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二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す   作者: SO/N
九章 昇華する心 『Acquire』 (武闘祭編)

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百十話 利用




「やったよみんな、上位(スプリア)に勝ったよっ!!!」

「凄いっすよローナさん!! あの手数差でも勝ちをとってくるなんて、これはウルスさん越えも間近っすよ!!」

(……変な褒め方をするなよ。)


 ローナの舞い上がりっぷりを、ニイダが揚々と(はや)し立てる。まだ俺たちが残っているのに、気が早い奴らだ………


「ウルス、()()()()()()だよね!?」

「…………さぁな。ただお前が()()()と思ったのなら、それでいい。」


 ローナの言葉に、俺は敢えて答えずに委ねた。ここで俺の意見を言っても仕方ないからな。


『さぁ、それでは決勝戦、第1チーム対第19チームの最後の試合を開始します!!タッグの選手は出場してきてください!!』





「……さて、俺たちの出番だ。いくぞ。」

「…………命令するな。」

「変なことしないでよっ、これはフィーリィアの()までかかってるんだから!!」

「まあ、拝ませてもらいますっすよ。あなたたちのタッグ戦なんて多分二度と見れなさそうっすし。」

「うるせぇな、お前ら……勝てばいいんだろ勝てば!!」


 2人にやんや言われ苛立ち始めるも、()()()は俺の前に出て足早に舞台へと上がる。

 



「おっ、出たぞあの男!! 今回はどんな動きをするんだ!!?」

「……あれ、もう1人の女の子は? 変わってない?」

「えっ? 何で()()()が………!?」



「…………やっぱり驚かれてるな。」

「けっ………」


 それも無理はない。普通の観光客たちはともかく、学院生……特に1年からすれば()()()の存在は驚きでしかないだろう。

 そしてそれは()()()も同じようで、ガッラは不可解、アーストは馬鹿だと言わんばかりな表情を顔に滲み出していた。


「……なるほど、これは潰しがいがあるじゃないか。」

「な、何でお前がウルスのチームにいるんだ……()()()()……!?」




「…………さぁ、知らねぇな。」
















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー















「待たせたな、2人とも。」

「「…………えっ!?」」


 決勝が始まる前、俺が控え室の扉を開けて2人がこちらを見た途端……揃って素っ頓狂な声を上げていた。その理由はもちろん、俺の後ろに立っているタール=カリストの存在のことだった。


「な、なんでカリストさんがここに居るんすか? 冷やかしっすか?」

「違う、こいつはフィーリィアの代わりに俺たちのチームとして出てもらうんだ。()()補欠だし、そういう約束だったからな。」

「……え、いやいや、えっ!??」


 予想通り、ローナは理解できないと全身をわちゃわちゃと動かし始める。


「カ、カリストが補欠!? いつの間にそんなことしてたの!? というか何で黙ってたの!?」

「黙ってたのは悪かった。何せ今朝ギリギリでカリストが決断したからな、それにあくまで補欠だから変に動揺させるくらいならその時まで伝えない方が良いと思ったんだ。」

「……ああ、『野暮用』っていうのはそういうことっすか。」





『……出てくれるんだな、カリスト。』

『…………ああ、だが勘違いするな。これは俺の意思、お前らのために出るわけじゃない……分かってるな?』

『分かってる。けどお前の出番があるかの確証はない、あくまで補欠ってことは覚えておいてくれ。』

『んなことは百も承知だ。だが、わざわざそんな用意周到なことをするってのは、今回お前は()()()()()ってことだろ? 対戦表を見る限り、決勝でアーストの野郎と必ず当たる………それなら、進化した俺の力を見せつけるにはもってこいな状況だ。』

『……それもそうだな。』




 カリストにとっては、アーストを見返す絶好のチャンス……フィーリィアには悪いが、そういう理由で『保険がある』と伝えていた。もちろん、フィーリィアが決勝まで出ることが望ましかったが……彼女が倒れてしまった以上、補欠のこいつが出るのは必然。


「カリストが補欠に選んだのは、フィーリィアにもしものことがあったら……そして、ある程度の実力があって俺たちと面識がある人物が良いと思ったからだ。まあ、ローナはほとんど無いかもしれないが……これで納得してくれたか?」

