分に…………」

「確かに、時間は稼げると想う……でも、それまでに彼が()()()()()なんて、誰が保証できるの。」

「……………っ!!」


 それを彼に対する侮辱(ぶじょく)と捉えたのか、ミーファは私の魔力防壁を削らんと言わんばかりにより一層、肩を掴む力を強めた。


「じゃあ……あなたが戻ればすぐに解決するんですか? まだウルス様が負けたかどうかも分からない、いやそもそも負けるはずがないんです! ライナさん、あなたはどうしてそんな考えを」






「そうやって、私は()()失ったから。」

「…………え……」

「…………………()




 …………ミーファさんが、正しい。今更、私なんかが行ってもすぐにやられて……殺される可能性しかない。


 ウルくんにも怒られるだろう。『何で戻ってきたんだ、帰れ』って…………普段なら、私もこんなことしない。






『…………とう、さん…………』





 でも、今回は…………()()は、違う。



「あの日、私は泣くことしかできなかった。泣いて、泣いて……追いかけることしかできなかった。でも、泣かずにすぐ戻って……必死になって、誰かを探したら…………ウルくんは、独りぼっちに……もしかしたら、ならなかったかもしれない。」

「あの、日………?」

「…………ウルくんは、ずっと独りで戦ってきた。誰かを、大切なモノを守るために…………本当に、ひとりで。2人なら……わかるでしょ?」

「そ、それは…………」

「私もそれでいいと思ってた。ウルくんは強くなって、もうひとりでも大丈夫……そんな『間違い』を犯しそうになってたんだ。」

「間違い………?」


 彼女の手をゆっくり離させて、その冷たい手を包み込む。


「昔から、そうなの。私を(かば)って、独りで全部背負い込んで……人には心配をさせないように嘘をつく。それでも昔()()…………ウルくんは笑えてた。」


 



『……諦めたくないんだ、僕は。』




「でも、学院に入って、ウルくんを……()()()()()を見てきたけど…………全く、()()()()()()()()()。」

「…………俺も、そう感じましたよ。」


 ニイダくんが、私の思いに同調するように頷く。


「そりゃ、周りに合わせて笑ったり、柔らかい雰囲気はこっそり見せたりしてたっすけど……何の重圧にも縛られてない純粋な笑顔を、俺は少なくとも見たことがないっすね。」

「………それは……皆さんを、守ろうと………」

「だから……任せていいの?」


 …………きっと、2人にとって……彼に何か手を貸すことはあり得ないと、そういった考えがこびりついているのだろう。それも無理はない、彼女たちにとってウルくんは命の恩人なのだから。


 

 しかし、私にとって……………彼は、ただの『幼馴染(ウルくん)』なんだ。



「さっき、おじさんが……ハルラルスさんがいきなり現れて、しかも…敵として……ずっと、ウルくんにとって大切だった人が、あんな…………もう、ウルくんの心は無茶苦茶になってて……まともに戦えるわけない。」

「で、でも……………」

「あの瞬間、ウルくんの全部が壊されたんだ。そんな彼を置いて…………幼馴染(わたし)は、もうできないっ!!!」




 ……………今も、泣きたいはずなんだ。でも……誰にも頼りたくない、そう考えているに違いない。




 そんな彼に、私ができることは……………!!




「ミーファさん、私を……あそこに飛ばして。私が…………




















 ………………代わりに、ドラゴンを倒す。」
























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「ラ……ナ…………!?」


「ウ、ウルくん!!!? 血が……早く何とかしなきゃ!!!」



 金色の髪を激しく揺らしながら、突如として現れたラナが俺の方へと走って向かってくる。そんな光景に……俺は驚く(ほか)なかった。また、今の現状を理解しているにもかかわらず……自身の心配を考えていない彼女に、俺は声を上げるしかなかった。


「来るなっ!!! ……何しにきたんだ、早く帰れっ!!!!」


「でも、ウルくん……!!」


「何が『でも』だっ!!! ()()、解ってるのか!!!!」


 困惑と不安………そして怒りが、俺の口を尖らせてしまう。だが、今はそんなことを気にしている余裕は一切なかった。


「言ったよな、『戻ってくるな』って!! お前たちのステータスじゃどうにもならない……そんな分かり切った話をなんで理解できないんだ!!?」


「『わかってる』とか『わかってない』とか、もう知らないっ!!! そんな屁理屈(へりくつ)を人に押し付けないでよっ!!!!」


「っ…………いい加減にしろ!!!! 死にたいのか!!?!?」


「死にたくない!!! 誰も……死んでほしくないっ!!!!!!!」



 彼女の辻褄(つじつま)の合わない行動と発言に、もはや俺の頭は完全にキレてしまっていた。



「ふざけんなっ!! じゃあなんでこっちに来る、お前なんかに何かできる相手だと本気で思ってんのかっ!?!?」


「それは……君が、私の幼馴染だから……!!」


「幼馴染がなんなんだ!? ステータスが……」


「ステータスなんて関係ないって言ったのはウルくんじゃん!!! だったら、私がウルくんを助けに行っても文句はない!!!」


「そんな次元の話じゃないだろ!! 現実を見ろ()()()!!!!」


「私は()()だよ!!! 君の……ウルくんの幼馴染なんだよっっ!!!!!」



 なんで…………どうして、伝わらない……………



「っ、触るな………帰らないなら俺が……!!」


「いやだ、戦う!! 2人で戦えばきっと……!!」


「俺は…俺()守るんだっ!!! なんで……邪魔をするんだ!!?」










「……なんで、私はだめなの? 『守る』って…………それなら、誰が|(きみ)《・》を守っていいの?」





『…………ウルス、お前は間違っていない。間違っていないが……()()()()()()。』





 …………………………なに、いってるんだ。




「おれを…………まもる………?? どうや、って……?」


「…………こうやってだよ。」




 彼女はおれの前に立ち…………こちらのやりとりをただ静観(せいかん)していた龍へ剣を構えた。




 その姿に……………震えは無かった。



「待たせたね……今度は私が相手になるよ。」


『…………キサマデハ、ハナシニナラナイ。ソレデモ、ヤルカ?』


「甘く見ないで、あなただって手負いのはず……ステータスなんかで測ってたら痛い目見るよ?」


『……おもしろイ…………!!』




 やめろ……………




「無理だ……絶対に、お前じゃ…………!」


「なら、一緒に戦おうよ! 私はそのために来たんだから!!!」


「だめだ…………俺は、守らないと……もう、二度と、失いたく………」


「私も同じ気持ち。もう君を………()()()、失いたくない。だから戦って、守りたいんだ。」


「っ……………」





『…………離してくれ、ラナ。』


『いやぁ……いやだぁ…………』





 僕は…………………






『ウルくん……やっと、やっと……ウルくんっ、ウルくん…………!!!』


『……ラナ……………』


『よかったぁ……生きてて……死んじゃったかと…思ったぁぁ………!!』





 俺は───────




『…………やっと…………やっと……やっと、頑張って良かったって……今日まで、生きて…きて……よかったって……!!』


『……………!』


『また、あえたってっ……わたし……うれしくてぇ………ウルくんに、またぁ………!!!』













『…………タタカウマエニ、問う。オマエハ……ソイツノ、ナンダ?』


「…………どうして、そんなことを?」


『ナンノタメニ、戦う。お前ニトッテ、ソイツハ……タイセツナ者、か?』


「……彼は、ウルくんは…………私の……わたし、の……………」




































「……………大好きな人だよ。」



『ウルくん、頑張って!』
















 もう、失えない。








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