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二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す   作者: SO/N
十一章 束の間

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百三十三話 娘




「……娘なんていたのか、ガータ。」


 以前約束した通り、俺は今日ガータの素材集めに付き合わされていた。そんな鉱石などの収集中の際……突然彼は自身の子について話し始めた。


「おう、今は妻と一緒に別の街に住んでるんだけどな。近々こっちに引っ越して来るんだ。」

「そうなのか……しかしまた急だな、そんな時期でもないのに。何か訳でもあるのか?」

「くくくっ、聞いて驚け……実は、我が娘がソルセルリー学院に転入することになったんだ!!」


 気持ち悪い表情をしながら、ガータはそう誇らしげに話す。それに対し俺は話半分に続きを促しながら、素材を集めていく。


「はぁ……転入か、うちはそう簡単に途中編入はできないって聞いたことがあるが、優秀なのか?」

「そりゃもちろん!!! 何だったって俺の娘なんだ、それくらい朝飯前だ!!」

「……いや、お前は力しかないだろ。()()()()じゃ戦いのセンスはからっきしだろうに。」

「なっ、それを言うなよ! ……けどな、本当に娘は才能の塊なんだ。昨日にはお前の教えてくれた方法で打った武器も渡したし……もしかすれば、手を抜いているお前になら圧勝するかもなっ!!?」

「…………言ってくれるな。」


 ……ガータは俺の力を十二分に知っている。そんな彼がここまで言うとは……ぜひ会ってみたいものだ。


「……よし、次行くぞ次!! ウルス、今度はこれだ!!」

「…………というか、俺は乗り物でも荷物持ちでもないんだぞ。随分とこき使ってくれるな?」

「いいだろーこれくらい。お前なら転移や空も飛べるんだし、ボックスもかなり広い……おまけに魔力探知までできるんだ。今まで何本も武器を作ってやったんだ、今日はとことん付き合ってもらうぜ?」

「…………はぁ。」


 …………これは、長丁場になりそうだ。


















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
















 …………どうしたものか。



「あ、あの! カリストさんですよね、武闘祭観てました!」

「……………」

「カ、カリストさん………?」

「…………ついてくんな、目障りだ。」

「ひぃっ………!?」


 くだらない理由で話しかけてきた奴を黙らせ、俺は1人訓練所へと向かう。


(……何が武闘祭だ………)



 武闘祭の結果、そして首席になった影響からか、こうやって歩いているだけで声をかけられることが多くなった。一応前までは近づくだけで怯えられていたはずだが……厄介極まりない。


「ウルスの野郎………絶対追いついてやる……!」


 それもこれも全部、あいつが余計な手回しをしてくれたおかげだ。英雄よりも強い世界最強だかなんだが知らねぇが……関係ない。


 目的は今までとなんら変わらないんだ……だったらやることだって何一つ変わらない!






「ねぇーそこのおっきい人!!」



 ……そのためにはまず、剣や魔法を……いや、それより基礎を鍛えるべきか……?



「……あれ、聞こえてない? おーーい!!!!」



 …………それとも、ウルス専用の対策でも考えるか?だがそれでは他の奴らに足元をすくわ………



「もしかして耳が悪いの? ねぇってばっ!! 実は聞こえてるって感じだよね!!?」



 …………………何か、いい方法はな……



「むぅっ、こうなったら……えいっ!!」

(…………あ?)



