百四十四話 得意
「……いくよ、ウルくん!!」
「ウルスくんにこの魔法が受け止められるかな?」
「ああ、遠慮せずかかってこい。」
調査隊の選抜戦から数日後。学院長からの連絡を待ちながら俺は休日の今日、朝からミルとラナの2人と一緒に特訓をしていた。
そして、何やら2人は固まって俺目掛けて魔法を放とうとしていた。おそらく合体魔法でも見せるつもりなのだろうが………
「「『風炎斬』!!」」
(……風と炎の斬撃か。)
2人が唱えると共に魔法陣が現れ、そこから風に勢いを加えられた炎が生成させる。その炎はやがて刃のような形へと変化していき、俺を斬り裂こうと向かってきた。
「シンプルだが、中々の高威力だな。まともに食らえば一溜まりもないが…………」
俺は風炎斬に対し、魔法で対抗するため魔力を高めていく。そして俺の周りには無数の紫色の魔法陣が現れ始めた。
「『光神・一式』」
「「…………!!?」」
唱えた瞬間、魔法陣から紫光のレーザーが一斉に発射され、風炎斬を貫き破壊する。また、レーザーは勢いを休めることなく奥にいたミルとラナを攻撃していく。
「くっ、これは……!!」
「強い……けど、まだまだっ!!」
2人は光を何とか避け、再び魔法を今度は無詠唱で放ってきた。
(ミルはムーンシャワー、ラナは刃の息吹か……)
半月上の水撃と風の刃がそれぞれ俺を挟み込むように俺を襲おうとする。どちらも上級魔法ということもあってダメージを稼ぐには十分だが……練度が甘いな。
「『フレイムアーマー』……『グランドアーマー』!!」
「なっ、吹き飛ばした……!?」
両腕に巨大な炎を纏わせ、迫ってくる2つの魔法を無理やり吹き飛ばす。そして次の魔法の巻き添えにならないように、俺は大袈裟に距離をとった。
それを見た2人はこの行動を逃げと判断したのか、揃って追いかけてくる。
「ライナ、警戒!!」
「うん、ウルくんは何してくるか分からないからねっ!!」
「……なら、コレはどうだ?」
「来る……!」
俺はわざとらしく手を前に突き出し、魔法を放つぞと言わんばかりに手から魔力を漏らさせる。当然、警戒していた2人はすかさず対抗するための魔法を放とうとするが……生憎、こっちは引っかけだ。
「2人とも……終わりだ。」
『光神・二式』
「「…………!?」」
無詠唱で発動したそれは、途端彼女らに背後を向かせる。すると……そこには先ほど飛んでいった紫色の光の粒たちが固まり、大きな塊として宙に浮かんでいた。
そして、その光は輝きを増していき……ラナたちへと一気に巨大なレーザーとして解放された。
「まず……ぐはぁっ!!!?」
「ぐっ、あぁっ!!」
さっきの光の粒とは違い、逃げる隙も与えられないレーザーは2人の魔力防壁を一気に削り、破壊する。そしてレーザーが終わり、倒れ込む2人を見届けてから俺はフレイムアーマーを解除する。
「勝負あり、だな。」
「うぅ……まさかローナさんのアレを使ってくるなんて……」
「ど、どんどん強くなってる……さすがウルくんだよ!」
そう言ってラナはやられた直後にも関わらず勢いよく立ち上がり、俺の元へ駆け寄ってくる。
「ねぇ、最後のってこうじんいちしき? の魔法がまだ終わってなかったってこと? でも何故か魔法を発動した時の感覚もあったし……一体どういう魔法なの?」
「最後に放ったのは光神・二式で、最初の一式とは別の魔法だ……けど、簡単に言えば二式は最初から発動されていたってところだな。」
「……………? ど、どういうこと?」
俺の言葉を全く汲み取れなかったのか、ラナは首を傾げる。もちろんこんな適当な説明で理解されるとも思っていなかったので、俺は一から順に説明をした。
「まず、このオリジナル魔法……龍神流の龍属性魔法は無属性に近く、魔法自体に連続性のある特殊なものだ。」
「連続性?」
「ああ、本来魔法っていうのは1つの魔法に一度の発動をしなくちゃいけない。青嵐を発動しても刃の息吹が発動しないのは当然だよな。」
「う、うん。だって、青嵐と刃の息吹は違う魔法だし……」
「でも、この龍属性魔法は違う。光神・一式を発動した時点で光神・二式を発動するための条件が揃うから、さっきみたいに連続的に使うことができる…………要は、一式から二式、二式から三式へと連続的に発動できる魔法だってことだ。分かるか?」
「…………つまり、一式で飛んできた光の粒はそのまま固まって次のにしき? 魔法に再利用された……ってこと?」