「うーん、俺は構わないっすけど……ローナさんは?」


 ニイダがそう話を振ると、ローナは少し考えこむ様子を見せ…………やがて、こう言った。




「…………でも、カリストって嫌な奴じゃん。そんな奴が居るのはあんまりいい気がしないよ。」

「…………言ってくれるな。」


 カリストはそんな彼女の発言が気に(さわ)ったのか軽く睨みつけるが、ローナは臆することなく続けて話す。


「嘘()いても仕方ないしね。ミルから聞いたよ、『あの人はウルスくんを馬鹿にする、最低な人だ!!』って。」

(…………ミル、またそんなことを……)



 ローナの単刀直入な言葉とその言伝(ことづて)に、俺は少し驚く。ミルがそんな愚痴を言っていたこともそうだが、彼女の想像以上のキツい言葉はかなり珍しく……隣に立っていたニイダも一種の関心を抱いたかのように目を丸くしていた。


「別に、疑ってるわけじゃ無いよ。ウルスが連れて来たってことはそれなりの信用があるってことだし、実力もあるって聞いた。けど……これは団体戦、私たちは仲間なの。人を見下すような人間を、私はそう簡単に割り切れないよ。」

「……回りくどいな、お前のことはよく知らねぇが……仲良しこよしが好きなのか? とんだ(あま)ちゃんだな。」

「仲良しこよしの何が悪いの? 仲間を大切に思う……そんなこともできないくせに団体戦に出るなんて、虫がよすぎるって話だよ。」




『そんなの……言われなくても仲良くするよっ! ミルは可愛いし!』




 普段のハツラツな彼女を見ているとあまり感じないが……誰か、友達のことになると人一倍繊細になってしまう。俺が孤児のことを伝えた時や、何気なしに『親』のことを聞いて来た時は過剰なほどに気に病んでいた。

 そして、そんな境遇にある俺たちに対して嫌味を言ってきたカリストのことは……例え自分に何の関係が無くとも、そう易々と認められないのだろう。


「ウルスはそれで良いの? いくら勝つための戦力とはいえ、カリストを迎え入れるなんて……」

「……ローナの言いたいことも分かる。俺たちは今日まで特訓してきた、そこを急に割り込まれるのは嫌なことも……だがローナ、カリストは()()()()。」

「…………変わった?」


 俺はそう言い、カリストの背中を軽く押し出して前へと立たせる。


「人というのは、ある日を境に考え方がガラッと変わることがある……ローナにもそんな経験はないか?」

「……それは……()()けど……」

「それと根本は同じだ。過去の行いや心が(ゆる)されることはなくても、()()()|()こ《・》()()()()()()()()()()……そうだろ、カリスト。」

「………………」


 俺の問いにカリストは首を縦にも横にも振ることはなかったが……代わりにその軽くて重い口を堂々と開けた。




「…………別に、お前たちがどうこう言おうが、俺は必要以上の仲間意識なんて持つ気はさらさら無いし、今までやってきたことを謝る気もない。」

「…………なら、何が……」

「お前の言う通り、俺は虫がいい。義理や人情なんてただのお気持ちが通用するような人間じゃ無い。都合、利益だけで判断するような人間…………けどな、俺みたいなクズでも『目標』はできちまう。」


 そう言って、カリストは仕返しをするように俺の胸をやや強めに引っ叩いた。


「こいつを……ウルスを越えるって目標だ。」

「ほう……これは大きく出たっすね。この人を超えるってことは…………()()()()()()()()よ?」

「うるせぇ。誰だろうが関係ねぇ、超えると決めたら超える……それだけだ。そのためなら例えどんなに辛いことだってやってやる。」


 茶化し半分、確認半分のニイダの煽りにカリストは変わることなく肯定する。その目標がどれほど高いものかカリストには知るよしもない……まあ、知ったところで意志は曲がらないだろうが。


「お前たちが目指している勝利と俺の目指す勝利は、()()なる物だ。だが、やるからには妥協なんてしない。俺の全力を尽くして、このチームを勝利に導く……それで文句はないだろ?」

「……………」

「ローナ……だったか? お前もあの桃髪の女のため、チームのために勝ちたいんだろ? だったら……()()()()()()。」




(………………変わったな、カリスト。)


