百五十三話 死ねない
「…………できない……一体何が原因なんだ?」
ニイダに諭された1日後、俺たちは予定よりも早く例の森の近くにある町へと到着し、今はそれぞれ町で休憩と準備をしているところだった。そして俺は1人すぐ近くの人気のない場所へと入り、連絡を取った後……彼から受け取ったあの力を試していた。
『……冷めてるだろ。もう少し愛想良くしてれば良かったと、今更ながら思ってるよ。』
あの時、悠に流された記憶にはある『特殊な武器』が登場していて、彼はそれを俺の神器である『アビス』の能力で実現しろと言った。それから俺は時間がある時に何度か試したが……一向に完成する気配がなかった。
(どうしてだ……一瞬だったとはいえ、形もどういう武器かも俺はイメージできているはず。いつもならこれくらいのイメージでも十分だった……何かできない理由でもあるのか?)
…………あるとすれば、アビスに……? いや、神器にできないことなんてあるのか………?
「……いや、確か学院長が…………」
「……あっ、居ましたよハルナ。」
「ほんとだっ……ウルス様、なんでこんな所に居るの?」
なんて考え込んでいると、いつの間にかミーファが木の影から飛び出してくる。また、その後ろからハルナもひょっこりと現れ、こちらへ向かってきた。
「……2人とも、どうした? もう準備はできたのか?」
「はい、私たちは元々準備はしていたので……それで、ここで何を?」
「少し武器の調整をな。2人も聞いている通り、目的地には何かしらある可能性がある……だから、できることはしておかないと。」
「へぇ、相変わらずウルス様は色々熱心だねぇ……」
「様はやめろ……それより、2人こそどうしてここに来たんだ? 集合場所は街の入り口だろ、そこで待ってた方が良かったんじゃないか?」
「ええ……ハルナが、少し頼み事をしたいらしくて。」
俺がそう聞くと、何故か気恥ずかしそうにミーファはハルナへと話を振った。そしてハルナも何やら指をもじもじと遊ばせ始めた。
「……どうした、組み手でもしたいのか?」
「そ、そうじゃなくて……その………旅の時にしてた、アレを………」
「『アレ』? ……武器の手入れか?」
「ち、違うよ! だからアレだって……!!」
「素直じゃないですね、ハルナは。もっとはっきり伝えたほうが……こうやってっ!」
「え? ……何やってるだミーファ?」
俺が首を傾げたままでいると………不意にミーファが俺の体へ飛び込んで腕を回し抱きついてくる。そんな行動の意味がよく分からなかったが、その意図を聞く前にミーファはこちらを見上げて微笑んだ。
「……やっぱり、落ち着きます。昔より身長も伸びたので流石に照れますが…………ウルス様、頭を撫でてほしいです。」
「……別に構わないが…………もしかしてハルナがして欲しかったのはコレなのか?」
いまいち理解が追いつかないものの、俺は言われた通りミーファの頭を撫でてながらハルナに聞く。すると、それが要望だったのか彼女はらしくもなく小さく頷いた。
「そうか……だが、そんなにしてた覚えはないが………」
「してましたよ、ウルス様は無意識にしてくれていたのかも知れませんが……私たちを落ち着かせるためによく。そうですよね、ハルナ?」
「う、うん! だからほら私にも!!」
「あ、ああ……って、2人揃って抱きつく必要あるのか。動きづらいんだが……」
「動きづらくなんかありません。私たちは……これで充分ですから。」
『冒険者で活躍してるってなら、お金だっていっぱい持ってるはず……なのに、2人は今もあなたに貰ったモノを大切に使ってる。もっと良いやつだっていくらでも売ってるのに……どうしてっすかね。』
(………………ニイダの……言う通りなのだろうか。)
…………俺が2人に贈れたものは、数少ない。
戦い方、生き方…………毛布や武器も所詮、価値が生まれるほどの意味のあるものは、何1つなかった。
普通の人間として、当たり前に得られる……そんなものしか与えてあげられなかった。
「…………なんだか、昔に戻ったみたいですね。」
「……そうだな。」
「昔かぁ……また一緒に旅がしたいよぉウルス様〜」