「そうなるな。」
あくまで、一式と二式は別の魔法ではあるが、同じ属性に限りどんどん繋げていくことができるといった特性がこの魔法にはある。もちろんそれは風神・一式にも存在し、今までならオーバーだと思い使ってこなかったが……上級生たちと渡り合っていくには必須の魔法だろう。
「……でも、あんな大技を連続で使ったら魔力消費が大きくならない?」
「その心配はいらない。あの魔法は使われた魔法をそのままリサイクルして使っているから、魔力消費は実質一回分……一式から二式を発動しても一式の分しか消費しないんだ。」
「えっ、それってかなり強いよね!? いいなぁ、私も覚えてみたいなぁ……」
「覚えられるなら教えてもいいが……知ってるだろ? この龍神流は父さんしか使えなかったって。俺も何とか習得できたが、多分ラナには……」
「えぇ〜やってみないと分からないよー? ウルくんの魔法の使い方ならよく知ってるし、もしかしたらできるかも知れないよ?」
「……それとこれは別な気もするが……多分魔力の相性が関係してると思……」
「もう、2人とも私のことを忘れてない!?」
俺たちが話し込んでいると、急にミルが間に入り込んで来る。そして何故か膨れ頬で俺を軽く睨んで文句を垂れてきた。
「ウルスくん、最近ライナにデレデレしすぎじゃない? やっと一緒に過ごせるようになったからといって、こんなのずるいよっ!!」
「『ずるい』ってなんだ……別に、昔のように接してるだけだ。そうだよな、ラナ?」
「うん、むしろ昔よりも全然ウルくんとは話せてないよ? 私だって我慢してるんだから。」
(……我慢とは………)
期待していた返答とはややずれたことを言うラナに、俺は何とも言えない気持ちになる。確かに、以前よりもラナと会話をすることは大分増えたが……ミルがそれに口を刺す理由がいまいち分からない。
「そ、そりゃ昔は2人だけだったからかもしれないけど……今はみんながいるんだよ? ラナ1人に構ってたらきっと誰かが……」
「…………何を言ってるんだ、ミル?」
「そうだよ。ウルくんはみんなに優しいし、ミルだって今度いっぱい甘えたら?」
「……ラナも何言ってるんだ??」
…………2人は俺のことを何だと思っているのか……
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「どう? 久しぶりに作ってみたから自信ないけど……」
「美味しいぞ、ラナ。昔より上手くなってる。」
「ほ、ほんと!? よかったぁ……」
「むぅ…………」
特訓もひと段落ついたところ、食堂に行こうとした俺たちだったがどうやらラナが昼ごはんを作ってきてくれたようで、今は3人でベンチに座って食事をしていた。
作ってくれたのはどうやらサンドイッチのような物で、甘い物や辛味の含まれた物だったりと様々で、どれも美味しく食べやすいものとなっていた。
「……にしても、何でもできるんだなラナは。俺よりずっと器用だ。」
「えっ、そうかな? 私はお母さんに教えてもらっただけだし……そうだ、ミルはどうなの? 今度ミルの料理も食べてみたいな。」
「うっ……わ、私は………」
「……ミルはあんまり得意じゃなかったよな、料理。」
「ちょ、ちょっとウルスくんっ!!?」
俺がぶっちゃけると、ミルは途端に顔を真っ赤にして訴えてくる。
「隠すことでもないだろ、別に壊滅的ってほどでもないんだし。」
「そ、それはウルスくんが……」
「……じゃあ、今度一緒に練習しようよ! 私なら料理も教えられると思うし、ウルくんもどう?」
「えぇ……うーん、でも私は………」
「恥ずかしがらなくてもいいぞ、ミル。1人は向き不向きがある、もちろん俺にもあるしな。」
「え、ウルスくんって何かできないことあったっけ……?」
……普段、俺の強さばかり目立ってあまり目をつけられないが……戦闘以外に関して、俺は思ったよりも凡人だ。
「俺も料理はそんなに得意じゃない、味はともかく見た目は良くないことが多いし……何より、裁縫が絶望的に下手だ。」
「お裁縫? ウルくん、そんなことしてたっけ?」
「まあ……少しな。如何せん、あの小さい針の穴に糸を通すのが苦手でな、よく力を入れすぎて針ごと潰してしまうことが多々ある。」
「あー、確かにウルスくんが力を入れたらそうなるね……」
