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二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す   作者: SO/N
十三章 龍と仮面

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百六十二話 揺れ る





「おっ、前より速くなってるなガラルス。グランみたいにサボってたわけじゃなさそうだ。」

「俺はサボってたんじゃない、ちょっと()()の習得に時間をかけていただけだ。」

「アレ? ……また何か変な魔法でも覚えているんですか?」



「…………全く見えませんでした…………」

「あれが……英雄の実力、すげぇ!!!」

「……これが………タールくんの目指している強さ……」


 英雄たちの実力に、カーズたちが目を輝かせる。そして……それは私も同じだった。


(…………私は…………まだ……)


「……く、ソ…………」

「……しぶといな、お前も。」


 学院長の攻撃を受け、倒れていた紫仮面の男だったが、それでもなお体を起こしてこちらに言葉をぶつけてきた。


「ま、だ……だ、まだ、俺たち…は…………っ!!?」

「転移か? したきゃしてみろっての……まあ、無理だろうけどな。」

「えっ……あ、上っ!」


 テルの言葉に私たちが首を傾げていると、周りをキョロキョロと見渡していたマグアが上空を見上げて叫ぶ。その方向を見てみると……またまた何やら結界のような白い壁が波動のように広がりながらこの場を包んでいた。これは…………


「な……けっ、かい………いつ……?」

「お前が(わめ)いている間に起動させてもらった。これでも最近は開発にこだわっていてな、まだ試作品だがちゃんと指定した奴の転移を封印できているようだな……あっ、それと言われる前に()()()()()()()、ちょっと待ってろ。」

「あれ、消え……戻ってきたな。急に転移してな……えっ!!?」


 『持ってきてやる』と言ったテルは一瞬でその場から消えたと思ったら、すぐまた現れたが…………出現したのはテルだけではなく、何やら大量の気絶している人の山も同じように出てきた。

 その気絶している人間の顔をよく見てみると……以前、ウルスから聞いた色のない仮面…………つまり、(デュオ)の連中だった。


「大方、ここに集中している間に心操(こころと)りの探索やら赤仮面の救出やら考えてたんだろうけどな、バレバレだっての。数が数だから時間はかかったが、これくらいなら朝飯前だ。」

「は………?」

「…………おっ、連絡が来たな。ウルスからだ。」

「ウルス……?」


 ……そういえばさっき、テルが『ウルスの読み通り』って言ったけど………


「おうウルス、何だかんだコレ……通信鏡(つうしんきょう)で話すのは初めてだな。」

「通信鏡? 何勝手に変な名前つけてやがんだ、それは魔力型遠距離式情報交換……」

「うるさい、聞こえないぞテル……って、何? こっちの状況が見えてるのか?」

『……はい、敵がわざわざ自慢するために魔法で見せてくれました……それも今は絶望してるようですが。』

 

 グラン=ローレスが取り出した鏡のような物から、急にウルスの声が聞こえてきた。また、あたかも全てこの状況が作戦通りだったかのように平然とした様子で、声と共に木々の擦れる雑音も耳に届く。


「そうか、じゃあそっちも成功したようだな。さすが我が弟子だ。」

『ありがとうございます……生徒への被害はどうでしたか?』

「大丈夫だ。お前の友達が仮面どもを足止めするために戦ってたようだが、回復魔法で完治できてる……逃げずに戦ってたようだ。」

「みんな勇敢だった、これもお前さんの影響かもな。」

『…………俺は関係ないですよ。』


 ウルスは学院長たちの言葉を否定し、何故か暗い声を出す。だがそれをかき消すかのように、急に向こう側からザラザラとした雑音がグラン=ローレスの鏡から聞こえ始めた。


「……急に変になりましたね。調子が悪いんでしょうか?」

「まだそれも試作品だからな、あっちは遠いし距離的な問題だろう。」

『こっちも……捕まえられ……なので、ま……とで……』

「……聞こえなくなってしまったな。まあ、あっちはウルスに任せるとして……どうだ、まだ何か言いたいことはあるか?」

「…………………」


 もはや万策尽きたのか、紫仮面の男は起こしていた体を情けなく倒れさせ、無言のまま何もすることなく降伏していた。どうやらこれで一件落着のようだ。


「さてと……まずはこいつらの拘束だ。ガラルスは生徒たちの安全を確認、テルは……弟子のところにでも行ってくるんだな。」

「言われなくても行くっての! おーいフィア、終わったぞー!」

「テ、テルぐぅ……暑い……」


 神威級魔法で作られた壁が消えた途端、テルが私の方目掛けて飛び付き頬を擦り合わせてくる。そして、そんな英雄のだらしない姿をカーズたちが何とも言えない表情で見つめていた。



「……なんと言うか……切り替えが早いですね。さっきまで殺されそうだったのに、いまいちついていけないというか………」

「いつまでも引きずるもんじゃないぞ、少年。今細かい話をしても頭に入ってこないだろ? あとは私たちに任せて帰ってな。」

「…………サラッと流しちゃったけど、さっきの声ってウルスだよね? なんでウルスが英雄と話して……それに、いや、あれ……?」

「そうか、マグアは知らないんだったな……ウルスにまた伝えておかないと。」


 それぞれがそれぞれの反応を示しながら、戦いの終わりを感じ取るように普段の様子を見せ始める。そんな彼らを真似るように私もひとまず息を吐こうと……………


















      …………その時、()()()






「……………えっ、何……?」

「な、じ、地震? …………いや、なんか違うぞ!?」

「こ、今度は一体何が………!!?」

「うわっ、立ってられないよっ!?」


 突然の地震……というにはあまりにも大きく、偶然とは呼ばせないと言わんばかりの空気の振動が私たちを襲い、テルの緩んだ表情も一瞬にして強張(こわば)っていった。


「……この揺れは……おいグラン! またそいつらが何かしたのか!?」

「違う……もうのびている、こいつらの仕業ではない!」

「じゃあ一体誰が……いや、というよりこれは…………()()()()()()()!!?」


 どうやらグラン=ローレスたちもこればかりは全くの想定外だったようで、学院長の言葉通り、とても今の状況が魔法やら人為的に起こっているものではないと言い切れるほどに嫌な予感が身体中を走っていく。


(なにが……頭が、追いつかない………)


 いきなりの(デュオ)の襲撃、魔力暴走にテルや人族の英雄……そして、ウルスと彼らの策といった様々な展開に思考が停止してしまいそうになる。

 

 自身の記憶…………過去を乗り越える……そんな感情を抱かせまいと移り変わる現実に、本能的に恐怖を覚えてしまう。



「この気配…………まさか……2()0()()()()()()………!?」




(…………ウルス………………)


 

 彼のことを思い浮かべ、(すが)るように目を閉じてしまう。だが……………











 …………何故か、彼の姿は映らなかった。







 

      全ては、この時のために。



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