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二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す   作者: SO/N
十一章 束の間

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百三十四話 読書家




「……じゃあ、入ってきてくれ。」

「どうも、今日からここに転入することになったマグアです!! みんなよろしくねっ!!」


 そう言ってマグアと名乗った群青色の少女はあざとくポーズを取り、教室の空気を微妙なものへと変化させる。


(……あれが、ガータの娘か。父親に似てどこか抜けてるように見えるが……果たしてどうなんだろうな。)


 ここの転入制度について詳しくは知らないが、少なくとも一定の実力はあるのだろう。その内戦いあってみたいものだ。




名前・マグア

種族・人族

年齢・16歳


能力ランク

体力・82

筋力…腕・94 体・71 足・69

魔力・75


魔法・10

付属…なし

称号…なし




(……ステータスはフィーリィアと同じかそれ以上。肝心なのはその戦いのセンスだが…………)

「それじゃマグア、空いてる適当な席に座ってくれ。」

「は〜い、えっと……あ、いたいたっ!!」


 マグアは辺りを見渡したと思ったら、何かを見つけたのかそこへ猛ダッシュしていく。その場所にいたのは…………




「げっ……なんでこっちに来るんだよテメェ!!」

「いいじゃん、空いてるんだし。せっかくなら仲の良い人と授業受けたいしね!!」

「なにが『仲の良い』だ、お前とお友達になった覚えなんてねぇぞ!!!!」


「…………何すか、あれ。転入生と知り合いだったんすかあの人?」

「さぁ……でも意外だね、カリストくんにあんなズカズカ行く人は見たことがないよ……」


 キレ散らかすカリストとそれを面白がるマグアを見て、前に座っていたミルとニイダがこそこそと話す。確かに、いつの間に知り合ったのかは気になるが……あの様子じゃ、マグアの一方的な接近なんだろうな。


「…………ねぇ、ウルス。」

「なんだ、フィーリィア?」

「……この学院、変な人……多いね。」

「………………」


 …………フィーリィアもどちらかと言えばそっち側だが……まあ、俺も人のことは言えないか。
















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー














 そして授業が終わった、その直後。怒号とはしゃぐ2種類の声が教室から去っていく。


「だぁっ、付いてくんじゃねぇ!!!!」

「そんなこと言わずに一緒に特訓しようよ、タールくん!!」

「「………………」」


 そんな2人をなんとも言えない表情で俺とフィーリィアは見送っていた。これはまた変なことになっているな……


「…………じゃあ、俺たちも行くか。」

「………あんな風に?」

「………え、いやおい、そんなわけないだろっ。」

「あぅ、痛い………」


 あまりにも素っ頓狂なこと言うフィーリィアに、俺は堪らず頭をチョップしてしまう…………というかそんな冗談も言えたんだな、フィーリィア。


「……にしても、カリストにあんなグイグイ行く人…初めてみた。」

「そうだな、あのカリストですらてんてこ舞いだ。」

「……ウルスも、ああいう明るい感じの人の方がいいの?」

「いや、あれは……明るいと言うか何というか……突き抜け過ぎだな。」



 今日はフィーリィアと特訓をする約束をしており、訓練所に向かうまでにそんな雑談を交わしていく。


「……じゃあ、もっと静かな方がいいってこと?」

「……? どうした、何か気になってることでもあるのか?」

「…………いや、その……私って暗いから、ローナとかマグアみたいに明るくなった方がいいのかなって。ウルスはどっちがいいと思う……?」


 フィーリィアは何故か不安そうにそう言って、俺に意見を求めてくる。その意図はよく分からないが……俺は気休めでも何でもない、正直な答えを告げる。


「……フィーリィアがどうなりたいかは知らないが、そのままでいいんじゃないか? 無理に変わろうとしても、いつかはその仮面も剥がれるものだ……俺みたいにな。」

「………………」

「『明るい人』やら『暗い人』とかは、それはただのまやかしだ。人の性格を簡単に測るための、上っ面の言葉……他人に対してならともかく、友人をそんな物差(ものさ)しで見る奴なんていない。」


 

 人間なんて案外、そんな(てい)を気にして人付き合いはしていない。

 その人の見た目やら性格を気にして接している内は結局、どこまでいっても他人止まりにしか他ならないし、自然と離れていくに違いない。もしそれが違うというのならば……ガキの俺と大人のガータとの関係は今も続いているわけがないのだから。