 あのプライドの高いカリストが、『自分を手段として使え』と誰かに言う……夏の大会の時の彼なら天地がひっくり返っても出てこない言葉だろう。

 また、カリストはこう言ってるが……完全に自分の都合を考えるなら、わざわざ俺とタッグ戦なんて組む必要はない。『アーストと戦うチャンス』とはいうが、そんなチャンスは今後行われる冬の大会やら春の大会で決着をつければ良い話。ましてや、己の実力だけじゃどうしようもないタッグ戦で仮に勝っても、カリストにとって納得のいくものでは無いはず。


 それでも、カリストはその話を一切引き合いに出さず、こうやってチームに入ってくれた。何を考えてのことかは見当つかないが……きっと、彼にも思うことがあるのだろう。




「…………カリストの意志は伝わった……けど、条件がある。それをやってくれるなら、私もチームとして認めるよ。」

「条件? 今からゴタゴタする時間なんてねぇぞ?」

「大丈夫大丈夫、簡単なことだし……ほら、コレ!」

「……鉢巻?」


 ローナは自分のポケットの中をまさぐり、予備で用意していたのであろう例の赤い鉢巻をカリストへ半ば強引に押し付けた。


「条件、チームの証である鉢巻きを付けること! 『仲良しこよしガー』なんて言ってたけど、チームとして出るなら絶対にこれは譲れないよっ!!」

「……はぁ、付ければ良いんだろ付ければ。」

「そうそう、それでいいんだよ………って、何で剣に巻いてるの!?」

「あ? 別にどこだって良いだろ、頭に付けてたら邪魔だし。大体こいつらだって適当じゃねぇか。」

「…………これって私がおかしいの……?」


 カリストは貰った鉢巻きを大剣の(つか)(つば)の境目にぐるぐると巻きつける。そんな身も蓋もない光景を見て、ローナが悲しそうにこちらへと振り向いてくるが……そっと目を逸らしておいた。訴えられても何も出ないし。



「……これで整ったな、行くぞみんな。」

「結局、あれこれ話す時間無かったっすね。」

「いらねぇだろ、どうせやることは変わらねぇ。」

「ちょっと、そういうところだってば!!」
















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー















「自尊心の高い君が、まさか惨めに負かされた彼と一緒に出てくるなんてね。一体どういう風の吹き回しなんだい?」

「馬鹿なところはお互い様だろうが、自分だけ特別だなんて思ってる分余計たちが悪いぜ。」

「……お前ら決勝だぞ、集中してくれ。」


 2人の煽り合いを見て溜め息混じりにガッラが苦言を(てい)する。






名前・マルク=アースト

種族・人族

年齢・16歳


能力ランク

体力・102

筋力…腕・91 体・93 足・84

魔力・116


魔法・13

付属…なし

称号…なし





名前・ライト=ガッラ

種族・人族

年齢・16歳


能力ランク

体力・88

筋力…腕・84 体・82 足・71

魔力・100


魔法・12

付属…なし

称号…なし




 ……やはりというべきか、2人とも上位(スプリア)の名の通りステータスは高い。加えて、俺たちは今日までまともなタッグ戦の連携練習なんてしてきていない。

 そしておそらく、カリストはそういう連携を自ら組むのは苦手だろう。俺が彼に合わせることは可能だが……そうなると、どうしても動きの主軸はカリスト任せになってしまう。


「……一応聞いておくが、カリスト。お前は俺に合わせられるか?」

「はっ、できるわけねぇだろ。そもそも今回俺はこれをタッグ戦だと思ってねぇ。お前はあくまで道具、勝つための手段としか考えられねぇよ。」

「道具……それはそれでいいかもな。」


 互いで連携より、互いを道具として利用する……そっちの方がこいつにとってはやりやすいのかもな。


「……とにかく、俺はやりたいようにやる。合わせるなら勝手に合わせるんだな。」

「あぁ、そうさせてもらう。そっちこそだらしない動きはしないでくれよ。」

「誰に言ってんだ、クソが。」


 そんな他愛もないやりとりをしながら、俺たちは剣を構える。


『それでは武闘祭1年の部決勝戦!! いよいよ最終、タッグ戦の試合を開始します!! 双方準備はよろしいですか!!』


(……カリストの性格を考えると、まずは………)



『用意…………始めっ!!!』




「おらぁっ、行くぞォっ!!!」

「……やっぱりな。」


 開始の合図と共に、カリストはさも当然かのように俺を無視して2人目掛けて突撃していく。そんなカリストに俺も少し遅れながら後ろを追いかける。


「俺が行く、補助頼むぞ!」

「はいはい。」

「あぁ? 舐めてんな……だったらお前から潰してやる!!」


 対してあちらの方はガッラ1人が飛び出し、アーストが謎の余裕を持ちながらその場に留まっていた。それを見た俺はスピードを落としていき、アーストの動きに警戒を含ませていく。


