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二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す   作者: SO/N
十二章 虚と空 (調査隊編)

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百四十五話 流星




『……勝負? どうして急にそんなことを?』

『だって、タールくんが全然付き合ってくれないし、ならタールくんより強いっていう噂のウルスと手合わせしようかなって!』

『あぁ!? 誰がこいつより弱いだって!?』




「…………準備はいいか、マグア。」

「いいよーっと!」


 マグアと勝負するため、俺たちは訓練場へ移動した。そして彼女は背伸びをしながら俺に元気よく返事する。

 また、ラナやミル、加えてカリストは舞台の端っこの方俺たちの試合を見届けようとしていた……何だかんだカリストも居るんだな。


「ルールはいつも通り、どっちかの魔力防壁が壊れたらだ……ラナ、合図を出してくれ。」

「うん、分かった。」


 ラナに開始の合図を頼み、俺は剣を引き抜く。するとマグアも真似をするように自身の青い片手剣を構えた。やはりあの武器を主軸に動くつもりなのだろう。


「それじゃ…………始めっ!!」

「『ファイアショット』」

「おっ、早速来たねっ!!」


 開始と同時に俺は駆け出しながら炎の弾を数発放っていく。それに対しマグアは嬉々とした表情で剣に魔法を当てさせ、吸収していく。


(魔法は基本吸収……分かりやすいな。)

「……はぁっ!!」

「おっと、いい動きだね!!」


 間合いに入ったマグアを斬り伏せようとするが、彼女は軽々と避ける。そして一定の距離を取ってから剣をわざとらしく掲げ……例の武器魔法を発動した。


「『バースト』! ……くらえぇっ!!!」

「ぐぉっ………!!」


 強化された剣は俺を襲い、対抗するようにこっちも剣で受け止めたが、その威力に体を大きく弾かれてしまう。その隙を狙うため、マグアはガラ空きの俺の胴体へ剣を振るおうとする。


『ジェット』

「くぅ、出たね空を飛ぶやつ!!」

(……想像以上の衝撃、油断していたら潰されるな………)


 相変わらずオーバーなリアクションを取るマグアを横目に、俺は策を練っていく。


(……以前、ルリアとやった時もそうだったが、おそらく近接がメインのスタイルだろう。そこに武器魔法で遠距離の対策と近距離の強化……シンプルだが、ちゃんと強いな。)


 まだ見たことは無いが、ステータスを見た限り素の魔法もそれなりの強さを持っているはず。もう少し様子見をした方がよさそうだ。


「『バースト』!!」

「当たらないぞ、そんなもの。」


 俺が考え込んでいると、下からマグアが魔力の塊を飛ばしてくるが楽々と回避する。するとマグアは何か不満だったのか、子どもっぽくむくれ顔になった。


「もう、全然驚かないねっ!! 普通、魔法を吸収してきたりしたらみんな驚くのに!!」

「……十分あり得る魔法だからな。それに……お前の父親から色々聞かされてるしな。」

「えっ、お父さんと知り合いなの?」


 ……別に、それくらい隠しておく必要もない。下手にガータ(あっち)が口を滑らせるよりもある程度話しておいた方がごまかしも効くだろう。


「ああ、少しな。その時にお前の魔法武器……マジックネットだったか、その特徴も自慢げに聞かされた。『あの子の武器は魔法を吸収し、飛ばしたり剣を強化できる!』……ってな。」

「そ、そんなこと言ってたの!? もう、勝手にバラさないでよお父さん!! 言っちゃったらみんなの驚いた顔が見れなくなるじゃん!!!」

(……以外と小賢しいな。)


 まあ、そういうところも親子そっくりだが……娘の武器の特徴をベラベラ喋るのは悪手(あくしゅ)だったな。自慢したかったのだろうが。


「『フレイムアーマー』……さぁ、再開するぞ。」

「あっ、それも武闘祭で見たやつ!! かっこいいなぁ〜!」


 地面に降り立ち、ジェットを解除してから今度はフレイムアーマーを全身に纏わせる。するとマグアは突然感嘆し始めるが…………正直、かっこよくはないと思う。開発者(ローナ)のセンスがあれなのか単に気にしていないのかは知らないが、意外と全身での発動時の見た目はダサい……まあ、どうでもいいが。