 突如、背後から迫ってくる何かを俺は避ける。それは……さっきから無視をしていた女が放った子顔出(こけおど)しの手刀だった。

 その手刀を外した女は予想外だったのか、キョトンとした様子で口をだらしなく開けていた。


「ありゃ? 避けられちゃった!」

「…………おい、クソ女。」

「ふぎゃぁっ!?」


 ふざけた女の態度に苛立った俺はこいつの頭を鷲掴(わしずか)みにし、魔力防壁が反応しない程度に力を加えながら思いっきり睨みつける。


「くだらん不意打ちをしやがって……てめぇ、ぶっ潰されたいのか?」

「ご、ごめんって、そんなつもりじゃなかったんだよ? だって君がずっと僕を無視してくるから、当てられるかなって!」

「…………死にたいのか、お前。」


 変わらずおちゃらけている女に、俺は久しぶりにブチ切れそうになる。そんな俺を見てこいつはヘラヘラしながら()()()()()俺の手中から脱出した。


「いやぁ、物騒だね〜急に頭を掴まれるとは思わなかったよ、怖い怖い!!」

「…………は?」


 ……今、俺は力を抜いていなかった。なのに、こんな小さな頭をあっさり逃がすなんて………


「というか、突然女の子を襲うなんてダメだよ? 特に僕は繊細なんだから、もっと優しくしてくれないと。」

(な、なんなんだこいつ………)


 今まで話したことのない雰囲気の女に、俺は困惑を隠さずにいた。


 その女は明るい群青色をした髪に平均よりも低い身長をした、何やらひらひらした青い服やコートを着て…………よく分からない奴だった。


「……あれ、どうしたの黙っちゃって?」

「…………何のようだ、俺は忙しんだ早くしろ。」

「おっ、やっと聞いてくれる気になったんだね。これも僕の魅力にやられっちゃったってことかな?」

「うざい、くだらん理由ならぶっ飛ばすぞ!」


 俺の反応を面白がっているのか、ニヤニヤと気色悪い表情をする女。ニイダの数百倍はうざったい…………



「まあまあ、確か君って武闘祭の決勝戦で戦ってたよね?」

「またか……そんなことで話しかけてくんな。」

「あ、待ってよ! 話はここからなんだってば!」


 話が見え、早々にこの場を去ろうとした俺だが……その一歩を踏み出す前に女が回り込んで手をブンブンと振り回し、通行止めをしてきた。


(速い…………?)

「実は僕、もうすぐこの学院に転入することになったんだ。だから………」

「転入だと? ……はっ、お前みたいな奴が?」


 馬鹿を言う女に、俺は鼻で笑う。


 このソルセルリー学院は、仮にも人族一と呼ばれるほどの魔導施設だ。入学試験では倍率が何十、何百にも膨れ上がるほどには厳しい学院であり、その転入となればさらに難易度は跳ね上がる……少なくとも今の上位(スプリア)に負けないくらいには実力がないと不可能なことだ。


「嘘を吐くならもっとマシなもんにしろ。お前のようなガキが簡単に入れるほどここは甘くないんだ、部外者ならとっとと消えろ。」

「むむむっ……信じてないね? この僕の実力を。」

「当たり前だ……話は終わりだな、つまみ出されたくなければ………」


「なら、『証明』してあげる!!」


 腹いせに煽っていると、不意に女がそんなことを言い出した。そして俺の手を掴んで無理やり近くの訓練所へと向かい始める。


「おい、何すんだ!? 何が『証明』だって!?」

「だから、実際に戦って僕がここに転入できるくらい強いって教えてあげるの!」

「はぁ!? 何で俺がそんな面倒なことをしなくちゃいけないんだ!」

「えぇー自信がないのぉ? 武闘祭で優勝した君がこんな弱気な人だったなんて、僕がっかりだなぁー」

「ちっ……いいから離せっ!!」


 掴んでいる手を振り払い、俺はこいつとの距離を取るが……その時には既に訓練所の中へと連れられてしまっていた。また、女はとっくにやる気満々なのか、勝手に戦闘態勢に入っていた。


「さぁ、やろうよ! 武闘祭優勝者の実力を僕に見せて!!」

「…………てめぇ、(はな)からこのつもりだったな。」

「えぇ? 何のこと?」

(……飄々としやがって、小賢しい…………)


 ……別に、戦う理由なんてこれっぽっちもないが…………今、俺は最高に苛ついている。散々小突いてきたこの女を叩きのめさなければ、とてもじゃないが解消されないだろう。



「…………俺に勝負をしかけたこと、後悔すんなよ? クソ女。」

「おっ、やっとやる気になってくれた! そうこなくっちゃ!!」


 思惑通りになったからか、女はより一層嬉しそうにしながら腰につけていた武器を抜いた。その武器は何やら鈍い青い色をした腹が太めの片手剣で、防御すると言わんばかりに自分の身体を守らせていた。