「燃やせ、『フレイム』」

「っ……ウルス!!」

「ああ、分かってる。『刃の息吹』」


 カリストに言われるまでもなく、俺は彼に向かって飛んでくる炎目掛けて刃の風を放ち、打ち消す。また、それと同時にカリストとガッラがぶつかり合い、お互いの剣を打ち合う。


「くっ、重いな……けどその手数じゃ、当たるものも当たらないなっ!」

「そう慌てんなよぉ……今からそのひょろ腕ごとぶっ飛ばしてやるよ!!」


 そう(りき)むカリストだが、変わらずガッラの二刀流に手こずっているようだった。どうやらその手数の多さが思ったよりも厄介かつ、その練度の高さも相まってかなり相性が悪いようだ。


(俺が代わるか? ……いや、カリストがそう素直に代わってくれるとは思えない。それに代わったところでカリストができることはそう多くない。)


 今はあくまでサポート、その方がカリストも動きやすいはず。だったら……


「光れ、『ライト』」

「っ……目眩しかい?」


 俺はアースト目掛けてライトを発動し、無理矢理目を(つむ)らせる。距離が距離だったので効果は薄かったが、それでも一瞬だけ目を隠していたのでその隙に剣をしまい、腰を低く構える。


(速さ重視……!!)


『ジェット』

「……なっ!?」


 ジェットを発動しカリストの裏に隠れながら一気に距離を詰め、彼らの頭上を飛び上がる。


「『アイスショット』」

「………ふっ!!」

「くっ、これは……!!?」


 すかさずカバーするようにアーストから氷の弾が飛んでくるが、体を回転させて受け流しそのまま踵落としをガッラに食らわせようとする。しかし流石の上位(スプリア)か、寸前で横に体を転がし俺の攻撃を掠らせる程度でその場を(しの)いだ。


「忘れんなよっ!!」

「っ、しまっ……ぐぅっ!!?」


 だが、その回避を読み既に回り込んでいたカリストは大剣を勢いよくガッラへと振りかざした。彼はその大剣を2つの剣で何とか受け止めるも、体勢も相まって十分に耐えきれず大きく吹き飛んでいった。


「蹴飛ばせやっ!!」

「あぁ……!」


 そして、その飛んでいった方向にちょうど俺が立っていた。どうやらそこまで計算済みだったようだ。


「くそっ……!!」

「……悪いが、ここで退場して…………」

「おいおい、そう簡単に事は運ばせないよ?」


 その時、後ろから接近してきていたアーストの声が聞こえた。さっきの感じからして近距離に切り替えるような素振りは無かったはずだが……お得意の虚栄(きょえい)か。


(蹴り飛ばすタイミングとアーストの剣撃のタイミングはほぼ同じ……流石に無理か。)

「おや、逃げるんだね? ……よっと。」


 俺は()()()を取らず、そのままジェットで飛び上がって一旦カリストの元へと戻っていく。すると、何やらカリストは少し不満げな顔をして俺を(にら)んで待っていた。


「……おい、何で帰ってきた? あの状況(挟み撃ち)、お前なら返り討ちにできたはずだろうが。さっきの試合の()()は偶々だったってか?」

「いや……そういうわけじゃない。準決勝で見せた動きは一時的に超集中して行う、リスク度外視(どがいし)の物だ。使えば当然体力……というより集中力が極端に削られる。」

「……だとしても、それで片方潰せるなら良いだろ。別に動けなくなるわけじゃあるまいし。」

「それはそうだが……まだアーストの『本気』が見えてないからな。」

「……『本気』だと?」


 想像していなかったのか、カリストは怪訝(けげん)な顔をして聞き返してくる。


「おかしいと思わないか? お前も今までアーストの動きは何度か見てきたはずだ……そして、こう思ったはず。『本当に首席なのか』って。」

「……………」




『入学式で1回見たきりだが……果たして本当に首席と言われるほどの力はあるだろうか。』




『……大会は惜しかったな。やっぱり首席は強かったのか?』

『そうだね……アーストくんは確かに強かったけど、ここだけの話ウルスくんの方が強いなって思ったよ。』


 