「受け身じゃつまらないだろ、今度はそっちからこい。」

「へぇ、何を考えてるのか知らないけど……なら、お言葉に甘えて!!」


 俺の挑発にマグアは素直に乗り、接近して剣を振おうとしてくる。それを俺はあえて距離を取ることは無く、むしろ詰めてから一度避けて魔法を放った。


「弾けろ、『アーマーバーン』」

「なっ、ぐぅわぁっ!!?」


 纏っていた炎を周囲に弾けさせ、マグアを吹き飛ばしながらダメージを与えていく。

 この魔法は最近ローナに頼まれて作ったものであり、フレイムアーマーなどのアーマー系魔法を発動している時に使える、解除と共に自身の周りを攻撃するものだ。また、『解除』を大袈裟にしただけのものでもあるので魔力消費も少なく、不意打ちにはピッタリの魔法でもある。


「面白いね……でも、もう通用しないよっ!!」

「だろう、なっ!」


 予想より怯まなかったマグアはすぐに体勢を立て直して再びこちらへ近づき剣を振るってくる。なので、俺は斬撃を避けながら彼女の武器をどうするか思考していく。


(バースト……武器魔法はさっきから発動してこない。吸収した魔力分が枯れたのだろう……が、この武器があるだけでこちらは魔法を制限されてしまう。なら…………)

「はぁぁっ!!!」


 俺はあえて隙を見せ、マグアに渾身の一撃を振らせようと誘導する。すると特に疑うこともなく彼女は大雑把に垂直斬りをしてくれたので、迷うことなくC・ブレードで受け止め……唱えた。


「『(ゆう)』」

「……ほぇっ!!??」


 ぶつかり合った瞬間、剣は互いにその身を半分ぐらいまで通過させていき……融合する。それを見たマグアは慌てて剣を引き寄せようとするが……生憎、これは力で解除できるものではない。


「ふんっ、ふんぅっ!!! 何で、どうなって……!!?」

「悪いが、封じさせてもら…う!」

「がっ!?」


 夢中になっている彼女の足元を引っかけ、姿勢を崩させた隙に無理矢理繋がった剣を奪い取る。


「し、しまったぁ!! 返してウルス!!」

「試合が終わったらな……だが今は、『(こん)』」

「あぁぁっ!!?? 僕の剣がぐちゃぐちゃにぃっ!?!??」


 唱えた文字通り、融合したままの俺の剣とマグアの剣は次第にめちゃくちゃに混ざり合っていき……やがて出来上がったのは原型もない何かの物体だった。

 俺はその物体をボックスの中にしまい、マグアを挑発する。

 

「さぁ、どうする。お得意の魔法武器は封じた……ここからはお前の自力を見せてもらう。」

「…………それは、そっちも同じじゃない? いくら僕の武器が怖かったからって、自分の剣まで犠牲にするのはあれなんじゃない?」

「問題ない。条件は同じなんだ……負けるはずもないからな。」


 そう言って俺はいつもの構えを剣がないバージョンで取る………思えば、未だ師匠に習った構えしかここでは使って無いな。『()()』を構えと言っていいのかは知らないが…………


(……まあ、使わないに越したことは無い。それほど、師匠の構えが使いやすいってだけだ。)


 剣を相手に向けながら腰を下げ、空いてる手を心臓に当てる……一見効率的な体勢では無いが、この世界での魔法といった要素を考えればかなり理にかなっている。


 発動箇所が心臓に近いほど魔法の発動が速くなる……もっと他に活用方法がありそうだ。」』


「へぇ、前から思ってたけど器用だね。だったら僕もそれ(格闘)でいかせてもらうよっ!」


 マグアは俺の構えを見て武術で来ると判断したのか、同じようにそれらしい構えを取る。それはどこか複雑なもので、前後に長くどこか中国拳法の よ う な 体勢だった……おそらく我流(がりゅう)だろう。