俺はステータスをコントロールすることができるが、それでも裁縫だけは上手くならない。毎回縫うたびに上達はしてきているが、どうしても糸を通したり結ぶのは時間がかかってしまう…………魔力防壁に針が刺さることがよくあったな。
『……見た目は悪いが、どうだ? あったかいか?』
『は、はい……とてもあったかいです……!』
『あ、ありがとう……ございます、ウルス様……!』
「…………………」
「……そういえば、2人とももう調査隊の連絡はあった? 私はその隊の番号? みたいなのは伝えられたけど……」
「私も来たよ、ウルスくんは?」
「……俺は確か……1番だったな。」
「あっ、なら私とウルくんは一緒なのかな?」
話は変わって、調査隊のことでどうやら俺とラナの割り振られた番号が同じだったらしく、嬉しそうな顔をする。逆にミルは違ったのか、不満そうな顔で口を尖らせていた。
「2番……最近、ウルスくんと離れること多いなぁ……どういう基準で決められてるんだろ?」
「さぁ、俺も知らされてないが……ある程度の実力がある者しか選ばれていないのは確定だな、だが…………」
「だが?」
「…………わざわざ、俺以外の学院生を神の調査隊に当てる必要性があるのか分からないんだ。」
「「……………?」」
その意味がうまく伝わっていなかったのか、2人揃ってキョトンとした顔で俺を見てくる。
「神の実力はもう知ってるだろ? 雑魚だと思われる方でも100程度、赤は2、300以上のステータスがある……そんな相手に学院生が対応できるとはとても思わないんだ。」
「…………そう、だね。ミルはともかく、私じゃその弱い方とギリギリ戦えるかどうか……」
あの時のことを思い出したのか、ラナは小さく体を震わせ顔を陰らしてしまう。そんな彼女の肩に手を置き、安心させながら続きを話していく。
「……だから、調査隊を組むということはその奴らとも戦う可能性があるということだ。どのくらいの実力を持った冒険者や教師と行くのかは知らないが、流石に危険すぎる……」
「……確かに。あの集団は人を簡単に傷つける……そんな相手に学院生はちょっと…………」
学院長も、そのことぐらいは把握しているはず。おそらく何か他に目的があるのは間違いないだろうが……やはり、気が気じゃない。
『ああ……笑えるさ。お前ら学生、みたいに……甘えた勝負や、特訓ばっかり………してる、わけじゃ……ないからな。』
『そうさ……結局、強くなるだの……言って、死ぬ覚悟もない……ガキどもの……!』
…………自分の世界しか語らず、手を染めるような奴らだ。きっと、子供だろうが厭わないだろう。
「…………次こそ、奴らを…………」
「あっ、いたいたっ!!」
「クソッ、引っ張んじゃねぇよテメェ!!!」
その時、遠くからそんな溌剌な声と苛立ちを含めた怒号が聞こえてくる。そして、聞こえてきた方向へ顔を向けると……何故か、マグアと彼女に袖を引っ張られているキレ顔のカリストがこちらへと向かってきていた。
マグアは俺たちの目の前で急ブレーキし、カリストをつまづかせながら何やらキョロキョロとし始める。
「な、なんだマグア、何か用か?」
「…………もしかして、デート中だった?」
「「…………え!?」」
「……はい?」
唐突にも程があるマグアの台詞に、俺たちは素っ頓狂な声を上げてしまう。すると、カリストも何やら嫌みったらしい顔で俺を睨み余計なことを言い始める。
「……相変わらず垂らしか、いいご身分だな?」
「…………あのな、今日は朝から特訓をしていて、今は休憩していたところなんだ。あまりふざけたことを言わないでくれ。」
「……そう? 結構ワイワイしてるように見えたよね、タールくん。」
「……それは同意だな。」
(……そこは認めるのか…………)
カリストの情緒がよく分からず、俺は何ともいえない顔になる。何だかんだ仲良くなっている……のか?
「……で、誰に何の用なんだ?」
「あ、忘れてた! 用があるのはウルス、君だよ!」
「……俺か? ……指を突きつけるな。」
指名と同時に突きつけられたマグアの人差し指を払い、その理由を目で問う。すると彼女は徐に剣をボックスから取り出し、こちらへちらつかせた。
「ねぇ、僕と勝負しようよ!!」
どんな人間にもできないことは必ずあります。
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