「フィーリィアはフィーリィアらしく、そのままでいい……今はもう、色んな人が認めてくれてるだろ?」

「……………そう、だったね。ごめん、変なこと聞いて。」


 フィーリィアはそう言って誤魔化すように、ふんわりと作り笑いをする。


「………………ああ、気にするな。」


 そんな表情に俺は何か言おうと言葉を考えたが…………今は引っ込めておいた。


(…………フィーリィアは、変わろうとしている。これまでに色んな経験をしたからか、それとも別の……()()の何かが今の彼女を突き動かすのか……いずれにしろ、俺から引っ張り出すような真似はしたくない。)


 きっかけはあの日、合体魔法を発動させることで作った。そして今は、前向きになった彼女の少しずつ背中を押す時間なんだ。決して俺が彼女の行動に何もかも関与するべきではない。

 そうすればきっと、()()()()()…………





「……着いたな、それじゃあ始めるか。」

「……うん。」


 数分後、訓練所に到着した俺たちは特訓を始めるためにお互い臨戦体制をとった。前とは違い、フィーリィアに自分の癖を指摘してほしいと言われていたので、勝負という形ではないが。


「…………剣は構えないの?」

「ああ……使わせたかったら引き出してみろ。」

「……分かった。」


 彼女が両手剣を構えるのに対し、俺は手ぶらの状態で適当な構えをする。新しい武器はまだ自己研鑽(じこけんさん)中であり、かといってわざわざ神器(アビス)を出すほどのことでもないからな。


「さぁ、かかってこい。」

「うん……はぁっ!」


 フィーリィアは一気に駆け出し、俺に水平斬りをぶつけてくるが難なく後ろに避ける。それからも次々に彼女は剣を振るってくるが、特に変なものでもなかったので回避するのは容易(たやす)かった。


(もちろん、このままなわけがない。いずれ仕掛けてくるだろうが……)

「…………やぁっ!!」


 そんなことを考えていると、丁度フィーリィアはアクションを起こしてきた。それは後退する俺に敢えて踏み込まず空振りを一度するといった、以前の戦いで見せたリズムをずらすようなパターンだった。

 もしこれが初見なら多少の動揺はあったかもしれないが……今更その手に焦ることはない。逆に()()()()()()()()だ。


「…………っ!」

「……な、ぐっ!?」


 俺は彼女が空振りをした瞬間に距離を詰め、振り切った後の無防備な剣を掴む。そして強引に剣を奪い取りながら頭突きで怯まし、蹴って吹き飛ばした。

 

「……意表を突こうとするのは悪くないが、同じ手を使うなら相手を選ぶんだな。」

「…………上手く、利用された。」

「ああ、俺だってフィーリィアの動きは前より理解している。そして大体、その起点は………」


 そう言いながら、俺は奪った彼女の剣を地面に深く突き刺した。


「……剣が、フィーリィアの動きの(かなめ)だ。逆に言えば、剣が無ければその実力も半減するだろうな。」

「……………」



 …………正直、仕方のないことであり、酷なことをしている自覚もある。

 元々、彼女に魔法を使うなんて選択肢は無いも同然だった。今でこそ多少は扱えるようになったものの、それ単体だけで戦えるほどまだフィーリィアは克服できていない……そんな彼女の選択肢を()るのは外道と言われてしまうかもしれないが…………



「……どうする、フィーリィア。」

「…………どうもこうも……やるだけ。」


 フィーリィアはそう言って慣れていない拳を握り始めるが…………


「…………()()な。」

「知ってる……今度はそっちから。」

「なら、いかせてもらう!!」


 入れ替わるように、今度は俺から攻め上がっていく。するとフィーリィアは握っていた拳をすかさず解放し、代わりに魔法を放とうと詠唱を唱えた。


「『アイススフィア』!」

「だろうなっ。」


 真正面から飛んでくる氷塊を横に避け、スピードを落とすことなく直進しようとする。

 すると……同時に前へと足を出していたのか、想定よりも早く間合いを詰めてきたフィーリィアが目の前に立っていた。


(近接と見せかけての魔法……からの接近。これのどれもブラフということは次………)




「……突け、『フリーズホーン』!!」



 ……しかし、距離を詰めたのにも関わらずフィーリィアはあえての……しかも最上級魔法であるフリーズホーンを俺の足元に発動した。

 フリーズホーンは地面から太い氷の柱を作り出し、下から相手を突き飛ばす強力な魔法だ。だが基本的にこの魔法は遠距離で業火の舞のように使うものだが……あくまで単純手は見せないという意思だろうか。


(……普通の相手なら思考が追いつかず、効果抜群……だが!)