「…………卒業できたら、俺も暇になる。その時はまた、旅をするのもいいかもな。」
『………死ぬんだよ、“ 孤独 " にねっ!』
(……………………俺は、死ねない。)
まだ、守るべきモノはいくらでもある。それを置いて……
「ほんとっ!? やったぁ!!」
「……楽しみに待ってます、ウルス様!」
……………誰が、消えるものか。
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「どうすかウルスさん、少し装備と服を変えてみたっす! 洒落てるでしょう?」
「……洒落てるも何も、戦闘にその軽装はどうなんだ?」
集合の10分前、俺たちが向かって待機していると町からニイダとラナが出てきた。そして早々にニイダが俺にそんなことを聞いてきた。
今のニイダの服装は、以前の忍者っぽい雰囲気が抜けており、灰色などの暗めの色合いは変えずに半袖とハーフパンツとなっていた。また、金属類の装備は膝当てだけであり、いかにも動きやすさを重視したような格好となっていた。
「私はいいと思いますが……何か変なところでも?」
「……普段の模擬戦ならともかく、今回は魔力防壁が壊れても終わりじゃないんだぞ。少しくらい硬めたほうがいいと思うが。」
「いやぁ、そんなことは分かってますって……俺もそこまで馬鹿じゃないっすよ。あえて軽装にしたのは俺のすばしっこさを活かすためっす、大体ウルスさんも大して変わらなくないっすか?」
「俺は生身でも大抵は耐えられるからだ。仮に俺がやられるような攻撃があるなら、装備なんてあっても無くても変わらないしな。」
「確かに、ウルス様を倒す攻撃が来たらもうどうしようもないね!」
「そんな元気にいうことっすかねぇ……てか、じゃあいいじゃないっすか俺の服も! …………まあそれは置いといて、ライナさんの方はどう思うっすか?」
「えっ、わ、私は………!?」
ニイダにそう言われ、俺はラナの姿を見てみる。すると、彼女も同じように服を変えていたようで、こちらは山吹色だった色合いが少し明るくなり、七分丈だったトップスは緩い長袖になってその上に白と金色のベストとマントを付け、スカートは脛にまで伸ばした檸檬色の、ニイダとは違って以前よりも守りを固めたような格好となっていた。
「可愛いじゃん! やっぱり美人なひとは全然違うな〜」
「そ、そうかな…………ウルくんはどう思う、かな。」
ハルナに褒められ、照れているラナは次にこっちに意見を求めてきたので……俺は率直に伝えた。
「…………冒険者っぽい格好になったな。色が明るいから隠密にはあまり向いてないと思うが………」
「うっ……そ、そうだねぇ………似合ってないかぁ………」
「い、いや、そんなことは言ってない。装備に関しては以前よりも固められていい……」
「ちょっとちょっと、そこは見た目の感想っすよ普通。そんな真面目に語られても困るし、ライナさんが言って欲しい一言はそれじゃないっすって。」
言われたい一言…………
「……綺麗……だと思うぞ。」
「……! あ、ありがとう……!!」
「はぁ、世話が焼けるっすねぇ〜」
(何様だよ………)
ただ、俺の感想はラナには事足りたようで、嬉しそうに頬を緩ませていた。ミルやフィーリィアの時もそうだったが、こういう時は機能性じゃなく素直に見た目を褒めた方がいいのだろうか………?
「……おっ、俺たちが最後か。ってことはみんな準備はできているんだな。」
なんて1人悩んでいると、クルイたち3人が町から出てこちらへと向かってくる。どうやらこれで森へ向かう準備が完了したようだ。
「さて……それじゃ、ここからは陣形重視で進んでいく。それと、奴らが現れたり気配を感じたらすぐに言ってくれ……その時は戦わずに逃げるからな。」
(…………逃げられるならそれで構わないが……おそらく無理だろう。)
できることなら、なるべくクルイたちに正体をバラしたくはないが……こうなってしまった以上、それを躊躇っても仕方ない。
「……行きましょう、クルイさん。」
「ああ……出発だ!」
…………今度こそ、尻尾を掴んでやる。
いよいよ本番です。
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