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二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す   作者: SO/N
十章 『ありがとう』

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百二十八話 真っ向から




「…………おっ、来たっすよみんな。」


 訓練所の舞台へと向かう中、遠くからニイダのそんな声が聞こえてくる。それを聞いた俺は一瞬足を止めてしまうが、すかさず振り払って前に進む。

 やがて、舞台へと上がるとそこには……あの日、仮面に襲われたみんなが今か今かと俺を待ち侘びている姿が見えた。


「はっ、やっと来たか。随分と待たせてくれたもんだな。」

「口が悪い奴だな、お前は。ウルスにだって色々と思うことがあったんだろ、急かしてやるな。」

「……やっと聞けるんだよな? この数日間はソワソワして授業が全く手につかなかったぜ。」

「人のせいにしないでください、ソーラはいつも聞いてないでしょうに。」

(………………)


 彼らの話を横目に、俺は近づいていく。そしてその中にいるミルに目を向け、こちらへと来るように手招きをする。

 ミルは少し不安そうにしながらもこちらへと近づき、(すが)るように俺の袖を引っ張った。


「……ウルスくん…………」

「……ミル、今から俺はみんなに話をする。俺の力、育ち……境遇。そうなると、ミルの話もしなくちゃいけなくなるが…………いいか?」

「…………うん。私もこれ以上、みんなに黙っていたく……ない。私を助けようとしてくれた、みんなに話したいよ。」

「……………分かった、行こう。」


 俺は彼女の頭を優しく撫で、みんなに注目するように顔を向けて……声をかけた。


「……みんな、待たせてすまなかった。」

「…………ウルス、全部話してくれるの?」

「……ああ、俺が話さないといけないことは……()()伝えたい。それが、今みんなに俺がすべきことだと思っている。」


 フィーリィアの質問に、俺はそう答える。


 

(……俺たちのことを伝えるのが良い判断なのかは、分からない。それでも…………もう、これ以上は。)








「…………今、みんなが知りたいのは俺の力だと思う。どうやってそんな力を手に入れたのか、何故隠していたのか、なんでこの学院にいるのか……でも、それを話すにはまず、俺とミルの過去から話さないといけない。」

「……………過去っすか、そういえば俺もその話は詳しく聞いたことがなかったっすね。確か2人とも孤児だとか何とか………違うんすか?」


 ニイダの言葉に、俺は違うと首を横に振った。彼はこの中で唯一俺の本当の力を事前に知っていた人物だが、まだ俺たちの過去については何も知らなかった。


「孤児というのは間違ってない。ミルは物心がついた頃から孤児院にいたようで、肉親のことは何も知らないらしい。」

「……じゃあウルス、お前は……」

「…………俺は昔、小さな村で両親と……()()()と一緒に日々を過ごしていました。」

「…………!!」


 俺は……ラナの目を見て答える。すると彼女は息が詰まったかのように目を震わせ、声を漏らす。


「……なるほど、そういうことだったんすか。」

「えっ、何が『そういうこと』なのですかニイダさん?」

「つまり、ウルスさんの幼馴染……それはライナさんのことっすよ。」

「なに、そうなのかライナ!?」

「………………」


 みんながラナの方へと目を向ける中、彼女はゆっくり首を縦に振った。


「……うん。ローナさんとフィーリィアさんにはもう言っちゃったけど……10年くらい前、私は彼と同じ村で一緒に過ごしてた。」

「……そうなのか、だが2人にそんな雰囲気は全く感じなかったが……?」

「……彼女は、俺が死んだと思っていたんです。だからここにいる俺に既視感を抱いても気付かなかった。」


 ……嘘を吐いただけだが。


「死んだ……?」

「……俺が住んでいた村はある日、盗賊たちに襲われ失いました。父も母も、家も村のみんなも全て。」

「「「「「……………!?」」」」」


 唐突な事実に、何も知らなかった彼らは声を失う。逆に、何故かまだ事情を知らないはずのニイダはどこか納得したような表情でただ俺の話を聞いていた。


「はぁ……!? 全部失ったって、んな唐突な話……大体、何でお前とライナは生き残ったんだよ?」

「……彼女はたまたまその日、家族で旅行に行っていて襲撃の被害に遭わなかった。そして俺は…………父に逃してもらって、何とか1人だけ生き残ることができたんだ。」

「……おじさんが…………」

「……跡形もなく消え去った村に戻ってきた俺はショックで気を失い、次に目が覚めた時には師匠……グラン=ローレスに助けられ、ベッドに寝かされていました。」

「…………………ん、グラン=ローレス!!??」


 誰もが知っている伝説の魔法使いの名に、カーズが急に声を上げた。それは他のみんなも同じようでざわざわと動揺を見せ始めた。


「グ、グラン=ローレスって……あのグラン=ローレスなのか!!?」

「ああ、彼に助けてもらった俺はその日から稽古を受けるようになったんだ。もう絶対同じことを繰り返さないように、死ぬ気で鍛えた結果…………」

「……あの強さというわけか。確かにあのグラン=ローレスに教えられたとすれば納得だが……にしても強かったな。もしかしたら英雄よりも強いとか…………」

「強いですよ。」


 俺は自身のステータスを解放し、みんなにその数字を見せる。するとその異次元の高さに驚愕して皆それぞれのリアクションを見せた。


「……はへっ? これは………えっ??」

「これって……ウルスのステータスなのか!? でも前に見た時はこんな高くなかったはずだぞ!?」

「確か……100いかないくらいだったはず……」

「ああ、それは神眼……神界魔法の効果だ。今まで俺とミルはステータスをその魔法で誤魔化して過ごしていた。だからみんなが俺たちを見てもそのステータスが出なかったはずだ。」