「性格がどう、とかじゃない。もっと単純な……()()()()()みたいなのが、アーストには全く感じられないんだ。」

「……強者の気配ぃ? 何言ってんだお前。」


 俺の言葉が胡散臭かったようで、カリストは鼻で笑い飛ばす。まあ、俺もそんな物を全部が全部信じているわけでもないが……やはり、強い人間はそれなりの雰囲気があるものだ。

 だが、一年の首席でもあるはずのアーストには全くと言っていいほど、凄みなどを感じない。一定の強さとカリスマみたいなのは漂ってきてはいるが、あくまで並程度……とてもラナやルリアを超えることはないはず。



「とにかく、今はまだ全力を出す時じゃない。仮にも夏の大会でラナを倒しているんだ、こんなものが全力なわけがないからな。」

「……はぁ、めんどくせぇ。ならちゃっちゃと二刀流の方を潰せばいいんだろ? そっからアーストの野郎を徹底的に叩きのめす……それはそれで悪かねぇな。」



「……しっかりしてくれよ。せっかくここまで来たっていうのに、あっさり退場してもらうとこっちのメンツがねぇ?」

「すまない……だがあいつら、想定よりも協力的だ。だからアースト、お前も前に出てきてくれないか?」

「僕が? ……いや、やめておこう。勝負は長いんだ………()()に勝てれば、それでいい。」

(…………なんだ?)


 カリストと軽く作戦会議をしながら奴らの会話に聞き耳を立てていると、そんな不穏な話が聞こえて来る。

 ここでも温存する…………やはり、何かあるのは間違いないだろう。


「カリスト、俺は()から攻める。さっきみたいにサポートはしないからアーストの魔法には注意しろよ。」

()? ……勝手にやって、ろ!」


 『空』という言葉を聞いて何か思いついたようで、カリストは一瞬ニヤッと笑って再びガッラへと向かっていく。それを見て俺もジェットで飛び上がり、蛇足(だそく)に動きながら()を狙う…………


「別れたか……だが、目は離さないぞ!」

「それは結構!! 精々頑張るんだ……なっ!!」

「「…………!?」」

(……?)


 …………と、その時。わざわざ間合いまで詰めていたその時カリストが大剣を振おうとした一瞬、急ブレーキをかけてその走りを止めた。そして何故かそこからバックステップでガッラとの距離を大きく開けて大剣を()()へとかけた。


「魔法か、警戒だガッラ。」

「ああ、分かって……!」

「へっ……『ブレイクボンバー』!!!」

「なっ、煙……!?」


 逃げるカリストを追いかけるようにガッラが前に出るが、その瞬間に彼は爆破魔法を()()()()()()発動し、()へと飛び上がる。また、その際の爆煙をガッラへもろに掛かるように角度を調整し、視覚を完全に奪っていた。


 そして、その角度によって飛んでいった方向は…………






()()()()()だっ!!!」

「…………ああ!!」


 その一言で俺はその意味を全て理解し、両足の裏に爆破の魔力をできる限りまで溜めていく。加えて手を後ろへと構え……()()()()()()()()()()()()()()()


(煙幕はすぐに晴れる……コンパクトに、それで瞬間的に………!)

「合図はする……攻撃の準備をしておけ!」

「分かってる!!」


 ()()()へとぶっ飛んでくるカリストの背中……正確にはその背中に掛かっている大剣の腹を俺の足裏と上手く合わせ、ジェットで調整しながら勢いを吸収していく。

 そして、飛んできた勢いを完全に殺した後に爆破の魔力を一気に解放させていく。


「行くぞ…………今だっ!!!」

「っ……!!」


 曲げた膝を勢いよく伸ばし、足裏の爆破と手のひらの爆風でカリストを超スピードで押し飛ばす。


「くっ、やっと見え…………!??」

「よぉ、せっかくだがもう終わりだぜっ!!!」


 ガッラを取り囲んでいた爆煙が明けた頃には、既にカリストが彼の目の前にまで迫ってきていた。それを目にしたガッラは慌てて剣でその突撃を受け止めようとするが……もう遅い。


「おらぁぁぁっ!!!!!」

「ぐっ……がはぁっ!!?」


 カリストのタックルはガッラの防御をお構いなしに貫通し、そのまま地面との挟み撃ちでガッラの魔力防壁を破壊する。




「さぁ……後はお前だけだ、アースト!!!」





 ここからが本番です。


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