(……別に剣を直してもいいが……ここは付き合うか。)

「いくよ……はぁっ!!」

「…………!!」


 マグアは早速拳……ではなく、(ひじ)突きを放ってくる。てっきり強く握っていたそれを使ってくると思っていた俺はややリズムを崩され、回避できず防御をせざるを得なかった。

 また、防御のために腕を当てたにも関わらずその衝撃は大きく、魔力防壁はもちろん内部……体の方にまでダメージが伝わってきた。


(っ……これは、発勁(はっけい)と同じ原理か。)

「どんどんいくよぉ……ほあっ!!」

「くっ………」


 続けて放たれる膝蹴(ひざげ)りも避け切ることはできず手のひらで受け止めるが、変わらずダメージを消し去ることはできない。こういった場合、受け止めるのではなく衝撃を吸収するか流すのかが有効だが……彼女の独特なリズムと、攻撃方法にも関わらず体全身を使ったことによるリーチの長さがそれを邪魔してくる。


(厄介…………だが!)

「…………ふっ!」

「えっ!?」


 俺は繰り出された肘を手のひらで触れながら動きを操り、後ろへ流させる。また、そのついでに足を思いっきり引っかけ、上がってきた足首をしっかり掴む。


「不恰好だな……はぁっ!!」

「ぐっ、がぁっ……!!」


 掴んだ足を引っ張り、後ろに行っていた体を無理やり戻してから横腹を蹴り飛ばす。そして、吹っ飛んでいくマグア目掛けて俺は魔法を放った。


「『風神・一式』!」

「っ……あぶっ!!」


 しかし、思ったより怯みが弱かったのか、マグアはすぐさま体勢を立て直しギリギリのところで魔法を避けてしまう。その結果、紫風は空へと昇っていき……紫色の()()()()()()となってしまっていた。


「……すごいね、武器も魔法も武術も……全部僕より扱いが上手い。これは敵わないかもしれないなぁ……」

「……よく言う。まだ()()は残してる……そうだろ、マグア?」

「ありゃ、バレてた? 気も緩まないねぇー」


 マグアは弱気になっていた姿を変え、これまたあっけらかんとした表情でこちらを煽りながら観察してくる。フィーリィアが表情を『隠す』なら、マグアは『欺く』といったところか。


「乗りかかった船だ、せっかくなら最後までお前のペースに合わせてやる……今度は魔法でもやり合うか?」

「え〜? 随分と余裕だねぇ、まだまだ勝負はここからだっていうのに……もしかして、勝った気でいる?」

「いいや、ただお前の『全力』を見てみたいってだけだ。」

「へぇ、真剣だねぇ…………なら、特別に見せてあげる。」


 マグアはそう言った途端、両手を皿のように形取りながら空へと掲げる。その格好はとても無防備で、いくらでも攻撃のできる隙があったが……俺はあえて手を出すことはしなかった。


「あれ、こないの? これが()()の攻め時なのに。」

「……ということは、それが完成したら俺は負けるってことか?」

「さぁ? でも……少なくとも逃げ惑うことしかできなくなると思うよ。」


 ……逃げ惑う、か。その一言でその魔法の大体の特徴が分かるが…………和神流や洋神流の魔法に追尾性の高いものはそこまで多くない。マグアの実力なら水紋ぐらいしかないと思うが…………


(あの自信、十中八九オリジナルだろう。果たしてどれほどのものか……見定めよう。)


「いくよ、ウルス……!!」

「ああ、やってみろ。」


 マグアの手にはどんどんと魔力が集まっていき、やがてそれは巨大な青い光へと変貌していく。そして…………




「……降り注げっ、『スターダスト・スピア』!!!!」




 流星が、彼女の両手から溢れた。





 意外と何でもできたりと、ウルスと同じ万能型のマグアです。


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