百五十五話 手を抜いて
『……不意打ちだと?』
『はい、魔物は魔力感知をほとんどしてきません。だからうまく隠れられればそこまで難しいことじゃないです。』
『だが、そこにある洞窟とやらの奥に居た場合はどうするんだ? 私たちはこの森の地形をよく知らないし、下手をすればグダグダになって返り討ちに遭うぞ?』
『そこは、俺が囮になって呼び出します。魔物に大した知能は無いので失敗はしませんよ。』
『お、囮……ならせめて2年の俺が……』
『心配入りません、任せてください。』
『……………』
「ガッラ、ハルナ……行くぞ!!」
「はい!!」「うん!」
三重の渦に魔物が包まれた直後、崖からクルイたち3人が滑り落ちて来る。そしてそれぞれ武器や魔法を放つ準備をしながら、魔物が渦から出て来るのを待っていた。
「俺が1体誘導する、先にお前たちでもう1体倒しておいてくれ!!」
「えっ、大丈夫なんですかクルイさん!?」
「ああ、俺の魔法じゃ人がいると動きづらい……だから気にするな、『ライトニング・ライジング』!!」
「………………」
そう言ってクルイは魔法を発動し、体に電気を走らせ始めた。正直言ってその作戦は得策ではないと思うが……仕方ない。
(ゴブリンキングのステータスは200前後……それに加え強い個体、クルイ1人で戦える相手かどうか…………)
…………いざとなれば、やるしかないな。
「「グルオオオォッ!!!!」」
「来たぞ、そっちは任せるっ!!」
「はい……ハルナ、攻撃を受け止めてくれ!」
「分かった……はぁっ!!」
キングの1体が俺へ武器を払おうとした直後、ハルナがこて籠手で直接受け止めた。そして、その隙を縫って俺は胴体へ蹴りを入れるが…………
「ガウゥッ!!!」
(効いてない……打撃はほぼ無意味だな。)
「『武装・毒牙』……はぁっ!」
俺が蹴りを入れた後、キングの背後をガッラが毒の剣で斬り裂くが、威力が足りていないのかそれもほとんどダメージになっていなかった。このペースじゃいつまで経っても倒せないな……
「ラナ、魔法で牽制してくれ! ……ガッラ、その魔法を俺たちの魔法に組み合わせられるか?」
「魔法? 魔法って言われても何を!?」
「武装・毒牙だ! その魔法を俺たちが今から放つ魔法に織り交ぜて欲しい……『獣霊流』だ!」
「……………!」
「アレだね……はぁぁっ、『大地の礎!!」
俺はそれぞれに指示を出しながら、自分も魔法の準備を始めていく。しかしそんな猶予を与えてくれるはずもなく、キングは俺たち全員に当たるようにハンマーを振り回して来た。
「くっ……すまない、そっちに行けない!」
「俺が向かう、ハルナはガッラをサポートしてやってくれ!!」
「ギャルガァォッ!!!!」
「…………うん!!」
キングの叫びで声が届きづらかったのか、ハルナは少し遅れながらもガッラを守るよう前に立つ。
今はガッラとハルナの2人、俺の1人でゴブリンキングを挟み込むように位置取っている。また、生半可な攻撃じゃ意味が無いので、即興だが合体魔法を放って倒したいところだが……まずはガッラたちの方へ移動しなければ。
(……効率よく行こう。)
「『ジェット』……通るぞ!」
「グゥ? ……ガラァッ!!!」
俺は宙に浮きながらキングの頭上を素通りしようとするが、もちろんそれは視界に入っていたためハンマーで叩き落とそうと徐に翳してくる。
「危ないぞ、ウルス!!!?」
「大丈夫だ。」
『フレイムアーマー』
それを確認した瞬間、俺はジェットを解除し足にフレイムアーマーを付与する。そして落下の勢いを前進の力に変えながら、キングの股下をスライディングで潜っていく。
「グラァッ!?」
(掠ったか……だが今ので数秒隙ができた、その内に……)
『グランドアーマー』
流石にステータスの差と落下のラグからか、ハンマーを魔力防壁に掠らせてしまったが、気にせず足の炎を焚かせてガッラに指示をする。
「ガッラ、俺の足とハルナの拳に武装・毒牙をかけてくれ。それで一気にダメージを与えてやる。」
「だ、だがそんなこと急にできるものなのか? 俺はそこまで魔法が得意じゃ……!」
「表面に付けるだけで十分だ、早く……」
「来るよっ、2人とも!!」
急な話で判断が鈍ったガッラの隙に、ゴブリンキングは立て直して俺たちへ再びハンマーを振おうとするが…………
「ラナ!!」
「うんっ、『ライトレーザー』!!」
「ガルゥアッッ!!!??」
崖上からのラナの光線はキングの目に直撃し、その振り下ろしはあらぬ方向へ繰り出された。これでまた時間ができたな。
「ガッラ、行くぞっ!」
「あ、ああ……失敗しても文句言うなよ、『武装・毒牙』!!」
ガッラはそう言って俺たちの足とハルナの拳に手を近づけ、毒属性を付与する。すると、赤く燃えていた炎と橙色に光っていた手は紫色へと変化し、より一層勢いを増していた。そして…………
「『妖炎の鎧脚』!!」「『ソイルアシッド』!!」
「グゥォォォォオオオォッ!!!???」
放った攻撃たちはキングの腹を焼き付け、内臓にまで大きくダメージを与えていく。
「効いてる……俺の剣じゃびくともしなかったのに……!?」
「表面化とはいえ、混ざり合った属性攻撃なら俺でも通用する……だが、まだ。」
「ガッ、バァ……ギャアォォアッ!!!!」
相当なダメージが入ったのは確かだったが、それでも致命傷にはなり得なかったようで、ゴブリンキングは痛みを誤魔化すように咆哮をあげる……あと一歩ってところだろう。
「ど、どうするウルス……もう一回やるか?」
「いや……その必要はない。」
「えっ、それは…………」
「準備できました、ウルス様!!」
その時、崖上からミーファのそんな声が聞こえた。そして、そこには……自身の武器である杖笛に魔力を込めている彼女がいた。
「ふ、笛の音……?」
「魔力で音を奏で、その音を武器の力に変える魔法だ……あれなら………」
「グラァァァッ!!!」
キングは叫び声と共に、背を向いていた俺たち目掛けて攻撃を仕掛けるが…………それが届くことはなかった。
「『詠霊の詩杖』」
「ガッ…………ラァ………?」
「…………なっ!?」
力を溜めた杖笛は光り輝きながら瞬きの間に消える。そして次々とゴブリンキングの体に穴を開け、あっという間に奴を絶命させた。
「つ、強い…………って、クルイさんたちの方は!?」
(…………不味いな。)
…………あっちはクル……いや、ニイダとメイルドもいるが……いくら2年の首席とはいえ、見たところ苦戦しているようだ。
(できれば、最後まで手を抜いていたかったが…………潮時だな。)
…………戦いは、ここからだ。
よく分からないことをしてますね。
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