「……及び腰の構えだな?」

「こういうもんだよ……ルールはどっちかの魔力防壁が壊れるまで、いい?」

「ああ……それじゃあいかせてもらうぞ!!!」


 会話もそこそこに、俺から勝負を仕掛けにいく。それに対し女は迎え撃つつもりか、その場で防御を固めたままだった。


「……はぁっ!!」

「見えてるよっ!!」


 挨拶代わりに、俺は素直な水平斬りを繰り出す。しかし、それはさすがに読まれていたのか女はしっかりと受け止めてくるが…………


「好都合!!」

「え、うわぁっ!?」


 剣がぶつかった瞬間、俺はそこから一気に力を込め……押し出すように吹き飛ばす。


(俺の腕力は素でも100以上あるんだ……ここから無理やり体勢を崩させることぐらい、簡単だ。)

「放て、『ライトレーザー』!!」


 すっかり無防備になった女目掛けて、上級魔法の光線を発動する。ライトレーザーは直線にしか放てない魔法だが、威力は十分………その体勢からじゃ避けられも、剣で完璧に受け止められもしない!


(光線で怯んだ隙に一発で仕留める……これで終わ………)









「……()()()()!!!」

「…………あ?」


 完全に不利な状況にいる女はそう叫び、剣を(おもむろ)に構える。だからその体勢ではとても……


「…………えいっ!!!」

「……なにっ!?」

(魔法が消え……いや、吸収した!?)


 しかし、あろうことか女が構えた剣は飛んでくる光線を受け止めた瞬間……その剣へと吸収されていってしまった。

 女はしてやったりと体勢を立て直しながら口を開く。


「ふっふー、驚くのはまだ早いよ? 本番はここから……『バースト』!!」

「バ、バース……なっ!!?」


 何かを言い出したかと思えば、今度はその場で謎の掛け声と共に剣を垂直に斬り出す。すると……その動きに呼応したかのような斬撃の軌道を描いた無色の光が、こちらに飛んできた。


「くっ……なんだこれ、魔法か……?」

「ちょっと違うね、正確には魔力の塊だよ!!」

(っ、やっぱり速い……!)


 俺が困惑している間に、女は中々の速さで俺との距離を詰めてきた。流石、大声をあげるぐらいには動けているな。


「そして2つめの……『バースト』!!」

「今度なん……ぐっ!??」


 またもや謎の掛け声を発し、俺は遠距離の対策を立てようとするが……今回はただ剣が光るだけで何も飛んでくることはなかった。


(…………?)

「はぁぁっ!!」


 俺は首を傾げながら、そのまま何の捻りもない垂直斬りの斬撃を受け止めようとする。また何か仕掛けがあるのかもしれないが、それくらいならどうってことは………




「……………ぐぅぉっ!??」

「うおっ、これを受け止めるなんて凄いね!! さすが首席だ!!」


 受け止めた瞬間、見た目の勢いからは想像できないほどの圧力が俺を襲い、たまらずその場で膝をついてしまう。こいつ、さっきはわざと吹っ飛ばされたのか………?


(……いや、違う。これはおそらくあのバーストとやらの仕業か。)


 こいつの足の速さや身のこなしはそれなりだが、いくら何でも俺を愚直に超えるような人間はそうそういない。十中八九あの剣の持つ魔法の効果だろう。


「……思ったよりやるな、だが……ふんっ!!!」

「くぉっ!?」


 俺はもう一度力を全身に込め、女の剣を軽くだが弾き返す。そして数歩下がってから大剣をしまって魔法を放つ準備をする。

 しかし、それを読めていた女はヘッと鼻を鳴らしながら再び剣を構える。


「魔法は効かないよ、残念だけどまた剣の養分に……」

「馬鹿がっ、こちとら死線をくぐり抜けたばっかなんだ……お前みたいに単純思考で勝負やってねぇんだよ!!!」

『ブレイクボンバー』


 俺は奴に背中を向けながら、爆破魔法を放ち……高速で女へと体当たりを仕掛ける。


「え、うわぁっ……危ないあぶ」

「はっ、甘ちゃんだなっ!!」

(やみ)(かいな)