「し、神界魔法だと? ウルス、一体お前はどこまで……」

「……まあ、俺のステータスの話は別の機会に話します。それよりも今は……俺()()の過去の話です。」


 このまま『強さ』について話していると日が暮れてしまうので、俺は早々に切り替え、先程の続きを始める。


「俺は師匠に鍛えられて数年が経った頃、ある盗賊から1人の子どもを助けました。それが……住んでいた孤児院から連れ去られた、ミルです。」

「えっ、ミル……そんな、だって………!」

「……ごめん、ライナ。ニイダくんにローナさんも、嘘を教えてて……本当にごめん。」

「っ…………!」

(………………)


 初耳だった人たちはもちろん、以前俺から『違う』と聞いていた3人も何度目かの驚きを見せる。そして、その度に吐いていた嘘が剥がれていく罪悪感が、俺を痛感させる。


「……それから一緒に師匠の元で育った俺たちは、ある日師匠にこの学院のことを紹介された。ミルの社会経験として、俺はその付き添いとして通うことになった。」

「…………なるほどな、だから力を隠して今日まで目立たないようにそいつの手助けをしながら過ごしてきたと。その割には色々と芸のある行動はしてくれたが……訳はあるんだろうなぁ?」


 カリストは若干の苛立ちを含ませた言葉をぶつけてくる。その苛立ちに、俺はしっかりと答える。


「……最初は、俺も何かを成そうとする気持ちは無かった。ミルたちにアドバイスをするだけで、この学院で1番を目指すとかそういう目標は微塵もなかったんだ。でも……この学院で過ごすうちに、俺の気持ちも変わっていった。」

「…………気持ちっすか。」



「……ここでは、誰もが強くなろうと日々励んでる。少なくとも、俺の周りの人間は……みんなはそうだった。だから、俺も何かしたいと……思ったのかもしれない。」


 




『…だって、ウルスを…馬鹿にした、から……』





『それこそ、この大会で偶然当たって負けたりしたらしばらくは付き纏わられるぞ……もしそうなったら相談してくれ、力になるぞ!』





『…意外とウルスさんもそういうところがあるんですね。』





『何故? 特に理由はないが……こうやって色々話し合ったんだ、親しみの意を込めてってやつだ。』






 俺だけ、ずっと『本気』じゃなかった。



 『本気』といっても、ただ『本当の実力を出していない』という意味ではない……気持ちの話だ。

 という事実は俺を冷静にさせ、どんな状況においても客観的な判断ができるようになった。それは確かに良いことであり、強さという確実なものを手にしていないと得られない、心の余裕から生まれる一種の慢心だ。





『もちろん!! こんなところで諦めるなんて選択肢、私の憧れにはないよっ!!』





『俺の……俺の目標は、『お前を超える』ことだ。そのために俺は…………もっと、もっと強くなる。精々……覚悟するんだな、クズ野郎。』





『頼む……生徒たちの『可能性』を広げるためにも、お前の力が必要なんだ。どうかやって見せてはくれないか。』





『だから、ウルスさんは優しいと俺は思うっすよ。助けたい人を選んで、選んだ人を大切にしようとするのは……俺は好きっすよ。』







 それに対して、他の人たちは皆必死に強くなろうとここで頑張っている。


 絶対に勝てる保証も、実力が確実に上回っているという立場もない彼らと俺ではどうしても対等な目線でものを語ることができない……いや、そもそも理解しようとしなかった。





『最後の、ユウの顔を見て……今更気づいたよ。ユウは…ウルスは、強くなりたかったんじゃない…………誰かを守りたかったんだって…………ほんと、いまさら……気づいた…………!』




 だから、ずれてしまった。俺が想像している以上にローナは重いものを抱え、悩んでいた。

 ミルもきっと同じだ。俺が草原で誤魔化した時のあの表情は真意ではない……不安だったんだ。




「……今まで、俺はみんなに色んなことを言ってきた。偉そうに何かを語ったり、間違っていると諭したり……真っ向から話をしたことがなかった。高みの見物をしている奴がして良いことじゃない…………すまなかった、みんな。」

「……そんなこと………」


 俺は頭を深く下げる。


 ……例え、自身のことを大っぴらに伝えるという行為は、何があっても俺はしなかっただろう。強大な力を見せるということはある意味、脅迫にも等しいから。



(……………それでも。)



 ()()()、彼らにはもっと早く話していても良かったのかもしれない。そうしていれば何か……少なくも不安ない思いをさせずにできたのかもしれない。そして、もっと対等で理解し合える()()ができたのかもしれない…………



「…………ウルスくん……」

「…………………














 ……じゃあ、()()()()()()()っすよ。」



 …………と、思ったその時。不意にニイダがそんなことを言い始めた。


「……? 何をだ?」

「そのまんまっすよ、ウルスさんの『本当の力』ってやつを俺たちにぶつけてくださいっす。」

「……えっ、ニイダくん何を……?」

「だ〜か〜ら、俺たちとウルスさんで勝負をするんすよ。まあ多分……というか十中八九俺たちが勝てる見込みなんてないですけど、物は試しっすよ!」


 勝手に1人で話を進めるニイダに、俺含めみんなが総ツッコミを入れる。


「いやいや、急すぎるだろニイダ! いきなりウルスと戦うって、なんでそうなるんだ!?」

「戦いっていうのはいつも突然っすよソーラさん。ほら、アーストさんが襲ってきた時だって急だったですし、そんなもんすよ?」

「それとこれとは違いますよ!? 大体、何故今からウルスさんと勝負するのですか、戦う理由がないでしょう!?」

「理由? ……そんなの、決まってるでしょ。」



 ニイダは腰にかけた短剣を取り出し、ニヤッと笑った。






「『()()()()()』……やり合うんすよ。」






 『最強』対『有象無象』ですね。


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