『ジェット』

「言ったろ、()()って。」

「……これも………!!?」


 

 勢いよく生えてくる氷柱を俺はジェットで軽く飛び上がって避け、そのままフィーリィアの背後にまで回り込む。そしてジェットの爆風を直に当て、その後ろにある氷の柱へとぶつけさせた。


「ぐぅっ……まだっ、 ()アイスス……」

「させない、『マジックブレイク』………!?」


 ダメージを受けながらも魔法を放とうとするフィーリィアの手を掴み、マジックブレイクで強制的に魔法を不発にしようとしたが…………何故か、彼女の魔法は()()()()()()()()


「引っかかったね…………ふんっ。」

「ぐっ……!!?」

(今のは……ただ()()()()()()()()()()()か……!)


 今度はこちらが頭突きを喰らい、たまらず後退してしまう。

 おそらく俺のマジックブレイクが発動しなかったのは、そもそも彼女自身が魔法を発動していなかったからだろう。目の前で魔法を発動しようとすれば何かしら俺が行動をすると見込みブラフで釣り、驚いている隙に反撃…………これはしてやられたな。



「…………頭突きって、思ったより便利だね。代わりにこっちにも衝撃が来るけど。」

「ふっ……面白い手だな。土壇場(どたんば)で次の手を考えれるのは、流石の冷静さだ……だが、それだけじゃ到底敵わないぞ!」


 会話をしながら、再び俺はジェットで接近しながら近距離戦を持ちかける。それに対しフィーリィアは変わらず魔法で迎え撃とうとするが……素直に来るわけがないことは理解している。



(…………いくか。)


 集中力を高め、一撃で仕留める準備をする。フィーリィアには笑いが、俺だってただ特訓に付き合うほど優しくはない。


「…………はっ!!」

(……! 無詠唱か……凄いな。)


 フィーリィアは無詠唱でアイスショットを発動するといった、今までにない行動に俺は目を見開く。暴走する魔力を持っているにも関わらず、ここまでできるようになっているとは…………



「……………でも、勝負は勝負だ。」


 そう言い聞かせ、俺はそのまま氷の弾幕へと突っ込み……針の穴を通るかのようにジェットで体を操作し、少しもスピードを落とすことなく潜り抜けた。


「えっ………!??」


 いくら冷静なフィーリィアでもこの動きは想定外だったようで、一瞬だけ体を凍らせていた。その隙を感じ取った俺はジェットで蛇足な軌道を描きながら彼女の上空まで到達し、渾身の踵落としを食らわせようとする。


「っ、このっ……!」

(…………そこで()()か。)


 俺の踵落としにギリギリ反応できたフィーリィアは、もうしゃがみが間に合わないと判断したのか()()()自身の足の力を抜いて転び、本能的回避を行おうとしていた。

 

 追い詰められた、奥の手のような行動。確かにそれならこの攻撃は避けられるが…………



「…………終わりだ。」

「………!!?」


 

 踵落としの勢いを回転へと変化させ、180度回ってから手を地面の方へと伸ばす。そしてジェットを解除してから最後の一撃を放った。


「『刃の息吹』」

「くっ、がぁっ……!!!」


 切り裂く突風を吹かし、フィーリィアの魔力防壁を破壊する。また、その風の勢いで浮かんだ俺は体勢を取りながら地面へと降り立つ。

 彼女の突き刺さった剣を抜きながら、悔しそうに膝をついているフィーリィアに質問をする。

 

「無詠唱、できるようになってたんだな。」

「……中級まで、なら……」

「そうか……はい、返すよ。」

『ヒーリング』


 フィーリィアに剣を返しながら、俺は魔法で疲れているであろう彼女の疲労感を取るために回復魔法を使う。すると、何故かフィーリィアは俺の手を押しのけ立ち上がろうとした。


「……どうした? 何回も魔法を使って疲れてるだろ?」

「…………これくらい、だいじょ……うっ。」

「無理するな……ほら、座ってくれフィーリィア。」

(……さっきのは疲れもあっての行動なんだろうな。)


 強がるフィーリィアだったが、歩き出そうとした途端に足をふらつかせ転びそうになっていたので、俺は肩を支えながらその場に座らせる。そして発動していた魔法を当てて回復させていく。