「っ、そんぐはぁっ!!?」


 女はギリギリのところで反応し、体当たりを避けたが……生憎、俺は馬鹿の一つ覚えでやったりしない。

 俺は避けられた瞬間に新たな上級魔を発動し、女の近くに魔法陣を仕掛ける。そしてそこからすぐさま闇でできた腕が出現し、女を吹き飛ばした。


「最高だよ、これが首席の力なんだね!!」

「…………随分と楽観的だな、それがお前の()()()ってか?」

「…………何のことかな?」


 …………段々とこいつの戦い方がわかってきた。

 一見、甘さや隙の大きい構えや態度をしてくるが……その中身は油断を誘った(きょ)突きの策士。そこそこの速さと反射速度である程度の対応もできる……おそらくここに転入してくるというのは本当なのだろうな。


(………………だが。)


「…………認めてやるよ、お前が転入できるほどの実力があるってことは。」

「おっ、やっと分かってくれた? いやぁ、正直心配だったけど首席さんにこう言って貰えたなら勝負した意味も……」

「でもな……その程度じゃ、俺の足元にも及ばねぇよ。」


『超越・力』



 自身のステータスを上げ、大剣を再び構える。そして…………一瞬の隙に俺は女の魔力防壁を斬り壊した。



「ぐっ、がはぁっ……!!??」

「……流石に反応できなかったようだな。」


 反応させることすらなく、女は斬り飛ばされた衝撃で転がっていく。そんな様子を見届けてから、俺は1人先に訓練所を去ろうとする。


(…………これで、折れたな。)


 あの様子じゃ、ここに転入できると有頂天(うちょうてん)になっていた類いだろう。それを圧倒的な力で叩きのめされたとなれば、いくらおちゃらけた野郎でも…………










「ねぇねぇ、待ってよ()()()()()!!」

「…………はぁ??」


 ……と思っていた直後、背後からそんな聞き慣れない名前を呼ばれてつい反応してしまう。すると、そこにいたのは先程叩きのめしたばかりの女が何故かニコニコとした表情で立っていた。


「タールくんだと? 馴れ馴れしいんだよ……というか何故名前まで知ってやがる?」

「えっ、だってタールくんは武闘祭でも優勝してたし、聞く限りじゃ一年の首席になったって結構有名だよ?? 今日ここに来た時も何人かがタールくんの話をこそこそしてたし。」

(……ああ……本当に面倒くさい。)



 …………ウルスの野郎……こうなるのが嫌で俺に押し付けてきたに違いない。いつか痛い目に合わせてやらねぇと……


「? どうしたのタールくん、そんなに頭を抱えて。」

「…………うるせぇ、何のようだ女。もう勝負はついただろ、とっととこっから消えろや。」

「そんな冷たいこと言わないでよ〜僕はもう気に入っちゃったんだよ?」

「あぁ? 何が気に入っただぁ?」

「もちろん、タールくんのことだよ! ()()()()僕の目に狂いは無かったねっ!!」

(『やっぱり』? …………って、こいつ!!)


 こいつの発言に疑問を持っていると、不意に女俺の腕に馴れ馴れしく捕まり、上目遣いでこちらを純粋な目で見てきた。


「ねぇ、どうやったらそんなに強くなれるの!? めちゃくちゃ厳しい特訓とかしてたりするの?」

「おい、やめろ!! ひっつくな気持ち悪い!!」

「えぇー? そんなこと言って、この感触でも愉しんでるんじゃないのぉ〜? 僕のって意外と大きいらしいからねっ。」

「んなわけねぇだろくっだらないっ!! いいから離れろや!!!!」

「い〜や、教えてくれないと離れないからねタールくんっ!!!」

「ふざけんなっ……あぁ、クソがぁっ!!!」





 結局、その日は特訓どころでは無くなった。





 色々と癖の強い人物の登場です。


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