「…………今回は、全然だった。」

「そんなことはない。以前と比べて魔法……無詠唱だって使えるようになってたんだ、かなり成長してるぞ。」

「……でも、ウルスに全く通用しなかった。自分の弱点を突かれて、『魔法を使わないと』って焦って……ウルスの()()()()になってしまった。ウルスの相手の行動を狭める作戦は基本的に誘導でしかないから、乗るのは負け筋…………けど、ウルスの行動は基本的に受け身で、こっちが動いた時点で作戦を考えている可能性が高い。ならやっぱり、ウルスから仕掛けさせたほうがこっちの手を見せることなく…………」

「……お、おい、フィーリィア……?」


 フィーリィアは膝を抱えながら、何やら1人反省会みたいなものをブツブツとし始める。その姿は鬼気迫るほどに熱く、つい俺は声をかけてしまう。


「フィーリィア……す、凄い考察力だな……」

「…………間違ってた?」

「……いや、全部聞いてたわけじゃないが…()()()()。主観だがな。」

「そう……じゃあ、やっぱりこの考え方も…………」



 …………やはり、彼女は相手の動きを観察する力に長けている。俺もそれなりには自信がある方だし、実際先読みのような戦い方をしているので洞察力はあるはずだ…………しかし、フィーリィアはそれを軽く乗り越えるほどの『目』がある。

 癖を知り、ある程度の動きを予測するのはそんなに難しいことじゃない。人間誰しも特徴はあるもので、それさえ見抜ければ鈍感なソーラでもできるだろう。


「…………私の4段掛けの騙しも、ウルスには読まれてた。多分追い詰められた私が魔法を使って何かしらすると……『嘘』を混ぜてくると分かっていたから、フリーズホーンも避けられた。そこでわざわざジェットを使って私の上を通ったのはおそらく、横より縦の移動の方が虚を突きやすいから………」



 だが、フィーリィアのそれは俺たちの域を超えてたものだ。

 相手の戦っている時の思考を想像し、行動心理を理解する……しかも、おそらくそれも戦闘中に行なっているはずだ。そうでなければ俺の動きにあそこまで冷静にいられるとは思えない。




『えっと…………それは、分からない。私が読むのは行動とか心理だけで、考えてることそのままは解らないから。』




 以前はああ言ってたが……武闘祭やら人との関わり増えてきた中で確実に育ってきている。その内、俺の手を全て読まれるのかもしれない…………そうなればきっと、強敵になるだろうな。


(……俺もやってみるか…………)



「…………フィーリィア、ちょっと頼みたいことがあるんだが。」

「…………? なに?」

「……フィーリィアはいつもどんな本を読んでるんだ?」

「……本?」


 俺の唐突な質問に、フィーリィアはこてんと首を傾げる。


「……なんで?」

「いや、前にフィーリィアが言ってたことを思い出してな。普段の俺を見て行動を読んでるとか……なら、フィーリィアのいつも読んでる本を読んでみれば、フィーリィアの考えてることも分かると思ってな。何かあ」

「なら、これがおすすめっ。」


 俺が言い切る前に、フィーリィアは自身のボックスから本を取り出し、物凄い勢いで勧めてきた。

 そんな彼女の目は過去一と言っていいほどに興奮しており、読んでほしいと言わんばかりに俺の手に本を乗せてくる。


「あ、ああ……貸してくれるのか? じゃあ今日の夜にでも……」

「これとこれと……これも面白い。こっちはウルスの好みに合うかわからないけど、意外な感じで多分いけると思う。あとこれも………」

(…嗜好(しこう)()()まで………しかもどれだけ持ってるんだ………?)


 こっちが聞く前にフィーリィアは勝手に本をポンポン取り出し、俺に紹介してくる。軽く20冊は超えてるな………というかボックスに入れておくほど読書家だったのか、フィーリィア…………



「…………あ、あと部屋に置いてるのもあるから。取りに行こう。」

「えっ……まだあるのか……?」

「大丈夫、全部面白いから……ほら行こう。」

「ちょ……そんなに読めるか分からないぞ、フィーリィアだってもう一回読みたい時もあるだろ? だからまたこん……」

「心配いらない、いっぱいあるから。1年でも2年でも、ゆっくり読んでいいよ。」

(ね、年単位…………)




 …………これは、長い旅になりそうだ。


 好きなものほど、語りたくなるお年頃です。


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